隠れ御曹司は、最強女子を溺愛したい

藤永ゆいか

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第2章

速水くんの探しもの

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「ありがとうございました」

膝の手当が終わった私は、保健室を出てひとり廊下を歩いていた。
まだ少しジンジンと痛む膝に意識がいっていると……

「菜乃花ちゃん!」

弾んだ声が聞こえ、顔を上げると、廊下の向こうから千春ちゃんがこちらに走って来るのが見えた。

「菜乃花ちゃん、大丈夫!?」

もしかして、心配してわざわざ会いに来てくれたのかな?

私の胸に、温かいものが広がる。

「ありがとう。先生に手当してもらったから、もう大丈夫だよ」

私は、千春ちゃんにニコッと微笑む。

「良かったあ。それじゃあ、教室まで一緒に行こう」

千春ちゃんに言われ、ふたりで教室へと向かって歩く。

「宇山くんって、普段は無口だけど。さっきグラウンドで菜乃花ちゃんが転んだとき、真っ先に駆けつけて。菜乃花ちゃんを抱えて歩く宇山くん、素敵だった」

千春ちゃんの話に、先ほど彗くんにお姫様抱っこされたことを思い出した私は、頬が熱くなる。

「あの宇山くんも、やっぱり彼女には優しいんだね? 菜乃花ちゃん、愛されてる~!」
「そう……かな?」

私は彗くんの本当の彼女じゃないんだけどな……と思いつつも、千春ちゃんの言葉に少し照れながら歩いていると。

「あれ? 速水くん?」

廊下の少し先で、彗くんのいとこの速水くんが、何やらキョロキョロしながら歩いているのが目についた。

どうしたんだろう?


「速水くん!」

私が声をかけると、速水くんが振り返った。

「どうしたの?」
「あーいや、何でも……」

なんだか、歯切れが悪い。

「ねえ。もしかして、何か探しもの?」
「えっと……」
「菜乃花!」

速水くんが言い淀んでいると、そこへ彗くんがやってきた。

「菜乃花、足のケガは大丈夫!?」
「うん。お陰さまで大丈夫だよ。さっきはありがとう」
「良かった。帰りのSHRも終わったから、菜乃花を迎えに来たんだけど……」

彗くんの目線が、速水くんに向く。

「蓮、いつもよりも顔が暗いけど。どうしたんだ?」
「……べつに」
「蓮がそんな顔するなんて。もしかして、あのお守りを失くした……とか?」

彗くんに聞かれた速水くんの肩が、ぴくっと揺れる。

「やっぱり、そうなんだな」
確信した彗くんの顔にも、心なしか影がさす。

「えっと、お守りって?」

千春ちゃんとふたりで首を傾げながら、私は彗くんに尋ねてみる。

「ああ。小学生の頃、蓮がバスケを始めたとき、俺の兄貴が蓮にお守りをあげたんだよ。スポーツの神様で有名な、神社のものらしいんだけど……兄貴は、6年前に病気で亡くなってさ」
「えっ」

6年前と聞いて、私の心臓がドクン、と小さく音を立てた。

6年前……。私が川で溺れて、あの葵くんが亡くなったのも、ちょうどその頃だ。

偶然の一致に、胸が締めつけられるような痛みを感じる。

「兄はいとこの蓮のことも、弟のように可愛がっていたから。そんな兄からもらったお守りを、蓮はいつも持ち歩いてずっと大切にしていたんだよな」

彗くんの言葉に、速水くんが静かに頷く。

まさか、彗くんにもそんな悲しい過去があったなんて。

お互い、兄弟や家庭のことは深く話していなかったとはいえ、初めて知る事実に、私は言葉を失った。

「ご、ごめん。私、余計なことを聞いてしまって」
「いや……」

こんなとき、なんて言ったら良いのか分からないけど……。

「あの。そのお守り、私も一緒に探させてくれないかな?」
「え? でも、羽生さん足をケガしたんじゃ?」

さっきの体育祭の練習は、隣のクラスと合同だったから。速水くんも、私が転んだことは知ってるみたい。

「大丈夫だよ。私、少しでも速水くんの役に立ちたくて」
「わ、わたしも探すよ!」

隣にいる千春ちゃんも、勢いよく右手を挙げる。

「羽生さん、江藤さん……ありがとう」
「ちなみにお守りは何色なの? どんなデザイン?」
「えっと……」

速水くんからお守りの特徴を教えてもらうと、最後に図書室で落ち合おうと約束してそれぞれ廊下を駆け出した。

私は彗くんと一緒に、速水くんのお守りを探す。

もし彗くんに何かあったときに、ボディーガードとしての役目を果たせないから。
念のため、彼と一緒に行動することになった。

体育祭の練習をしたグラウンドや教室。美術室などを順番に探すも、お守りは見つからない。

「……ごめんな」

廊下をキョロキョロしながら歩いていると、彗くんが申し訳なさそうに声をかけてきた。

「え? どうして彗くんが謝るの?」
「蓮は、俺のいとこだから。蓮が、迷惑をかけて悪い」
「迷惑だなんて思ってないよ」

私は、彗くんを真っ直ぐ見つめる。

「前に彗くんが、学校に遅刻しそうになった私を助けてくれたとき。『俺が手を貸したくて、貸しただけだから。気にしないで』って、言ってくれたでしょ? それと一緒だよ」
「菜乃花……」

「だから、もう少し頑張って探そう。みんなで探せば、きっと見つかるよ」
「ああ」

それからもしばらく探し続けたけど、やはり結果は同じ。

「あとは、ここだけか」

千春ちゃんたちとの待ち合わせ場所である図書室の前に来て、ポツリと呟く私。

「あっ! 菜乃花ちゃん、どうだった?」

続いて図書室にやって来た千春ちゃんに、私は首を横に振る。

「みんな、僕のせいで迷惑かけちゃってごめん。もう探してくれなくて、大丈夫だから」
「えっ、どうして!? 速水くんの大切なお守りなんじゃ……」

千春ちゃんが、速水くんに聞く。

「もちろん大切なお守りだけど。最近父さんから、中学2年になったんだからそろそろバスケは辞めて、将来のためにも勉強に専念しろって言われてるから……もう良いんだ」
「そんな……諦めたらダメだよ」

もう良いと言いながらも、悲しそうに笑う速水くんを見て、私は思わず声をあげた。

「速水くんと出会って、間もない私が言うのは変かもしれないけど。速水くんはバスケ部のエースになるくらい、今までバスケを一生懸命頑張ってきたんだよね? だったら……まだ諦めるのは早いよ」
「ああ。菜乃花の言うとおり、諦めるのはまだ早いぞ、蓮。諦めるのは、図書室を確認したあとでも遅くない」

彗くんが、図書室の扉をガラガラと開ける。

「すいません。友人が落とし物をしたみたいで、探しても良いですか?」

図書室の司書の女性に声をかけて、私たちは捜索を再開。
そして……。

「あっ、あったー!」

私は、図書室の自習スペースの椅子の下に、紺色のお守りが落ちているのを発見した。

「ありがとう、羽生さん。本当にありがとう!」

お守りが見つかったことを私が速水くんに伝えると、彼にものすごく感謝された。

「このお守りが無事に見つかったってことは、これからもバスケを続けなさいっていうことじゃないかな? きっと天国の彗くんのお兄さんが、速水くんにそう言ってくれてる気がする」
「そうなのかな?」
「ああ、俺もそう思う。きっと兄貴が、蓮に頑張れって言ってくれてるんだよ」

彗くんが、速水くんの背中をポンと優しく叩く。

「そっか……」

お守りを見つめながら、速水くんが微笑む。

「僕、できれば高校まではバスケを続けたいから。勉強も部活も両方頑張りたいってこと、父さんに話してみるよ!」

その言葉に、私は心から嬉しくなった。

「うん! あっ、お守り、速水くんに返すね」

持ったままだったお守りを速水くんに渡そうとした、そのとき。私の手が、蓮くんの手にそっと触れた。

「羽生さんの手、冷たくなってるね」

彼の指先が、私の手の甲をなぞる。

……あ。夕方になって、少し冷えてきたからかな?

そう思った瞬間、速水くんは私の手を、温かい大きな手で優しく包み込んだ。

「僕が温めてあげる」

突然のことに、私の心臓がドクン、ドクン、と波打つ。

「は、速水くん!?」

予想外の行動に、私の声は上ずってしまった。

「僕のことは蓮でいいよ。お守り本当にありがとうね、菜乃花ちゃん」

速水くんが私に、ふわりと微笑む。

ていうか速水くん、いつの間にか『羽生さん』から『菜乃花ちゃん』に呼び方が変わってる。

「菜乃花ちゃんは、彗の彼女だから。やっぱりいい子だね」

私の手を握っている速水くん……蓮くんの手に力がこもる。

「蓮! さっさと手を離せよ。菜乃花が困ってるだろ」

彗くんが蓮くんの腕をぐっと掴むと、ようやく私の手を離してくれた。

蓮くんは彗くんと比べて、可愛らしい雰囲気のイケメンさんだけど。今、改めて触れた彼の指先や、手のひらの感触は、意外と大きくて、少し骨張っていて。しっかりと、男の子のものだった。

「千春ちゃんも、一緒に探してくれてありがとうねぇ」

蓮くんったら、いつの間にか千春ちゃんのことも下の名前で呼んでる。その社交性の高さに、思わず苦笑いが漏れる。

「ったく。蓮のヤツ、調子いいんだから」

呆れたように言いながらも、蓮くんを見つめる彗くんの眼差しは、とても優しいものだった。

その横顔を見て、私はふわりと温かい気持ちになった。
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