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第九章【セントラル】
9-52 舞台劇
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―――20分後、回廊にて。
開会まであと10分と迫り、回廊は多くの国民で賑わいを見せていた。
もちろん兵士全員と国民全員が入れるはずもなく、兵士はリッターが選定した者、国民は先着順として案内。それでも入城できなかった人間は塀の外や門へと詰めかけていた。
魔剣士「うへっ、すげぇ人の数……」
だが、それでも広い回廊には百人単位の規模で人が集まり、舞台裏から覗く魔剣士は「いすぎだろ」と愚痴る。
リッター「本当は全員を案内したかったが、あとで広場のほうに顔を出し、全員に白姫様を見れるようにしよう」
魔剣士「面倒くせーが必要なことか……」
準備された舞台は、豪華な回廊に敷かれた赤い絨毯に浅い階段。その上に豪華な玉座。そこに白姫が登場後、着席、リッターが王冠を手渡すという式だった。
魔剣士「単純な式だけどこれだけで良いのか?それに王冠はどっから」
リッター「…王冠は倉庫にあったテキトーな宝物品だが、それで充分。それに単純ではあるが、そのためにお前たちがいるんだろう」
魔剣士「あ、あぁ……」
リヒト「そうですね、緊張してきた……」
バンシィ「私はちょっと楽しみ……」
その場には、リヒトとバンシィの姿も。二人もこれから始まる式のため、控室で準備をしていた。
魔剣士「……お前らもその恰好だもんな」
二人…、いや魔剣士とリヒトとバンシィの三人は、それぞれ青、赤、黒の羽根帽子を被りそれに見合った前掛けとサーベルを装備している。靴の先はクルリと尖り、本当にどこぞの"劇"に出てくるヘンチクリンな騎士の恰好そのものだった。
魔剣士「なー、これ本当にやんのかよ……」
リッター「必要なことだと言っただろう。それに、お前も暴れるのは嫌いじゃないはずだが?」
魔剣士「それはそうなんだが……」
とにかくリッターの案を否定したい魔剣士。しかし、その式は嫌でも幕を開けてしまう。
リッター「しっ、来たぞ」
魔剣士「嘘ォ……」
リヒト「白姫さんですよ!」
バンシィ「お、お姉ちゃん凄く美人になってる…!」
この時、彼らがいたのは舞台裏であり回廊を見下ろせる特設した二階のカーテン裏だった。隠れるようにしていた理由は、この後に始まる"劇"ですぐに分かる。
白姫「…」
シャル「…」
兵士「…」
正装する白姫の隣にはシャル、そして朝に本音と希望を聞かせた兵士たちが並ぶ。さすがに統制された動きで、厳しい環境を生きて来ただけある兵士たちの動きは一糸乱れずに白姫の周囲で槍を構えつつ行進、その場にいる国民たちも圧倒される。
リッター「極限を生きて来ただけあって、動きそのものは統制されているな」
魔剣士「弱いけどな」
リッター「……兵士は強いだけじゃなく、その心も大事だ。白姫様も冒険してきたのは無駄になっていないようだ…、緊張しつつもあの顔つきは素晴らしいように見える」
魔剣士「当たり前だろ。俺らの仲間だぞ」
やがて、国民たちの前に姿を現した白姫は玉座の隣で足を止める。それに合わせ、兵士たちは一斉に槍の柄で"ズン!"と床を叩き、回廊に強い地響きを鳴らした。
魔剣士「…統制されすぎじゃね?普段から練習してたのかっつーくらいに完璧な流れじゃん」
リッター「この動きを教えたのは今朝だ。数回の流れで全員が覚えたのは、さすがセントラル兵士だと思えるな」
魔剣士「ふーん…。でも、あまり見たくねぇな俺は……」
リッター「何をだ?」
魔剣士「……いや。あそこに兵士長がいたらって思うとな…」
リッター「ハッハッハ、何だ…お前もそうやって反省するタイプだったのか?」
魔剣士「あの時…、まだ世界のことも社会的なことも知らなかった。死ぬなんてことも考えなかったし……」
反省した様子で、兵士たちの姿を見つめる魔剣士。すると、リッターはバンバンと肩を叩いて大笑いする。
リッター「ハハハハッ、だがお前は白姫様を幸せにしたんだろう?それで兵士長も納得したと言うのなら、それでいいじゃないか」
魔剣士「……そうかもしんねぇな」
リッター「昔より今だ。…ほら、白姫様の挨拶も始まるぞ」
魔剣士「もう挨拶の準備はしていたのか」
リッター「それも今朝だ。文言自体はお前がいない間に少しずつ考えていたみたいだが、俺にも相談はされてな」
魔剣士「ふーん……」
回廊にいる国民たちは、準備された椅子に座りながら、白姫を見る。てっきり熱狂したり騒いだりするものだと思っていたが、その厳粛たる雰囲気と兵士の姿に緊張したのだろうか。
白姫「こ、こほんっ……」
小さく咳き込み、一度目線を上に、隠れる魔剣士たちを見て彼らがいることを確認したあと、国民たちに目線を落とす。
白姫「皆さま……、し、白姫…です……」
緊張した面持ちのまま、口を開く。
白姫「…」
国民たちの注目は一斉に白姫に集中し、小さな声で彼女に対する感想がぼそぼそと聞こえる。
(あれが白姫様か…、小さくて美しいが……)
(ハイルと比べると大分変わっているな。世界平和のために旅をしてきたとはいえ、雰囲気は強くない気がするぞ)
(本当に新時代をもたらす人間なのか?)
ハイルの恐怖に支配され続けた国民にとっても、白姫は圧倒的に小さい存在だった。
容姿ばかりはどうしようもなく、特に指導者として新時代を作ると豪語した記事を広場で拝見した国民たちにとって、彼女の小さい美しさは不安要素ばかりである。
白姫「…」
名を言ったあと、しばらく白姫はしゃべらない。国民たちのぼそぼそと小さい声が聞こえてくるばかりで、その話声は嫌でも兵士、白姫の耳にも入っているだろう。
魔剣士「どうして何もしゃべらないんだ…、緊張してるのか?」
リッター「何、これでいいんだ」
魔剣士「……これも作戦なのか?」
リッター「まぁ見ていろ。この話術は、遠い国で貧民出の男が王になった時に使った手段の一つだ。面白いぞ」
白姫はとにかく無言。対して国民たちはボソボソとしゃべり、その会話も厳しいものとなっていく。
(おい、どうして姫様はしゃべらないんだ)
(緊張しているんだろ。その点、ハイルは堂々として怖かったイメージしかないけどな……)
(……でも、何かはしゃべれるだろう)
(わざわざあんな記事を広場に張って、今更緊張して声も出ませんでしたとか支持もできねーぞ)
もし対峙しているのがハイルなら、こんな言葉は民の一人も言わない。目の前にいるのはか弱い女の子であるから、国民の素直な言葉が聞こえて来た。
(どうすんだ、何かしゃべれよ!)
(……イラついてきたぞ。最初は娘だけどハイルの子供だから怖いと思ってたのによ)
(ンだ、こんな豪華な場所で即位するって、こんな時間かけることなのか?)
(早くしろ、早く。何もしゃべらないとか時間の無駄だろうが……!)
白姫が無言になってからしばらくして、国民たちも、いよいよ声を出して白姫に言葉をぶつけ始める。
「……姫様、何してんだ!何かしゃべるんじゃなかったのか!」
「それとも嘘なのか!?結局、ハイル…じゃない、ハイル様に仕組まれた即位なのか!?」
「おーい、どうしたんだよ!!」
「白姫様ァー!おーいっ!!」
相手が"ハイル"ではないことに、調子に乗り始める国民たち。
魔剣士は「やばいんじゃないのか」と下に降りようとしたが、リッターは「ようやく始まったぞ」と笑って魔剣士を止めた。
魔剣士「な、何?」
リッター「始まるぞ」
罵倒怒号、冷たい言葉が飛び交い始めた時。そこでようやく、白姫は改めて口を開いた。無言から口を開くまでの時間は、実に15分近くもかかっていた。
白姫「……皆さんっ!!」
急に力強い声。国民たちは「えっ!?」と驚く。
白姫「大変申し訳ありませんでした。私が無言になってから、皆さんが私に対して言葉を投げるまで…10分以上のお時間を頂きました。本来、指導者となる者がここまで長い時間無言であることは、あるまじき行為のうえ、もっと早く罵倒は飛ぶはずでしょう。…しかし、私にその言葉が投げられるまで、実に15分。15分もの時間を要したんです。私は、改めて国民の皆様が"ハイル"の恐怖に支配されていたことが良く分かりました」
どうして無言であったのか、その理由。
リッター「……ハイルの恐怖から解き放つためのものだ」
魔剣士「わざと、恐怖を改めて理解させるために…?」
リッター「白姫様とはいえ、受け入れられるには国民が改めて自分を理解することが必要だ。まずは恐怖していたことを、白姫様自身が"国民と同じ気持ち"であること、共感を訴えることから始まるのが最善になる」
魔剣士「……!」
白姫の言葉は、続く。
白姫「この15分、私は皆さんがどれだけハイルという存在に恐怖をしていたか理解しました。私も幼い頃から高い塀に囲まれ、その中で何も知らず育ってきた無知な女です。ですが……」
ここからの会話は、国民たちの心を掴むには充分過ぎるものであった。
―――私は。
幼い頃から高い塀に囲まれ、その中で何も知らずに育ってきました。ですが、いくらかの勉学を積むうちに父がどれほどの過ちを犯してきたのかを理解し、次第に心は父への愛情よりも、民の辛さ哀しみを想う気持ちへと変わっていきました。
だから私は決意しました。15を迎えてから、父ハイルと違い民を想う指導者となるため、従者である"魔剣士"と共に世界へ飛び出そうと。
リッター(…)
だけど…父ハイルはそれを許しませんでした。それは皆さまがご存じの通りかと思いますが、まさか私を賞金首に仕立て上げ、多くのバウンティハンターに命を狙わせ、その旅を熾烈を極めました。
リヒト(…)
ハンターから逃れつつ、西方大地、北方大地、そして東方大地を旅しました。私と魔剣士は、主要国家のある国々の指導者たちの問題を多く解決することで懇意とさせてもらい、旅の途中で知った"世界戦争"の計画を潰すべく、協定や誓約を結びながら旅を続けました。
バンシィ(…)
し、しかし…。私は…、私が夢見た平和な世界は父ハイルによって崩されました。王である彼は、あるまじき考えとあるまじき行為をもって、世界侵略を開始したのです。
魔剣士(白姫…)
平和は剣にのみ守られる世界になり、我が従者である魔剣士と共に未来を掴むため、今日という日に私は…、今は遠い地で戦うハイルや騎士団を滅するために女王となることを宣言します!
国民「…!」
―――それは、単純な挨拶だった。
リッター(嘘と真実を混ぜて語るだけ。最初は遅く静かな立ち上がりで、だが――…)
徐々に、静かな立ち上がりとは変わって彼女の声は大きくなった。もしかすると、彼女自身、それを声にしたかったこともあるのかもしれないが、人が人を納得させるには充分過ぎる演説であった。
魔剣士「白姫……」
リッター「魔剣士、そろそろ行くぞ」
魔剣士「ほ、本当にやるのか?」
リッター「白姫様が手を挙げた時、その合図だ。ただし本気で殴り過ぎるなよ。お前の力は、蚊を潰すくらいに一般兵士の首を飛ばすには充分過ぎる」
魔剣士「ちっ…」
いよいよ、リッターは仕上げにかかる。
白姫も合図を忘れず、言葉の間に腕を大きく上げる――。
白姫「国民たちは、みな今日のように晴れ渡る青空の下で笑顔で生きられるように……!」
"バッ!"
片腕を上げた瞬間、兵士の一人が「うぉぉおっ!」と奇声をあげた。
白姫「っ!」
挙げた腕、奇声の兵士、驚く国民。その合図に、リッターは隠れていたカーテンから高く飛び上がる。
兵士「ハイル様、万歳ッ!!!」
兵士はハイルの名を叫びながら、槍を白姫に突きつける。白姫は驚き「きゃああっ!?」と声をあげ、会場は凍り付く。
リッター「……待てぇぇい!!」
槍が白姫の身体を傷つけるか否か、その刹那。既に飛んでいたリッターが、着地に爆音をあげ、激しく槍を弾き飛ばした。
白姫(リッターさん…!)
リッター(大丈夫、万事上手くいく!)
数秒に、わずかなコンタクト。続いてリッターが弾いた槍を指差し、行く末を叫ぶ。この時、弾いた瞬間に魔力を撃ち込み、リッターは槍を空で操作した。
リッター「……槍がっ!」
国民たちの注目が槍に集まる。天高く打ち上げられた槍は、狙い通り"魔剣士"のもとへと飛んだ。
魔剣士「マジかよ……」
"はぁ"とため息をついた魔剣士は、飛んできた槍を片手で止める。リッターに言われていた通り、掴んだ瞬間、魔法で大きく"ガシッ!!"という強い擬音を放った。
リッター「あ、あれは…!」
わざとらしく言う。
白姫「……魔剣士っ!!」
そしてついに、赤の羽根帽子を着用する"魔剣士"の名が呼ばれた。兵士の裏切りから、この流れるような一連の動作に、惹きつけられない人間はいない。
魔剣士「リ、リッター…、お前の防御は…あ、甘いぞ…。俺ならもっと、上手くやれた…からな……!」
大変な棒読みに、リッターは笑いを堪える。一方で、黒羽根帽子のリヒト、青羽根帽子のバンシィは意外にもノリノリだったからして、棒読みを何とかカバーできた。
リヒト「……リッター、もう少しスマートに弾けないのか?」
バンシィ「僕ならもっと上手くやれていたぞ」
赤羽根の魔剣士の裏に、両隣へそれぞれ登場するリヒトとバンシィ。顔を深く隠し、ただ魔力を具現化したオーラを放って周囲を歪ませる。
魔剣士(お前ら、ノリノリすぎじゃね!?)
バンシィ(お兄ちゃん、これちょっと楽しいかも……)
リヒト(い、意外と良い感じに楽しくなっちゃいまして……)
赤、青、黒の羽根が揃った三人は、高く飛んで白姫の隣へと着地する。リヒトに至っては、空中で回転するサービスを付けたほどだった。
白姫「魔剣士、リヒト、バンシィ!」
魔剣士「ったく…」
いつもの癖で「ったく」という愚痴が出る。だが、予定する台詞はそうじゃない。
白姫(魔剣士、台詞!)
魔剣士(あっ…、そ、そうだったな!)
ゴホンと咳き込み、掴んでいた槍をくるくると回し、襲った兵士の元へ行って頬を叩く"ふり"をして兵士は吹っ飛び、倒れた兵士の前の床に槍を突き刺す。
兵士「ひぃっ!?」
魔剣士「他の兵士たち、コイツを連れていけ!」
片腕を伸ばし恰好よく合図を取ると、予定通り二人の兵士が襲った兵士を捕まえて王室へと連れて行った。
魔剣士「……お、俺は従者の魔剣士…!姫様を常に守り、彼女と共に命を捧ぐ…き、騎士である!!」
帽子を被り直し、再び三人は揃う。
魔剣士「わ、我らが姫様をお守りする三銃士!」
リヒト「リッター、お前の働きは素晴らしくとも我らには及ばない」
バンシィ「常日頃に精進しろ。あんな派手なことをせずとも、もっとクールにスマートに。誰にもづかれぬよう立ち回れ」
リッター「はっ…、申し訳ありません!」
"槍を弾いた"強きリッターですら頭を下げる三銃士の存在。劇はまだ続く。
リッター「騎士団の団長してこの身を捧げましたが、姫様の寛大さに惹かれたことで今は姫様が全て!どうか、お許しを!」
魔剣士「……お前がそれほどに言うのなら、許してやろう。だが忘れるな、お前が下手をすれば我らがお前の命を奪うことくらい容易いことを!」
この劇は魔剣士たちが強き者であり、白姫がどれほど信頼に値するか、国民たちの支持を上げるための劇。イレギュラーな存在も考えてはいたが、本当に起こるとは予想しなかった。
別の兵士「…ッ!」
劇のクライマックスを迎えたその時、別の兵士が飛び出した。これは劇の中にあった行動ではない。…つまり。
白姫「えっ!?」
この命、ハイル様万歳!俺も続くぞと叫んだ兵士の心は本心で、槍は殺意を持って放たれた。
リッター「このタイミングで!」
バンシィ「お姉ちゃん!」
リヒト「白姫さんっ!!」
それぞれ反応が遅れる。だが、いつも守り続けていた彼だけは気を緩めてはいなかった。
魔剣士「馬鹿が」
腕から氷の剣を作り出し、襲い掛かった兵士の槍を弾き返し、脚を回転させ"旋風"を繰り出し、彼の顔面をぶっ飛ばす。
兵士「ぐげげぇっ!?」
魔剣士「本気で殺そうとしやがったなテメェ、その報いは受けろやコラァ!!」
本気の殺意に怒り、魔剣士は吹っ飛んだ兵士のもとへと行って劇と同じように地面へと弾いた槍を目の前の床に刺し、今度ばかりは本気に言った。
魔剣士「まだ、なのか…?」
兵士「え…?」
魔剣士「まだハイルの洗脳が解けてない奴がいんのか…?お前、前の王がそんなに好きなのか?平和に暮らせるのがそんなに嫌なのか!?」
兵士「ひっ!」
魔剣士「甘い汁を吸った兵士ほど、腐った奴はいねぇよなぁ。ちっ…、白姫がこんなに頑張っているっつーのに、まだ分からないのかよ!!」
兵士「……ッ!」
魔剣士は完全に"素"のままに言い続ける。
魔剣士「国民の中にも、白姫が平和な世界になるのを望まない奴がいるかもしれねーが、俺は俺の信じたままに戦う。白姫の命を狙いたいんだったら狙えばいい。俺が守るんだからよォ!」
白姫「魔剣士……」
魔剣士「白姫が民を想う気持ちは本心だ。お前の家族が幸せになる未来を作れるのは白姫だけだ。あんなクソハイルがいたら、世界から笑顔は消える!そんなこともわかんねーのか、おいッ!!!」
白姫「…っ」
この言葉の全ては、響きやすい回廊、静まり返った会場では十分すぎるほど、国民たちの心の中に響いた。魔剣士という守りし者の存在、彼の本気の言葉は闇魔力の影響か定かではないが、間違いなくその場にいた全員に"白姫は本気なんだ"という気持ちを植え付けたのだ。
魔剣士「もう良い、連れていけ」
後ろにいた兵士を呼んで、彼を連れて行かせる。襲った兵士は悔しそうにしつつ、会場の外へと消えた。
魔剣士「…」
劇を忘れていた魔剣士は「あっ」と我に返り、慌ててリヒトとバンシィの隣へと戻る。…すると。
「……良いじゃん」
国民の一人が、笑って言った。そして、それは小さなたった一人の拍手から始まる。一人の「良い」という言葉と拍手はドミノのように連鎖的に会場全ての国民を巻き込んだ。
「や、やるじゃん魔剣士!白姫の想いもすげー伝わったぞ!!」
「三銃士はダサいけど、かっこいいぞなんか!?」
「さっきの平和に対する想いも本当なんだよな…、信じて良いのか!?」
「白姫様、いい仲間がいるじゃないか!!」
「面白かったぞ!!」
鳴りやまない拍手と歓喜の声。リッターは「う、うははははっ!!」と笑って魔剣士と白姫の肩を叩く。
リッター「しっかりしろ!お前たちの本音はしっかりと国民へと伝わったんだ!」
魔剣士「お、おぉ…?」
白姫「みんな…!」
偶然にも"本物"の殺害を目論んだ男によって引き起こされた熱狂ではあったが、もしかすると世界がそうするように望んだのかもしれない。白姫は「これでもう、きっと大丈夫」と思い切りの笑顔を見せた。
リッター「これで白姫様は女王に認められる。噂は噂を呼び、支持も集めるだろう」
白姫「はいっ…。あとは行動だけですね…!」
リッター「あぁそうだ。おめでとう、白姫様。いや…女王様と呼んだ方がいいか?」
白姫「え、あっ…、うーん……。そ、そうなんですかね?」
リッター「ククッ…、そんなことを訊く立場じゃなくなるというのに!ハハハッ!」
白姫「え、えへへっ……」
酔狂にも近い会場、認められる白姫、指導者となることは確定し、王都セントラルは完全に平和への道を歩み始めた―――………………はず、だった。
魔剣士(……んっ!?)
突然、会場…回廊奥の出入り口側の扉が勢いよく開いた。そこには兵士の一人が立っており、マナーもなしに、この会場に足を入れるとはどういう了見だと睨み付けたが、よく見ればその男は連れて行ったはずの"本気の殺意を持った男"で、しかもズタズタに斬られて血まみれで。
魔剣士「なっ!?」
バンシィ「リッターの劇の続き…?」
リッター「……違う、あんな仕組みはしていない…!」
白姫「そ、それじゃあれは!」
リヒト「……待ってください、後ろに誰か!」
血まみれの暗殺者、その後ろにはもう一人。……いや、もう二人。……違う、もう三人。四人、五人、六人、七人。
魔剣士「お、おい……!」
血まみれの兵士の首が"パァン!"と音を立てて吹き飛び、血しぶきが国民を赤く汚す。歓喜していた国民たちは恐怖し、会場がパニックになった。
リッター「これは少々、予想外だな……」
逃げ惑う人々、その者たちは動じる様子なく、人ごみをかき分けてこちらへと歩みを寄せる。
バンシィ「お兄ちゃん、リッター、どうするの……」
その者たちの多くが"剣"を抜き、先頭に立つ一人は魔導書と"紙"を両手に持ち、その片側に立つ男はよく見覚えのある"槍"を手に取った。
リヒト「参りましたね、まさかこんな形で……」
そう、彼らは本来、今のこの王都と王城の宿主である男たち。
魔剣士「オッサン、ブリレイ……!!」
ブリレイ、そして新たなる配下である猛竜騎士率いるセントラル騎士団であった――。
ブリレイ「俺がいない間に、随分としたことをやってくれたものだ。生きていたとは驚いたぞ、魔剣士……」
………
…
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―――20分後、回廊にて。
開会まであと10分と迫り、回廊は多くの国民で賑わいを見せていた。
もちろん兵士全員と国民全員が入れるはずもなく、兵士はリッターが選定した者、国民は先着順として案内。それでも入城できなかった人間は塀の外や門へと詰めかけていた。
魔剣士「うへっ、すげぇ人の数……」
だが、それでも広い回廊には百人単位の規模で人が集まり、舞台裏から覗く魔剣士は「いすぎだろ」と愚痴る。
リッター「本当は全員を案内したかったが、あとで広場のほうに顔を出し、全員に白姫様を見れるようにしよう」
魔剣士「面倒くせーが必要なことか……」
準備された舞台は、豪華な回廊に敷かれた赤い絨毯に浅い階段。その上に豪華な玉座。そこに白姫が登場後、着席、リッターが王冠を手渡すという式だった。
魔剣士「単純な式だけどこれだけで良いのか?それに王冠はどっから」
リッター「…王冠は倉庫にあったテキトーな宝物品だが、それで充分。それに単純ではあるが、そのためにお前たちがいるんだろう」
魔剣士「あ、あぁ……」
リヒト「そうですね、緊張してきた……」
バンシィ「私はちょっと楽しみ……」
その場には、リヒトとバンシィの姿も。二人もこれから始まる式のため、控室で準備をしていた。
魔剣士「……お前らもその恰好だもんな」
二人…、いや魔剣士とリヒトとバンシィの三人は、それぞれ青、赤、黒の羽根帽子を被りそれに見合った前掛けとサーベルを装備している。靴の先はクルリと尖り、本当にどこぞの"劇"に出てくるヘンチクリンな騎士の恰好そのものだった。
魔剣士「なー、これ本当にやんのかよ……」
リッター「必要なことだと言っただろう。それに、お前も暴れるのは嫌いじゃないはずだが?」
魔剣士「それはそうなんだが……」
とにかくリッターの案を否定したい魔剣士。しかし、その式は嫌でも幕を開けてしまう。
リッター「しっ、来たぞ」
魔剣士「嘘ォ……」
リヒト「白姫さんですよ!」
バンシィ「お、お姉ちゃん凄く美人になってる…!」
この時、彼らがいたのは舞台裏であり回廊を見下ろせる特設した二階のカーテン裏だった。隠れるようにしていた理由は、この後に始まる"劇"ですぐに分かる。
白姫「…」
シャル「…」
兵士「…」
正装する白姫の隣にはシャル、そして朝に本音と希望を聞かせた兵士たちが並ぶ。さすがに統制された動きで、厳しい環境を生きて来ただけある兵士たちの動きは一糸乱れずに白姫の周囲で槍を構えつつ行進、その場にいる国民たちも圧倒される。
リッター「極限を生きて来ただけあって、動きそのものは統制されているな」
魔剣士「弱いけどな」
リッター「……兵士は強いだけじゃなく、その心も大事だ。白姫様も冒険してきたのは無駄になっていないようだ…、緊張しつつもあの顔つきは素晴らしいように見える」
魔剣士「当たり前だろ。俺らの仲間だぞ」
やがて、国民たちの前に姿を現した白姫は玉座の隣で足を止める。それに合わせ、兵士たちは一斉に槍の柄で"ズン!"と床を叩き、回廊に強い地響きを鳴らした。
魔剣士「…統制されすぎじゃね?普段から練習してたのかっつーくらいに完璧な流れじゃん」
リッター「この動きを教えたのは今朝だ。数回の流れで全員が覚えたのは、さすがセントラル兵士だと思えるな」
魔剣士「ふーん…。でも、あまり見たくねぇな俺は……」
リッター「何をだ?」
魔剣士「……いや。あそこに兵士長がいたらって思うとな…」
リッター「ハッハッハ、何だ…お前もそうやって反省するタイプだったのか?」
魔剣士「あの時…、まだ世界のことも社会的なことも知らなかった。死ぬなんてことも考えなかったし……」
反省した様子で、兵士たちの姿を見つめる魔剣士。すると、リッターはバンバンと肩を叩いて大笑いする。
リッター「ハハハハッ、だがお前は白姫様を幸せにしたんだろう?それで兵士長も納得したと言うのなら、それでいいじゃないか」
魔剣士「……そうかもしんねぇな」
リッター「昔より今だ。…ほら、白姫様の挨拶も始まるぞ」
魔剣士「もう挨拶の準備はしていたのか」
リッター「それも今朝だ。文言自体はお前がいない間に少しずつ考えていたみたいだが、俺にも相談はされてな」
魔剣士「ふーん……」
回廊にいる国民たちは、準備された椅子に座りながら、白姫を見る。てっきり熱狂したり騒いだりするものだと思っていたが、その厳粛たる雰囲気と兵士の姿に緊張したのだろうか。
白姫「こ、こほんっ……」
小さく咳き込み、一度目線を上に、隠れる魔剣士たちを見て彼らがいることを確認したあと、国民たちに目線を落とす。
白姫「皆さま……、し、白姫…です……」
緊張した面持ちのまま、口を開く。
白姫「…」
国民たちの注目は一斉に白姫に集中し、小さな声で彼女に対する感想がぼそぼそと聞こえる。
(あれが白姫様か…、小さくて美しいが……)
(ハイルと比べると大分変わっているな。世界平和のために旅をしてきたとはいえ、雰囲気は強くない気がするぞ)
(本当に新時代をもたらす人間なのか?)
ハイルの恐怖に支配され続けた国民にとっても、白姫は圧倒的に小さい存在だった。
容姿ばかりはどうしようもなく、特に指導者として新時代を作ると豪語した記事を広場で拝見した国民たちにとって、彼女の小さい美しさは不安要素ばかりである。
白姫「…」
名を言ったあと、しばらく白姫はしゃべらない。国民たちのぼそぼそと小さい声が聞こえてくるばかりで、その話声は嫌でも兵士、白姫の耳にも入っているだろう。
魔剣士「どうして何もしゃべらないんだ…、緊張してるのか?」
リッター「何、これでいいんだ」
魔剣士「……これも作戦なのか?」
リッター「まぁ見ていろ。この話術は、遠い国で貧民出の男が王になった時に使った手段の一つだ。面白いぞ」
白姫はとにかく無言。対して国民たちはボソボソとしゃべり、その会話も厳しいものとなっていく。
(おい、どうして姫様はしゃべらないんだ)
(緊張しているんだろ。その点、ハイルは堂々として怖かったイメージしかないけどな……)
(……でも、何かはしゃべれるだろう)
(わざわざあんな記事を広場に張って、今更緊張して声も出ませんでしたとか支持もできねーぞ)
もし対峙しているのがハイルなら、こんな言葉は民の一人も言わない。目の前にいるのはか弱い女の子であるから、国民の素直な言葉が聞こえて来た。
(どうすんだ、何かしゃべれよ!)
(……イラついてきたぞ。最初は娘だけどハイルの子供だから怖いと思ってたのによ)
(ンだ、こんな豪華な場所で即位するって、こんな時間かけることなのか?)
(早くしろ、早く。何もしゃべらないとか時間の無駄だろうが……!)
白姫が無言になってからしばらくして、国民たちも、いよいよ声を出して白姫に言葉をぶつけ始める。
「……姫様、何してんだ!何かしゃべるんじゃなかったのか!」
「それとも嘘なのか!?結局、ハイル…じゃない、ハイル様に仕組まれた即位なのか!?」
「おーい、どうしたんだよ!!」
「白姫様ァー!おーいっ!!」
相手が"ハイル"ではないことに、調子に乗り始める国民たち。
魔剣士は「やばいんじゃないのか」と下に降りようとしたが、リッターは「ようやく始まったぞ」と笑って魔剣士を止めた。
魔剣士「な、何?」
リッター「始まるぞ」
罵倒怒号、冷たい言葉が飛び交い始めた時。そこでようやく、白姫は改めて口を開いた。無言から口を開くまでの時間は、実に15分近くもかかっていた。
白姫「……皆さんっ!!」
急に力強い声。国民たちは「えっ!?」と驚く。
白姫「大変申し訳ありませんでした。私が無言になってから、皆さんが私に対して言葉を投げるまで…10分以上のお時間を頂きました。本来、指導者となる者がここまで長い時間無言であることは、あるまじき行為のうえ、もっと早く罵倒は飛ぶはずでしょう。…しかし、私にその言葉が投げられるまで、実に15分。15分もの時間を要したんです。私は、改めて国民の皆様が"ハイル"の恐怖に支配されていたことが良く分かりました」
どうして無言であったのか、その理由。
リッター「……ハイルの恐怖から解き放つためのものだ」
魔剣士「わざと、恐怖を改めて理解させるために…?」
リッター「白姫様とはいえ、受け入れられるには国民が改めて自分を理解することが必要だ。まずは恐怖していたことを、白姫様自身が"国民と同じ気持ち"であること、共感を訴えることから始まるのが最善になる」
魔剣士「……!」
白姫の言葉は、続く。
白姫「この15分、私は皆さんがどれだけハイルという存在に恐怖をしていたか理解しました。私も幼い頃から高い塀に囲まれ、その中で何も知らず育ってきた無知な女です。ですが……」
ここからの会話は、国民たちの心を掴むには充分過ぎるものであった。
―――私は。
幼い頃から高い塀に囲まれ、その中で何も知らずに育ってきました。ですが、いくらかの勉学を積むうちに父がどれほどの過ちを犯してきたのかを理解し、次第に心は父への愛情よりも、民の辛さ哀しみを想う気持ちへと変わっていきました。
だから私は決意しました。15を迎えてから、父ハイルと違い民を想う指導者となるため、従者である"魔剣士"と共に世界へ飛び出そうと。
リッター(…)
だけど…父ハイルはそれを許しませんでした。それは皆さまがご存じの通りかと思いますが、まさか私を賞金首に仕立て上げ、多くのバウンティハンターに命を狙わせ、その旅を熾烈を極めました。
リヒト(…)
ハンターから逃れつつ、西方大地、北方大地、そして東方大地を旅しました。私と魔剣士は、主要国家のある国々の指導者たちの問題を多く解決することで懇意とさせてもらい、旅の途中で知った"世界戦争"の計画を潰すべく、協定や誓約を結びながら旅を続けました。
バンシィ(…)
し、しかし…。私は…、私が夢見た平和な世界は父ハイルによって崩されました。王である彼は、あるまじき考えとあるまじき行為をもって、世界侵略を開始したのです。
魔剣士(白姫…)
平和は剣にのみ守られる世界になり、我が従者である魔剣士と共に未来を掴むため、今日という日に私は…、今は遠い地で戦うハイルや騎士団を滅するために女王となることを宣言します!
国民「…!」
―――それは、単純な挨拶だった。
リッター(嘘と真実を混ぜて語るだけ。最初は遅く静かな立ち上がりで、だが――…)
徐々に、静かな立ち上がりとは変わって彼女の声は大きくなった。もしかすると、彼女自身、それを声にしたかったこともあるのかもしれないが、人が人を納得させるには充分過ぎる演説であった。
魔剣士「白姫……」
リッター「魔剣士、そろそろ行くぞ」
魔剣士「ほ、本当にやるのか?」
リッター「白姫様が手を挙げた時、その合図だ。ただし本気で殴り過ぎるなよ。お前の力は、蚊を潰すくらいに一般兵士の首を飛ばすには充分過ぎる」
魔剣士「ちっ…」
いよいよ、リッターは仕上げにかかる。
白姫も合図を忘れず、言葉の間に腕を大きく上げる――。
白姫「国民たちは、みな今日のように晴れ渡る青空の下で笑顔で生きられるように……!」
"バッ!"
片腕を上げた瞬間、兵士の一人が「うぉぉおっ!」と奇声をあげた。
白姫「っ!」
挙げた腕、奇声の兵士、驚く国民。その合図に、リッターは隠れていたカーテンから高く飛び上がる。
兵士「ハイル様、万歳ッ!!!」
兵士はハイルの名を叫びながら、槍を白姫に突きつける。白姫は驚き「きゃああっ!?」と声をあげ、会場は凍り付く。
リッター「……待てぇぇい!!」
槍が白姫の身体を傷つけるか否か、その刹那。既に飛んでいたリッターが、着地に爆音をあげ、激しく槍を弾き飛ばした。
白姫(リッターさん…!)
リッター(大丈夫、万事上手くいく!)
数秒に、わずかなコンタクト。続いてリッターが弾いた槍を指差し、行く末を叫ぶ。この時、弾いた瞬間に魔力を撃ち込み、リッターは槍を空で操作した。
リッター「……槍がっ!」
国民たちの注目が槍に集まる。天高く打ち上げられた槍は、狙い通り"魔剣士"のもとへと飛んだ。
魔剣士「マジかよ……」
"はぁ"とため息をついた魔剣士は、飛んできた槍を片手で止める。リッターに言われていた通り、掴んだ瞬間、魔法で大きく"ガシッ!!"という強い擬音を放った。
リッター「あ、あれは…!」
わざとらしく言う。
白姫「……魔剣士っ!!」
そしてついに、赤の羽根帽子を着用する"魔剣士"の名が呼ばれた。兵士の裏切りから、この流れるような一連の動作に、惹きつけられない人間はいない。
魔剣士「リ、リッター…、お前の防御は…あ、甘いぞ…。俺ならもっと、上手くやれた…からな……!」
大変な棒読みに、リッターは笑いを堪える。一方で、黒羽根帽子のリヒト、青羽根帽子のバンシィは意外にもノリノリだったからして、棒読みを何とかカバーできた。
リヒト「……リッター、もう少しスマートに弾けないのか?」
バンシィ「僕ならもっと上手くやれていたぞ」
赤羽根の魔剣士の裏に、両隣へそれぞれ登場するリヒトとバンシィ。顔を深く隠し、ただ魔力を具現化したオーラを放って周囲を歪ませる。
魔剣士(お前ら、ノリノリすぎじゃね!?)
バンシィ(お兄ちゃん、これちょっと楽しいかも……)
リヒト(い、意外と良い感じに楽しくなっちゃいまして……)
赤、青、黒の羽根が揃った三人は、高く飛んで白姫の隣へと着地する。リヒトに至っては、空中で回転するサービスを付けたほどだった。
白姫「魔剣士、リヒト、バンシィ!」
魔剣士「ったく…」
いつもの癖で「ったく」という愚痴が出る。だが、予定する台詞はそうじゃない。
白姫(魔剣士、台詞!)
魔剣士(あっ…、そ、そうだったな!)
ゴホンと咳き込み、掴んでいた槍をくるくると回し、襲った兵士の元へ行って頬を叩く"ふり"をして兵士は吹っ飛び、倒れた兵士の前の床に槍を突き刺す。
兵士「ひぃっ!?」
魔剣士「他の兵士たち、コイツを連れていけ!」
片腕を伸ばし恰好よく合図を取ると、予定通り二人の兵士が襲った兵士を捕まえて王室へと連れて行った。
魔剣士「……お、俺は従者の魔剣士…!姫様を常に守り、彼女と共に命を捧ぐ…き、騎士である!!」
帽子を被り直し、再び三人は揃う。
魔剣士「わ、我らが姫様をお守りする三銃士!」
リヒト「リッター、お前の働きは素晴らしくとも我らには及ばない」
バンシィ「常日頃に精進しろ。あんな派手なことをせずとも、もっとクールにスマートに。誰にもづかれぬよう立ち回れ」
リッター「はっ…、申し訳ありません!」
"槍を弾いた"強きリッターですら頭を下げる三銃士の存在。劇はまだ続く。
リッター「騎士団の団長してこの身を捧げましたが、姫様の寛大さに惹かれたことで今は姫様が全て!どうか、お許しを!」
魔剣士「……お前がそれほどに言うのなら、許してやろう。だが忘れるな、お前が下手をすれば我らがお前の命を奪うことくらい容易いことを!」
この劇は魔剣士たちが強き者であり、白姫がどれほど信頼に値するか、国民たちの支持を上げるための劇。イレギュラーな存在も考えてはいたが、本当に起こるとは予想しなかった。
別の兵士「…ッ!」
劇のクライマックスを迎えたその時、別の兵士が飛び出した。これは劇の中にあった行動ではない。…つまり。
白姫「えっ!?」
この命、ハイル様万歳!俺も続くぞと叫んだ兵士の心は本心で、槍は殺意を持って放たれた。
リッター「このタイミングで!」
バンシィ「お姉ちゃん!」
リヒト「白姫さんっ!!」
それぞれ反応が遅れる。だが、いつも守り続けていた彼だけは気を緩めてはいなかった。
魔剣士「馬鹿が」
腕から氷の剣を作り出し、襲い掛かった兵士の槍を弾き返し、脚を回転させ"旋風"を繰り出し、彼の顔面をぶっ飛ばす。
兵士「ぐげげぇっ!?」
魔剣士「本気で殺そうとしやがったなテメェ、その報いは受けろやコラァ!!」
本気の殺意に怒り、魔剣士は吹っ飛んだ兵士のもとへと行って劇と同じように地面へと弾いた槍を目の前の床に刺し、今度ばかりは本気に言った。
魔剣士「まだ、なのか…?」
兵士「え…?」
魔剣士「まだハイルの洗脳が解けてない奴がいんのか…?お前、前の王がそんなに好きなのか?平和に暮らせるのがそんなに嫌なのか!?」
兵士「ひっ!」
魔剣士「甘い汁を吸った兵士ほど、腐った奴はいねぇよなぁ。ちっ…、白姫がこんなに頑張っているっつーのに、まだ分からないのかよ!!」
兵士「……ッ!」
魔剣士は完全に"素"のままに言い続ける。
魔剣士「国民の中にも、白姫が平和な世界になるのを望まない奴がいるかもしれねーが、俺は俺の信じたままに戦う。白姫の命を狙いたいんだったら狙えばいい。俺が守るんだからよォ!」
白姫「魔剣士……」
魔剣士「白姫が民を想う気持ちは本心だ。お前の家族が幸せになる未来を作れるのは白姫だけだ。あんなクソハイルがいたら、世界から笑顔は消える!そんなこともわかんねーのか、おいッ!!!」
白姫「…っ」
この言葉の全ては、響きやすい回廊、静まり返った会場では十分すぎるほど、国民たちの心の中に響いた。魔剣士という守りし者の存在、彼の本気の言葉は闇魔力の影響か定かではないが、間違いなくその場にいた全員に"白姫は本気なんだ"という気持ちを植え付けたのだ。
魔剣士「もう良い、連れていけ」
後ろにいた兵士を呼んで、彼を連れて行かせる。襲った兵士は悔しそうにしつつ、会場の外へと消えた。
魔剣士「…」
劇を忘れていた魔剣士は「あっ」と我に返り、慌ててリヒトとバンシィの隣へと戻る。…すると。
「……良いじゃん」
国民の一人が、笑って言った。そして、それは小さなたった一人の拍手から始まる。一人の「良い」という言葉と拍手はドミノのように連鎖的に会場全ての国民を巻き込んだ。
「や、やるじゃん魔剣士!白姫の想いもすげー伝わったぞ!!」
「三銃士はダサいけど、かっこいいぞなんか!?」
「さっきの平和に対する想いも本当なんだよな…、信じて良いのか!?」
「白姫様、いい仲間がいるじゃないか!!」
「面白かったぞ!!」
鳴りやまない拍手と歓喜の声。リッターは「う、うははははっ!!」と笑って魔剣士と白姫の肩を叩く。
リッター「しっかりしろ!お前たちの本音はしっかりと国民へと伝わったんだ!」
魔剣士「お、おぉ…?」
白姫「みんな…!」
偶然にも"本物"の殺害を目論んだ男によって引き起こされた熱狂ではあったが、もしかすると世界がそうするように望んだのかもしれない。白姫は「これでもう、きっと大丈夫」と思い切りの笑顔を見せた。
リッター「これで白姫様は女王に認められる。噂は噂を呼び、支持も集めるだろう」
白姫「はいっ…。あとは行動だけですね…!」
リッター「あぁそうだ。おめでとう、白姫様。いや…女王様と呼んだ方がいいか?」
白姫「え、あっ…、うーん……。そ、そうなんですかね?」
リッター「ククッ…、そんなことを訊く立場じゃなくなるというのに!ハハハッ!」
白姫「え、えへへっ……」
酔狂にも近い会場、認められる白姫、指導者となることは確定し、王都セントラルは完全に平和への道を歩み始めた―――………………はず、だった。
魔剣士(……んっ!?)
突然、会場…回廊奥の出入り口側の扉が勢いよく開いた。そこには兵士の一人が立っており、マナーもなしに、この会場に足を入れるとはどういう了見だと睨み付けたが、よく見ればその男は連れて行ったはずの"本気の殺意を持った男"で、しかもズタズタに斬られて血まみれで。
魔剣士「なっ!?」
バンシィ「リッターの劇の続き…?」
リッター「……違う、あんな仕組みはしていない…!」
白姫「そ、それじゃあれは!」
リヒト「……待ってください、後ろに誰か!」
血まみれの暗殺者、その後ろにはもう一人。……いや、もう二人。……違う、もう三人。四人、五人、六人、七人。
魔剣士「お、おい……!」
血まみれの兵士の首が"パァン!"と音を立てて吹き飛び、血しぶきが国民を赤く汚す。歓喜していた国民たちは恐怖し、会場がパニックになった。
リッター「これは少々、予想外だな……」
逃げ惑う人々、その者たちは動じる様子なく、人ごみをかき分けてこちらへと歩みを寄せる。
バンシィ「お兄ちゃん、リッター、どうするの……」
その者たちの多くが"剣"を抜き、先頭に立つ一人は魔導書と"紙"を両手に持ち、その片側に立つ男はよく見覚えのある"槍"を手に取った。
リヒト「参りましたね、まさかこんな形で……」
そう、彼らは本来、今のこの王都と王城の宿主である男たち。
魔剣士「オッサン、ブリレイ……!!」
ブリレイ、そして新たなる配下である猛竜騎士率いるセントラル騎士団であった――。
ブリレイ「俺がいない間に、随分としたことをやってくれたものだ。生きていたとは驚いたぞ、魔剣士……」
………
…
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