魔剣士「お姫様の家出に付き合うことになった」【現在完結】

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第九章【セントラル】

9-50 リッターと兵士

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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――魔剣士の体感時間にて数分後、陣世界にて。
砂国から陣を経て氷山帝国に戻った魔剣士は、いよいよセージとテイル両名のサインを受け取ったのち、セントラルの帰路へとついていた。

魔剣士(これで白姫は名実と共に女王ってわけか……)

外に出れば、恐らく現実時間で朝4時を迎える頃である。ウィッチたちの言っていた通り、現実時間で1日以内でのサインを無事に受け取れたことになる。

魔剣士(みんな寝てるだろうし、王城でもテキトーに歩いてみるかな……)

出口が見え、いざセントラルへ戻ろうと思った時。心の中で、久々に彼女の声が聞こえた。

ウィッチ(魔剣士、ここは…陣の中か)
魔剣士(……ウィッチ!)

しばらくの眠りについていた彼女は、どうやら目を覚ましたらしい。

ウィッチ(ふむ、お前の記憶から辿ると無事にサインを手に入れたようだな)
魔剣士(当たり前だ。お前の体調はどうなんだよ)
ウィッチ(魔体に対して体調がどうなのかと尋ねるのもおかしい話じゃがな。ま、元気ではあるよ)
魔剣士(回復したのか?)
ウィッチ(いや、正直なところ現実世界に干渉する意識の保持は難しいようじゃ)
魔剣士(……最初はあんなに長くいれたのにな?)

初めて彼女を現実世界で具現化した時は、ほぼ一日近く滞在することが出来ていた。

ウィッチ(あれは陣世界に長くいたことで、私自身の意識を保つ魔力が蓄積していたからじゃろう。まさか、また現実世界で10日分もいるわけにはいかまいて)
魔剣士(そうだな…。じゃ、しばらくは俺の中にいるってことでいいのか?)
ウィッチ(出来る限り眠って、いざという時に出るようにする。いつでも起きられるまでの体力は回復しているし、何かあったら呼んでくれるか)
魔剣士(ん、了解した。そんじゃ、セントラルに戻るぞ!)
ウィッチ(あぁ、気をつけてな……)

魔剣士は陣の出口より、いざセントラルへと舞い戻る。

………


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――セントラル王城、三階廊下。
魔剣士は地下室の陣から現実世界へと戻ったところ、時刻は想定通りの"朝4時"を回ったところで、美しい朝焼けに光る廊下を急いでいた。

魔剣士(あとは、そこの角を曲がれば……)

白姫たちのいる客室へとたどり着く。廊下の突き当りで身体を捻じり、さぁ部屋へと戻ろうとした―――…その時。

"どんっ!"

誰かとぶつかった。幸い縮地を使わないでいたことで、その相手は少しよろけた程度で済んだのだが、魔剣士が謝った相手はまさかの"白姫"であった。

白姫「い、いたた……」
魔剣士「…白姫!」
白姫「……あっ、魔剣士!」

魔剣士を見た白姫は、いつものようにぴょんと跳ねて魔剣士に近づく。

白姫「もしかして、終わったの!?」
魔剣士「おうよ、俺にかかればこんなもんだぜ」

懐から、二人に貰ったサインと印の入った用紙を取り出して見せた。

白姫「……さすが魔剣士!でもこれで、私が本当に女王になっちゃうってことなんだ…」
魔剣士「勝手に無理やり決めてる事だが、国民は納得するはずだ。王の悪だくみにより追われた悲劇の姫様が、国民の為に戻って来たっていうのだけで支持はされるだろうな」
白姫「嘘は…、ついてないよね」
魔剣士「王が悪者だったことも、お前が全ての国民が笑顔で幸せになってほしい事も嘘じゃないだろう?」
白姫「……うん」

頷き、しっかりと魔剣士の目を見つめる。もう止まることは出来ない。

魔剣士「リッターと後で話すが、予定は今日中だったな。本当に急すぎることだが、きっとみんな納得してくれるはずだ」
白姫「……本当は不安でいっぱいだけど、魔剣士がいてくれたら何でも出来そうな気がする!」
魔剣士「あぁ、俺が守ってやる。それに俺だけじゃなく、みんながみんな強い面子ばっかだしな」
白姫「うんっ…」

ブレイダー…、もといリヒトは闇魔法の会得者として王城の者たちは認識している。リッターは世界的に有名な冒険者であるし、実力も並大抵ではないことが認知されている。無論、氷山帝国と砂国の両名が認めたこともあって、あらゆる面で白姫を"女王"として国民の支持は絶対なものは約束されたようなものだった。

魔剣士「っと、それよりこんなに朝早くどこに行くつもりだったんだ?」
白姫「……あっ、魔剣士も行く?」
魔剣士「どこにだよ」
白姫「んとね、バンシィも今すぐに来るから……」
魔剣士「ん、何だそりゃ?」
白姫「えっとね……」

白姫が説明しようとした時、部屋からバンシィが出てくるのが見えた。すると、魔剣士の存在に気が付いたと思えば走り出し、その勢いのまま抱き着く。

バンシィ「お兄ちゃん、お帰りっ…!」
魔剣士「お、おぅっ」
白姫「フフッ、バンシィったら」
魔剣士「ちょっと強烈な抱き着きだったな…。で、お前らはどこに行こうとしてたんだよ」
白姫「あ、うん。えっと、私たちは大浴場に行こうかなーって」
魔剣士「……大浴場?」
白姫「うん」

「あそこに見える赤い扉があるでしょ?」
と、遠くに見える両開きの扉を指差す。

魔剣士「あぁ、見えるな。あれが…大浴場なのか?」
白姫「そうそう。客室専用だけど、来賓客用で凄く綺麗なんだ。シャルが朝なら他の兵士も休んでいる時間だし、危険もないから入っていいんじゃないかって」
魔剣士「ふむ…」
白姫「朝4時に掃除しておいたから、凄く綺麗だと思うよ。備品は置いてあるはずだし、一緒に行く?」
魔剣士「……一緒に入るのか?」

少しだけ"うずっ"とする。それ以上に目を開いたのはバンシィだったが、彼女に気づく前に白姫は「男女一緒のお風呂じゃないんだよぉ」と首を振った。

白姫「お、男湯と女湯は分かれてるよっ!」
魔剣士「何だそうなのか」

慌てて否定する白姫。今まで一緒に入ろうと言って来た彼女に否定されたことは、ちょっとだけ落ち込んだの……だが。

白姫「この時間はメイドさんたちも入ることがあるみたいで、他の女の人がいたらびっくりするし…それにバンシィもいるし……」
魔剣士「あぁ、そうか…。そうだったな」

考えてみれば、白姫以外の女性もいたのだった。長いこと白姫といたことで、どうにも感覚がズレていた。だが、それ以前にズレる原因を作った彼女はこう言った。

白姫「でも、私はあとで部屋の備え付けのお風呂に一緒に入ってもいいよ?」

首を少し傾げ、笑いながら言う。魔剣士は「ば、バカヤロ!」と慌てて拒否した。

魔剣士「いいからお前らは入って来い!」
白姫「う、うん」
バンシィ「お兄ちゃん、私もあとで一緒に……」
魔剣士「いいから行って来い!!コラァ!」

二人の背中を強く押し、さっさと風呂へ行って来い!と促した。

バンシィ「あんっ…」
白姫「あうっ…」

魔剣士は彼女たちが大浴場へ消えたのを確認すると、はぁとため息をついて部屋へと戻ろうとした。
……ところが。

魔剣士(んっ…)

突然、謎の声が魔剣士を襲う。長けた感知能力は、たまたま兵士たちの会話まで聞こえて来たのだ。人数は二人、どうやら王城内の守衛にあたっていた面子らしい。

(……やっぱり、白姫様だよな…?)
(あぁ、隣のは騎士団に入った子供だろ……)

魔剣士(……兵士か誰かに見られたのか。目視できねーとなると、あの大浴場の扉からしか見えない位置にいるみたいだな)

(白姫様が大浴場って、王に許されて戻って来たのか?)
(いや、お前知らないのか?あの二人は確か、地下牢に閉じ込めてたらしいんだが…逃げたって話だ。俺も捜索隊に駆り出されたからな)
(……俺はそん時に風邪で休んでたんだよ。つーか、逃げた筈なのにどうしてここにいるんだ)
(俺に訊かれても分からんよ)
(どうして、大浴場に入った?逃げているのなら、王城から出て行かないか?)
(実は王に許されたんじゃないのか。賞金首とかも撤去されるかもしれねーぞ)
(い、いや…ちょっと待ってくれ……)

人間は、自分に優位なほうへと考えやすい。特に、騎士団の後始末ばかりさせられていた兵士の鬱憤は尋常ではなく、その考えも歪み始めていた。

(団長リッターはいるが、王はいねぇ。王がいないことを良い事に、王城での生活を忘れられずに戻って来たのかもしれん……)
(そこまでバカじゃねーだろ)
(一度甘い汁を吸ったお姫様が、久しぶりの我が家で王という敵もいない中、王城の優雅な暮らしをもう一度夢見ることもあるだろ)
(……ふむ、一理はあるが)

この兵士たち、何を考えているのか段々と本音が現れ始める。

(俺らが姫を捕えたら、褒美もでねえかな)
(いや、待て。本当は許されていたら王に殺されるだろ)
(……今ここにいるのは誰だ?)
(あ?)
(俺ら二人の当番な以上、他の兵士もいない。さすがに大浴場で裸だろ。あの騎士団の子供も装備なしのうえ、風呂場の熱なら得意の氷類の魔法もそうそう使えないはずだ)

―――だから。

(暴れたら殺すつもりで、ちょっと遊ばないか?)

この言葉に、魔剣士の額に血管が浮かび上がる。

(……おい、待て。何を言ってるのか、お前分かってるのか?)
(まともに遊んでないからな、それに姫様を自由に出来るなんて…ズクっとこないか)
(そ、それはだな……)
(だから俺らしかいねぇんだ。だから、ちょっとだけな……)
(ちっ、お前も言い出したら止まらないやつだからな)

実際のところ、片方も相方を止めつつ中々に積極的で、その声も踊っているかのように聞こえた。魔剣士は苛立ち、彼らが扉の前に現れたと同時に"縮地"でその顔面を叩き潰そうとした―――…その時。
"ドゴォンッ!!ズザザァッ!!"
強烈な打撃と、床を滑る痛々しい音が廊下いっぱいに響いた。この原因は魔剣士ではなく、魔剣士が飛び出す前よりも早く飛び出す男がいたのである。

魔剣士「何ッ…!」

その男は、"リッター"であった。

リッター「……貴様ら、何をしている!」

吹き飛ばされた兵士の一人は血を吹きだし、何が起きたのか分からないもう一人の兵士は唖然として痛がる相方を見ていた。

リッター「そこのお前!」
兵士「は、はいっ!?」
リッター「何をしようとしていた。…いや、全ての会話は聞いていた。貴様ら、それでも王城を守る兵士か!」
兵士「も…、申し訳ありません!ですが、自分たちは自分たちの考えなりに……」
リッター「それが女性を襲おうとすることだというのか」
兵士「うっ…!」

正論極まりない。魔剣士は介入せず、リッターのやり取りを隠れて見守った。

リッター「お前たち兵士たちは、騎士団の自由気ままな動きに翻弄され、その処理に疲弊しているのも充分に承知している。だからといって、主君の娘である姫や子供を襲おうとするのはワケが違うだろう」
兵士「は、はい……」
リッター「騎士団の下に位置するとはいえ、元々お前たちは民を守る立派な兵士ではないのか。…それも忘れたというのか?」
兵士「い、いえ!それは!ま、魔が差しました…申し訳ありません……っ」
リッター「一つ問う。お前たちにとって、この王なき王城の今、主君として見るべき者は誰だ?」
兵士「それはもちろん、リッター様です!」
リッター「ほう、そうなのか……」

"にんまり"と笑い、なるほどと呟く。

リッター「では、俺が主君と定めた者はお前たちの主君にもなる。相違ないか?」
兵士「へ?」
リッター「相違はないか」
兵士「そ、それはもちろんですが…。どういう意味でしょうか……」
リッター「……簡単なことだ」

威圧を与えるべくした行動なのか、リッターは背負っていた大剣を抜いて柄から剣先まで舐めるように見つめながら言う。

リッター「俺は、この剣の全てを与える人間を決めた」
兵士「ち、ちょっと待ってください。その言い方、まさかとは思いますが王以外に主君とする者を見つけたと!?」
リッター「……お前たちが襲おうとした姫様だ」
兵士「はっ!!?」

兵士の男は、驚きのあまり大声を上げる。

兵士「まさか、白姫様は本当に王に許されたのですか!?」
リッター「そうではない。許されていないし、あの王が一度自分から離れた者を許すことはない。ブリレイという男も、白姫を許すことはないだろう」
兵士「ではどうして!許されていない白姫様に忠誠を誓うというのなら、それは裏切りに!」
リッター「……簡単なことだ。俺は白姫様に心打たれたまで。また、その従者である剣士にもな」

"ブァッハッハッハッ!"と笑い、兵士の肩を叩いた。

兵士「い、いたたっ!し、しかしそれでは裏切りとなります!」
リッター「……お前は王のやり方に満足しているのか?」
兵士「へ?」
リッター「お前はこの王城に勤めて何年になる。俺は1か月もしないうちに、この国の民がどれほど悲しんでいるか分かっているつもりだ」
兵士「そ、それは……」
リッター「聞いた話では、兵士長という男が王に正論を吐いて死んだらしいな。アホな男だと思うか?」
兵士「……いえ、兵士長様は最期まで反論し続けたと言います。白姫様を誰よりも想っていた兵士長様が、アホなどということは…!」
リッター「ならお前はどうだ。騎士団のゴミ拾いをさせられ、民が悲しむのを見て、ストレスを溜める日々。それだけでいいのか?」
兵士「うっ……」

リッターは、ゆっくりとだが確実に、兵士の心を掴んでいく。

リッター「ここだけの話だが、お前たちに良い話を教えてやろう」
兵士「な、何でしょうか……」
リッター「実は、今日中に白姫が女王に即位するための準備が進んでいるのは知っているか…?」
兵士「……冗談ですよね?」
リッター「フハハハッ、冗談で言うことではないだろう。お前は腐った王と、みんなの幸せを願う白姫。どちらに着く…?」
兵士「どちらって……」
リッター「白姫様の願うのは、この国の人権を持たぬ人間の改善や、戦いのない平和な国だ。恐怖政治で犠牲を出す王と、輝く白姫の未来、どちらが良い?」
兵士「…!」

とにかく、話が上手かった。最初は敵であるように見せかけ、強さと威厳を見せつつ自分が慕う姫の存在を出す。ただでさえ強い騎士団のメンバーを束ねる男が、いち兵士に対して懇意的に話をしてくれることに、惑わされない者はいない。

リッター「俺は白姫様に未来を感じた。お前たち兵士は、王の恐怖という御旗の下で仲間を戦争で失う人生と、平和な世界どちらが好きだ?」
兵士「……そんなのは、決まっています」
リッター「そうか。実は、お前がきっとそうだろうと思っていたんだ」
兵士「えっ!?」

魔剣士(おい、それは嘘だろ…!)
―――…嘘だった。

リッター「今日、ここにお前が当番であると知って、この話をしようとしていたんだが…こんな行為をするとはガッカリしたぞ……」
兵士「ちょ、ちょっと待ってください…!こ、これは出来心で、その……」
リッター「あぁ良い!何も言うな。ガッカリはしたが、たまたま心が汚れて行為に及んだ所を俺が粛清しただけ。別に罪を問う気はない」
兵士「で、ですが……」
リッター「反省をしようとした、今の気持ちはしかと受け取った。あとは、行動で示してくれれば良い」
兵士「というと、私は何か……?」
リッター「あぁ…、頼みがある」
兵士「な、何でしょうか。私に出来ることなら!」

この時点で、完全に兵士の心はリッターが掴んだのである。魔剣士は小さく舌打ちし、自分がこんな会話を出来るはずがないと少し悔しくもなった。

リッター「なら、噂を流してくれるか」
兵士「噂ですか?」
リッター「世界を救うべく、救世主となり得る新たな指導者が王を奪うかもしれないと。但し、今日という日付けと俺から言われたことに加え、白姫様という名前は出さないでくれ」
兵士「つまり、今の王を奪う人間がいるかもしれないと、そういう噂ですか…?」
リッター「そうだ。今日ということ、俺や白姫様の名前を伏せればあとの言い方は任せる。とにかく、新しい王が今のハイルを乗っ取る可能性があるという話を流してほしい」
兵士「それは簡単ですが、そんなものでいいんでしょうか…?」
リッター「構わない。だが、さっき言った通り時間と俺と白姫の名前だけは"絶対に"出すんじゃない」
兵士「は、はい…分かりました……!」

リッターは承諾した兵士に、思い切り良い笑顔で両肩を強く叩くと、「お前が頼りだぞ!」と言った。強い痛みと言葉は兵士の脳裏にしっかりと焼き付き、倒れながら聞いていたもう一人の兵士も同じように頷いたあと、二人は廊下の先へと消えて行った。

魔剣士(これも何かの作戦なのか……?)

首を傾げる魔剣士。すると、リッターは兵士が消えたのを見計らい廊下を戻ってきて、魔剣士へと笑いながら挨拶をしてきたのだった。

リッター「ハッハッハ、魔剣士!良い朝だな!サインは貰って来たのか!」
魔剣士「朝からうるせーな、しっかり貰ってきたっつーの」
リッター「そうかそうか。今のやり取りは聞いていたか?」
魔剣士「まぁ…」
リッター「そうか。なら俺が兵士を許したのは最悪かもしれないが、彼らとて騎士団のゴミ拾いをさせられて鬱憤が溜まっていたことも充分に理解してやってくれ」
魔剣士「…」

言われずとも、分かっている。それを許したリッターは凄いと思うし、味方に引き入れることなんて考えもしなかった。

魔剣士「ま、まぁ長々と話はしてたが、結局のところ白姫とバンシィを救ってくれたっていうことで…良いんだよな」
リッター「結果的にはそうなってしまったな」
魔剣士「別に否定しなくていいっつーの。というかアンタ、何を考えてんだ?」
リッター「む?」
魔剣士「ただの兵士を味方に引き入れて、さっきの噂を流そうとしたのって、何か意味があるのか?」
リッター「……心理的なものだ。今日中には結果が出るはずだ。それまで楽しみにしておくといい」
魔剣士「はぁ?」

何のことか分からず、問い詰めようとする魔剣士。だが、後ろのほうから目を覚ましたリヒトがいつの間にか立っていた。

リヒト「何か、朝から騒がしいですが…何かあったのですか……?」
リッター「おぉリヒト、おはよう!」
リヒト「あっ、リッターさん…おはようございます。昨晩は有難うございました」
リッター「いや何、構わないことだ。それに当然でもある」
魔剣士「……ンだ?」

どうやら魔剣士がいなかった間、リッターは何かをしたらしい。

リヒト「あ、えっとですね。実はリッターさんが、昨日の夜にディナーへ招待してくれまして……」
魔剣士「ディナー…?」
リッター「うむ、折角の王城での一夜だ。本来ならば危険なことだったが、合間を見て王室ご用達ということでディナーを組んだんだ」
魔剣士「何……」

意外にも、リッターは一行に対して世話を焼いていたようだ。話によれば、昨晩、コックたちに近隣の偉い人が来ると言って、機密事項ということでシャル以外のメイドは通さない状態で高級な料理を食したらしい。

リッター「貧困がいる中で反感もあるかもしれないが、王家として尊厳を取り戻すためには充分過ぎる夜だったと思うぞ」
リヒト「白姫さん、かなりマナーが美しかったですよ…。やっぱり王家の人間だったんだなって改めて感じました」
魔剣士「ふーん……」

そういえば、氷山帝国の夜にあったパーティでも白姫は意外とそつなく挨拶等をこなしていたことを思い出す。

リッター「ハハハ、まぁそういうことだ。魔剣士も、もしかすると戻ってくるのではないかと思って用意していたのだが、やはり無理だと分かり俺が食ってしまったぞ」
魔剣士「いや、別に良いけどよ」
リッター「それじゃ、俺は騎士団の仕事に戻る。色々と準備があるのでな、うむ」
魔剣士「おう…」

リッターは高笑いしながら、向こう側へと消えて行った。
残った魔剣士は暫く何かを考えている様子だったが、リヒトは構わず声をかける。

リヒト「魔剣士さん」
魔剣士「んあ?」
リヒト「実は僕、当初リッターさんを疑っていました」
魔剣士「それは仕方ないことだろう」

ひれ伏したとはいえ、野心やブリレイに対する忠誠心がゼロであるとは言い切れない。心配をしていたのは魔剣士も同じだった。

リヒト「ですが、昨日のディナーの前に部屋でお話しをしたんです」
魔剣士「お話し?」
リヒト「はい。リッターさんは恥ずかしそうに笑ってましたが、シャルさん曰く、王城の地獄を救ってくれたのはリッターさんだったそうですよ」
魔剣士「……地獄だって?そりゃどういうことだ」
リヒト「はい、えっと……」

リヒトによれば、王城は騎士団の面子が入るようになってから地獄だったそうだ。
自由気ままに暴れる面子を見て見ぬふり、騎士団に反論する兵士は殺されることすら有り、メイドたちへの暴力も日常茶飯事であったという。

リヒト「それを、リッターさんが団長として任命されてから一新されたらしいです。外側に勝手に出てしまう面子はどうしても無理だったらしいのですが……」
魔剣士「そういう行為を無くしたってのか?」
リヒト「はい。僕が騎士団に来る以前のことで、ブレイダーとしての記憶は無いので真実は分かりませんが、シャルさんの言い方的には間違い無いと思います」
魔剣士「……リッターって奴は一体何をしたいんだ?」

不思議な点がいくつかあるが、アサシンやブリレイとは違い、味方であることへの疑念。
団長に任命された時は操られていたということもあるが、ルールを守ろうとする変に律儀な部分。また、幻惑が解けても王城に居座ろうして魔剣士への戦いを挑んだり、敗北と同時に絶対の忠誠を誓ったり、わけが分からない男だった。

リヒト「ですが、今は味方であるとハッキリと分かります」
魔剣士「……それは分かってる。白姫を救ってくれたことも、アイツの意見だってウィッチが賛同するほど有意義なものだったし、本気で俺らの味方についたことは理解してる」
リヒト「どういう方なんでしょうか」
魔剣士「オッサン…、猛竜騎士やブリレイの時代から今もずっと有名な冒険者だっていう話だが…。俺らの世代にゃ馴染みがねー奴だよな」
リヒト「あはは、僕たちの世代で最強の名を持つとすれば魔剣士さんになりますね」
魔剣士「フハハッ、さぁてなぁ…?」

魔剣士は嬉しそうに笑う。否定しないあたり、実は最強であると思っているのかもしれない。

リヒト「それじゃ魔剣士さん、これからどうしますか?」
魔剣士「…ん、何がだ」
リヒト「物音で起きたのもあるんですが、朝早いですし朝風呂に行こうかなって思ってて。白姫さんとバンシィも行くって言ったんですが、まさかお風呂まで守りに着いていくわけにもいかず……」
魔剣士「……その精神は立派だが、な」

"こつんっ"と額を叩く。

リヒト「あいたっ!」
魔剣士「何かあった時に浴場だったら声くらい聞こえるだろ。守るつもりなら、一緒に出掛けるべきだったな」
リヒト「うっ…、ごめんなさい……」
魔剣士「しかしその男として着いていかない心意気は立派だと思うがな。…ま、俺らも風呂にいくか?」
リヒト「あ、はいっ!」

二人は白姫たちの護衛がてら、彼女らの声が聞こえる男風呂で、自分たちの休息のために大浴場でゆったりと湯船に浸かったのだった。

………


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