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第八章【東方大地】
8-13 翼竜「後編」
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―――数分後。
ワイバーンと対峙した魔剣士と猛竜騎士は、均衡な状況が続いていた。
魔剣士の主軸である魔法は「橋の上」という理由から火力技を扱えず、技量で押し込もうとした猛竜騎士もその硬い鱗の前に意味をなさない。
ワイバーン「…」
魔剣士「くそったれ……!」
猛竜騎士「長期戦になると俺たちが不利だ。どうにかせねば……」
どうにかできる可能性があるとすれば、最初に決めようとした"両眼"を奪うことだが、トライを重ねてもその厚い鱗に中々隙を見せる様子はなかった。
テイル「だからもう、言ったのに……!」
白姫「き、きっと大丈夫だよ!きっと……!」
テイル「魔剣士の闇魔法も、猛竜騎士の戦術も通用しないんじゃ無理でしょう!」
白姫「でも、逃げられないんだよね……」
テイル「そこをどうにかして逃げたほうが利口だと思うんだけど…!例えば、魔剣士を生贄にするとか!」
白姫「えぇっ!?」
ろくでもない計画をたてているテイルだったが、当の本人は必死にどうにかしようと考えていた。
魔剣士(凍結類が使えないとなると、動きを制限するのは限られるが…決して大爆発する魔法なんか使えねぇからな……)
魔剣士(雷類なら大気にあるから使えるかもしれないが、それがアイツにダメージを与えられるか?)
魔剣士(…しかしオッサンが物理で押せない相手に、俺の剣術で太刀打ちできるレベルなわけもねぇし……)
戦うこととなると人一倍の努力を見せる魔剣士の眼差しと雰囲気は、異様なまでに強烈な感覚を周囲に放つ。
魔剣士の本気たるや、先ほどまでふざけていたテイルですら「えっ…」と呟いた。
テイル「あれ…、なんか魔剣士の雰囲気が違う……?」
白姫「凄く真剣なんだよ。本気で何かを守る時、何かと戦う時、魔剣士はあんな風になるんだ」
テイル「……確かに、最初の時に戦ってくれてた時も強張ってたって言うか、真剣だったけど…」
白姫「うん。テイルさんも守るって決めたから、今の魔剣士は凄く強いよ!」
テイル「わ、私のことも?」
白姫「そうだよ。ほら、見て…。魔剣士の優しさを感じると思うから……」
テイル「優しさって……」
白姫「例えば、魔剣士は今だって私たちに攻撃がこないようにしてるよ…!」
テイル「え…?」
剣を構え、ワイバーンに挑む魔剣士の後ろ姿。ふと、彼は"一度もこちらを振り向いて戦っていない"ことに気づく。
テイル「あっ…!」
実は猛竜騎士が自由に動き回る間も、魔剣士はサポートに徹していたが馬車へ攻撃が来ないように動いていた。たまにこちらを目線を向けることはあったが、馬車が無事なことを確認するとすぐに戦いへと戻っていたのだ。
テイル「……私たちのために、あの場から動いてないっていうの?」
白姫「自然とそうなっちゃってるから、多分本人は気づいてないと思うけど……」
テイル「ふ、ふーん……。でも、まぁ…その、当然でしょ!私たちを守るのなら、それくらいはやってもらわないとね!」
白姫「あ…あはは……」
強気な態度に苦笑する白姫。
するとその時、ワイバーンが動きを見せる。
魔剣士「うっ!?」
猛竜騎士「来るか!?」
両翼をいっぱいに拡げ、空高く飛翔するワイバーン。バサバサと大きな音とともにあっという間に飛び上がり、その図体は小さく見えるほどになった。
魔剣士「ん、どっかに行っちまうのか?」
猛竜騎士「まさか、怒らせておいてそんな簡単に消える相手じゃないだろう……?」
―――正解だ。
ワイバーンは空中で停止するやいなや、空中で"無属性の魔力"を全身に蓄積させ始めた。
魔剣士「……おい」
猛竜騎士「冗談キツイなおい……」
そして、自らの身体を魔剣士たちに向けて構える。
魔剣士「……まさか突っ込む気かよ!」
猛竜騎士「不味いな……」
魔剣士「どうする!?」
猛竜騎士「……相討つしかない」
魔剣士「大丈夫なのかよ……」
猛竜騎士「無属性による肉体強化なら、お前のオーラでアイツの強化は吹き飛ばせる。そこを俺の槍で弾き飛ばす」
魔剣士「さっき力負けしてたくせに良く言うぜ」
猛竜騎士「本気でやったら石橋が崩れるだろうが……」
魔剣士「じゃ、次は本気でやるのか?」
猛竜騎士「どのみち崩されるのなら、やるしかない」
魔剣士「……分かったよ」
やがて、狙いを定めたワイバーンは二人を目掛けてロケット弾のように落下し始める。
魔剣士「……化けトカゲが!」
魔剣士は全身から無属性の黄金のオーラを蓄積させると、ワイバーンに対しそれを放った。羽根をクロスさせて防御の型を取るが、オーラは纏わりつき、ワイバーンの肉体強化を一時的に無効化させる。
猛竜騎士「ぐぬぅぅうっ……!」
一方、猛竜騎士はすかさず全身に魔力を集中。脚、腕、頭、全身から武器へ、わずかな時間だというのにその集中力は凄まじく、ワイバーンが迫った頃には完全なチャージを終えていた。
魔剣士「オッサン、早くしろよ!」
猛竜騎士「ククッ…、やっぱ気持ち良いモンだな…一撃の感覚は……!」
魔剣士「は!?」
猛竜騎士「安心しとけや、負ける気はしねぇっつーの……!」
魔剣士(あぁ、本気でやると昔の口調に戻っちゃうんだっけね……)
目の前まで降ってきたワイバーンに対し、猛竜騎士は静かに奥義名を口ずさんだ。
猛竜騎士「……猛…竜突撃…!!」
腰を大きく回転させ、投擲のように槍を持ち上げてワイバーンに対し一撃を繰り出す。
その瞬間、猛竜騎士の足元が円を描くようにバチバチと電撃が浮き上がり、石橋の一部を欠損させながらワイバーンと衝突する轟音が響き渡った。
猛竜騎士「ぬぅぅうおぉぉおっ!!!」
ワイバーン「……ッ!!」
余りの衝撃波に、魔剣士はズリズリと後退させられる。
魔剣士(なんつうぶつかり合いだよ…!マジで石橋が壊れるんじゃねえか……!)
魔剣士(…………って、おっ!?)
ここで、あることに気づき、機転となる。
魔剣士「……はァッ!!風刃ッ!!」
瞬時に風魔力を発する魔剣士。その風の刃は、ワイバーンの"両眼"を捉えた。
ワイバーン「ッ!!?」
衝突に気を取られていたワイバーンは、防御を忘れ、両眼を風刃によって切り裂かれた。そして、痛みと驚きで猛竜騎士と対峙していた力が思わず弱まる。
猛竜騎士「……はぁぁぁぁうおぉぉああッ!!!」
これを好機とし、更に力強く押し込んだ槍撃はワイバーンの首元へと命中した。硬い鱗に"ガキン!"と弾かれるも、深い打撃となった一発にワイバーンは"ギャア!"と声を上げ、橋の欄干に身を寄せたのち、その巨体は谷底へと落ちて行ったのだった。
魔剣士「お…、おぉ……!?」
猛竜騎士「はぁっ…!はぁ…はぁ……!げほっ……!」
魔剣士「やった…のか……?」
猛竜騎士「何て硬い皮膚なんだ…!俺の全身の一撃でも貫けないとは……!」
息を荒げ、ガクリと膝を付く猛竜騎士。魔剣士は近寄り、「一応勝ったぜ!」とそれを伝えた。
猛竜騎士「これで負けてたらどうするんだって話だ…!石橋も…無事で良かったな……!」
魔剣士「お、おう!何とか大丈夫だぜ!」
猛竜騎士「急ぐ…ぞ…!アイツは生きている……、その前に…橋を渡るんだ……!」
魔剣士「……ちっ、しゃあねぇな!肩かしてやるよ、早く馬車を動かしてくれるか!」
猛竜騎士「すまんな……」
魔剣士は猛竜騎士に肩を貸すと、馬車で心配そうに見つめていた白姫とテイルのもとへと戻って行った。
白姫「……魔剣士!」
テイル「ご、ご苦労…さま……」
魔剣士「オッサン、しっかりしろよ!」
猛竜騎士「毒矢を受けたわけじゃなし、スタミナが足りないだけだ…。馬を走らせるくらいにはあるから安心しとけ……!」
這いずるようにワゴンへ乗り込むと、魔馬をひと撫でして「戦いが終わった」ことを伝えて安心させると、馬車はゆっくりと動き始めた。
遠くにまだ何かの魔獣の声は聞こえていたが、近づく様子がないことを分かった魔剣士は「ふぅ!」とため息をつき、ようやく休息の時が訪れたのだった。
魔剣士「あぁ終わった!」
白姫「魔剣士、お疲れ様……」
テイル「中々…まぁ、やるんじゃない……?」
横になったところで、二人の姫に囲まれて見下ろされる魔剣士。
魔剣士「実際にぶっ倒したのはオッサンだけどな。俺ぁサポート役に回ってただろ」
テイル「でも、アイツの強化魔法を弾き飛ばしたのはアンタでしょ?充分な仕事はした…と、ちょっとだけ思ってやってもいいかな?」
魔剣士「何て言い草だお前は…。つか、よく俺がやったこと分かったな。さすが戦いの国の姫サンだな」
テイル「……そ、そうよ!?伊達に戦乙女じゃないんだからねっ!」
褒めるような言葉に、テイルは"むふぅ!"と嬉しそうに笑顔になる。
テイル「ところで見てて思ったんだけど、オーラはどうやって意識して射出してるの?魔法と一緒?」
魔剣士「あー…いや、似たようなもんではあるが……」
テイル「色々と応用が出来そうよね」
魔剣士「応用は利くだろ。体術なんかと組み合わせても魔法を同時に射出したり……」
テイル「私たちの武道術を組み合わせたら面白そうね」
魔剣士「さっき俺が喰らったやつか……」
テイル「そうそう、あれは旋風っていう一種の技で……」
中々楽しそうに会話をする二人。戦闘術を好んでいることから、そういったことなら気が合うらしい。
すると、隣で会話に混ざれない白姫が面白くない表情で魔剣士を見つめていた。
魔剣士「……何だ、白姫」
白姫「えっ?」
魔剣士「妙に俺を睨んでいるなと……」
白姫「……に、睨んでなんかないよ!」
魔剣士「嘘コケ、ギロっとしてただろ」
白姫「し、してないってば!そんなことしないもん!!」
魔剣士「な、なんで怒るんだよ……」
白姫「違うから!違うの!」
魔剣士「そ、そうなの?」
白姫「そうなの!」
魔剣士「あぁ、そう……」
白姫「うん、そう!」
彼女の態度、自身でも分かっていないと思うが、それは恐らく――そうだろう。
しかし、それに気づいたテイルはちょっとした意地悪に出る。
テイル「……で、魔剣士!」
魔剣士「お、おう?」
テイル「戦いは大変だよねぇ。昔から鍛錬してたって聞いたけど、大変だったのー?」
魔剣士「そりゃそうだろ。魔獣なんかもよく戦ったりしてたしよ」
テイル「へぇー、立派に戦ってたんだねー。剣術もその時に?」
魔剣士「自己流だがな。言うたら、魔法も全部自己流で覚えてきたわけだが」
テイル「ふーん!魔法の会得って感覚で覚えることもあって大変でー……」
テイルと魔剣士の会話が弾むことに曇っていた白姫だったが、魔法の話題となった時にハっとした表情となって会話へ割り込んだ。
白姫「わ、分かるよ!私も魔法を覚えてたもん!」
身を乗り出し、魔剣士の膝に手を着いて思いきり密着する。
魔剣士「うおっ…」
白姫「魔法の会得は難しいよね、うん!」
魔剣士「し、白姫…そんなくっついて……」
白姫「あ、い…嫌だった……?」
魔剣士「んなわけねぇけど…」
白姫「じゃあこのままで!」
魔剣士「お、おぅ…?」
まるで飼い主に懐く犬である。
魔剣士とテイルは、その行動に彼女へ尻尾が着いているように見えて思わず吹き出し、それを見ていた白姫はキョトンとして(二人だけにしか分からない秘密ってずるい……)と顔をしかめたのだった。
…………
……
…
―――…ところで。
この時点で、猛竜騎士と魔剣士はある"重大なミス"を犯していた。
魔剣士たちがワイバーンと闘いを繰り広げていた頃、実は橋から相当離れた場所に停車していた馬車から"男たちが数人"その戦いを見ていたのだが、集中していた二人はその気を察することが出来なかったらしい。
つまりは、その馬車とは"監視役"のアサシン盗賊団の馬車、ということなのだが。
ミハリ「……おいおい、ワイバーンに勝っちまったぜ」
カンサツ「あらら……」
足を組み、あくびをしながら眺めるのは監視役に任命されたアサシン盗賊団のミハリとカンサツだった。
ミハリ「……どう思う?」
カンサツ「確かに腕はたつが、それほどじゃねえな」
ミハリ「アサシン様なら一瞬で片付けるからな。つーか、さっきからあの剣士のほう…珍しい術を使ってるように思えるんだが」
カンサツ「魔術の類だが、見たことがない技だ。一応、注意しといた方が良さそうだ」
ミハリ「それと、その後ろにいる馬車の姫様ともう一人…すっげぇ可愛くねぇ?」
カンサツ「あの黒髪のか」
ミハリ「そうそう!どっかで見たことある顔してんだけど、思い出せないんだよなぁー……」
カンサツ「……興味があるなら荒地村でアサシン様にそれを言えばいいだろう」
ミハリ「くれるかな?」
カンサツ「アサシン様の興味がなければな。というか、その前に食っちまえばいい」
ミハリ「そんな勝手したら殺されるだろうが!」
カンサツ「俺たちにとって、自由こそ全てだろ」
ミハリ「じゃ、お前が俺の立場ならそうするか?」
カンサツ「……するわけがない」
ミハリ「ほ、ほーれみろ!やっぱりそうじゃないか!」
カンサツ「うるせぇ」
ミハリ「やっぱ先に報告だな。変な魔法を使う男と、槍持ち、それと黒髪の女の子をメモメモ……!」
カンサツ「んじゃ、明日の夕刻には荒地村でアサシン様と合流予定になっているからな。そろそろ出るか」
ミハリ「あぁ、そのほうがよさそうだ……」
…………
……
…
―――数分後。
ワイバーンと対峙した魔剣士と猛竜騎士は、均衡な状況が続いていた。
魔剣士の主軸である魔法は「橋の上」という理由から火力技を扱えず、技量で押し込もうとした猛竜騎士もその硬い鱗の前に意味をなさない。
ワイバーン「…」
魔剣士「くそったれ……!」
猛竜騎士「長期戦になると俺たちが不利だ。どうにかせねば……」
どうにかできる可能性があるとすれば、最初に決めようとした"両眼"を奪うことだが、トライを重ねてもその厚い鱗に中々隙を見せる様子はなかった。
テイル「だからもう、言ったのに……!」
白姫「き、きっと大丈夫だよ!きっと……!」
テイル「魔剣士の闇魔法も、猛竜騎士の戦術も通用しないんじゃ無理でしょう!」
白姫「でも、逃げられないんだよね……」
テイル「そこをどうにかして逃げたほうが利口だと思うんだけど…!例えば、魔剣士を生贄にするとか!」
白姫「えぇっ!?」
ろくでもない計画をたてているテイルだったが、当の本人は必死にどうにかしようと考えていた。
魔剣士(凍結類が使えないとなると、動きを制限するのは限られるが…決して大爆発する魔法なんか使えねぇからな……)
魔剣士(雷類なら大気にあるから使えるかもしれないが、それがアイツにダメージを与えられるか?)
魔剣士(…しかしオッサンが物理で押せない相手に、俺の剣術で太刀打ちできるレベルなわけもねぇし……)
戦うこととなると人一倍の努力を見せる魔剣士の眼差しと雰囲気は、異様なまでに強烈な感覚を周囲に放つ。
魔剣士の本気たるや、先ほどまでふざけていたテイルですら「えっ…」と呟いた。
テイル「あれ…、なんか魔剣士の雰囲気が違う……?」
白姫「凄く真剣なんだよ。本気で何かを守る時、何かと戦う時、魔剣士はあんな風になるんだ」
テイル「……確かに、最初の時に戦ってくれてた時も強張ってたって言うか、真剣だったけど…」
白姫「うん。テイルさんも守るって決めたから、今の魔剣士は凄く強いよ!」
テイル「わ、私のことも?」
白姫「そうだよ。ほら、見て…。魔剣士の優しさを感じると思うから……」
テイル「優しさって……」
白姫「例えば、魔剣士は今だって私たちに攻撃がこないようにしてるよ…!」
テイル「え…?」
剣を構え、ワイバーンに挑む魔剣士の後ろ姿。ふと、彼は"一度もこちらを振り向いて戦っていない"ことに気づく。
テイル「あっ…!」
実は猛竜騎士が自由に動き回る間も、魔剣士はサポートに徹していたが馬車へ攻撃が来ないように動いていた。たまにこちらを目線を向けることはあったが、馬車が無事なことを確認するとすぐに戦いへと戻っていたのだ。
テイル「……私たちのために、あの場から動いてないっていうの?」
白姫「自然とそうなっちゃってるから、多分本人は気づいてないと思うけど……」
テイル「ふ、ふーん……。でも、まぁ…その、当然でしょ!私たちを守るのなら、それくらいはやってもらわないとね!」
白姫「あ…あはは……」
強気な態度に苦笑する白姫。
するとその時、ワイバーンが動きを見せる。
魔剣士「うっ!?」
猛竜騎士「来るか!?」
両翼をいっぱいに拡げ、空高く飛翔するワイバーン。バサバサと大きな音とともにあっという間に飛び上がり、その図体は小さく見えるほどになった。
魔剣士「ん、どっかに行っちまうのか?」
猛竜騎士「まさか、怒らせておいてそんな簡単に消える相手じゃないだろう……?」
―――正解だ。
ワイバーンは空中で停止するやいなや、空中で"無属性の魔力"を全身に蓄積させ始めた。
魔剣士「……おい」
猛竜騎士「冗談キツイなおい……」
そして、自らの身体を魔剣士たちに向けて構える。
魔剣士「……まさか突っ込む気かよ!」
猛竜騎士「不味いな……」
魔剣士「どうする!?」
猛竜騎士「……相討つしかない」
魔剣士「大丈夫なのかよ……」
猛竜騎士「無属性による肉体強化なら、お前のオーラでアイツの強化は吹き飛ばせる。そこを俺の槍で弾き飛ばす」
魔剣士「さっき力負けしてたくせに良く言うぜ」
猛竜騎士「本気でやったら石橋が崩れるだろうが……」
魔剣士「じゃ、次は本気でやるのか?」
猛竜騎士「どのみち崩されるのなら、やるしかない」
魔剣士「……分かったよ」
やがて、狙いを定めたワイバーンは二人を目掛けてロケット弾のように落下し始める。
魔剣士「……化けトカゲが!」
魔剣士は全身から無属性の黄金のオーラを蓄積させると、ワイバーンに対しそれを放った。羽根をクロスさせて防御の型を取るが、オーラは纏わりつき、ワイバーンの肉体強化を一時的に無効化させる。
猛竜騎士「ぐぬぅぅうっ……!」
一方、猛竜騎士はすかさず全身に魔力を集中。脚、腕、頭、全身から武器へ、わずかな時間だというのにその集中力は凄まじく、ワイバーンが迫った頃には完全なチャージを終えていた。
魔剣士「オッサン、早くしろよ!」
猛竜騎士「ククッ…、やっぱ気持ち良いモンだな…一撃の感覚は……!」
魔剣士「は!?」
猛竜騎士「安心しとけや、負ける気はしねぇっつーの……!」
魔剣士(あぁ、本気でやると昔の口調に戻っちゃうんだっけね……)
目の前まで降ってきたワイバーンに対し、猛竜騎士は静かに奥義名を口ずさんだ。
猛竜騎士「……猛…竜突撃…!!」
腰を大きく回転させ、投擲のように槍を持ち上げてワイバーンに対し一撃を繰り出す。
その瞬間、猛竜騎士の足元が円を描くようにバチバチと電撃が浮き上がり、石橋の一部を欠損させながらワイバーンと衝突する轟音が響き渡った。
猛竜騎士「ぬぅぅうおぉぉおっ!!!」
ワイバーン「……ッ!!」
余りの衝撃波に、魔剣士はズリズリと後退させられる。
魔剣士(なんつうぶつかり合いだよ…!マジで石橋が壊れるんじゃねえか……!)
魔剣士(…………って、おっ!?)
ここで、あることに気づき、機転となる。
魔剣士「……はァッ!!風刃ッ!!」
瞬時に風魔力を発する魔剣士。その風の刃は、ワイバーンの"両眼"を捉えた。
ワイバーン「ッ!!?」
衝突に気を取られていたワイバーンは、防御を忘れ、両眼を風刃によって切り裂かれた。そして、痛みと驚きで猛竜騎士と対峙していた力が思わず弱まる。
猛竜騎士「……はぁぁぁぁうおぉぉああッ!!!」
これを好機とし、更に力強く押し込んだ槍撃はワイバーンの首元へと命中した。硬い鱗に"ガキン!"と弾かれるも、深い打撃となった一発にワイバーンは"ギャア!"と声を上げ、橋の欄干に身を寄せたのち、その巨体は谷底へと落ちて行ったのだった。
魔剣士「お…、おぉ……!?」
猛竜騎士「はぁっ…!はぁ…はぁ……!げほっ……!」
魔剣士「やった…のか……?」
猛竜騎士「何て硬い皮膚なんだ…!俺の全身の一撃でも貫けないとは……!」
息を荒げ、ガクリと膝を付く猛竜騎士。魔剣士は近寄り、「一応勝ったぜ!」とそれを伝えた。
猛竜騎士「これで負けてたらどうするんだって話だ…!石橋も…無事で良かったな……!」
魔剣士「お、おう!何とか大丈夫だぜ!」
猛竜騎士「急ぐ…ぞ…!アイツは生きている……、その前に…橋を渡るんだ……!」
魔剣士「……ちっ、しゃあねぇな!肩かしてやるよ、早く馬車を動かしてくれるか!」
猛竜騎士「すまんな……」
魔剣士は猛竜騎士に肩を貸すと、馬車で心配そうに見つめていた白姫とテイルのもとへと戻って行った。
白姫「……魔剣士!」
テイル「ご、ご苦労…さま……」
魔剣士「オッサン、しっかりしろよ!」
猛竜騎士「毒矢を受けたわけじゃなし、スタミナが足りないだけだ…。馬を走らせるくらいにはあるから安心しとけ……!」
這いずるようにワゴンへ乗り込むと、魔馬をひと撫でして「戦いが終わった」ことを伝えて安心させると、馬車はゆっくりと動き始めた。
遠くにまだ何かの魔獣の声は聞こえていたが、近づく様子がないことを分かった魔剣士は「ふぅ!」とため息をつき、ようやく休息の時が訪れたのだった。
魔剣士「あぁ終わった!」
白姫「魔剣士、お疲れ様……」
テイル「中々…まぁ、やるんじゃない……?」
横になったところで、二人の姫に囲まれて見下ろされる魔剣士。
魔剣士「実際にぶっ倒したのはオッサンだけどな。俺ぁサポート役に回ってただろ」
テイル「でも、アイツの強化魔法を弾き飛ばしたのはアンタでしょ?充分な仕事はした…と、ちょっとだけ思ってやってもいいかな?」
魔剣士「何て言い草だお前は…。つか、よく俺がやったこと分かったな。さすが戦いの国の姫サンだな」
テイル「……そ、そうよ!?伊達に戦乙女じゃないんだからねっ!」
褒めるような言葉に、テイルは"むふぅ!"と嬉しそうに笑顔になる。
テイル「ところで見てて思ったんだけど、オーラはどうやって意識して射出してるの?魔法と一緒?」
魔剣士「あー…いや、似たようなもんではあるが……」
テイル「色々と応用が出来そうよね」
魔剣士「応用は利くだろ。体術なんかと組み合わせても魔法を同時に射出したり……」
テイル「私たちの武道術を組み合わせたら面白そうね」
魔剣士「さっき俺が喰らったやつか……」
テイル「そうそう、あれは旋風っていう一種の技で……」
中々楽しそうに会話をする二人。戦闘術を好んでいることから、そういったことなら気が合うらしい。
すると、隣で会話に混ざれない白姫が面白くない表情で魔剣士を見つめていた。
魔剣士「……何だ、白姫」
白姫「えっ?」
魔剣士「妙に俺を睨んでいるなと……」
白姫「……に、睨んでなんかないよ!」
魔剣士「嘘コケ、ギロっとしてただろ」
白姫「し、してないってば!そんなことしないもん!!」
魔剣士「な、なんで怒るんだよ……」
白姫「違うから!違うの!」
魔剣士「そ、そうなの?」
白姫「そうなの!」
魔剣士「あぁ、そう……」
白姫「うん、そう!」
彼女の態度、自身でも分かっていないと思うが、それは恐らく――そうだろう。
しかし、それに気づいたテイルはちょっとした意地悪に出る。
テイル「……で、魔剣士!」
魔剣士「お、おう?」
テイル「戦いは大変だよねぇ。昔から鍛錬してたって聞いたけど、大変だったのー?」
魔剣士「そりゃそうだろ。魔獣なんかもよく戦ったりしてたしよ」
テイル「へぇー、立派に戦ってたんだねー。剣術もその時に?」
魔剣士「自己流だがな。言うたら、魔法も全部自己流で覚えてきたわけだが」
テイル「ふーん!魔法の会得って感覚で覚えることもあって大変でー……」
テイルと魔剣士の会話が弾むことに曇っていた白姫だったが、魔法の話題となった時にハっとした表情となって会話へ割り込んだ。
白姫「わ、分かるよ!私も魔法を覚えてたもん!」
身を乗り出し、魔剣士の膝に手を着いて思いきり密着する。
魔剣士「うおっ…」
白姫「魔法の会得は難しいよね、うん!」
魔剣士「し、白姫…そんなくっついて……」
白姫「あ、い…嫌だった……?」
魔剣士「んなわけねぇけど…」
白姫「じゃあこのままで!」
魔剣士「お、おぅ…?」
まるで飼い主に懐く犬である。
魔剣士とテイルは、その行動に彼女へ尻尾が着いているように見えて思わず吹き出し、それを見ていた白姫はキョトンとして(二人だけにしか分からない秘密ってずるい……)と顔をしかめたのだった。
…………
……
…
―――…ところで。
この時点で、猛竜騎士と魔剣士はある"重大なミス"を犯していた。
魔剣士たちがワイバーンと闘いを繰り広げていた頃、実は橋から相当離れた場所に停車していた馬車から"男たちが数人"その戦いを見ていたのだが、集中していた二人はその気を察することが出来なかったらしい。
つまりは、その馬車とは"監視役"のアサシン盗賊団の馬車、ということなのだが。
ミハリ「……おいおい、ワイバーンに勝っちまったぜ」
カンサツ「あらら……」
足を組み、あくびをしながら眺めるのは監視役に任命されたアサシン盗賊団のミハリとカンサツだった。
ミハリ「……どう思う?」
カンサツ「確かに腕はたつが、それほどじゃねえな」
ミハリ「アサシン様なら一瞬で片付けるからな。つーか、さっきからあの剣士のほう…珍しい術を使ってるように思えるんだが」
カンサツ「魔術の類だが、見たことがない技だ。一応、注意しといた方が良さそうだ」
ミハリ「それと、その後ろにいる馬車の姫様ともう一人…すっげぇ可愛くねぇ?」
カンサツ「あの黒髪のか」
ミハリ「そうそう!どっかで見たことある顔してんだけど、思い出せないんだよなぁー……」
カンサツ「……興味があるなら荒地村でアサシン様にそれを言えばいいだろう」
ミハリ「くれるかな?」
カンサツ「アサシン様の興味がなければな。というか、その前に食っちまえばいい」
ミハリ「そんな勝手したら殺されるだろうが!」
カンサツ「俺たちにとって、自由こそ全てだろ」
ミハリ「じゃ、お前が俺の立場ならそうするか?」
カンサツ「……するわけがない」
ミハリ「ほ、ほーれみろ!やっぱりそうじゃないか!」
カンサツ「うるせぇ」
ミハリ「やっぱ先に報告だな。変な魔法を使う男と、槍持ち、それと黒髪の女の子をメモメモ……!」
カンサツ「んじゃ、明日の夕刻には荒地村でアサシン様と合流予定になっているからな。そろそろ出るか」
ミハリ「あぁ、そのほうがよさそうだ……」
…………
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