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第八章【東方大地】
8-12 翼竜「前編」
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魔剣士たちが出発して4日後。
いよいよ、彼らは砂国の道"サンドロック"入口となる谷、アイアンへと辿り着いていた。
猛竜騎士「ついにアイアンへと辿りついたわけだが」
白姫「あ、アイアンってこんな……」
魔剣士「冗談だろ?」
テイル「何で冗談なのよ。ここを抜けないと砂国には着かないんだから」
魔剣士「いや、だけどよ……!」
四人の目の前には、本当に底が見えない谷が広がっていた。しかも、底だけでなく"正面"の距離も測ることが出来ず、遥か遠くに対面が霞んで見える程で、谷の奥に何か得体のしれない声が"ギャアギャア"と魔獣の存在を告げていた。
魔剣士「星の裂け目なんじゃねーのココ……」
テイル「あらたまには鋭い」
魔剣士「そうなのか!?」
テイル「そう呼ばれてるだけ、だけどね」
魔剣士「あっそう……」
口には出せないが、正直そこに立っているだけで恐怖すら感じることができた。
魔剣士「どうやって通るんだよ……」
テイル「んーと、もうちょっと北側…この谷の右側に進むと橋があるからそこを伝っていく感じね」
魔剣士「よく橋なんか架けようと思ったな…。そこしか道はないのか?」
テイル「旧橋は左の南側にあるけど、随分と長いこと使われてボロボロになっちゃってるって話は聞いてるけど」
魔剣士「橋じゃなくて、谷の終わりとかはねーの?」
テイル「さぁ…。話ではこの谷は東方大地を裂く谷で、底は海が流れてるって聞いたけど……」
魔剣士「マジかよ……」
どのみち、橋を通るしかないらしい。
テイル「それなりに広い石橋だったはずだし、大丈夫でしょ」
魔剣士「まぁ道が無いのなら仕方ねぇな……」
猛竜騎士「じゃ、馬車に乗り直すか。行くぞ」
白姫「はいっ」
魔剣士「へいよ」
テイル「りょーかい」
四人は馬車に乗り直すと北側へと馬を走らせて数分後、それはすぐに現れた。
魔剣士「うおっ…!」
白姫「お、おっきぃ!?」
猛竜騎士「ここまで足を踏み入れたのは初めてだが、凄いな……」
テイル「久しぶりに見たなぁー……」
巨大な灰色の石橋が谷の先まで長く続き、昼間だというのに強く輝く炎の魔石の灯り台が、橋に一定の間隔で設置されてゴウゴウと音を立てて燃えていた。
魔剣士「氷山帝国にあったのと比べてだいぶ古風な感じもすっけど、それでもクッソ立派な橋じゃねえか!」
テイル「私の国が近隣の村とかと協力して造ったって聞いてるんだけど、その時はさすがに賊たちも手出しはしなかったみたいよ」
猛竜騎士「何て壮大な光景なのか…」
白姫「こんな凄い物が造れるなんて……」
辺りには谷からの風によって砂煙が舞いあがり、燃える炎と相まって凄まじい光景となっていた。脇には底の見えない谷が、目の前には砂煙と巨大な石橋、そこを走る馬車の姿はまさに魔剣士の想像した"冒険者"の形そのものだった。
魔剣士「燃えてきたぁぁーーっ!!?」
興奮を抑えきれず、声を上げる魔剣士。
テイル「うるっさ!」
魔剣士「これだよ、これこれ!見知らぬ土地で、こんな光景、すげぇよマジで!!」
白姫「うん、気持ちは凄く分かる…!なんか冒険してるって感じがする!」
猛竜騎士「今までもそんな場面は多かっただろうに。お前は本に出てくるようなシーンが大好きなんだな」
魔剣士「ハッハッハ、これであとは強大な敵でも出れば完璧だな!?」
テイル「勘弁してよ…、砂国に着くまではそんなことないほうがいいでしょ……」
魔剣士「チマチマ殺気を察するのも疲れたし、そろそろドカンと強大な敵とかさー!」
テイル「子どもじゃないんだから」
魔剣士「くーっ、ワクワクしてきたぜぇ!?」
ワクワクしてくるのは勝手だが、魔剣士の願いが変に叶ったのか、とあることが起きる。
魔剣士「……んお?」
何か、谷底から声が聞こえた。
"ギャア……"
そんな一言。先ほどから谷のほうから聞こえていた声が、妙に大きくなった気がした。
猛竜騎士「この声は……」
魔剣士「な、なんだ…?」
次第に、何かの声は近くなる。恐らくは魔獣の部類だろうが、正体は分からなかった。
猛竜騎士「……少し早く行ったほうが良さそうだ。橋を渡るぞ!」
魔剣士「お、おう!」
テイル「馬車のスピードを上げたほうがいいかも!何か近づいてるみたい!」
白姫「な、何が来てるの!?」
テイル「ここの話はあまり聞いてないから…、でもヤバイ奴だってことは分かるでしょ!」
魔剣士「ちっ…使えねぇ案内役だな!」
テイル「うっさいわね!」
白姫「こんな所まで喧嘩しないのーー!!」
……慌てる魔剣士たち。だが確実に、相手の気配までもが強くなっていく。
猛竜騎士「石橋に入るぞ!警戒は怠るな、魔剣士!」
魔剣士「ったりめぇだ!」
ついに、馬車は石橋へと踏み入る。息はすっかりあがっていたが、魔馬もまた気配を察してか、スピードを落とすどころかその足はどんどん早くなった。
猛竜騎士「思ったよりも強い気配だ……!振りきれん!」
テイル「もーっ!!魔剣士がそんなこと言うから、現実になっちゃったじゃないの!」
魔剣士「お、俺のせいかよ!?」
白姫「だから喧嘩しなーいっ!!」
石橋を猛スピードで駆ける馬車。しかし、魔剣士と猛竜騎士にはそれが既に無駄なことは分かっていた。
猛竜騎士(来る…か……!)
魔剣士(余計なこと言った俺のせいなのか…!?)
剣を抜き、槍を構える。
テイル「……あっ、そ…そうだ…!」
魔剣士「なんだ!?」
テイル「思い出した!この谷に棲んでる相手!」
魔剣士「おせぇよ!何が棲んでんだよ!」
テイル「谷の崖に住処をつくってる、飛行種……」
魔剣士「飛行種のなんだ……?」
テイル「……ワ…」
魔剣士「ワ……?」
"ズドォンッ!!"
ふいに…石橋前方から爆音が響いた。頑丈な石橋のおかげで崩れることはなかったが、わずかに"ビキリ"と音が聞こえた。
そして、魔剣士たちが音に反応して前を向いた時。
ソイツは我が物顔で「通るな」と言わんばかりに此方を睨み付けていた。
テイル「ワイバーン!」
魔剣士「ワ…ワイバーン!!?」
白姫「ド、ドラゴンーっ!?」
猛竜騎士「おいおい……」
―――蒼き翼竜、ワイバーン。
厳密にいえば高貴たる竜種ではないのだが、その背格好からそう呼ばれている。
もちろん"竜"の名を授かるくらいにその実力は決して低くはない。
また、大きさは成人男性の3~4倍程度と小柄なものの、飛行種かつ魔法も扱えるため冒険者にとって出会いたくない相手の一匹である。
魔剣士「ワイバーン……」
テイル「そうよ、翼竜ワイバーン!」
両腕には鱗のある羽根を拡げ、顔はドラゴンそのもの、尾は巨大で、鋭い爪は一撃をくらえばまともではすまないだろう。
その風格たるや今まで出会った魔族の比ではない。魔馬は怯み、完全に足を止めてしまった。
猛竜騎士「魔剣士……」
魔剣士「分かってるよ……!」
二人は馬車を降り、武器を構える。
テイル「ちょっと、戦う気!?」
魔剣士「馬は止まっちまったし、戦う他ねーだろ」
テイル「ワイバーンの強さ分かってるの!?」
魔剣士「知らん」
テイル「知らないって…!普通に相手にしたら殺されちゃうわよ!?」
魔剣士「……お前が思うほど俺は弱くねーよ、バーカ」
テイル「ちょっ…!」
猛竜騎士「魔剣士、行くぞ」
魔剣士「おうよ」
テイルの心配をよそに、魔剣士と猛竜騎士はワイバーンへと近づいていく。
テイル「もう、普通なら逃げる相手なのに!」
白姫「だ、大丈夫だよ!あの二人ならきっと勝てるから!」
テイル「ワイバーンがそう簡単に倒せるわけないでしょ!…っていうか何でワイバーンが……」
白姫「さっきからずっと声がしてたけど……」
テイル「谷の途中に住処にしてたからね、確か。だけど、普通は襲って来たりしないはずなんだけど……」
白姫「そうなの?」
テイル「うん…、ワイバーンは確かに肉食だけど、決して敵意を向けない相手に攻撃はしてこないはず……」
白姫「もしかして魔剣士が"戦いたいぞー"って思ったから…?」
テイル「そんなちっさいことで怒ったりしないわよ。全く、どうして……!」
その頃、二人が会話を繰り広げている間にワイバーンへと距離を詰める魔剣士と猛竜騎士は、いよいよ攻撃を仕掛けるばかりとなっていた。
魔剣士「さて、どうすんべ……」
猛竜騎士「決して気を許すな。そうそう簡単にどうなる相手じゃない」
魔剣士「俺の魔法で一発与えてみるか…?」
猛竜騎士「橋を壊さないようにな。俺たちが奈落の底に落ちたらそれで終わりだ」
魔剣士「分かってますよ…っと!!」
一点集中し、剣を地面へと突き刺すと、自身に赤いオーラを纏った。
全ての魔法を無に帰す、対魔法の究極の完成形ともいえる闇魔法のオーラは、燃え上がるようにグネグネと形状を変えながらワイバーンのみを狙う。
魔剣士「オーラの形を操れれば、アイツだけを狙うことも出来んじゃねーかってな!」
左手を伸ばし、オーラから放った火炎魔法はワイバーン目掛けて勢いよく飛んでいく。
見た目は通常の火炎放射だが、元々オーラを利用して放った火炎魔法は"通常の防御壁"の魔法類は無視して相手を貫通することになる。
猛竜騎士(いつの間にオーラの形成を…!)
放たれた火炎魔法は、直線状に伸びてワイバーンへと襲い掛かった。しかし、ワイバーンは動じることなく片翼でそれを防ぐ形を取り、直撃を受けた。
魔剣士「うおっ、簡単に命中した!?」
猛竜騎士「……いや、あれは」
爆風が起き、空気が振動に揺れる。一瞬、その攻撃だけで倒したかとも思われたが、そんな簡単な相手ではない。
魔剣士「……うそん」
もくもくと立ち上がる煙の中から、傷一つ負っていないワイバーンの姿が現れたのだった。
猛竜騎士「やはり……」
魔剣士「うそん!俺のオーラで作った魔法攻撃だぞ!?耐性があっても貫通するんじゃねーの!?」
猛竜騎士「闇魔法による消失は、魔法に対するものだけだ。アイツが持っているのは耐性という名の鱗…」
魔剣士「はァ!?」
猛竜騎士「物理面で魔法を防ぐ相手に、その効力は意味をなさないということだ」
魔剣士「じゃ、じゃあ俺の魔法でもアイツにダメージを与えられないのか!?」
猛竜騎士「いや、本気の魔法なら鱗をめくって一撃を与えることくらいは出来るだろうが……」
魔剣士「橋が壊れちまうのね……」
猛竜騎士「逃げようにも、飛行種故に橋からは逃さないだろうな。俺らに対し行動制限をかけてきやがった……」
魔剣士「思ったよりも頭がいいってわけか……」
先ほどの攻撃で憤慨したワイバーンは、激昂の叫びをあげ、こちらへ一歩を踏み出した。
魔剣士「どうすんだコレ……」
猛竜騎士「倒す他はないが、いかんせん魔法が効く相手じゃないとお前も手が出せないだろう」
魔剣士「剣撃で何とかなるか?」
猛竜騎士「鱗を弾くにはモーニングスター類の打撃力が必要だ」
魔剣士「手の打ちようがねぇじゃねえか!?」
猛竜騎士「だから、狙うは生き物であるが故の弱点に絞る」
魔剣士「どこだ」
猛竜騎士「……眼、だ」
生物である以上、弱点というべき点は必ず存在する。いくら竜種であるとはいえ、両目を失えば一気に畳み掛けることも出来るだろう。
猛竜騎士「魔剣士、援護をしろ」
魔剣士「はい?」
猛竜騎士「名に恥じない様、巨大トカゲの一匹や二匹…この槍で粉砕してみせるってことよ」
魔剣士「おぉ…?」
そう言うと、猛竜騎士は姿勢を低くして槍を前方に向け、無属性の魔力を全身に込めた。刹那、ワイバーンがもう一歩を踏み出した足が"ズン"と音を立てる前に、猛竜騎士の姿が消える。
魔剣士(縮地!)
微かな魔力で、その軌跡は辿ることが出来たが、猛竜騎士は橋の欄干を蹴飛ばしながらジグザグに動き、ワイバーンの後方へと回っていた。
猛竜騎士「……竜突ッ!!」
すかさず、尾に触れないように本体への一撃を繰り出すが、鈍い音に矛先は硬い鱗に弾かれる。
ワイバーンの反応は一歩遅かったが、猛竜騎士めがけて尾を振り回した。
猛竜騎士「…シッ!」
巨大な尾のぶん回しを、脚に込めた魔力による筋力強化で高く飛び上がりそれを避ける。
空中に陣取った猛竜騎士は、「魔剣士、そちら側に集中させろ!」と叫んだ。
魔剣士「わかったっつーの!炎が効かねぇなら、足元を凍らせてやるぜッ!!」
青い魔力を込める……が、それは"ぼしゅん…"と情けない音と共に不発に終わった。
魔剣士「ハレッ!?」
猛竜騎士「……ばっ、馬鹿野郎!水属性のほとんど存在しない場所で氷が発動できるかァーッ!!」
魔剣士「あら……」
予想しなかった展開。
本来ならば、猛竜騎士は魔剣士に気が向いたワイバーンに対し空中から純粋な物理の一撃で孔を空けるつもりだったのだが、失敗したことでワイバーンは翼を拡げ、猛竜騎士めがけて空へと舞い上がった。
猛竜騎士「竜と空中戦とか正気の沙汰じゃねぇぞ…!」
不味いと踏んだ猛竜騎士は、慌てて体勢を整える。
猛竜騎士「う、うらぁぁああぁぁっ!!!」
身体を思いきり回転させ、威力を上げて奥義"落竜"を放った。真下に伸びる槍撃は、ワイバーンの繰り出した爪撃と衝突し激しい火花を散らす。
猛竜騎士「ぐっ…!うっ…おぉっ……!」
しかし、突進速度、パワーは遥かにワイバーンに軍配が上がる。
猛竜騎士「ぐあっ!!」
天高く、吹き飛ばされる。
魔剣士「オッサンッ!!」
猛竜騎士「くっそ…!魔剣士、どうにか魔法は届くかぁっ!!」
魔剣士「つっても、炎は効かねぇし…!」
魔剣士「…ッ」
魔剣士「……そ、そうか、ならっ!」
赤きオーラを即時で変換し、緑のオーラへと替える。
魔剣士「……風刃ッ!!」
空気のあるところ、無造作に宿る緑の魔力…風。それは刃となりて、ワイバーンの羽根をもぎ取らんと小さい竜巻のように巻き上がった。
ワイバーン「ッ!!」
強い魔力に反応したワイバーンは、下を向いて、吹きあがる刃から身を守ろうと両翼で身体を隠す。
"スパスパッ!"と軽快な音は聞こえたが、それは鱗を僅かに削った程度でまるでダメージはない。
だが、その一瞬で猛竜騎士は脚にわずかな風魔法を宿し、空中を蹴って地面へと着地した。
猛竜騎士「あぶ…なかったな……!」
魔剣士「オッサン、大丈夫か!」
猛竜騎士「死ぬかと思っただろうが!竜に空中戦を挑むバカがどこにいる!」
魔剣士「ハハ、つい水属性が使いモンにならないこと忘れてて」
猛竜騎士「……っと、話はあとだ!まだ来るぞ!」
魔剣士「というか、ここまでやっても全然ダメージが与えられねぇとか、ワイバーン強すぎるだろ……」
…………
……
…
魔剣士たちが出発して4日後。
いよいよ、彼らは砂国の道"サンドロック"入口となる谷、アイアンへと辿り着いていた。
猛竜騎士「ついにアイアンへと辿りついたわけだが」
白姫「あ、アイアンってこんな……」
魔剣士「冗談だろ?」
テイル「何で冗談なのよ。ここを抜けないと砂国には着かないんだから」
魔剣士「いや、だけどよ……!」
四人の目の前には、本当に底が見えない谷が広がっていた。しかも、底だけでなく"正面"の距離も測ることが出来ず、遥か遠くに対面が霞んで見える程で、谷の奥に何か得体のしれない声が"ギャアギャア"と魔獣の存在を告げていた。
魔剣士「星の裂け目なんじゃねーのココ……」
テイル「あらたまには鋭い」
魔剣士「そうなのか!?」
テイル「そう呼ばれてるだけ、だけどね」
魔剣士「あっそう……」
口には出せないが、正直そこに立っているだけで恐怖すら感じることができた。
魔剣士「どうやって通るんだよ……」
テイル「んーと、もうちょっと北側…この谷の右側に進むと橋があるからそこを伝っていく感じね」
魔剣士「よく橋なんか架けようと思ったな…。そこしか道はないのか?」
テイル「旧橋は左の南側にあるけど、随分と長いこと使われてボロボロになっちゃってるって話は聞いてるけど」
魔剣士「橋じゃなくて、谷の終わりとかはねーの?」
テイル「さぁ…。話ではこの谷は東方大地を裂く谷で、底は海が流れてるって聞いたけど……」
魔剣士「マジかよ……」
どのみち、橋を通るしかないらしい。
テイル「それなりに広い石橋だったはずだし、大丈夫でしょ」
魔剣士「まぁ道が無いのなら仕方ねぇな……」
猛竜騎士「じゃ、馬車に乗り直すか。行くぞ」
白姫「はいっ」
魔剣士「へいよ」
テイル「りょーかい」
四人は馬車に乗り直すと北側へと馬を走らせて数分後、それはすぐに現れた。
魔剣士「うおっ…!」
白姫「お、おっきぃ!?」
猛竜騎士「ここまで足を踏み入れたのは初めてだが、凄いな……」
テイル「久しぶりに見たなぁー……」
巨大な灰色の石橋が谷の先まで長く続き、昼間だというのに強く輝く炎の魔石の灯り台が、橋に一定の間隔で設置されてゴウゴウと音を立てて燃えていた。
魔剣士「氷山帝国にあったのと比べてだいぶ古風な感じもすっけど、それでもクッソ立派な橋じゃねえか!」
テイル「私の国が近隣の村とかと協力して造ったって聞いてるんだけど、その時はさすがに賊たちも手出しはしなかったみたいよ」
猛竜騎士「何て壮大な光景なのか…」
白姫「こんな凄い物が造れるなんて……」
辺りには谷からの風によって砂煙が舞いあがり、燃える炎と相まって凄まじい光景となっていた。脇には底の見えない谷が、目の前には砂煙と巨大な石橋、そこを走る馬車の姿はまさに魔剣士の想像した"冒険者"の形そのものだった。
魔剣士「燃えてきたぁぁーーっ!!?」
興奮を抑えきれず、声を上げる魔剣士。
テイル「うるっさ!」
魔剣士「これだよ、これこれ!見知らぬ土地で、こんな光景、すげぇよマジで!!」
白姫「うん、気持ちは凄く分かる…!なんか冒険してるって感じがする!」
猛竜騎士「今までもそんな場面は多かっただろうに。お前は本に出てくるようなシーンが大好きなんだな」
魔剣士「ハッハッハ、これであとは強大な敵でも出れば完璧だな!?」
テイル「勘弁してよ…、砂国に着くまではそんなことないほうがいいでしょ……」
魔剣士「チマチマ殺気を察するのも疲れたし、そろそろドカンと強大な敵とかさー!」
テイル「子どもじゃないんだから」
魔剣士「くーっ、ワクワクしてきたぜぇ!?」
ワクワクしてくるのは勝手だが、魔剣士の願いが変に叶ったのか、とあることが起きる。
魔剣士「……んお?」
何か、谷底から声が聞こえた。
"ギャア……"
そんな一言。先ほどから谷のほうから聞こえていた声が、妙に大きくなった気がした。
猛竜騎士「この声は……」
魔剣士「な、なんだ…?」
次第に、何かの声は近くなる。恐らくは魔獣の部類だろうが、正体は分からなかった。
猛竜騎士「……少し早く行ったほうが良さそうだ。橋を渡るぞ!」
魔剣士「お、おう!」
テイル「馬車のスピードを上げたほうがいいかも!何か近づいてるみたい!」
白姫「な、何が来てるの!?」
テイル「ここの話はあまり聞いてないから…、でもヤバイ奴だってことは分かるでしょ!」
魔剣士「ちっ…使えねぇ案内役だな!」
テイル「うっさいわね!」
白姫「こんな所まで喧嘩しないのーー!!」
……慌てる魔剣士たち。だが確実に、相手の気配までもが強くなっていく。
猛竜騎士「石橋に入るぞ!警戒は怠るな、魔剣士!」
魔剣士「ったりめぇだ!」
ついに、馬車は石橋へと踏み入る。息はすっかりあがっていたが、魔馬もまた気配を察してか、スピードを落とすどころかその足はどんどん早くなった。
猛竜騎士「思ったよりも強い気配だ……!振りきれん!」
テイル「もーっ!!魔剣士がそんなこと言うから、現実になっちゃったじゃないの!」
魔剣士「お、俺のせいかよ!?」
白姫「だから喧嘩しなーいっ!!」
石橋を猛スピードで駆ける馬車。しかし、魔剣士と猛竜騎士にはそれが既に無駄なことは分かっていた。
猛竜騎士(来る…か……!)
魔剣士(余計なこと言った俺のせいなのか…!?)
剣を抜き、槍を構える。
テイル「……あっ、そ…そうだ…!」
魔剣士「なんだ!?」
テイル「思い出した!この谷に棲んでる相手!」
魔剣士「おせぇよ!何が棲んでんだよ!」
テイル「谷の崖に住処をつくってる、飛行種……」
魔剣士「飛行種のなんだ……?」
テイル「……ワ…」
魔剣士「ワ……?」
"ズドォンッ!!"
ふいに…石橋前方から爆音が響いた。頑丈な石橋のおかげで崩れることはなかったが、わずかに"ビキリ"と音が聞こえた。
そして、魔剣士たちが音に反応して前を向いた時。
ソイツは我が物顔で「通るな」と言わんばかりに此方を睨み付けていた。
テイル「ワイバーン!」
魔剣士「ワ…ワイバーン!!?」
白姫「ド、ドラゴンーっ!?」
猛竜騎士「おいおい……」
―――蒼き翼竜、ワイバーン。
厳密にいえば高貴たる竜種ではないのだが、その背格好からそう呼ばれている。
もちろん"竜"の名を授かるくらいにその実力は決して低くはない。
また、大きさは成人男性の3~4倍程度と小柄なものの、飛行種かつ魔法も扱えるため冒険者にとって出会いたくない相手の一匹である。
魔剣士「ワイバーン……」
テイル「そうよ、翼竜ワイバーン!」
両腕には鱗のある羽根を拡げ、顔はドラゴンそのもの、尾は巨大で、鋭い爪は一撃をくらえばまともではすまないだろう。
その風格たるや今まで出会った魔族の比ではない。魔馬は怯み、完全に足を止めてしまった。
猛竜騎士「魔剣士……」
魔剣士「分かってるよ……!」
二人は馬車を降り、武器を構える。
テイル「ちょっと、戦う気!?」
魔剣士「馬は止まっちまったし、戦う他ねーだろ」
テイル「ワイバーンの強さ分かってるの!?」
魔剣士「知らん」
テイル「知らないって…!普通に相手にしたら殺されちゃうわよ!?」
魔剣士「……お前が思うほど俺は弱くねーよ、バーカ」
テイル「ちょっ…!」
猛竜騎士「魔剣士、行くぞ」
魔剣士「おうよ」
テイルの心配をよそに、魔剣士と猛竜騎士はワイバーンへと近づいていく。
テイル「もう、普通なら逃げる相手なのに!」
白姫「だ、大丈夫だよ!あの二人ならきっと勝てるから!」
テイル「ワイバーンがそう簡単に倒せるわけないでしょ!…っていうか何でワイバーンが……」
白姫「さっきからずっと声がしてたけど……」
テイル「谷の途中に住処にしてたからね、確か。だけど、普通は襲って来たりしないはずなんだけど……」
白姫「そうなの?」
テイル「うん…、ワイバーンは確かに肉食だけど、決して敵意を向けない相手に攻撃はしてこないはず……」
白姫「もしかして魔剣士が"戦いたいぞー"って思ったから…?」
テイル「そんなちっさいことで怒ったりしないわよ。全く、どうして……!」
その頃、二人が会話を繰り広げている間にワイバーンへと距離を詰める魔剣士と猛竜騎士は、いよいよ攻撃を仕掛けるばかりとなっていた。
魔剣士「さて、どうすんべ……」
猛竜騎士「決して気を許すな。そうそう簡単にどうなる相手じゃない」
魔剣士「俺の魔法で一発与えてみるか…?」
猛竜騎士「橋を壊さないようにな。俺たちが奈落の底に落ちたらそれで終わりだ」
魔剣士「分かってますよ…っと!!」
一点集中し、剣を地面へと突き刺すと、自身に赤いオーラを纏った。
全ての魔法を無に帰す、対魔法の究極の完成形ともいえる闇魔法のオーラは、燃え上がるようにグネグネと形状を変えながらワイバーンのみを狙う。
魔剣士「オーラの形を操れれば、アイツだけを狙うことも出来んじゃねーかってな!」
左手を伸ばし、オーラから放った火炎魔法はワイバーン目掛けて勢いよく飛んでいく。
見た目は通常の火炎放射だが、元々オーラを利用して放った火炎魔法は"通常の防御壁"の魔法類は無視して相手を貫通することになる。
猛竜騎士(いつの間にオーラの形成を…!)
放たれた火炎魔法は、直線状に伸びてワイバーンへと襲い掛かった。しかし、ワイバーンは動じることなく片翼でそれを防ぐ形を取り、直撃を受けた。
魔剣士「うおっ、簡単に命中した!?」
猛竜騎士「……いや、あれは」
爆風が起き、空気が振動に揺れる。一瞬、その攻撃だけで倒したかとも思われたが、そんな簡単な相手ではない。
魔剣士「……うそん」
もくもくと立ち上がる煙の中から、傷一つ負っていないワイバーンの姿が現れたのだった。
猛竜騎士「やはり……」
魔剣士「うそん!俺のオーラで作った魔法攻撃だぞ!?耐性があっても貫通するんじゃねーの!?」
猛竜騎士「闇魔法による消失は、魔法に対するものだけだ。アイツが持っているのは耐性という名の鱗…」
魔剣士「はァ!?」
猛竜騎士「物理面で魔法を防ぐ相手に、その効力は意味をなさないということだ」
魔剣士「じゃ、じゃあ俺の魔法でもアイツにダメージを与えられないのか!?」
猛竜騎士「いや、本気の魔法なら鱗をめくって一撃を与えることくらいは出来るだろうが……」
魔剣士「橋が壊れちまうのね……」
猛竜騎士「逃げようにも、飛行種故に橋からは逃さないだろうな。俺らに対し行動制限をかけてきやがった……」
魔剣士「思ったよりも頭がいいってわけか……」
先ほどの攻撃で憤慨したワイバーンは、激昂の叫びをあげ、こちらへ一歩を踏み出した。
魔剣士「どうすんだコレ……」
猛竜騎士「倒す他はないが、いかんせん魔法が効く相手じゃないとお前も手が出せないだろう」
魔剣士「剣撃で何とかなるか?」
猛竜騎士「鱗を弾くにはモーニングスター類の打撃力が必要だ」
魔剣士「手の打ちようがねぇじゃねえか!?」
猛竜騎士「だから、狙うは生き物であるが故の弱点に絞る」
魔剣士「どこだ」
猛竜騎士「……眼、だ」
生物である以上、弱点というべき点は必ず存在する。いくら竜種であるとはいえ、両目を失えば一気に畳み掛けることも出来るだろう。
猛竜騎士「魔剣士、援護をしろ」
魔剣士「はい?」
猛竜騎士「名に恥じない様、巨大トカゲの一匹や二匹…この槍で粉砕してみせるってことよ」
魔剣士「おぉ…?」
そう言うと、猛竜騎士は姿勢を低くして槍を前方に向け、無属性の魔力を全身に込めた。刹那、ワイバーンがもう一歩を踏み出した足が"ズン"と音を立てる前に、猛竜騎士の姿が消える。
魔剣士(縮地!)
微かな魔力で、その軌跡は辿ることが出来たが、猛竜騎士は橋の欄干を蹴飛ばしながらジグザグに動き、ワイバーンの後方へと回っていた。
猛竜騎士「……竜突ッ!!」
すかさず、尾に触れないように本体への一撃を繰り出すが、鈍い音に矛先は硬い鱗に弾かれる。
ワイバーンの反応は一歩遅かったが、猛竜騎士めがけて尾を振り回した。
猛竜騎士「…シッ!」
巨大な尾のぶん回しを、脚に込めた魔力による筋力強化で高く飛び上がりそれを避ける。
空中に陣取った猛竜騎士は、「魔剣士、そちら側に集中させろ!」と叫んだ。
魔剣士「わかったっつーの!炎が効かねぇなら、足元を凍らせてやるぜッ!!」
青い魔力を込める……が、それは"ぼしゅん…"と情けない音と共に不発に終わった。
魔剣士「ハレッ!?」
猛竜騎士「……ばっ、馬鹿野郎!水属性のほとんど存在しない場所で氷が発動できるかァーッ!!」
魔剣士「あら……」
予想しなかった展開。
本来ならば、猛竜騎士は魔剣士に気が向いたワイバーンに対し空中から純粋な物理の一撃で孔を空けるつもりだったのだが、失敗したことでワイバーンは翼を拡げ、猛竜騎士めがけて空へと舞い上がった。
猛竜騎士「竜と空中戦とか正気の沙汰じゃねぇぞ…!」
不味いと踏んだ猛竜騎士は、慌てて体勢を整える。
猛竜騎士「う、うらぁぁああぁぁっ!!!」
身体を思いきり回転させ、威力を上げて奥義"落竜"を放った。真下に伸びる槍撃は、ワイバーンの繰り出した爪撃と衝突し激しい火花を散らす。
猛竜騎士「ぐっ…!うっ…おぉっ……!」
しかし、突進速度、パワーは遥かにワイバーンに軍配が上がる。
猛竜騎士「ぐあっ!!」
天高く、吹き飛ばされる。
魔剣士「オッサンッ!!」
猛竜騎士「くっそ…!魔剣士、どうにか魔法は届くかぁっ!!」
魔剣士「つっても、炎は効かねぇし…!」
魔剣士「…ッ」
魔剣士「……そ、そうか、ならっ!」
赤きオーラを即時で変換し、緑のオーラへと替える。
魔剣士「……風刃ッ!!」
空気のあるところ、無造作に宿る緑の魔力…風。それは刃となりて、ワイバーンの羽根をもぎ取らんと小さい竜巻のように巻き上がった。
ワイバーン「ッ!!」
強い魔力に反応したワイバーンは、下を向いて、吹きあがる刃から身を守ろうと両翼で身体を隠す。
"スパスパッ!"と軽快な音は聞こえたが、それは鱗を僅かに削った程度でまるでダメージはない。
だが、その一瞬で猛竜騎士は脚にわずかな風魔法を宿し、空中を蹴って地面へと着地した。
猛竜騎士「あぶ…なかったな……!」
魔剣士「オッサン、大丈夫か!」
猛竜騎士「死ぬかと思っただろうが!竜に空中戦を挑むバカがどこにいる!」
魔剣士「ハハ、つい水属性が使いモンにならないこと忘れてて」
猛竜騎士「……っと、話はあとだ!まだ来るぞ!」
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…………
……
…
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