隠れ御曹司は、最強女子を溺愛したい

藤永ゆいか

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第2章

彗くんと急接近!?②

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「いいよ、菜乃花。俺にも不注意があったのは、間違いないし」

彗くんがすっと私の前に立ち、片手を上げて私を制止した。

「……ごめん。悪かったよ」
「ふんっ。次からは気をつけてよね」

彗くんが謝ると、相手の女の子はようやく満足そうに顔を上げて、歩き去っていった。

「彗くん……言い返さなくて良かったの?」
「変に言い争ったりして、騒ぎになるのは嫌だったから」

言われてみれば、そうだよね。彗くんは、わざわざおばあさまの旧姓を使って、変装までして学校生活を送っているのだから。

目立つことは、なるべく避けたほうが良いよね。

「私ったら何も考えずに……ごめんね? 私は彗くんのボディーガードなのに、あの子との衝突を防げなかった」

幸い、彗くんに怪我はなかったけど。もし負傷してたりしたら、私はボディーガード失格だよ。

「ううん。俺は、菜乃花があの子に言い返してくれて嬉しかったよ。ありがとう」

微笑まれ、ドキンと鼓動が大きく高鳴った。
こんなときでも、彗くんは優しいな。

**

「今日は、来月の体育祭の出場種目について決めていくぞー」

音楽の授業のあとのホームルームでは、5月に行われる体育祭の種目決めが行われた。

体育祭……もうそんな時期なんだ。前に通ってた中学校では、体育祭は10月にあったから。

個人種目は、50メートル走と借り物競争、障害物競争のなかから選べるらしい。

この中なら、50メートル走かな。普通に走るだけなら、私にもできそうだし。

そう思い迷わず手を挙げたけど、希望者が多くジャンケンをすることに。

うう、負けた……ついてない。

ジャンケンにあっさり負けてしまった私は、その代わりに障害物競争に出ることが決まった。

「へー。菜乃花って、ケンカは強いけどジャンケンは弱いんだ?」

教壇から自分の席へと戻るとき、彗くんの席のそばを通りかかった私に、彼が私にだけ聞こえる声で言った。

「ひ、人には、得意不得意があるから」
「確かにそうだね」
「そういう彗くんは? 何の種目に出るの?」
「俺? 俺は、借り物競争」

借り物競争かあ。引き当てたお題によっては、探すのが大変そう。

「まあ菜乃花も、障害物に足を引っかけたりして転ばないようにね?」
「こ、転ばないから!」

それだけ言うと、私は急いで自分の席へと戻った。


数日後。

この日の5限目の体育では、A組とB組の合同で、来月に行われる体育祭の練習が行われている。

私が出場する障害物競争も、今日は本番のように実際に障害物を配置して、練習することになった。

平均台の上を歩いて網をくぐって、ハードルを飛んで……と、なかなかハードだけど頑張ろう。

「きゃ~! 速水くんー!」
「やばい、蓮くん超かっこいい」

いきなり女子たちの黄色い声がしてそちらに目をやると、彗くんのいとこの速水くんがハードルを飛んでいるのが見えた。

速水くんも私と同じ障害物競争なんだ。

長い足で、悠々とハードルを飛び越える速水くん。

男女別で練習しているけど、女子たちはみんな、練習もそこそこに速水くんを見つめている。

速水くんって、バスケ部のエースらしいし。そのうえ御曹司でイケメンだから、やっぱりモテるんだなあ。

自分の番がやって来て、私はスタートラインに立った。

「それでは、位置についてー」

ピーッ!

笛の音を合図に、5人が一斉にスタートする。

「おっとっと……わっ!」

平均台の上をバランスを取りながら歩く途中で下に落ちそうになるも、私は何とか歩ききった。

そして大きな網をくぐり抜けて、次はハードル。

──『菜乃花も、障害物に足を引っかけたりして転ばないようにね?』

先日の彗くんの言葉がふと頭の中を過ぎり、私はゴクリと唾を飲んだ。

もし、ハードルに足が引っかかったらどうしよう。

そんなことを思ったけど、それもほんの一瞬だけ。私はハードルへと向かって、走り出す。

ひとつ目は、何とかクリア。そして、ふたつ目に挑んだとき。

「あっ」

ハードルを飛び越えようとする際に、足が上のバーに引っかかってしまった。

ハードルを倒し、私は地面に派手に転ぶ。

「うう、痛い……っ」

膝を擦りむいたのか、ズキズキと痛む。

『足を引っかけたりして転ばないようにね?』って、彗くんに言われていたのに。その通りになってしまった。

でも今は、痛さよりも恥ずかしさのほうが大きい。

すぐに立ち上がろうとするけど、バランスを崩して上手く立てずにふらついてしまう。

私と一緒にスタートした他のみんなは全ての障害物をクリアし、ゴールへと向かって走っている。一人だけぽつんと取り残されて、なんてみじめなんだろう。

私は仮にも、彗くんの彼女なのに……そう思ったとき。

「大丈夫か!?」

彗くんが、私の元に走ってきた。

「菜乃花、ケガしてるじゃない。保健室行こう」

そう言うと、彗くんは膝裏に手を入れて私を軽々と持ち上げた。

「え!?」

うそっ。これってもしかして、お姫様抱っこ!?

「きゃーーっ」

私がお姫様抱っこされていることに気づいたのと同時に、グラウンドには女子たちの黄色い悲鳴のような声が響き渡った。

「す、彗くん!」

こんなことをしてくれたら、一気にみんなの注目の的だよ! 彗くんも自分が三池財閥の御曹司だってことを隠したいのなら、あまり目立つことはしないほうが良いんじゃないの!?

私の心の叫びなど聞こえていないかのように、彗くんは涼しい顔のまま私を抱いて歩きだす。その顔には、一点の迷いもない。


「ねぇ、彗くん。下ろして!?」
「ダメ」

私のお願いを、彗くんは全く聞き入れてくれない。

昇降口から、校舎内に入っていく彗くん。授業中の廊下は、しんと静まり返っている。

「ねぇ、彗くん。私は彗くんを守る立場なのに、こんなことをしてたら……」
「菜乃花はボディーガードである前に、俺の彼女なんだから。自分の彼女がケガしてたら、助けるのは当たり前だろ?」

彗くんの優しい言葉に、私の胸はドクン、と大きく跳ねた。

「で、でも……」
「それ以上余計なこと言ったら、口塞ぐよ?」

彗くんの声が、一段と低くなる。

「へ? く、口を塞ぐって??」

意味が分からず聞き返すと、彗くんはさらに顔を近づけ、私の唇すれすれのところで囁いた。

「……俺が菜乃花にキスするってことだよ」
「ええっ! キ、キス!?」

その言葉の意味を理解した途端、私の顔はカッと熱くなり、瞬く間に全身に火が通ったように感じた。

そして私はとっさに、両手で自分の口元を覆った。心臓がうるさいくらいに鳴り響いている。

そんな私を見て、彗くんは口の端を上げてフッと微笑む。

「分かったなら口じゃなく、俺の首に手をかけてくれる? そのほうが安定するから」

見上げた彗くんの表情は凛としていて、私はドキドキしながら、その首元に両腕を巻きつけた。

それから彗くんに抱えられたまま、保健室に到着。

「それじゃあ先生、菜乃花のことよろしくお願いします」
「はーい。任せてちょうだい」

彗くんは養護教諭の先生に私を託すと、グラウンドへと戻っていった。

「ねぇ。今の男の子って、彼氏?」
「はっ、はい……」

ニヤニヤ顔の先生に、私はコクコクと頷く。

今まで、ドラマや漫画でしか見たことのなかったお姫様抱っこをされたからだろうか。

彗くんがいなくなったあと、先生に膝を手当してもらっている間も、胸のドキドキはしばらくおさまらなかった。
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