【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん

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20:買い物日和①

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「ねぇティナ様ー、もう十時だよー」
「うーん、今日は休日~」
「もうぼくお勉強も終わったよー」

ベッドの中でゴロゴロ本を読んでいると二階で勉強してたらしいアレクシが起こしに来た。アレクシはたぶん朝から晩まで手伝わされてだらけるということを知らないのだと思う。動いてないと落ち着かないのだろう。

「アレクシはもっとダラダラしなさい」
「なんで、わっ」
「アレクシも今日はおやすみ~」

無理やりベッドに引っ張りこんでぎゅむっと抱きしめる。くすぐったいのかクスクス笑う姿にもう可愛くてニヤニヤが止まらない。

「お腹空いたー」
「ああ、そうだね、確かに」

ぷにぷにとアレクシのほっぺをつつきながら思う。まだ引き取って一週間ほどではあるが少しずつふっくらしてきている。こんな育ち盛りの子供に今まで満足にご飯も食べさせてなかったとか怒りしか沸かない。

「よーし、ホットケーキでも作るか!」
「何それ!楽しみ!」

ギュっと抱きついてきたアレクシをまたぎゅむっと抱きしめる。ほんとにもう天使すぎて死ねる。

幸せすぎる時間を噛みしめていた、その時だった。

「ティナー」
「!?」

例によってばたんと扉が開き誰か入ってきた。いや、思い当たるのは二人しかいないが。声からすると兄の方だろう。

「まだ寝て…」

言いかけた言葉は途中で止まった。勝手に入ってきたリクハルド様は寝室の入り口で固まってしまっている。

「誰だその男はーっ!?」
「ほぇっ!?」
「何で同じベッドで、男とっ」
「ちょ、落ち着いて」
「も、もしかして、そいつとヤ、」
「落ち着けーっ!!!」

子供の前で何を口走ろうとしてんだ!
ほのぼのとした一日の始まりはリクハルド様の乱入によって掻き消されたのであった。





「はぁ…」
「…すまん、取り乱した」

ひとしきり騒いだリクハルド様は今はしょんぼり落ち込んでいる。五才の子供が大人に見えたリクハルド様の目を疑うわ。アレクシはビックリして私の後ろから出てこない。

「しかしだな、子供であっても軽々しく女性の体に触れるのは良くないぞ!」

お前がそれを言うのか。この間もセクハラしてきただろ。

「それこそが紳士だ!」
「しんしー?」
「ああ!」

アレクシが隠れながらもリクハルド様の言葉に応えた。それが可愛くてつい頭を撫でる。

「もう、アレクシはまだ五才なんですよ!それに今まで甘やかしてもらえなかったんだからいいんです!」
「俺は五つの時にはもう甘やかしてもらえなかったぞ!」

うーん、まぁその辺りは可哀想かと思うけど。王子様だから厳しく育てられたんだろう。
子供だからって胸に顔を…とかぶつぶつ呟いているリクハルド様に小さくため息を吐く。

「じゃあ今甘えます?」
「えっ!?」
「ほら」

ん、と腕を広げれば突然うろたえだした。何だ何だ?何照れてんの?

「じゃ、じゃあ思いきって!」
「あ、軽々しく女性に触っちゃいけないんでしたっけ」
「!?」
「ティナ様ーホットケーキはー?」
「そうだったそうだった」

そういえばお腹が空いていたのだった。肩透かしをくらって泣きそうになっているリクハルド様は置いといてアレクシとキッチンに向かった。



ホットケーキを嬉しそうに頬張っているアレクシに何だかんだ言いつつもリクハルド様が世話を焼いている。遠慮なく踏み込んでくるリクハルド様にアレクシも慣れてきたようだ。

(アレクシの髪伸びてるなぁ…それに服も、あと絵本みたいなのもほしい)

「ここから街ってどれくらいかかるんでしょうか?」
「俺の馬なら一時間くらいで一番近い街まで行けるが」
「でもそれじゃ一緒に行けません」

アレクシは知ってる?と聞くと乗り合いの馬車が乗れる場所まで一時間ほど歩くらしい。そこから馬車に乗っていくのだがその時間まではわからなかった。

「買い物に行きたいのか?」
「はい、足りないものがたくさんあるので」
「じゃあ今から行くか!」
「え、だから」
「俺の馬なら三人行ける!最高の名馬だぞ!」

そうだ、この人王子様だった。
得意気にしているリクハルド様の提案により今日の予定は買い物に決まった。


各々準備をして外に出ると、よし、と言ってリクハルド様はアレクシを抱きあげた。突然の浮遊感にアレクシがリクハルド様の首にガシッと掴まる。

「アレクシ、しっかり掴まってろよ!」
「うん!」
「ティナはこっち」

ちょいちょい、と呼ばれて近づく。キュッと腕を引かれたと思うと、

「!」
「ティナは後ろな」
「~~っ」

抱き上げて馬に乗せる前におでこにキスされた。不意打ち過ぎて思わず赤くなる。

「よっし行くぞ!ティナしっかり掴まっとけよ!」
「へ、わ、ぎゃーっ!!!」
「あはは、スピードあげるぞー」
「やめてーっ!!」

イヴァロンの田舎町に笑い声と悲鳴が響きわたる。その奇声は私が恐怖でついに声を失うまで続いたのであった。

**

「…うぇっぷ……死ぬかと思った」
「ぼく楽しかったー!」
「そうか、そうか!帰りも楽しみだな!」
「うん!」

すっかり意気投合してる二人を尻目に私はもうヘロヘロだ。速いだけならまだいいが、あの揺れは耐えきれない。帰りのことを考えプチ鬱になっていると、何かに気がついたリクハルド様が急に立ち止まった。

「あ、スレヴィ」
「あれ、兄さん?ティナも」
「……」

なんというか、世間は狭い。
そう、思った。



 あれやこれやと楽しそうにしているのでアレクシはリクハルド様に任せておく。甘やかすなとか言ってたくせにリクハルド様は馬に乗る前からずっとアレクシを抱えたままだ。何だかんだ言っても子供は可愛いんだろう。街に来るのは初めてだというアレクシがはしゃいでいる事にもちゃんと付き合ってあげている。優しい王子様だ。

私が行きたい所はちょっとアレクシを連れて行きにくかったから都合が良い。スレヴィ様に付き合ってもらう事にして二人とは後で合流することにする。

「宝石売買店みたいなのないかな?」
「売買?何で」
「宝石売ってお金にしようと思って」
「売るの!?」

何をそんなに驚いているんだか。今のところ収入源がないのだから仕方がない。
そのために売れそうな物は持ってきたのだ。

「そのお金でアレクシの物を揃えようと思ってるんですけど」
「いや、それくらい僕が出すよ」
「ダメですよ、そんなの。あ、ここかな?」

宝石などを売買できそうな店を見つけ手持ちの宝石を見てもらうと店主はギョっとした。

「…ダメですか?」
「いやもう、高級品すぎて桁が違います。この街で引き取るにはリスクが大きすぎますな…」
「そうですか…そうですよね」

確かにここでは夜会もパーティーも開かれない。こんな宝石あっても誰も買わないだろう。途中の大きな街で売却してくれば良かった。正直そこまで気が回らなかった。

「ティナ、僕がそれ王都で売却するよ。だから僕に預けてくれる?といっても今の手持ちじゃ足りないと思うから残りはまた今度持ってくるし」
「本当ですか?ありがとうございます!」
「これ幾らぐらいになるかだけ教えてもらえるかな?」

店主に価値を鑑定してもらっている間にケースに並んだ商品を見る。その内のひとつ、イヤリングが目に留まった。透明のピンクの石の中にさらに濃いピンクの粒々のようなものが入っている。この石には見覚えがあった。

「これ…」
「変わった石だね。何て言うんだろ」
「ああ、それはピンクエピドートという石でね。ちょっと見ない物だろう?」
「確かにこの国では聞いたことないな」

そう言ってスレヴィ様が頷いた。書かれている値札を見る。買えない額ではない。

「うーん…」
「気に入ったの?」
「気に入ったというか…」

この場では何となく言いにくかったのでちらりとスレヴィ様に視線を向けた。何かを察知したのかスレヴィ様が頷く。

「これ買わせてもらうよ。ちなみに」

どんな人が売りに来た?と尋ねた。やっぱりできる男はすごかった。


宝石売買店を出ると次の目的店を探すことにした。規模は小さいが一通り何でも揃いそうな街だと安心する。

「あと、床屋みたいなところがあれば」
「ああ、アレクシの髪だね」
「はい。でも私も短く切ろうと思って」
「切るの!?」

…いや、だから何をそんなに驚くことがあるんだろう?
何か色々スレヴィ様が落ち込んでいる。

「おーい、ティナ!」
「あ、リクハルド様…って何ですかそれは!」
「え、マット」

リクハルド様はなぜかぐるぐるに巻かれたマットを抱えている。その他に紙袋もいくつか持っているしもしかして…。

「勝手にアレクシの服山ほど買いましたね?」
「ああ!それにマットはほら…あった方が良いかと思って」

また泊まる気か!?
もう諦めな、とスレヴィ様がポンと肩を叩いた。
ちくしょう、家は別荘じゃないんだぞ。

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