魔剣士「お姫様の家出に付き合うことになった」【現在完結】

Naminagare-波流-

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第九章【セントラル】

9-53 終わりの始まり

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魔剣士「オッサン!!!」

即位式も終わりを迎え、女王となるはずだった白姫の前に現れたのは、戻るべきはずのないブリレイを始めとする騎士団たちであった。

ブリレイ「まさか魔剣士、お前が生きていたとはな……」
魔剣士「うるせぇ…!それよりオッサンを解放しろ!」
ブリレイ「……人の玉座を勝手に奪おうとしておいて、随分な言い草だ」
魔剣士「お前だって同じようなことをしただろうが!」
ブリレイ「やれやれ、それよりもどうやって生きていた。まず間違いなく死んでいたものと思っていたが……?」

片手に魔法書のようなものを、もう片方には例の陣が記載された紙を構える。もう陣の出口が確保されている以上は問題がないが、その秘密をわざわざ打ち明ける必要もない。しかし、陣の世界の1分は現実世界で膨大な時間の流れになるわけだし、用心にこしたことはない。

魔剣士「俺は不死身のバーサーカー様だぜ?」
ブリレイ「……魔法化した存在、概念が封印の陣に囚われないとはな。どうやら俺も研究不足だったようだ」
魔剣士「テメーの頭じゃ、俺の器を量ることなんてできねーんだよ」

互いに動きを探り、飛び出すタイミングを伺う。この状況において、逃げる選択肢や戦わない選択肢は既に存在していない。

リッター「……ブリレイ」
ブリレイ「む…」
リッター「お前がどうしてここにいる…。少なくとも一週間近くは西方大地への侵略のため、戻ってこなかったはずだろう」
ブリレイ「……どうやらその様子じゃ、完全に幻惑が解けたのか。それにその立場、裏切ったか?ブレイダーもそちら側へ着いたということで良さそうだ」
リッター「力強き者に着いていくと決意した迄。ブレイダー然り…お前より姫様の考えのほうが性に合っていると気付かされただけのこと」
ブリレイ「だがな、所詮はお前も旧時代の覇者に過ぎない。怪我を負ったお前が、騎士団を相手に出来るか?」
リッター「"元"団長として悪いが、騎士団に入団していた魔剣士とバンシィ以上に優秀な部下はいなかったと思える。それ以外、俺に勝てる団員は存在しておらんな。それに知らないのか、手負いの獣ほど強いことを」
ブリレイ「……面白い」

ブリレイは一歩、前に出る。魔剣士は白姫に下がるよう言って、バンシィとリヒトに守りを任せた。

魔剣士「リッター、お前…どこまでやれる?」
リッター「騎士団の相手は言った通り、訳ない。しかし、問題は……」

ブリレイとその隣で一緒に近づいて来る"猛竜騎士"を見る。

魔剣士「オッサンか……」
リッター「旧時代の冒険者だが、現役。しかも今や闇魔法と戦い続けた経験も持っているのだろう」
魔剣士「なら、俺がやるまでだ」
リッター「…ダメだ。お前はブリレイと戦え。闇魔法を持つ者しか、闇魔法を持つ者は倒せない。それに俺がまた幻惑に堕ちてしまったら、形勢不利になるぞ」
魔剣士「リッター、オッサンは俺の大事な仲間なんだ…。だから俺が!」

劇用のサーベルを投げ捨て、隠し持っていた剣を装着して前へ出る。

リッター「待て!お前に仲間が斬れるのか!」

肩を掴み、引っ張り戻す。

魔剣士「き、斬れる…!当たり前だ……!」
リッター「……生かしたくはないのか」
魔剣士「何…?」
リッター「お前の魔法は認めよう。だが、お前の技量で猛竜騎士を殺さないよう立ち回ることは出来るのか?武器を用いて、彼に勝てる自信はあるのか?」
魔剣士「そ、それは……!」

悔しいが返す言葉もない。自分の剣技に、猛竜騎士を助ける技量なんかあるわけがない。それに対闇魔法を見て来た猛竜騎士が、自分の動きを予想できないわけがないだろう。

リッター「ここは俺に任せろ。猛竜騎士を上手く殺さないように戦うよう善処する」
魔剣士「……っ」

リッターは大剣を抜いて、構えを取る。

魔剣士「分かった…。俺はブリレイと戦う。アンタにオッサンは任せるよ……」
リッター「それが懸命だ。それとバンシィ、リヒト!」
リヒト「は、はい!」
バンシィ「何…?」

彼らにも立派な仕事はある。どのみち、嫌でも戦ってもらわねばならないが。

リッター「俺と魔剣士は、猛竜騎士とブリレイそれぞれと戦うことになる。騎士団の多くは白姫様を狙うだろう…、お前たちの仕事は騎士団と戦うことだ。やってくれるな」
リヒト「……もちろんです。そう簡単に、騎士団の面子にやられる僕じゃありません!」
バンシィ「全て、凍らせる。容赦はしない…、お姉ちゃんは僕が守る……」

二人も構えを取る。いよいよ、戦いの火ぶたは落されることになるだろう。

ブリレイ「これが最期だ。魔剣士、お前という一番の厄介な存在を消して俺は俺の時代を取り戻す」
魔剣士「やってみろよ。旧時代の英雄様が、新時代を築く英雄様に勝てるかな?」
ブリレイ「ぬかせ。自らを英雄と名乗るとは愚の骨頂。英雄とは人々がそう呼び、熱狂するものの存在だと知れ」
魔剣士「その熱狂に酔狂しちまって、まだ忘れられないジジイがテメーだろ。フハハッ、ジジイの頭ン中はすっかりボケちまってるようだな、もうこの時代に必要のない人間だって分からないみたいだしな?」
ブリレイ「―――貴様ァッ!!!」

動く脚が早くなる。ブリレイは距離を詰め、手に宿した魔力で刃を作り出し、魔剣士へと振り下ろした。

魔剣士「見え見え過ぎるんだよ、ボケ」

しかしこの程度、魔剣士は確実に防御する。この瞬間、防御し魔刀を弾いた"ギン!"という音が戦いの合図となった。

魔剣士「始めるか、ジジイ…。完全にその存在を消し飛ばしてやるよ」
ブリレイ「貴様の首を刎ね、胸を潰し、四肢を千切り、深き谷と溶岩、大海の深淵に沈めてくれる」

つばぜり合いのさ中、互いに次の一手を作る。

魔剣士「……らぁぁぁっ!!!」
ブリレイ「うぉああっ!!」

魔刀、剣技、脚技、上体逸らし、縮地、火炎、水流、氷結、雷撃、風刃、もてる技量をぶつけ合い、あまりの早さと衝撃の強さは周囲を圧倒する。

猛竜騎士「……俺はお前とか」
リッター「ハッハッハッ、旧時代を生きた者同士、楽しもうではないか!!」

一方で猛竜騎士とリッターも、魅せる技を多く持つ。大剣を駆使し大胆に戦うリッターと、竜の姿を生む猛竜騎士の槍技。互いに派手だが、その技術は互いに譲ることがない。

魔剣士「おォォッ!!」
ブリレイ「面白いッ!近接技術も中々のものだ!」
リッター「何と力の強いことだ、竜が次々と浮かび上がり技が見えんッ!」
猛竜騎士「さすがパワーだけではないな、全てを防いでいるか…!」

四人の戦いは他を圧倒するが、騎士団とて今を生きる優秀な冒険者たちであり、本来の目的への動きに多大な影響はない。

「……とにかくあの白姫って女を殺すか捕まえれば俺らの自由は続くんだろう?」
「ガキだが、すげぇ良い女じゃん。隣にいるヘンチクリンな恰好をしてる奴も女だろ、充分過ぎるぜ」
「気を付けろ、あいつらは元騎士団だぜ。だが、俺らが一斉にかかれば……」

騎士団の面子は、魔剣士たちの脇から一気に白姫へと襲い掛かる。まさに多勢に無勢ではあるが、リヒトとバンシィも時代を動かす実力を持った二人。白姫を守るため、その剣と魔法を使うことに容赦ない。

リヒト「白姫さん、目をつぶっていてください。あまり見せたくない光景になると…思います」
バンシィ「お姉ちゃんは安心して待ってて…。数を数えているうちに、きっと終わると思うから……」
白姫「……ううん、この国に起きている全てを私は見ないといけないから。魔剣士の戦いも、リッターさんの戦いも、リヒトさんも、バンシィも、どんな結末であっても…!」

迫りくる騎士団の軍勢。リヒトとバンシィは白姫を守るため全力を出す。

リヒト「雷撃装填…、激痛の中に死にたければ相手になってあげますよ!」
バンシィ「氷壁よ来たれ、お姉ちゃんを守って…!僕の氷剣…、敵になるやつは容赦しない……」
白姫「……ッ!」

騎士団の第一波、襲い来る前衛部隊は二人の斬撃によって吹き飛ばされる。斬られた肉体は雷撃に焼かれ、氷の剣は真っ赤に染まる。飛び交う血沫、弾け、既に肉塊となったそれは吐き気すら催す。まるで残虐的な殺人でもあったが、殺しに来ている相手に手を抜くことは愚かの極みである。

魔剣士(辛い役目を…、だが甘えたことは言ってられねぇ!!)

そうなってしまった以上、今さら後悔したり作戦がどうとか言っている場合ではない。大事なのは、過去ではなく現在なのだ。

魔剣士「くっ、ブリレイッ!!」
ブリレイ「どうした、そんなものか!」

魔法使いといえども、バンシィのように腕に具現化した魔法剣を利用し近接で戦うことも出来る。ブリレイは面倒なことに魔法と近接の両方に長けていて、中々隙を見せない。それどころか、余裕があることも分かっていた。

魔剣士「そういえば、お前と打ち合うのは初めてだったな!?」
ブリレイ「何度か戦うような場面はあったが、本格的な戦いはこれが初めてだろうな」
魔剣士「初めてで終わりにしてやる!覚悟しろジジイが!!」
ブリレイ「貴様に出来るものならな……!」

ブリレイの魔刃、魔剣士の剣が音を立てて交差する。互いに反動に揺れ、わずかな隙に魔剣士は蹴りを繰り出す。

魔剣士「ッ!」

風の魔力が宿った超速の一発だが、ブリレイは瞳の闇魔力を脚の外部に纏わりつけて迎撃する。剣、脚、拳、連続する攻撃にブリレイは難なく対抗し、魔剣士は一旦後退する。

魔剣士「ちっ、思った以上に近接技術まで!」
ブリレイ「お前たちのようなぬるま湯に浸かった冒険者ではない。俺らの時代は、誰もが全てにおいて強くなければならなかった」
魔剣士「フン…、それはリッターやオッサンの強さからも納得する。だがな、だからといってお前の時代を世界は望んじゃいねえ!」
ブリレイ「世界の望みは関係ない。俺が望むか、望まないかのそれだけだ」

休ませる暇を与えないよう、魔剣士の懐に潜る。腕を突き上げ、魔刃で喉を切り裂かんとするが、魔剣士は顔をあげてわずかな切傷に血を流す。

ブリレイ「ほう、よけるか」
魔剣士「早ぇが俺はもっと早い奴を知ってる。ハエのほうが動きが早いんじゃねーか?」
ブリレイ「……馬鹿にしておけ、お前が魔法化できないことは承知している。陣が怖いのだろう?」
魔剣士「だから近接で挑み、勝てると思ってるのか」
ブリレイ「技量の差はでかい」
魔剣士「……気合の差もでかいぜ、オイ!!」

上げた顔を勢いよく戻し、ブリレイの額へと"頭突き"を放つ。魔力も込められていない何の策も無い一撃だったが、逆に読めなかったようで直撃する。

ブリレイ「ぐぉっ!?」
魔剣士「あいっ…!いでぇっ!!」
ブリレイ「な、何も考えない一撃などを……!」

かなり強烈だったのか、ブリレイは思わずよろける。だが魔剣士も当たるのは予想外だったのか、連撃するチャンスをものに出来なかった。

魔剣士「い、いでで…!ハ、ハハハッ、ざまぁみろ!」

既に体勢を整えたブリレイに追撃は出来ない。中指を立て、ただ煽る。

ブリレイ「ち…、調子に乗るな!」
魔剣士「ッ!」

両腕に強い魔力を込め、波動を放つ。魔剣士は余裕で回避するが、波動は回廊の奥にあった銅像を破壊してもなお止まらず、そのまま壁を破壊し穴を空けた。

魔剣士「っぶね……!なんつー威力だ……っとォ!?」

爆発に視線を集中する間、隙を晒してブリレイの魔刃が首を狙う。もちろんそれだけで死ぬことはないのだが、魔法化したところを吸い込まれる可能性がある。

魔剣士「あぶねぇっ!」

屈み、避ける。それでも髪の毛の数本が切られ、空中で魔法化し燃え上がるように消失する。

ブリレイ「惜しいな……、だが実力の差はハッキリとしてきたな?」
魔剣士「くっ、この野郎ォ!俺が魔法化したら一撃で焼き殺してやるっつーに…!」
ブリレイ「やってみろ」
魔剣士「……ノるかボケェ!」

再び乱撃、乱舞の打撃、連撃が始まる。
そして一方、リッターと猛竜騎士の戦いも熾烈を極めていた。

猛竜騎士「ぐっ…!」
リッター「ぬぉっ!!」

二人は痛み分けを続ける。互いの刃が肩を貫き、回転しながら吹き飛ぶ。わずかな時間に、同じようなダメージを幾度受けたか分からない。

猛竜騎士「ゲホッ…!」
リッター「や、やるじゃねーか…!こうでなくっちゃなぁ!?」

熟練たる戦士である二人は、退くことなく前進し続け全力をもってぶつかり合う。均衡しているようには見えるが、実際は手負いであるリッターが不利だった。

リッター(不味いな、治りきってない傷がひらく。短時間の戦いなら血はいくら流してもいいが、あまり長期戦になるのは……)

軽いヒーリングを施し、一時的に血を止める。しかしそれも、いつまで続けられるか。白姫を守っていたリヒトたちも、怪我を負いながら戦ってはいたが、どうにも終わりのない軍勢に息が上がり始める。

バンシィ「くっ…、いつまで……!」
リヒト「確実に首を刎ねるしかありません!後方に治療部隊がいるようです!」

倒しても倒しても蘇る騎士団たちは、ゾンビのように終わりがない。最初の突っ込んできた相手らは様子見すらしない下っ端だったようで、今になって襲ってきている面子は技量が高く、そう簡単に動きを止めるような大ダメージを与えることができなかった。

バンシィ「キリがない…!」
リヒト「……範囲攻撃は味方への懸念がありますが、しのご言ってられませんね!」

剣を回して地面へ刺すと、騎士団へ向かい電撃を放ちながら加速させて振り上げる。剣の周りには床に滑らせた衝撃にいくつもの火花が上がり、そこから幾重にも小さな雷撃が射出し騎士団を襲う。

「……うぉっ!?」
「雷撃か!くそったれがァッ!」

とてつもない速度で、無数の矢のような雷が降りかかる。しかし、それを目視して追い付くのは騎士団たちだけあって、いくつかの人数を吹き飛ばすが、多くの団員は防御と回避をそつなくこなす。

リヒト「個々の能力が違い過ぎる!バンシィさん、援護を!」
バンシィ「雷がダメなのなら、物理的な魔法…私のなら……!」

続いて、バンシィは指先にそれぞれ氷を展開。十本の指を拡げ、鋭い氷槍を繰り出す。これもいくつかの人数に対しては効果を持つが、まだまだ余裕をもって団員は対応する。

リヒト「先に突撃したメンバーと、今のメンバーの動きのレベルが……」
バンシィ「最初の団員たちは囮……」
リヒト「まだ控えている面子が大勢います!それに、バックにいる回復役を潰さないことには…」
バンシィ「人の波でヒーラーの姿が見えない…、この回廊全体を凍らすくらいはワケないけど……」

白姫や、前衛で戦う魔剣士やリッターにも影響を及ぼす。力の限られた戦いで、この人数差は圧倒的に不利であった。

リヒト「……仕方ありません、バンシィさん!」
バンシィ「何…!」
リヒト「風魔法…いや、何を使ってもいい。飛べますか?」
バンシィ「ど、どこに……」
リヒト「ここでは僕たちの力を発揮できません。かといって外に出ては国民を巻き込む。なら、回廊の出口から広い場所へ出ましょう!」

向こう側、出入り口を指差す。バンシィはそれに同意し、リヒトは後ろにいる白姫を抱えた。

白姫「ど、どうするの?」
リヒト「あはは…、魔剣士さんに怒られちゃいそうですが少しだけ我慢してくださいね」
バンシィ「それじゃあ行くよ……」

二人は脚に魔力を込める。リヒトは壁を蹴り、バンシィは氷の橋を造り上げてその上を、回廊の天井付近を走り抜け、回廊出口から外へと戦うステージを変える。

魔剣士「……白姫のことォ頼んだぞリヒト!!バンシィ!!」
リヒト「はいっ、任せてくださいっ!!」
バンシィ「お兄ちゃんも、絶対倒してね……!」
白姫「魔剣士、待ってるから!絶対無事で戻ってきてね!!」

走り行く白姫らに声をかけると、団員たちはそれを追って回廊から消えて行った。残された魔剣士たちは、一風静まり返った回廊で戦い続ける。

魔剣士「ブリレイ、いい加減に諦めたらどうだ!」
ブリレイ「不利なのはお前だろう。いくら膨大な魔力があろうとも、魔法化できない以上は俺の勝利は絶対だ」
魔剣士「ちっ…!」
ブリレイ「それに、致命的な傷を一発与えれば魔法化による回復があるんだろう。さっきから攻撃に敏感なのはそのせいだと分かっているぞ…?」

完全に防戦一方となり、攻撃をする暇がない。中々隙を見せないブリレイに、魔剣士は飛び上がり距離を置く。

魔剣士「喰らえッ!!」

片腕を伸ばし、直線に伸びる火炎を放つ。だがブリレイは余裕で魔刃へ瞳から闇魔力を与え、簡単に弾いた。

魔剣士「く、くそっ!」
ブリレイ「単純な魔法ならば、お前と同じ強力たる魔法は扱える。多少に練り込んだ魔法攻撃では、俺は倒せん」

幻惑魔法に使うよりも遥かに少ない対迎撃の魔力は、魔剣士の攻撃を弾くことくらいは容易。そうなると、普通の魔法や近接で彼に致命傷を与える必要があるのだが。

ブリレイ「お前の戦闘技術で、俺には傷一つ付けられん…。諦めるのはお前のほうではないのか?」
魔剣士「……うくっ!」
ブリレイ「お前の師である猛竜騎士は、隙を見つけ俺の瞳を狙い傷をつけた。今のお前はそれすら出来ん!」

以前の戦いで猛竜騎士がつけた深い傷は、今も変わらず痛々しい傷跡となっていた。しかし、彼の眼を潰すほどの威力がなく、結果的にダメージと呼ぶには乏しいものだった。

ブリレイ「そろそろ終わらせるぞ。俺を裏切ったお前の仲間も、限界のようだからな」
魔剣士「ん…、何……?」

そう言われてリッターへ目を向けると、猛竜騎士の槍撃で吹き飛ばされたところだった。腹部には鮮血が舞い、猛竜騎士は返り血に濡れる。

魔剣士「リ、リッター!?」

リッターはそのまま壁に叩きつけられ、回廊の壁を破壊し破片で更に頭を打ち付けて流血する。何とか立ち上がるも、魔剣士に受けていた火傷の傷が開いて全身の皮膚から血が滲み出していた。

リッター「ま、参った…!魔剣士、お前の攻撃はホンットに強かったぞ……。い、未だに痛むとは……」
魔剣士「余裕を見せてる場合かよ!に、逃げろ!アンタ本当に死ぬぞ!」
リッター「ハッハッハッ…、いやいや……。お前の師匠は思った以上に強い…、ブリレイが欲しがるわけ…だ……」
魔剣士「リッター!」

ついに"ガタン!"と片膝をつく。大剣を杖のようにしなければ身体を支えられないらしく、限界を迎えているのは明白だった。

魔剣士「…ッ!」

リッターと猛竜騎士は大味な技を得意とし、そのダメージも計り知れない。数回の攻撃が、致命傷であったのだろう。

猛竜騎士「さて……」

崩れたリッターを確認すると、猛竜騎士は魔剣士を睨む。

魔剣士「オ、オッサン……!」
猛竜騎士「やれやれ、魔剣士。俺がお前とこうやって戦うことになるとは思わなかったぞ」
魔剣士「……オッサンが操られるなんて俺も考えてなかったよ」
猛竜騎士「ハハ…、不思議だな。本心じゃお前と戦わないことも分かっているのに、頭が、身体が、ブリレイの為に働こうとするんだ」
魔剣士「自分で制御できねークソ野郎になっちまったってことだな」
猛竜騎士「そうかもしれないな。さて、俺と戦うか?」

槍を回転させ、血を払う。血糊がついた刃は斬撃性が著しく低下するため、この行為は切れ味の鋭い槍で魔剣士に"本気で殺す"という意味をもっていた。

魔剣士「本気ってことかよ」
猛竜騎士「お前が死んだら俺は泣くだろう。悲しむだろう。…しかし、止めることは出来ん」
魔剣士「ちっ…!こりゃヤベェかもな……」

冷や汗が流れる。さすがに魔剣士といえども、ブリレイと猛竜騎士の二人を相手にすることは無理に等しい。

ブリレイ「勝者とはどうあっても強きべき者。卑怯とは言わせないからな」
魔剣士「……どんな手を使っても、立っていた者が勝者。生きていればこそ、文句は言わねぇ」
ブリレイ「分かっているようで何よりだ」
魔剣士「クソッ…、まぁしゃあねえか……!」

身体を捻り、かなりの距離を離れる。二人が相手になるのなら、自分も本気を出さざるを得ない。

魔剣士「はァッ!!」

ついに魔剣士は魔法化、火炎化する。めらめらと燃え上がる熱風を出しながら、武器を構える。

ブリレイ「なるほど、距離を置いて魔法化か……しかし…」
魔剣士「わざわざヒントを言わなくてもいい。俺の魔法が発動する限り、お前の陣の範囲に迫れば俺は吸収される」
ブリレイ「分かっているか。それでもなお魔法化とは、それほどに俺たちが怖かったか?」
魔剣士「勘違いすんな。俺は意地でも勝たないといけない理由がある。……まさかリッターが負けるとは思いもしなかった。オッサン、だから俺はアンタをやるしかない!」

元々、生存させようとしていたのが甘い考えだった。彼は完全な"敵"であり、共に旅をしてきたことも忘れ、殺し合わなければならないのだ。

猛竜騎士「そうだな。俺が一緒の立場だったら、本気でお前を殺しにいっている」
魔剣士「……いくぜ?陣に触れないようにするくらい、アンタら二人を翻弄するくらい、ワケないってことを見せてやるよ」
ブリレイ「面白い、そこまで言うならやってみろ」
猛竜騎士「お前の実力、見せてみるがいい」

魔剣士はニヤリと笑い、「使いたくなかった技だがな…」と言うと、その瞬間にその場から姿を消した。

ブリレイ「何…?」
猛竜騎士「……これはまさか」

先に気付いたのは猛竜騎士。いつか見たことのある、速さという概念を覆すほどの"速さ"を持ち、超速、神速の域すらも超える完全たる"縮地"の技。

魔剣士(アサシンの…技だっ……!)

自身を風とし、姿を完全に消し去り、人の感覚では決して追うことのできない速さを持つ。雷とは異なり、透明化の効力を持つのは目視で追う人間にとっては絶対的な移動術となるが―――…。

猛竜騎士「そんなものか…!」

魔剣士が背後を取った瞬間、猛竜騎士の槍が魔剣士の腹部を貫く。

魔剣士「嘘だろっ!?」
猛竜騎士「アサシンの風化は目に追えるものではないが、感覚で掴むことくらいは出来る」
魔剣士「くっそ…が……!」

ダメージは無いが、傷は超回復し、一瞬だけ動きが止まる。ブリレイは隙を逃さず陣を発動させようとするが、危ういと思った魔剣士は火炎化に切り替え、即座に自爆する。

ブリレイ「ぐおっ!?」
猛竜騎士「ぐっ!?」

範囲はかなり広く、近くにいた二人は強い魔法に吹き飛ばされる。空中で体勢を整えなおすも、次の瞬間には爆破した煙の中から魔剣士の拳がブリレイの顔面へと迫っていた。

魔剣士「……だらぁぁああっ!!」
ブリレイ「隙を取られたか……」

"ボゴォッ!!"
強烈な打撃が顔面へと直撃し、鼻を折る。とめどない鼻血に、息もままならず、打撃の衝撃でグルグルと身体は宙を舞う。

魔剣士「ブリレイィィッ!!」

隙は逃さない。風化と実体化を繋ぎ、姿を現しては消し、現れる度に骨を砕く一撃を与えながらブリレイの身体を浮かせていく。

ブリレイ「がっ、ぐふっ!ごふっ…!」
魔剣士「いい加減ッ、諦めろッ、お前の時代はッ、終わりなんだとォッ!!」

鼻の骨から始まり、肩、左腕、腰、右脚、骨を粉砕し、内臓がダメージを負ってブリレイは血を吐き出す。

ブリレイ「ごぁっ!」
魔剣士「このまま死ぬんだよッ!!」

陣を使う暇など与えはしない。むしろ、その打撃の途中でしっかりと掴んでいた陣の紙は手から離れた。

魔剣士「!」

それに気づいた魔剣士は、火炎を放ち陣を燃やす。この時、魔剣士は完全に優位へと立った。

ブリレイ「貴様…、だが……!」

魔剣士が炎を使う一瞬を狙い、自身にヒールを施す。受けたダメージ全てとはいかないが、それでも痛みと動けるくらいに回復はする。

魔剣士「無駄なことを!」
ブリレイ「これ以上はやらせぬ!」

空中で風で足場を作り、更に高く飛び上がる。魔刃を使いシャンデリアを破壊すると、そのまま天井を突き破り外へと飛び出した。

魔剣士「外に逃げる気か、この野郎ォ!!」

魔剣士もあとを追って火炎を放ち天井を突き破って外へと出て行った。だが、この時やっけになり魔剣士は大事なことを忘れている。

猛竜騎士「今の爆風は効いたぞ……」

先ほどの爆風で吹き飛ばされた猛竜騎士は、壁のがれきに頭を打ち付けて動けないでいたが、簡単な治癒を終えてようやく立ち上がったのだ。

猛竜騎士「右腕に鈍い痛み、ヒーリング効果は低い…。闇魔法の影響か、はて……」

魔剣士を追う前に、冷静な分析をする猛竜騎士。
すると、急に彼の背後から猛烈な殺気が襲う。

猛竜騎士「っと!?」

"ドゴォンッ!!"
振り下ろされた大剣を、猛竜騎士は寸でのところで避けた。大理石の床には穴が開いており、どれほどの威力だったかよくわかる。そして、その大剣の主といえば。

猛竜騎士「これはこれは……」
リッター「お前の相手は、この俺なんだよなぁ……」

痛みを我慢しつつ、リッターは立ち上がっていた。それどころか、その攻撃力は衰えることなく、威圧感も変わってはいない。

リッター「第二戦といこうか…?」
猛竜騎士「その身体で何が出来る。床や壁、物を破壊することは容易だろうが…俺は生憎それほどヤワじゃない」
リッター「お前もモノと一緒だ。物は考えようだと思わないか?物だけにな」
猛竜騎士「……何も上手くはないし、面白くもない」
リッター「ハッハッハッ、面白いじゃあないか!!」

大剣を振り上げ、破壊の一撃を繰り出す。猛竜騎士はバク転し、軽々とそれを回避する。

猛竜騎士「止せ、俺はお前の命を奪うほどの戦いはしない。俺は魔剣士を追うだけだ」
リッター「ハハハ…、幻惑魔法は強き心を持っていれば本心の行動までは奪わない。お前も、優しい心はまだあるようだな」
猛竜騎士「殺す気がないというのはそうなのかもしれない。しかし、ブリレイに従う以上、俺は魔剣士を追う。それを邪魔するのならば……」

槍を構え、その刃先から無属性魔力を具現化、竜の形を帯びてリッター毛を逆立たせるほどの殺意を見せる。

リッター「……ハッハッハッ!」

だが、その殺意をリッターは大笑いで迎え撃つ。

猛竜騎士「何が可笑しい」
リッター「ふーむ、さっきも言ったはずなんだが聞こえなかったのか?」
猛竜騎士「何?」
リッター「第二戦は…、始まったのだと!!」

大剣を構え直し、同じように無属性魔力を強める。竜に対しての"魅せ"なのか、具現化したそれは虎のようにも見えた。

猛竜騎士「竜虎か…、面白い」

竜と虎は、昔より相対する存在である。リッターは戦いにも粋な計らいを見せ、最強の二人が対峙するように派手な戦いをイメージした。

リッター「ククク…、ハハハハッ!さぁ、遊ぼうか!」
猛竜騎士「面白い男だ……」

リッターは余裕をみせ再び猛竜騎士と対峙する。しかし、衣服の下では心臓が激しく脈打ち、止まらぬ血と激痛に、骨が軋む。限界など、とうの昔に越えていた。

………


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