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第九章【セントラル】
9-51 王位の義
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―――3時間後。
魔剣士「……負けたァァッ!!」
大浴場で身体を洗った四人は、飲み物片手に備え付けのトランプでいくつかのゲームを楽しんでいたが、一向に魔剣士は勝てないようだった。
白姫「あははっ、魔剣士ってば!」
リヒト「落ち着きましょうよ、魔剣士さん!」
バンシィ「やった、お兄ちゃんに勝った……」
魔剣士「ぐっ、ぐぬぬぬっ…!ぐぬぬっ!」
何をやっても全く勝てず。魔剣士の頭には血が上る。
魔剣士「くっそ、もう一回だもう一回!次は勝てるからよ!!」
テーブルに再びトランプを並べる魔剣士。しかし、次のゲームへ行く前に部屋のドアを誰かが"コンコン"とノックした。
魔剣士「んっ」
リヒト「どなたか来たみたいですね」
魔剣士「…誰だ、こんな時に!」
のしのしと足音をたててドアへ近づくと、魔剣士は勢いよく扉を開いた。
すると、そこに立っていたのはリッターであった。
リッター「改めて、おはようだ魔剣士!!」
魔剣士「……お前かよ!何の用だよ!?」
リッター「何…、機は熟すものだと。それを伝えに来たんだ」
魔剣士「はい?」
リッター「とにかく来い。後ろの三人も着いて来ると良い」
魔剣士「あ…、うぉっと!」
リッターは魔剣士の腕を掴むと、無理やりに引っ張る。
魔剣士「いででっ、どこに行く気だよ!」
リッター「良いところだ!フハハハッ……!」
にたりと笑い、腕を掴む力はより強くなった。
魔剣士「お、おいその笑みを止めろ!ベタベタ触るな、おい、おいこら、おいぃっ!!」
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――10分後。
リッターに案内された四人が訪れたのは"回廊"と呼ばれる巨大な廊下のようなもので、多くの骨とう品や黄金が並ぶ豪華絢爛たる廊下であった。
魔剣士「うおっ、何だここは……」
リヒト「す、凄い!」
バンシィ「凄く綺麗……」
床には赤い絨毯が敷かれ、柱は魔力を帯びた鮮やかな大理石。クリスタルの置物や、天井から垂れ下がる七色の光を放つシャンデリアは全てを眩いばかりに照らす。
リッター「ここは他の部屋に繋がる回廊と呼ばれる廊下でな、姫様はここがどういう場所か分かっているはずだ」
白姫「……あ、はい。ここは催し物をする場所でもあるんですけど、こんなに絢爛だったかな…」
リッター「ハッハッハッ、俺が宝物庫から色々飾ったんだ!ここまでしないと、一世一代の催し物は成功しないだろう?」
白姫「えっ、これ全部リッターさんが!?」
魔剣士「……そういやアンタ、色々準備するの得意だもんな。つか、催し物ってまさか」
リッター「うむ!」
当然、女王の即位式のことだ。
白姫「ここで、女王の即位式を……」
魔剣士「随分とまぁ…、力の象徴を見せる儀式だな……」
リッター「それは当然だろう。今の王に勝手に変わり即位する式だ。生半可な式では、兵も民も納得はしない」
魔剣士「それもそうか……」
恐怖政治、覇王ことハイルに変わる即位式。いくら白姫が追われた存在で、平和の為に戻って来たと豪語したとしても国民を納得させるのは言葉と視覚。全てを用いて、納得させなければならない。
リッター「姫様には白の衣装を身に着けてもらう。今、城下町の腕利きに魔法糸で縫ってもらっているが、もうじき完成するだろう」
魔剣士「ほぅ?」
リッター「勿論、お前たちもだ。俺も然り、特に闇魔術師として名を出したブレイ…リヒト。そして団長である俺と、騎士団であるバンシィ。魔剣士は姫の従者として出てもらうつもりだ」
魔剣士「お、俺らもか!?」
リヒト「何をすればいいんでしょうか…?」
バンシィ「僕、変なのは、嫌だからね……」
露骨に嫌そうな顔をする三人。それを見たリッターは大きくため息をついて言う。
リッター「あのなぁ、即位式は劇と一緒なんだ」
魔剣士「劇?」
リッター「そうだ。とにかく、納得させるということが第一。それに支持をされるには、目で見て実際に感じてもらうほうが早い」
魔剣士「どういうことだよ」
リッター「…今までハイルが王として力があったのは、圧倒的な強欲から生まれる恐怖政治。長年積まれた国民への恐怖はそう取り払うことは簡単ではない」
魔剣士「あぁ」
リッター「だからこそ、劇なんだ」
魔剣士「は、はぁ…?」
リッターは、即位をする際に行う全ての計画を話した。
その内容は言う通り、まんま"劇"であり、それぞれ用意される衣装もあってリッター以外、全員が顔をヒクつかせた。
魔剣士「冗談だろ?」
リッター「これで納得はする。そうは思うだろう?」
魔剣士「い、いや確かにそうかもしれねーけど、それを沢山の人前でやるってお前……」
リッター「お前は賞金首だし、今更のことだろう」
魔剣士「そ、そうかもしんねーけど……」
リッター「……怖いのか?」
魔剣士「あ?」
リッター「何だ、お前は強さを持っている癖に肝っ玉が小さいんだな。緊張しているのか?怖いのか?」
魔剣士「な、何だと!?」
リッターの「怖いのか」に反応する魔剣士。
これを見た白姫たちは、魔剣士の性格から以降のやり取りが目に見えて分かった。
魔剣士「……こ、この野郎ォ!俺が怖がりだァ!?っざけんな、やってやりゃいいんだろ!?」
その予想のままに、流れるままに。想像していた通りの台詞が飛び出したことに、三人は笑いが堪えられなくなる。
白姫「魔剣士ってば……」
バンシィ「お兄ちゃん、さすが…!」
リヒト「さすがです、魔剣士さん!」
三人は思わず魔剣士に対し、"グー"のポーズを取ったのだった。
リッター「……ぶぅあーはっはっはっはっ!!!」
魔剣士「うるっせェェ!!」
広い回廊は、音が思った以上に反響する。幾重にもリッターの馬鹿笑いする声はよく響いた。
リッター「……ハハハッ、本当に面白いと思うぞ」
魔剣士「何がだよ!」
リッター「ふははっ、まぁ良いことだ。…それより、機が熟すまで時間はないぞ。それなりの覚悟をしておくことだな」
魔剣士「何?そういえばさっきも同じこと言ってたが、それってどういう――…」
"……バタァンッ!!"
魔剣士「ッ!?」
突然、背後側にある一番奥の巨大な扉が勢いよく開いた。全員が驚き振り返ると、そこには数人の兵士が息を切らした様子で立っていた。
魔剣士「敵か!?」
腰に携えた剣を抜こうとするが、リッターはそれを掌で止めて、笑う。
リッター「三度目だ。言っただろう、機は熟すのだと」
魔剣士「は?だ、だからそれってどういう意味だっつーの!」
リッター「……見ていろ」
魔剣士「何…?」
回廊へ現れた兵士たちは、息を切らしたまま走ってこちら側へと向かって来る。リッターは顔色を変えず、「動くなよ」と笑ったまま余裕を崩す様子はない。
魔剣士(一体、何があるってんだ……)
兵士たちがゼェゼェと息をあげて、ようやく目の前までくると、膝の上に手をついて口を開いた。
兵士「リ、リッター様……!」
リッター「うむ、どうした?」
兵士「噂を知っていますか…!は、話しを聞きましたか!?」
魔剣士「ッ!!」
"うわさ。"
この言葉、まさかとは思ったが。
リッター「噂とは…何のことだ?」
兵士「ご、ご存じなかったのですね!王城を乗っ取る者が現れるかもしれないと、朝から急に話題になっているんです!」
リッター「……ほほう、どういう話だ?」
兵士「何でも、平和の使者が訪れるとか、ハイル様に刃向かう者が現れるとか…。念のため、リッター様の耳にも入れておかねばと思いまして!」
リッター「なぁるほど。それが本当なら許すまじ事態だな」
魔剣士を除く三人は、どうして漏れたんだと目を丸くする。だが、リッターはしてやったりと、魔剣士は「嘘だろう」と驚きを隠せなかった。
リッター「……なるほど。だが、ちょっといいか?」
兵士「は…、何でしょうか!」
リッター「恐らくだが、それはただの噂だろう。俺は聞いていないし、真実じゃないだろうと思うぞ」
兵士「そ、そうですよね…?」
リッター「あぁきっとそうだ。しかしな、君に一つ質問がある」
兵士「はっ、何でもお答えいたします」
リッター「うむ。それでは、君は――…そうだな、もしそれが真実だったらどう思う?」
兵士「へ?」
どうしてそんなことを尋ねるのか。兵士は「何故ですか」と聞き返す。
リッター「今、質問をしているのは俺だ。いいか、自分の心に素直に答えろ」
兵士「ど、どうしてですか!?」
リッター「この質問は騎士団の団長としてではない。お前自身の心に問いている」
兵士「…っ!?」
リッターは詰め寄り、威圧する。並みの人間では、この恐怖に押しつぶされてしまいそうだったが、それも分かっていて問いを投げていた。
リッター「正直に言わねば、お前の首を刎ねる」
兵士「え、ちょっ…!?」
リッター「冗談は言わん。俺は本気だ」
背負っている大剣に手を伸ばす。設問される兵士も、その後ろにいる全員も思わず後退する。…しかし。
リッター「逃げるな!!」
兵士「ひぃっ!?」
彼の怒号が、兵士たちの動きを止める。
余りの迫力に、白姫たちはリッターに何をしているのか尋ねることも出来ない。
リッター「いいか…、次が最後だ。お前の心に訊くぞ」
兵士「は、はひ……!」
リッター「正直に答えろ。お前たちは、本当に平和の使者として現王であるハイルの代わりの者が現れたとしたら…、どう思う」
兵士「そ、それは……」
ずっしりとした重みのある言葉。彼の握り大剣に冗談という雰囲気はなく、兵士はカタカタと震えながら答える。
兵士「そ、それは勿論…、ハイル様に…逆らうなどと……!」
リッター「本音なんだな。俺は嘘を見抜く。嘘だと分かれば、ここにいる全員を斬るッ!!」
兵士「ひぃえっ!!?」
リッター「本音を、言えッ!!」
兵士「……ッ!!」
何故、こんなことにココまで本気なのか。それは次の兵士の回答で、白姫たち一同、全員がようやく納得した。
兵士「も、申し訳ありま…せんっ……!本当は少し…、し、真実であれば…良いと……!お、思いましたァッ!!」
兵士は全力で土下座をしつつ、恐怖に震える声で本音を言った。
リッター「どうして、それが良いと思ったんだッ!!」
兵士「い、今のハイル様は最近になって民や我々兵士を本当に道具としか見ておりませんっ!!もう、ハイル様に従うことは限界で……!」
リッター「なら何故、反逆をしなかった。お前たちとて、騎士団より数が多くいつでも俺の命すら狙えたはずだ!」
兵士「そんなことをしたら家族が…!母が、父が、人権を奪われてしまいます!」
リッター「王が怖いのか!」
兵士「は…、も、申し訳ありませんっ!!」
リッター「貴様ァ……!」
兵士「本当に申し訳ありませんでしたっ!!ですから、わ、私の命だけで、せめて王には内密に、家族の命は、いえ…私だけの命で!!」
全てを言った兵士は、パニックを起こす。
リッター「お前たちも、この男と一緒の気持ちなのか!?それとも、仲間を売り嘘を語るか!?」
土下座に震える兵士の後ろで、身体を硬直する他の兵士たち。普通なら「その男だけです」とも言うところだろうが、リッターが上手かったのは"仲間を売るのか"というプライドを突く一言。これに反論する兵士たちは「俺たちも同じ気持ちです!」と強く反論したのだった。
魔剣士「ほ、本当かよ」
リヒト「そういうことでしたか……!」
バンシィ「本音を…そう……」
白姫「もしかして、これを聞かせるために……」
すると、リッターは土下座する兵士を片腕で持ち上げると、軽く頬を叩き、しっかりしろ!と声をかける。
リッター「……お前の願いは、叶いそうだぞ」
兵士「へ…、ど、どういうことでしょう…か……?」
リッター「よく見ろ。後ろのお前たちもだ!そこにいるのが誰か、お前たちは知っているはずだ!!」
リッターは、そこで"彼女"を指差した。
白姫「…っ!」
兵士たちの注目は、白姫へと集まる。彼の本音を耳にし、全員が同じような気持ちを抱いていることを知った白姫は、より覚悟を決めた顔に、かつ兵士たちは「まさか!」と声を上げた。
リッター「これは噂なんかじゃない。今日、白姫は女王へと即位する。お前たちに対する恐怖は、今日限りで終わるんだ」
兵士「そ、そんな…こと……」
リッター「夢でも何でもない。白姫様こそ、この王国の新たなるマスターになるのだ……」
兵士「へ……、え……!あ…………、あっ…、あぁっ!」
リッター「む…?」
掴まれた兵士は、白姫を見てどこか歓喜に近いような声を出した。どうしたものだと全員が振り向くと、それはたまたまの偶然であっただろうが……。
白姫「わっ、眩しっ……!」
―――時刻は午前7時。
丁度、太陽が強く煌き始めるこの時、回廊天井にあるステンドグラスに反射した黄金の輝きが、白姫の立っていた場所へと輝き降りたのだ。
魔剣士「は、はは……」
リヒト「……綺麗ですね」
バンシィ「お姉ちゃん、輝いてる……」
リッター「……覇王、闇の支配する時代は終わる。全てを知り得ても、闇に飲まれなかった白き輝きを持つ彼女こそ、新たな時代を切り開く時なんだろう」
白姫が真なる"女王"となるのだと、天が言っている気がした。
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――13時30分。
兵士たちへ真実を告げられてからは、早いものだった。
白姫が女王に即位するのは王城内密の情報統制を行ったものの、兵士たちの士気は著しく高く。国民たちへ白姫の存在が発表されたのは13時だったが、今も王城前には城下町へ住む多くの民たちが詰めかける状態に発展していた。
魔剣士「本当に白姫が……」
リッター「これがお前の望んだブリレイへの対抗策にして、国を変える唯一の手段だ。お前は、俺の作戦を間違いだと思うか?」
魔剣士「……いや、そんなわけはねーよ」
門を見下ろせるテラスから、二人は押しかける民たちを見る。誰もかれもが「白姫」の名を呼び、顔は歓喜に満ち溢れていた。
魔剣士「しかし、どうしてあそこまで熱狂をさせられたんだ?」
リッター「少し前に話をしたが、白姫は悪い王に騙されたという噂を流した。王の性格の悪さから、それが本当であると信じるのは難しいことじゃない」
魔剣士「だとしても、こんな熱狂するか?」
リッター「……何の為に、サインをもらったと思っている」
魔剣士「ん?」
リッター「あのサインを真似て、用紙は既に"広場"へ公開している。号外の用紙も纏め、既に城下町の人々にはこれが知れ渡っているはずだ」
魔剣士「な、何……!」
一枚の紙を取り出し、魔剣士へと渡す。
魔剣士「これは……」
"白姫様が帰還!"
"ハイル王に変わり、即位を行う予定!"
"これで戦争が終わる!全てが変わる!!"
そこに書いてあったのは、あることないこと、真実と嘘が混ざった情報だった。
魔剣士「…」
一年前、白姫様が行方不明になったのは全ての民を救うためだった。白姫様はいち早く世界戦争を起こそうとする父ハイルに気付き、従者である魔剣士と共に旅に出た。だが、この計画はハイルに知られて賞金首となり、追われる立場となってしまった。
魔剣士「…」
しかし、白姫様は諦めずに旅を続けた。北は北方大地の"氷山帝国"、果ては東方大地の戦闘国家"砂国"と協定を結び、世界戦争に備えたのだ。
魔剣士「…」
彼女が協定を結んだサインと、その証拠は広場にある。本日13時より、全ての真実は中央広場に掲げられている。
魔剣士「…」
そして、世界は彼女を認める。白姫様が女王になるため、氷山帝国と砂国はそれを認めたのだ。
魔剣士「…」
また、あのエルフ族も彼女が女王となることに賛同しているという。世界平和のため、白姫様は今こそ、セントラルの女王となるべきなのだ―――…。
魔剣士「……何だこりゃ」
リッター「嘘も方便だ。あらかた、間違いではないだろう?」
魔剣士「これで民が納得するのか……」
リッター「全ては偶然だったが、上手く運んでくれた。現に、この熱気は尋常ないことは分かるだろ?」
魔剣士「…」
王城の周りには、相変わらず大勢の人間が詰めかけている。その中には魔剣士の顔見知りも数人いて、隣に住んでいたシチューをくれたオバさんがいたことは何となしに嬉しくなった。
リッター「この即位式は、お前が英雄になる。ブリレイとハイルの処刑は必須になるが、これで全ては終わる」
魔剣士「……そうかもしれねえな。だけど、どうして…」
リッター「何がだ?」
魔剣士「アンタ、本当に全身全霊をもって俺らの味方になってくれたんだな。だけど、それが逆に納得いかねえ」
リッター「……俺を信じられないと?」
魔剣士「正直、少し裏切る素振りがあったほうが良かった。逆に真摯過ぎて、ブリレイを思い出すんだよ」
リッター「なるほど、道理は適っている。だったらいっそのこと、今から敵になってやるのも悪くはないが……」
不敵に笑うが、敵意はない。
魔剣士「……今更だろが。止してくれ、今から戦う気はない」
リッター「フハハ、そうかそうか。俺もだ」
魔剣士「それに俺が戦うのはまだ…終わっちゃいない」
リッター「ブリレイに…、あの男か」
魔剣士「あぁ、オッサン…。猛竜騎士の目を覚まさせないと、俺の戦いは終わらねぇよ……」
空を見上げると、晴れ渡る青空に温かい太陽。鳥のさえずりが歌のよう聞こえて気がする。
魔剣士「…」
すると、テラスのドアがガチャリと開いた。
魔剣士「ん?」
リッター「おっ、魔剣士。来たようだぞ!」
魔剣士「……あっ」
そこに現れたのは、正装に身を包んだ白姫であった。
白姫「ま、魔剣士……」
魔剣士「……嘘ン」
彼女は真っ白なドレスのような衣装に身を包み、薄っすらと化粧をした顔つきは美しさをより一層に引き立てていた。大胆にあけた胸元だが、白い肌は衣装にあって性的よりも美的。見た者は思わずアングリと口を開ききってしまうほどで。
白姫「似合う…かな……?」
魔剣士「……これが即位式の衣装なのかよ」
白姫「うん…。リッターさんが用意してくれたみたいで、化粧はシャルが……」
魔剣士「めっちゃ…、似合ってるじゃねーか……」
元々、王族の人間である彼女に豪華な衣装が似合わない訳がないということか。自分と比べて、少し彼女が遠くなった気がした。
白姫「…!」
彼が寂しそうな顔を浮かべたことに、白姫は魔剣士へ触れようとしたのだが……。
シャル「いけません、白姫様。折角の衣装が汚れてしまいます」
白姫「あ、シャル……」
シャルは扉の外に行こうとする白姫を止め、準備は終わっていませんと連れて行こうとする。
魔剣士「白姫……」
白姫「あ…、ま、また後で!即位の時に、あの段取りでいいんだよね!」
魔剣士「……あぁ」
白姫「魔剣士、カッコイイの期待してるね!」
シャル「行きますよ、姫様」
白姫は虚しく、シャルと共に扉の奥へと消えたのだった。
魔剣士「白姫……」
リッター「……随分と寂しそうだな?」
魔剣士「ば、馬鹿!誰がだっつーの!!」
リッター「ハッハッハッ、そんな様子で大丈夫か?これから、お前も即位で活躍するのだぞ」
魔剣士「分かってるよ。つか、お前の考えた段取りで本当に国民たちの支持は上がるんだろうな!」
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
リッター「あのなぁ、即位式は劇と一緒なんだ」
魔剣士「劇?」
リッター「そうだ。とにかく、納得させるということが第一。それに支持をされるには、目で見て実際に感じてもらうほうが早い」
魔剣士「どういうことだよ」
リッター「…今までハイルが王として力があったのは、圧倒的な強欲から生まれる恐怖政治。長年積まれた国民への恐怖はそう取り払うことは簡単ではない」
魔剣士「あぁ」
リッター「だからこそ、劇なんだ」
魔剣士「は、はぁ…?」
リッターは、即位をする際に行う全ての計画を話した。
その内容は言う通り、まんま"劇"であり、それぞれ用意される衣装もあってリッター以外、全員が顔をヒクつかせた。
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魔剣士「……これからやること、あれは劇そのものだろーが…。ぶっつけ本番しかねーし、マジで不安以外、何もので無いわ…」
リッター「そう言うな。意外にもお前は楽しめると思うぞ」
魔剣士「はぁ……」
本当は"それ"を断りたい一心なのだが、この熱狂する人々を見てリッターの作戦が間違っていないことは事実であって、拒否するわけにはいかなかった。
魔剣士「……やるっつった手前、今さら止めるとはいわねーけどよ」
リッター「それでこそだぞ!」
魔剣士「ちっ…、分かったよ!やってやりゃいいんだろ!」
リッター「うむ。俺たちもそろそろ、準備をするぞ」
魔剣士「へいへい……」
二人もまた白姫と同じように、これからの"それ"の準備のため、テラスから控室へと向かって行った。魔剣士は未だ愚痴をこぼしていたが。
…………
……
…
―――3時間後。
魔剣士「……負けたァァッ!!」
大浴場で身体を洗った四人は、飲み物片手に備え付けのトランプでいくつかのゲームを楽しんでいたが、一向に魔剣士は勝てないようだった。
白姫「あははっ、魔剣士ってば!」
リヒト「落ち着きましょうよ、魔剣士さん!」
バンシィ「やった、お兄ちゃんに勝った……」
魔剣士「ぐっ、ぐぬぬぬっ…!ぐぬぬっ!」
何をやっても全く勝てず。魔剣士の頭には血が上る。
魔剣士「くっそ、もう一回だもう一回!次は勝てるからよ!!」
テーブルに再びトランプを並べる魔剣士。しかし、次のゲームへ行く前に部屋のドアを誰かが"コンコン"とノックした。
魔剣士「んっ」
リヒト「どなたか来たみたいですね」
魔剣士「…誰だ、こんな時に!」
のしのしと足音をたててドアへ近づくと、魔剣士は勢いよく扉を開いた。
すると、そこに立っていたのはリッターであった。
リッター「改めて、おはようだ魔剣士!!」
魔剣士「……お前かよ!何の用だよ!?」
リッター「何…、機は熟すものだと。それを伝えに来たんだ」
魔剣士「はい?」
リッター「とにかく来い。後ろの三人も着いて来ると良い」
魔剣士「あ…、うぉっと!」
リッターは魔剣士の腕を掴むと、無理やりに引っ張る。
魔剣士「いででっ、どこに行く気だよ!」
リッター「良いところだ!フハハハッ……!」
にたりと笑い、腕を掴む力はより強くなった。
魔剣士「お、おいその笑みを止めろ!ベタベタ触るな、おい、おいこら、おいぃっ!!」
………
…
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―――10分後。
リッターに案内された四人が訪れたのは"回廊"と呼ばれる巨大な廊下のようなもので、多くの骨とう品や黄金が並ぶ豪華絢爛たる廊下であった。
魔剣士「うおっ、何だここは……」
リヒト「す、凄い!」
バンシィ「凄く綺麗……」
床には赤い絨毯が敷かれ、柱は魔力を帯びた鮮やかな大理石。クリスタルの置物や、天井から垂れ下がる七色の光を放つシャンデリアは全てを眩いばかりに照らす。
リッター「ここは他の部屋に繋がる回廊と呼ばれる廊下でな、姫様はここがどういう場所か分かっているはずだ」
白姫「……あ、はい。ここは催し物をする場所でもあるんですけど、こんなに絢爛だったかな…」
リッター「ハッハッハッ、俺が宝物庫から色々飾ったんだ!ここまでしないと、一世一代の催し物は成功しないだろう?」
白姫「えっ、これ全部リッターさんが!?」
魔剣士「……そういやアンタ、色々準備するの得意だもんな。つか、催し物ってまさか」
リッター「うむ!」
当然、女王の即位式のことだ。
白姫「ここで、女王の即位式を……」
魔剣士「随分とまぁ…、力の象徴を見せる儀式だな……」
リッター「それは当然だろう。今の王に勝手に変わり即位する式だ。生半可な式では、兵も民も納得はしない」
魔剣士「それもそうか……」
恐怖政治、覇王ことハイルに変わる即位式。いくら白姫が追われた存在で、平和の為に戻って来たと豪語したとしても国民を納得させるのは言葉と視覚。全てを用いて、納得させなければならない。
リッター「姫様には白の衣装を身に着けてもらう。今、城下町の腕利きに魔法糸で縫ってもらっているが、もうじき完成するだろう」
魔剣士「ほぅ?」
リッター「勿論、お前たちもだ。俺も然り、特に闇魔術師として名を出したブレイ…リヒト。そして団長である俺と、騎士団であるバンシィ。魔剣士は姫の従者として出てもらうつもりだ」
魔剣士「お、俺らもか!?」
リヒト「何をすればいいんでしょうか…?」
バンシィ「僕、変なのは、嫌だからね……」
露骨に嫌そうな顔をする三人。それを見たリッターは大きくため息をついて言う。
リッター「あのなぁ、即位式は劇と一緒なんだ」
魔剣士「劇?」
リッター「そうだ。とにかく、納得させるということが第一。それに支持をされるには、目で見て実際に感じてもらうほうが早い」
魔剣士「どういうことだよ」
リッター「…今までハイルが王として力があったのは、圧倒的な強欲から生まれる恐怖政治。長年積まれた国民への恐怖はそう取り払うことは簡単ではない」
魔剣士「あぁ」
リッター「だからこそ、劇なんだ」
魔剣士「は、はぁ…?」
リッターは、即位をする際に行う全ての計画を話した。
その内容は言う通り、まんま"劇"であり、それぞれ用意される衣装もあってリッター以外、全員が顔をヒクつかせた。
魔剣士「冗談だろ?」
リッター「これで納得はする。そうは思うだろう?」
魔剣士「い、いや確かにそうかもしれねーけど、それを沢山の人前でやるってお前……」
リッター「お前は賞金首だし、今更のことだろう」
魔剣士「そ、そうかもしんねーけど……」
リッター「……怖いのか?」
魔剣士「あ?」
リッター「何だ、お前は強さを持っている癖に肝っ玉が小さいんだな。緊張しているのか?怖いのか?」
魔剣士「な、何だと!?」
リッターの「怖いのか」に反応する魔剣士。
これを見た白姫たちは、魔剣士の性格から以降のやり取りが目に見えて分かった。
魔剣士「……こ、この野郎ォ!俺が怖がりだァ!?っざけんな、やってやりゃいいんだろ!?」
その予想のままに、流れるままに。想像していた通りの台詞が飛び出したことに、三人は笑いが堪えられなくなる。
白姫「魔剣士ってば……」
バンシィ「お兄ちゃん、さすが…!」
リヒト「さすがです、魔剣士さん!」
三人は思わず魔剣士に対し、"グー"のポーズを取ったのだった。
リッター「……ぶぅあーはっはっはっはっ!!!」
魔剣士「うるっせェェ!!」
広い回廊は、音が思った以上に反響する。幾重にもリッターの馬鹿笑いする声はよく響いた。
リッター「……ハハハッ、本当に面白いと思うぞ」
魔剣士「何がだよ!」
リッター「ふははっ、まぁ良いことだ。…それより、機が熟すまで時間はないぞ。それなりの覚悟をしておくことだな」
魔剣士「何?そういえばさっきも同じこと言ってたが、それってどういう――…」
"……バタァンッ!!"
魔剣士「ッ!?」
突然、背後側にある一番奥の巨大な扉が勢いよく開いた。全員が驚き振り返ると、そこには数人の兵士が息を切らした様子で立っていた。
魔剣士「敵か!?」
腰に携えた剣を抜こうとするが、リッターはそれを掌で止めて、笑う。
リッター「三度目だ。言っただろう、機は熟すのだと」
魔剣士「は?だ、だからそれってどういう意味だっつーの!」
リッター「……見ていろ」
魔剣士「何…?」
回廊へ現れた兵士たちは、息を切らしたまま走ってこちら側へと向かって来る。リッターは顔色を変えず、「動くなよ」と笑ったまま余裕を崩す様子はない。
魔剣士(一体、何があるってんだ……)
兵士たちがゼェゼェと息をあげて、ようやく目の前までくると、膝の上に手をついて口を開いた。
兵士「リ、リッター様……!」
リッター「うむ、どうした?」
兵士「噂を知っていますか…!は、話しを聞きましたか!?」
魔剣士「ッ!!」
"うわさ。"
この言葉、まさかとは思ったが。
リッター「噂とは…何のことだ?」
兵士「ご、ご存じなかったのですね!王城を乗っ取る者が現れるかもしれないと、朝から急に話題になっているんです!」
リッター「……ほほう、どういう話だ?」
兵士「何でも、平和の使者が訪れるとか、ハイル様に刃向かう者が現れるとか…。念のため、リッター様の耳にも入れておかねばと思いまして!」
リッター「なぁるほど。それが本当なら許すまじ事態だな」
魔剣士を除く三人は、どうして漏れたんだと目を丸くする。だが、リッターはしてやったりと、魔剣士は「嘘だろう」と驚きを隠せなかった。
リッター「……なるほど。だが、ちょっといいか?」
兵士「は…、何でしょうか!」
リッター「恐らくだが、それはただの噂だろう。俺は聞いていないし、真実じゃないだろうと思うぞ」
兵士「そ、そうですよね…?」
リッター「あぁきっとそうだ。しかしな、君に一つ質問がある」
兵士「はっ、何でもお答えいたします」
リッター「うむ。それでは、君は――…そうだな、もしそれが真実だったらどう思う?」
兵士「へ?」
どうしてそんなことを尋ねるのか。兵士は「何故ですか」と聞き返す。
リッター「今、質問をしているのは俺だ。いいか、自分の心に素直に答えろ」
兵士「ど、どうしてですか!?」
リッター「この質問は騎士団の団長としてではない。お前自身の心に問いている」
兵士「…っ!?」
リッターは詰め寄り、威圧する。並みの人間では、この恐怖に押しつぶされてしまいそうだったが、それも分かっていて問いを投げていた。
リッター「正直に言わねば、お前の首を刎ねる」
兵士「え、ちょっ…!?」
リッター「冗談は言わん。俺は本気だ」
背負っている大剣に手を伸ばす。設問される兵士も、その後ろにいる全員も思わず後退する。…しかし。
リッター「逃げるな!!」
兵士「ひぃっ!?」
彼の怒号が、兵士たちの動きを止める。
余りの迫力に、白姫たちはリッターに何をしているのか尋ねることも出来ない。
リッター「いいか…、次が最後だ。お前の心に訊くぞ」
兵士「は、はひ……!」
リッター「正直に答えろ。お前たちは、本当に平和の使者として現王であるハイルの代わりの者が現れたとしたら…、どう思う」
兵士「そ、それは……」
ずっしりとした重みのある言葉。彼の握り大剣に冗談という雰囲気はなく、兵士はカタカタと震えながら答える。
兵士「そ、それは勿論…、ハイル様に…逆らうなどと……!」
リッター「本音なんだな。俺は嘘を見抜く。嘘だと分かれば、ここにいる全員を斬るッ!!」
兵士「ひぃえっ!!?」
リッター「本音を、言えッ!!」
兵士「……ッ!!」
何故、こんなことにココまで本気なのか。それは次の兵士の回答で、白姫たち一同、全員がようやく納得した。
兵士「も、申し訳ありま…せんっ……!本当は少し…、し、真実であれば…良いと……!お、思いましたァッ!!」
兵士は全力で土下座をしつつ、恐怖に震える声で本音を言った。
リッター「どうして、それが良いと思ったんだッ!!」
兵士「い、今のハイル様は最近になって民や我々兵士を本当に道具としか見ておりませんっ!!もう、ハイル様に従うことは限界で……!」
リッター「なら何故、反逆をしなかった。お前たちとて、騎士団より数が多くいつでも俺の命すら狙えたはずだ!」
兵士「そんなことをしたら家族が…!母が、父が、人権を奪われてしまいます!」
リッター「王が怖いのか!」
兵士「は…、も、申し訳ありませんっ!!」
リッター「貴様ァ……!」
兵士「本当に申し訳ありませんでしたっ!!ですから、わ、私の命だけで、せめて王には内密に、家族の命は、いえ…私だけの命で!!」
全てを言った兵士は、パニックを起こす。
リッター「お前たちも、この男と一緒の気持ちなのか!?それとも、仲間を売り嘘を語るか!?」
土下座に震える兵士の後ろで、身体を硬直する他の兵士たち。普通なら「その男だけです」とも言うところだろうが、リッターが上手かったのは"仲間を売るのか"というプライドを突く一言。これに反論する兵士たちは「俺たちも同じ気持ちです!」と強く反論したのだった。
魔剣士「ほ、本当かよ」
リヒト「そういうことでしたか……!」
バンシィ「本音を…そう……」
白姫「もしかして、これを聞かせるために……」
すると、リッターは土下座する兵士を片腕で持ち上げると、軽く頬を叩き、しっかりしろ!と声をかける。
リッター「……お前の願いは、叶いそうだぞ」
兵士「へ…、ど、どういうことでしょう…か……?」
リッター「よく見ろ。後ろのお前たちもだ!そこにいるのが誰か、お前たちは知っているはずだ!!」
リッターは、そこで"彼女"を指差した。
白姫「…っ!」
兵士たちの注目は、白姫へと集まる。彼の本音を耳にし、全員が同じような気持ちを抱いていることを知った白姫は、より覚悟を決めた顔に、かつ兵士たちは「まさか!」と声を上げた。
リッター「これは噂なんかじゃない。今日、白姫は女王へと即位する。お前たちに対する恐怖は、今日限りで終わるんだ」
兵士「そ、そんな…こと……」
リッター「夢でも何でもない。白姫様こそ、この王国の新たなるマスターになるのだ……」
兵士「へ……、え……!あ…………、あっ…、あぁっ!」
リッター「む…?」
掴まれた兵士は、白姫を見てどこか歓喜に近いような声を出した。どうしたものだと全員が振り向くと、それはたまたまの偶然であっただろうが……。
白姫「わっ、眩しっ……!」
―――時刻は午前7時。
丁度、太陽が強く煌き始めるこの時、回廊天井にあるステンドグラスに反射した黄金の輝きが、白姫の立っていた場所へと輝き降りたのだ。
魔剣士「は、はは……」
リヒト「……綺麗ですね」
バンシィ「お姉ちゃん、輝いてる……」
リッター「……覇王、闇の支配する時代は終わる。全てを知り得ても、闇に飲まれなかった白き輝きを持つ彼女こそ、新たな時代を切り開く時なんだろう」
白姫が真なる"女王"となるのだと、天が言っている気がした。
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――13時30分。
兵士たちへ真実を告げられてからは、早いものだった。
白姫が女王に即位するのは王城内密の情報統制を行ったものの、兵士たちの士気は著しく高く。国民たちへ白姫の存在が発表されたのは13時だったが、今も王城前には城下町へ住む多くの民たちが詰めかける状態に発展していた。
魔剣士「本当に白姫が……」
リッター「これがお前の望んだブリレイへの対抗策にして、国を変える唯一の手段だ。お前は、俺の作戦を間違いだと思うか?」
魔剣士「……いや、そんなわけはねーよ」
門を見下ろせるテラスから、二人は押しかける民たちを見る。誰もかれもが「白姫」の名を呼び、顔は歓喜に満ち溢れていた。
魔剣士「しかし、どうしてあそこまで熱狂をさせられたんだ?」
リッター「少し前に話をしたが、白姫は悪い王に騙されたという噂を流した。王の性格の悪さから、それが本当であると信じるのは難しいことじゃない」
魔剣士「だとしても、こんな熱狂するか?」
リッター「……何の為に、サインをもらったと思っている」
魔剣士「ん?」
リッター「あのサインを真似て、用紙は既に"広場"へ公開している。号外の用紙も纏め、既に城下町の人々にはこれが知れ渡っているはずだ」
魔剣士「な、何……!」
一枚の紙を取り出し、魔剣士へと渡す。
魔剣士「これは……」
"白姫様が帰還!"
"ハイル王に変わり、即位を行う予定!"
"これで戦争が終わる!全てが変わる!!"
そこに書いてあったのは、あることないこと、真実と嘘が混ざった情報だった。
魔剣士「…」
一年前、白姫様が行方不明になったのは全ての民を救うためだった。白姫様はいち早く世界戦争を起こそうとする父ハイルに気付き、従者である魔剣士と共に旅に出た。だが、この計画はハイルに知られて賞金首となり、追われる立場となってしまった。
魔剣士「…」
しかし、白姫様は諦めずに旅を続けた。北は北方大地の"氷山帝国"、果ては東方大地の戦闘国家"砂国"と協定を結び、世界戦争に備えたのだ。
魔剣士「…」
彼女が協定を結んだサインと、その証拠は広場にある。本日13時より、全ての真実は中央広場に掲げられている。
魔剣士「…」
そして、世界は彼女を認める。白姫様が女王になるため、氷山帝国と砂国はそれを認めたのだ。
魔剣士「…」
また、あのエルフ族も彼女が女王となることに賛同しているという。世界平和のため、白姫様は今こそ、セントラルの女王となるべきなのだ―――…。
魔剣士「……何だこりゃ」
リッター「嘘も方便だ。あらかた、間違いではないだろう?」
魔剣士「これで民が納得するのか……」
リッター「全ては偶然だったが、上手く運んでくれた。現に、この熱気は尋常ないことは分かるだろ?」
魔剣士「…」
王城の周りには、相変わらず大勢の人間が詰めかけている。その中には魔剣士の顔見知りも数人いて、隣に住んでいたシチューをくれたオバさんがいたことは何となしに嬉しくなった。
リッター「この即位式は、お前が英雄になる。ブリレイとハイルの処刑は必須になるが、これで全ては終わる」
魔剣士「……そうかもしれねえな。だけど、どうして…」
リッター「何がだ?」
魔剣士「アンタ、本当に全身全霊をもって俺らの味方になってくれたんだな。だけど、それが逆に納得いかねえ」
リッター「……俺を信じられないと?」
魔剣士「正直、少し裏切る素振りがあったほうが良かった。逆に真摯過ぎて、ブリレイを思い出すんだよ」
リッター「なるほど、道理は適っている。だったらいっそのこと、今から敵になってやるのも悪くはないが……」
不敵に笑うが、敵意はない。
魔剣士「……今更だろが。止してくれ、今から戦う気はない」
リッター「フハハ、そうかそうか。俺もだ」
魔剣士「それに俺が戦うのはまだ…終わっちゃいない」
リッター「ブリレイに…、あの男か」
魔剣士「あぁ、オッサン…。猛竜騎士の目を覚まさせないと、俺の戦いは終わらねぇよ……」
空を見上げると、晴れ渡る青空に温かい太陽。鳥のさえずりが歌のよう聞こえて気がする。
魔剣士「…」
すると、テラスのドアがガチャリと開いた。
魔剣士「ん?」
リッター「おっ、魔剣士。来たようだぞ!」
魔剣士「……あっ」
そこに現れたのは、正装に身を包んだ白姫であった。
白姫「ま、魔剣士……」
魔剣士「……嘘ン」
彼女は真っ白なドレスのような衣装に身を包み、薄っすらと化粧をした顔つきは美しさをより一層に引き立てていた。大胆にあけた胸元だが、白い肌は衣装にあって性的よりも美的。見た者は思わずアングリと口を開ききってしまうほどで。
白姫「似合う…かな……?」
魔剣士「……これが即位式の衣装なのかよ」
白姫「うん…。リッターさんが用意してくれたみたいで、化粧はシャルが……」
魔剣士「めっちゃ…、似合ってるじゃねーか……」
元々、王族の人間である彼女に豪華な衣装が似合わない訳がないということか。自分と比べて、少し彼女が遠くなった気がした。
白姫「…!」
彼が寂しそうな顔を浮かべたことに、白姫は魔剣士へ触れようとしたのだが……。
シャル「いけません、白姫様。折角の衣装が汚れてしまいます」
白姫「あ、シャル……」
シャルは扉の外に行こうとする白姫を止め、準備は終わっていませんと連れて行こうとする。
魔剣士「白姫……」
白姫「あ…、ま、また後で!即位の時に、あの段取りでいいんだよね!」
魔剣士「……あぁ」
白姫「魔剣士、カッコイイの期待してるね!」
シャル「行きますよ、姫様」
白姫は虚しく、シャルと共に扉の奥へと消えたのだった。
魔剣士「白姫……」
リッター「……随分と寂しそうだな?」
魔剣士「ば、馬鹿!誰がだっつーの!!」
リッター「ハッハッハッ、そんな様子で大丈夫か?これから、お前も即位で活躍するのだぞ」
魔剣士「分かってるよ。つか、お前の考えた段取りで本当に国民たちの支持は上がるんだろうな!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
リッター「あのなぁ、即位式は劇と一緒なんだ」
魔剣士「劇?」
リッター「そうだ。とにかく、納得させるということが第一。それに支持をされるには、目で見て実際に感じてもらうほうが早い」
魔剣士「どういうことだよ」
リッター「…今までハイルが王として力があったのは、圧倒的な強欲から生まれる恐怖政治。長年積まれた国民への恐怖はそう取り払うことは簡単ではない」
魔剣士「あぁ」
リッター「だからこそ、劇なんだ」
魔剣士「は、はぁ…?」
リッターは、即位をする際に行う全ての計画を話した。
その内容は言う通り、まんま"劇"であり、それぞれ用意される衣装もあってリッター以外、全員が顔をヒクつかせた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
魔剣士「……これからやること、あれは劇そのものだろーが…。ぶっつけ本番しかねーし、マジで不安以外、何もので無いわ…」
リッター「そう言うな。意外にもお前は楽しめると思うぞ」
魔剣士「はぁ……」
本当は"それ"を断りたい一心なのだが、この熱狂する人々を見てリッターの作戦が間違っていないことは事実であって、拒否するわけにはいかなかった。
魔剣士「……やるっつった手前、今さら止めるとはいわねーけどよ」
リッター「それでこそだぞ!」
魔剣士「ちっ…、分かったよ!やってやりゃいいんだろ!」
リッター「うむ。俺たちもそろそろ、準備をするぞ」
魔剣士「へいへい……」
二人もまた白姫と同じように、これからの"それ"の準備のため、テラスから控室へと向かって行った。魔剣士は未だ愚痴をこぼしていたが。
…………
……
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