魔剣士「お姫様の家出に付き合うことになった」【現在完結】

Naminagare-波流-

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第八章【東方大地】

8-11 アサシンという男

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―――数十分後。

魔剣士「ぷはぁーっ!」
白姫「ご馳走様でした」
テイル「ご馳走様」
猛竜騎士「うん、我ながら良い味付けだった」

四人は猛竜騎士の料理を堪能し、一息ついたところだった。

魔剣士「乾燥食料でも、調味料とか油、水なんかでこんなに美味くなるのか……」
猛竜騎士「休憩スポットとしてはベストだった。魔獣や賊がいたら、こんな匂いを出して料理なんかできないからな」
テイル「そうじゃなくても、普通は東方大地でこんな料理はしないけどね……」
白姫「そうなの?」
テイル「この地を旅する者なら、火を炊いたり匂いを出すことは餌になりますって合図と一緒って分かってるから絶対にやらないことよ?」
白姫「そ、そうなんだ!?」
テイル「当たり前でしょ」
白姫「へぇ~……」

この大地でそんなことをするのは、よっぽどなバカかよっぽどな自信家だけである。

テイル「ま、後者なんだろうけど」
魔剣士「何がだ?」
テイル「なんでもない」
魔剣士「あ、あぁそう……」
テイル「それよりも、魔剣士たちは本当に指名手配をされてたの?」
魔剣士「なんだ藪から棒に」
テイル「昨日は私の話をしたんだから、貴方たちのことをもうちょっと詳しいこと聞きたいなって思っただけ」
魔剣士「……ククッ、話をしてほしければ懇願するがい…」

"バキィッ!"
強力なストレートが、魔剣士の頬をとらえた。

魔剣士「いぎ……!」
テイル「生意気」
魔剣士「ほ、ほまえはすぐに手を出すクセをやへねへか……!」
テイル「うるさい。いいから話をしなさい」
魔剣士「ほまへは…ほんほひ……!」
白姫「て、テイルさんお話しはするから!」
テイル「…そう?」

白姫の言葉に、テイルは素直に拳を引っ込める。

魔剣士「アゴがハズれるかと思ったぞ……」
テイル「素直に話さないのが悪い」
魔剣士「……へいへい!そうですね!」
テイル「そうよ」
魔剣士「ぐ、ぐぬっ…!」
白姫「そ、それでテイルさんは何を聞きたいの?」
テイル「んー…、白姫ちゃんたちは魔剣士に巻き込まれてこうなったんでしょ?」
白姫「う、うーん…。巻き込まれたっていうか、巻き込んだっていうか……」

そもそもの発端は、白姫が「家出をしたい」と言ったことにあったわけで。……いや、魔剣士の誘拐が原因か。

魔剣士「お互いのせいでいいんじゃねーの?」
白姫「いいのかなぁ…」
魔剣士「論で言ったらキリねぇし、俺の誘拐のきっかけったらなぁ……」
白姫「私の国のせいで、お父様の…だから……」
魔剣士「そうなるわけで」
白姫「うー…」
魔剣士「いや、何度も言うがお前と冒険に出れたので全然いいんだぜ?」
白姫「私だって、旅が出来て良かったし、世界が私たちの国をどう思ってるか分かったし……」
魔剣士「だろ?そんじゃ、これで話はオシマイ」
白姫「うんっ」

何度も出てきた話題だけに、スッキリと話は終えた。

テイル「……ずいぶんと信頼しあってるみたいね」
白姫「ずっと旅をしてきたから……うん」
魔剣士「今が楽しくないわけじゃねーし、オッサンにも一応は感謝してるんだぜ?」
猛竜騎士「……一応かい」
魔剣士「闇魔法を会得出来たり、冒険らしい冒険もしてきたしな」
猛竜騎士「お前は運が良すぎるだけだ。本来なら、序盤にバウンティハンターに狩られてるだろうに」
魔剣士「あー…」

久しく、バウンティハンターとの戦いは起きていなかったものの。

テイル「……賞金首狩りね。今も襲われたりするの?」
魔剣士「いや、最初のほうこそ面倒な奴はいたが…今は全然だな」
猛竜騎士「西方、北方、東方、その中でも人のいない場所を回っているから当然といえば当然だろうけどな」
テイル「ふーん…」
魔剣士「……なぁ、この砂国の旅が終わったらどうするんだ?」
猛竜騎士「北方大地へ戻り、預かった依頼を完遂したことを伝えるだろうな」
魔剣士「その後は?」
猛竜騎士「……戦いに赴く可能性はゼロじゃない」
魔剣士「…」
猛竜騎士「セントラルとの戦争となった時、俺は北方大地側へとつくことになる」
魔剣士「…ハハ、なんか世界戦争的なイメージで言われると実感がわかねぇけどな」
猛竜騎士「どうなるか何て分からないもんだ。とにかく今は、出来ることをしっかりやるだけだ」
魔剣士「…おう」
白姫「…」
テイル「…」

白姫はそれを黙って聞いていたが、その目の輝きを失っている様子はなく、むしろ「分かっている」と訴えかけているようにも見えた。すると、この話題は良くないと思ったのか、テイルが"あること"を口にした。

テイル「……あっ、白姫ちゃん」
白姫「うん、なぁに?」
テイル「白姫ちゃんのお母さんって…どんな人なの?」
白姫「えっ?」
魔剣士(…!)

魔剣士はすかさず反応する。そういえば、白姫の"母親"については一度も話を聞いたことがなかったと気が付いたのだ。物心がついた頃には既に「父」である王がセントラルを仕切っていたし、誘拐した時からずっと母親についての話は聞いたことがなかった。

白姫「私のお母さんは、幼い頃に……」

―――亡くなっていた。

魔剣士「…ッ!」
テイル「あ…!」
白姫「病気だって聞いてたし、全然!ううん、大丈夫!」

すかさず、フォローを入れる。……だが。

テイル「……私と一緒」
白姫「えっ!」
魔剣士(…)

予想外だった。魔剣士にとっては、どちらも、衝撃的過ぎた言葉だっただろうが。

テイル「でも、今は気にしてないよ?」
白姫「う、うん私も……」
テイル「……今はどっちもいなくなっちゃったけどね」
白姫「…あっ……」
テイル「…っ」

暗くなる、空気。朝日はこんなにも眩しいというのに、目に見えて鈍痛すら感じる空気が広がっていく。

白姫「……テイルさん」
テイル「ん…」
白姫「でも、私もそうなる覚悟を持ったから。一緒って言ったら怒られるかもしれないけど、その悲しみは凄く…分かるから……!」
テイル「…白姫ちゃん」
白姫「ねっ…」
テイル「うんっ…」

世界とは残酷なものだ。こんな、幸せに満ちているはずの二人の姫が不幸を背負うことはなかっただろうと、猛竜騎士も顔をうつむかせた。
――しかし、そんなことを気にする様子がない人間が一人。

魔剣士「うほほっ!」

魔剣士は"縮地"を利用し、姫二人の後ろに瞬時に移動すると、それぞれ両脇から手を差し込み……。

白姫「ひっ、ひゃあっ!!?」
テイル「あぅっ!?」

二人の胸へと、触れた。

白姫「な、ななっー!何するのっ!?」
テイル「何てことすんだ、バカァッ!!」
魔剣士「いや、こういう場面かなって」
白姫「えぇっ!?」
テイル「ふ、ふざけんなぁっ!!」
魔剣士「あら、ご不満?」

ニヤニヤと笑い、両手をワキワキと二人の前に突き出した。

テイル「こ、この……!」
白姫「魔剣士~…!」

珍しく、白姫までも魔剣士をジロッと睨む。

魔剣士「……お前ら、すぐに落ち込みすぎ。自分の言葉に責任持てよ、姫様ならよ」
テイル「は、はぁ?」
白姫「え…?」

魔剣士「これから国を背負う立場になるんだろ?」
魔剣士「だったら、一度言ったことに責任を持ったほうがいいんじゃねえの?」
魔剣士「テイルはもう前しかみねぇっつったのに、そうやってウジウジしてたら国民もついてこねーだろうが」

テイル「あ……」

魔剣士「白姫は以前よりずっと大人っぽくなったというか、成長はしてると思うけどよ」
魔剣士「お前はどっちかっつーと、持ち前の明るさと優しくして笑顔にしてやるくらいのほうがお前らしい」
魔剣士「いつか言ったかもしれねぇが、そういう暗い雰囲気とか言いたいことがあったらよ、お…俺に吐いてけよ!?」

白姫「…魔剣士」

無茶苦茶な理論にも思えたが、どうやら今の二人には突き刺さるモノがあったらしい。

テイル「……ちょっと、心にくる言い方するじゃないの」
魔剣士「フッ…」
テイル「かっこつけてんじゃないわよ」
魔剣士「まっ、お前の場合は俺に弱さを見せる度にツツいてやるけどな!」
テイル「胸を!?」
魔剣士「気持ちをだよ!!」
テイル「……どのみち、えらいこと言ったところで許さないけどね♪」
魔剣士「ん?」
テイル「……旋風(つむじ)ッ!!」
魔剣士(げっ…!)

テイルはその場で腰を廻し、逆立ち姿勢を取ると全身を捩じって脚撃を繰り出した。それは見事に腹部を捉え、地面にある岩を砕く威力で魔剣士を吹き飛ばしたのだった。

テイル「……ひゅうっ」
白姫「うわっ…!」
猛竜騎士「わずかに脚部に風魔力を練り込み、突き飛ばしたのか…」
テイル「ふふっ、ちょっとスッキリした」

ゴリゴリと岩肌に削られた魔剣士。デリケートな乙女の胸を何なく触っておいての蹴り飛ばしは、天罰として軽いほうではないかとも思うが。
ちなみに魔剣士はすぐに起き上がり、怒りの表情でテイルに近づき、文句をぶつけた。

魔剣士「くっそ、奥義使いやがっただろテメェ!」
テイル「汚い、ツバを飛ばさないで」
魔剣士「ふっざけんな、俺じゃなかったら腹部エグれてるところだぞ!」
テイル「エグるつもりだったんだけど、そこまで元気だとちょっとびっくりしてるところよ」
魔剣士「闇魔法のガードで魔力消し飛ばしたんだよ!」
テイル「あー、なるほどね」
魔剣士「なるほどねじゃねえよ!」
猛竜騎士(……ということは、脚力だけで魔剣士を吹き飛ばしたってことにならないか?)
白姫(凄いなぁ…。私も武術を教えてもらおうかな……?)

昔の話にも出てきていたが、やはり砂国の姫は底が知れない。

魔剣士「……ったく」
テイル「…」
魔剣士「…」
テイル「…」
魔剣士「……なんだよ」
テイル「別に。ちょっと怪我してなくて安心しただけ」
魔剣士「吹き飛ばしといて言う台詞か?」
テイル「それなりに強いって聞いてたし、この程度でダウンされたら困るしね」
魔剣士「オメーの攻撃なんざ痛くも痒くもねーよ」
テイル「人のビンタ受けて鼻血出してたくせに」
魔剣士「あれは壁にぶつかったんだよ!」

終わらない喧嘩、ギャーギャーと叫ぶ二人に大きなため息をついた猛竜騎士。そっと白姫の肩を叩き、朝食の後片付けを始めたのだった。

…………
……


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――20分後。
片付けを終えた四人は馬車に乗り込み、再び砂国を目指しその足を動かし始める。

魔剣士「まぁ、出発したーっつっても馬が走ってるだけだが」
白姫「うん、北方大地からほとんど馬車のお世話になりっぱなしだね」
テイル「……その会話おかしいからね。そもそも、この大地を歩いて横断しようとしていた気がしれないっていうか」
魔剣士「オッサンいわく、歩いても問題はないようだったがな」
テイル「確かに出来なくはないけど、白姫ちゃんみたいな女の子を連れて危険だと思わなかったの?」
魔剣士「……危険だろうが、守ればいいんだろ?」
テイル「はぁ…随分と簡単に言うわね」
魔剣士「白姫を守ると決めたんだから、それ以上の言葉はねぇ」
テイル「……従者って言っても、胸を触ったりしてもいいわけじゃないんだけど」
魔剣士「う、うっせ!」
テイル「変態」
魔剣士「ぐっ…!」

白姫(う、うーん……)
白姫(ずっと喧嘩しっぱなしなのは変わらないけど、テイルさんも少しずつ打ち解けてきたみたい……)

喧嘩が功を奏したのか、いつの間にかテイルの素直な部分が見えてきたように思える。

魔剣士「……そういや話は変わるけどよ、アレについてあまり知らねぇんだけど勉強しといたほうがいいと思うんだが…」
テイル「無知ね。バッカじゃないの」
魔剣士「最後まで聞けよ!?」
テイル「はいはい、何よ」
魔剣士「だから…"アサシン"についてだよ」
テイル「!」
魔剣士「考えたら、お前の話でも断片的にしか出てきてねーし…どんな相手なのか知っておきたくてな」
テイル「猛竜騎士に聞いてたんじゃないの?」
魔剣士「いや、聞いてないな……」

考えてみれば確かに大ボス的な存在であるアサシン盗賊団の情報は皆無で、下っ端であるゴルドとシルバと対峙しただけだった。

魔剣士「だから、アサシンについてちょっとでも情報をよ……」

すると、その質問が飛び出した時に猛竜騎士が口を開いた。

猛竜騎士「魔剣士」
魔剣士「あん?」
猛竜騎士「色々あって忘れていたな。俺の知ってることだけ、先に話そう」
魔剣士「おう」
猛竜騎士「といっても、俺も直接対峙したわけじゃないからな」
魔剣士「ほう、直接…とな?」
猛竜騎士「そうだ。若くして訪れた頃に、アサシン盗賊団の本隊メンバーと拳を交えたことはあるって話だ」
魔剣士「ほう……」
猛竜騎士「まだ12、13歳くらいの子どもだったが相当な実力を持っていた」
魔剣士「おいおい…そんなガキが盗賊団にいんのか……」

猛竜騎士「……アサシン盗賊団は"自由"を掲げる武闘派集団だ。己の欲望のままに動き、それを制限することはない」
猛竜騎士「いち盗賊団ながら、世界を恐怖に陥れたこともあったんだぞ」

魔剣士「……せ、世界を恐怖に?」
テイル「昔の話よ」
魔剣士「そんなヤツらがどうやって今みたいな東方大地でしか存在感がない賊になったんだ?」
テイル「アサシンたちは、対アサシンとして結成された"十字軍"の魔法戦士部隊に敗北して東方大地に追われることになったのよ」
魔剣士「あー…」
テイル「だけど、逃げた先がこの東方大地で…、アサシンたちが暴れて……」
魔剣士「……んっ。また落ち込む気か!?」

テイル「え、何が……?」
テイル「…」
テイル「……あっ!」

ハっとして胸を隠し、テイルは魔剣士を睨んだ。

魔剣士「ひ、人を狼みたいに見るんじゃねー!」
テイル「すぐに変態するくせに」
魔剣士「……そ、それはな!?」
テイル「言い訳する気?」
魔剣士「あ、いや…その……!とにかくだな…!」
テイル「なーにかしら?」
魔剣士「ぐぬっ…!」

自業自得とはこのことだが、すっかりフォロー役となっていた白姫は間は話題を変えて間に割り込んだ。

白姫「……え、えっとテイルさん!」
テイル「なに?」
白姫「アサシン盗賊団に弱点とかはないのかな?」
テイル「弱点?」
白姫「う、うんっ。長く砂国と対立してきた相手だし…弱点とかも知ってるんじゃないかなって思って!」
テイル「……それを記載していたのが"宝物庫"にあった歴戦書なんだけどね」
白姫「うん」
テイル「全てを知った兄さ…ビショップが軍師となって相手になった今は……」
白姫「あっ……」
テイル「だからよけいに性質が悪くて…。こんな変態剣士が頼りになるのかどうか……」

ちらりと魔剣士を見る。

魔剣士「てめぇな…」
テイル「でも、期待をせざるを得ない状況だって分かってもいるんだけどね」
魔剣士「……おっ?」
テイル「私としても、出来る限りのことはするし…教えるつもり。だけど……」
魔剣士「…」
テイル「東方大地の戦いの全てを知ってるビショップと、東方一の実力も誇るかもしれないアサシンが相手っていうことが…少し……」
魔剣士「……怖いのか?」
テイル「うっ…」

核心。どれだけ強がっても、強くあろうとしても、そもそも恐怖は簡単に拭えるものではない。

魔剣士「…ふむ!」

それに対し、大きく頷く魔剣士。テイルは(また……)と変態行動を予測して曇った表情を見せたが、今回は少しばかり違った。

魔剣士「……なぁに余裕余裕!」
テイル「えっ?」
魔剣士「簡単だろ。お前だって親父の英雄一族の血と、兄の知性を間近で見てきたんだろ?ある意味、どっちも受け継いでるんじゃね?」
テイル「あっ……?え……」
魔剣士「ま、大丈夫だろ。お前だって国民に愛されてたんだろうしな」
テイル「…」
魔剣士「強さ、知性と人気、カリスマみてぇな姫様が戻ってきたら国民も納得するだろーに!なんつって……」
テイル「…ッ!」

魔剣士は"くくく"と笑いながら嫌味ったらしく言ったつもりらしいが、それはテイルにとって嬉しい一言になったらしい。

テイル「……え、えっらそうに!」
魔剣士「ほごぉっ!?」

テイルは魔剣士を突き飛ばして押し倒し、馬乗りになり、頬をつねった。
……そして。

テイル「もう…、ホンットにアンタは本当に生意気なことばっか……!」

初めて、本当の意味で"笑い"を見せたのだった。

魔剣士「ひゃ、ひゃめろぉっ!ほおをふねるなっ!」
テイル「本当に…ちょっとだけ…自信がわいて来たじゃない……の……」
魔剣士「…ぬぉぉ、いふまれほおをふねっへるんひゃ……!」

…………
……


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――その頃、砂国「王城・王室」
魔剣士らが砂国を目指している同時刻、国を奪ったその男は、かつて英雄と呼ばれた父が座っていた王座へとついていた。

クローツ「…」

冷たい表情のままで、何を考えているのか読み取ることはできない。

クローツ「…」

大望ともいえる国落としを成功させたというのに、あれから面白がる様子もなく、それが気になった"隣に座っていた別の男"は対して語りかけた。
「……お前は何が目的だったんだ」と。

クローツ「……しゃべる必要があるか?」

だが、答える気はないらしい。

「……国落としを成功させ、全てを手に入れたことに不満がある様子に見えるが」

クローツ「不満はない。全てを笑ってきた者に制裁を加えられたことに喜びを感じている」

「それにしては、随分とつまらなそうに見える」

クローツ「気のせいだ」

「……今も妹について気にかけているのか」

クローツ「…クク、そんなわけないだろう。あんなヤツはどこかの金持ちの遊び道具になればいい」

「遊び道具にするのなら、男慣れをさせたほうが良かっただろう」

クローツ「アイツは経験もなかったハズだ。そっちのほうが高く売れるだろう?」

「そうとも限らん。玩具になるのなら、慣れさせたほうが良い。……実は、俺はお節介が好きでね」

クローツ「……貴様まさか!」

「冗談だ。お前の言った通り、見張りには手を出させないように命じていた……が、随分とご立腹になったな?」

クローツ「う、煩いッ…!」

「お前は力を手に入れた。これから何をしたいのか、どうしたいのか。それがないのか?」

クローツ「……今は何もない。俺のことは放っておいてくれ!」

「お前が俺らに頭を下げた時は驚いたが、お前のゴールはここでいいのか?」

クローツ「……煩いッ!!俺を一人にしてくれ!!」

「それが望みなのか」

クローツ「あぁそうだ!俺に話をかけるな!それが俺の望みだっ!!」

「……それがお前の欲なら、今は立ち去ろう」

素直に男は立ち上がり、部屋の出口へと向かったが、寸前のところで足を止めてクローツへと振り返り、再び語りかけた。

「……人の欲は限りないものだ」
「望んだモノを手に入れたとしても、人の望みは尽きず、上を見続け、身を滅ぼすことが殆どだ」
「……だが、お前のように全てを手に入れたと納得する者もいる。もちろん、そのうえで救われたいと思う奴も存在はする」

クローツ「……何が言いたい」

「お前の本心は何を望んでいるのか、教えてやろう。……いや、何を望めばいいのか…か」

クローツ「何……?」

「それは死ぬことだ」

クローツ「うっ…!?」

「どのみち、滅びる道しかないということだ。また、それを一瞬でも望んだ時。道は既に決まっていると知るがいい」

クローツ「…ッ!!」

「しかし、お前がそれを一瞬でも望んだかは知らないことだが」

クローツ「…」

「では、俺はまだまだ"やりたいこと"があるので失礼する。"また、会おう"」

男は出口へと振り向き直すと、今度こそドアを開き、苦痛に歪むクローツをあとにしたのだった。
そして、男が少し歩いたところで、廊下に立っていた黒ずくめの一人がその男へと頭を下げ、「失礼します」と男の肩へ"黒い巻布"を羽織らせた。

「お疲れ様です。"アサシン様"」

アサシン「……ご苦労」

その男、クローツに対し随分と堂々と口を出していたと思ったが、正体はあの"アサシン"だった。

アサシン「ルヴァ、状況はどうなっている」
ルヴァ(副長の意)「……動きはありません」
アサシン「あの王子も甘いことだ。本気で国を手中にしたと思っているのだからな」
ルヴァ「国は生き物ですからね。抑えつけられて反動をしないわけがないんです」
アサシン「レジスタンス(反乱同盟)も組まれる頃だ。出来る限り、怪しい奴は除去しておけ」
ルヴァ「承知」
アサシン「この城を中心として隅々に部下を配置させろ。各大き目の建物の管理者には徹底して口を割らせ、地下類の部屋も見逃すな」
ルヴァ「既にこちらの牢へ捕縛しております。ご案内しますか?」
アサシン「いや、お前に任せる」
ルヴァ「承知。しかし、一つ問題が」
アサシン「何だ」
ルヴァ「我々、直属の幹部隊から目の届かない団員が好き勝手に暴れているのですが、それは?」
アサシン「……ルヴァ」
ルヴァ「はい」

アサシンは懐からナイフを取出し、ルヴァへ突きつけた。

ルヴァ「うっ!?」
アサシン「……俺たちの意識はどこにある」
ルヴァ「よ、欲の自由……です…!」
アサシン「そうだ。俺に対し特別な不利益がなければそれで良い」
ルヴァ「し、承知……!」
アサシン「俺は俺のままに動く。それ以上もなく、それ以下もない」
ルヴァ「はっ…!アサシン様の心意気はしかと肝に銘じております!」
アサシン「……違う」
ルヴァ「はい?」
アサシン「お前も俺に仕えれぬと思えば、この命を狙うがいい。お前もお前の欲のまま生きろということだ」
ルヴァ「そ、そんなことは!?」
アサシン「……そう思えなければ、俺に着いてこれると思うな」
ルヴァ「い、いやしかし……」
アサシン「前任だったアイツはもっと物わかりが良かったぞ。お前もそうであるがいい」
ルヴァ「……前任者というと、十字軍との決戦で亡くなった時の?」
アサシン「昔の話だ」
ルヴァ「はい…」
アサシン「行くぞ」
ルヴァ「……はっ!」

二人はまた長い廊下を歩き始める。
しかし、実はこの会話。周りが聞けば何気ないように思えるかもしれないが、アサシンにとっては気の抜けないような状況であったのだ。

アサシン(欲のない人間が強くなれることはない。かつては自らに素直な面子ばかりだった……が…)
アサシン(今のメンバーは、この盗賊団であることにのみ意識を持っている)
アサシン(かつてのメンバーはいない今、国の謀反や不利な状況となったならば一気にぶり返されるだろう)

今のメンバーは精神面が遥かに未熟だった。
また、腑抜けとなったクローツや未熟な団員たちの中、一つ危惧していたことがあった。

アサシン(……あの姫の帰還。国民を奮い立たせるには充分なきっかけ…、気を緩めれば喰われる可能性も高い)

クローツより「テイルの護送は少ない面子で、決して手を出させるな」と命じられていた。
本来ならば、邪魔な命令をするクローツをも切り捨てるところだったが、国を手に入れるきっかけとなった相手に我がままの一つも聞いてやろうと思った。

アサシン(それは守ってやったが、な……)

命じられたこと以外、外を突いてある仕掛けをすることにした。

アサシン(万が一があった時。輸送馬車の後衛に監視を置き、付近の村へと伝達するように伝えてある)

仕掛けた監視役たちは約5日後に付近の"荒地村"へと到着する。それは、今の魔剣士たちよりも数時間ほど早いペースで動いていた。
いや、アサシン盗賊団しか分からない他の賊や魔物と対峙しない抜け道もあって、到着には数日の差が出ることだろう。

アサシン(準備は怠ることはない。もしそうなれば、この国の完全な死と復活を遂ぐ時。いずれの戦いに備えるだけだ)

彼の考え、真意。現時点において、分かる者はいない。

…………
……


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断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

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