魔剣士「お姫様の家出に付き合うことになった」【現在完結】

Naminagare-波流-

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第九章【セントラル】

9-1 始まりの時

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思えば、本当に早いものだ。
中央大地のセントラルでは姫と家出、賞金首にもなり、南へ下り、海を見た。
港から東方大地を訪れ、大自然を知り、新たな力を手に入れた。
北を目指せば、極氷たる大地に身を震わせて国を救う。
世界戦争の危機を知った自分たちは、身を削って死の大地"東"へと足を運び、砂の姫と共に悪の象徴を打ち倒す。

―――嗚呼。

自分は強くなったと思う。
それがどんな理由であろうと。
そして、旅は続く。明るく、楽しく、未来を信じて。
例え、旅が終わりに近づいていると知っていたとしても。
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―――北方大地・氷山帝国
魔剣士一行は、砂国への締結状および共同戦線の誓約を結んだことを伝えるため、セージのもとへと戻っていた。
ただ、今の彼女は国家の代表として多忙であったため、約束の時間を取り付け、宿泊した高級ホテルのロビーで僅かな時間の再会のみを許された形となった。

魔剣士「……っけ、なーにが多忙だよ」
猛竜騎士「仕方ないことだ。国の代表となった今、そうそうと時間がとれるわけでもあるまい」
白姫「セージさん、凄く忙しいんですね」
猛竜騎士「あまり大声ではいえないが、新規政策でランク制の撤廃だけじゃなく裏側の進行することも多いだろうからな」
白姫「裏側って、戦争のことですよね……」
猛竜騎士「その通りだ。これが公になれば世界はパニックを起こすからな」
魔剣士「……フン、それと俺らを待たせるのは知らねぇよ、だからアイツはクソババァなんだよ」

これ以上ない、セージへの罵倒を繰り返している魔剣士。すると、背中に"本人"からの天罰が落ちる。

セージ「あら、相変わらずね魔剣士……」

"ジョボジョボ…"

魔剣士「へっ……」

このホテルでの二度目の出来事。再び、魔剣士の背中に熱々のコーヒーが注がれたのだった。

魔剣士「あづぅぅうああっ!!?」
セージ「私の飲みかけよ。本当ならお金をもらいたいところだけど」

彼女は"サービスよ"と、ニッコリと笑った。

猛竜騎士「セージ…」
白姫「セージさん!」
セージ「お久しぶり。話は聞いてるわよ、あれが上手くいったんだって」
猛竜騎士「あぁ、そのことなんだが……」
セージ「しっ……」
猛竜騎士「ん?」
セージ「ここじゃ話も出来ないし、久々にあそこに行きましょう」
猛竜騎士「ん……」

…………
……


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――地下、秘密研究所。
以前セージが利用していたホテル地下にある秘密研究所。今も現役なのか手入れが行き届き、埃が舞うことなく錬金道具たちはピカピカと輝いていた。

猛竜騎士「掃除もされている…ということは、まだココを利用しているのか?」
セージ「もう研究者は半ば引退よ。だけど、私の称号と名、この場所は捨ててしまったら亡くなった助手に申し訳ないから、掃除や道具の手入れは細かくしてるの」
猛竜騎士「あぁ……」
セージ「本当はマスターなんていう大それた名前にしようって何回も言われたけど、私は私だから。だけど、無理やりマスターセージなんかって呼ばれて慣れたものじゃないわよ」
猛竜騎士「……そうか」
セージ「で、ここなら誰も聞いてないから、今までのことを聞かせて頂戴。ここまで時間が掛かったことや、貴方の表情から何か重い話があるんじゃないかなって思ったんだけど」
猛竜騎士「参ったな、すべてお見通しか」
セージ「当然じゃない。話をしてくれる?」
猛竜騎士「あぁ……」

猛竜騎士は、東方大地へ足を踏み入れたから起きた全ての出来事の全てを伝えた。
砂国がどのような状態であったか、魔剣士の闇魔法に起きたこと、そして本来の目的だった締結状が無事に結ばれたことの全てを。

猛竜騎士「……これが、今回あった全てだ」
セージ「さ、砂国がそんな状態だったなんて…。それに、魔剣士の闇魔法の進化、記憶の蘇り?そんな…ことがね……」

代表になって疎かにしていたとはいえ、セージは根っからの研究者である。
誓約が結ばれたことは何よりも嬉しいことだったが、彼に起きたことが気になるらしい。

セージ「…」

"ウズッ…"
すぐ隣には実験室。研究室で彼を調べるくらいの器具はある。

セージ「……そ、そう。本当にありがとう、ご苦労様…っ!」

だが、今の立場で調べている時間はない。泣く泣く、それを堪えたのだった。

セージ「それで、これからのことだけど……」
猛竜騎士「うむ…」
セージ「実は、私も貴方に伝えたいことがあって」
猛竜騎士「なんだ?」
セージ「氷山帝国は裏側の表向き…、つまりセントラルに対してはまだ"情報提供関係"にあることは崩していないのよ」
猛竜騎士「あぁ…ふむ……」
セージ「だから、今のセントラルについて闇魔法の研究がどれほどなのか、国情がどんな風になっているのか調べることが出来たってわけ」
猛竜騎士「なるほど」
セージ「彼らとて、私たちの技術は欲しいわけでしょう。スパイの役割で、彼らの闇魔法の研究具合や政治状態についての調査を進めたわ」
猛竜騎士「そんな危険なことを……」
セージ「命を懸けないと世界は救えない。そうでしょう?」
猛竜騎士「フッ、まぁな。お前らしいよ」
セージ「うん、それで……3日前に手に入った情報なんだけどね、大地間の移動を含めたら約1週間以上の遅延はあるけど……」
猛竜騎士「最新の情報ってわけか」
セージ「えぇ…。それで残念なお知らせだけど、セントラルは既に闇魔法の着手に努めてる。何人かの犠牲も出してるわ」
猛竜騎士「……なっ」
魔剣士「何…!」
白姫「本当ですか!」
セージ「元々、私が仕切る前から錬金器具や魔法研究の情報はある程度の供給や共有をしていたし、実際のところ…セントラルでの技術は決して低くない所まで来ていたってことね……」

セントラルの手回しが早いとは知っていたが、自分たちが知らない間にまさかここまで進んでいたとは思いもしなかった。
更に、白姫にとっては辛い事実を告げられる。

セージ「……白姫ちゃん」
白姫「は、はいっ?」
セージ「貴方のいる前で言いたくはないし、分かっているかもしれないけど…話してもいいかしら」
白姫「…はい」
セージ「全ての指示は、セントラルの王によるものよ。率先し、研究者モドキの行為をしてるから余計に性質が悪いみたいね」
白姫「おとうさ…、王がですか!?」
セージ「えぇ。王の指示で、スラム街に住む…昔の魔剣士のような市民権を持たない人々を利用してるらしいわ」
魔剣士「……ンだと?」

"ぴくり"と反応する魔剣士。

セージ「私たちが情報や器具の提供を緩めると怪しまれるし、ギリギリのラインで提供は行っているけど…そろそろ限界ね」
猛竜騎士「何が限界なんだ?」
セージ「会得者の出現よ。確率から計算しても、そろそろ一人や二人。現れてもおかしくはないってこと……」
猛竜騎士「何だと!」
魔剣士「お、おい…どうにか止められないのか!?情報共有とか協力を止めるとか!」
セージ「止めたいとは思う。だけど、まだ無理なのよ……」
魔剣士「ど、どうしてだよ!」
セージ「私たちが裏切った存在だと知れれば、私たちは滅ぼされてしまう!」
魔剣士「は…?」
セージ「提供を止めることや、器具の破壊は可能といえば可能よ。だけど裏切ったと分かったら、氷山帝国はセントラルの手によって滅ぼされてしまう!」
魔剣士「そ、そりゃお前……!」

確かに、世界の裏側…つまり"裏社会"という観点からすれば、セントラルを裏切った行為は大罪となり、武力によって完全に乗っ取られてしまう可能性は高かった。

セージ「ただでさえ無理に理由を着けたランク制度の撤廃だったのに、これ以上に裏切ったら国民が巻き添えになるのよ!」
魔剣士「くっ…!?だけどよ、世界のためとかで……!」
セージ「私や貴方たち、お偉いさんたちは"世界の裏側"を知っている。そちらに足を突っ込んでいる以上、その覚悟はある。だけど、何も知らない国民が犠牲になることは絶対に出来ない…!」
魔剣士「……ち、ちくしょうがっ!」

"ドン!"と机を叩き、怒りを露わにする。
セージの言うことは最もで、反論の余地がない分、余計に腹立たしかった。

魔剣士「どうにかならねぇのかよ…!本当に世界戦争になっちまうのか!?」
セージ「…っ」
魔剣士「どうにかならないのかよ!」
セージ「例え氷山帝国が喧嘩を売ったとして、私たちが滅ぼされたらそれこそ対抗策がなくなる。それも考えたら、動けたものじゃないの……」
魔剣士「魔法連合だってあるし、いざとなれば西方大地の支部とかからも応援を……」
セージ「開発する技術はあっても、戦いの歴史がない国なのよ……」
魔剣士「……戦いの歴史…!」
セージ「そうよ…。私だってどうにかしたいと思っているけど……!」
魔剣士「じゃ、じゃあ…!それこそ協定した砂国に助けを求めるってのはどうだ!戦いの歴史なら……!」
セージ「それは……」
猛竜騎士「無理だ」
魔剣士「何!?」

猛竜騎士は間からスッパリと断言した。

猛竜騎士「それはセントラルが武装による世界制圧に乗り出して来た時の、いざという締結だ。そういう誓約なんだ」
魔剣士「その危機に瀕しているのにか!?」
猛竜騎士「現状と未来は違う」
魔剣士「はァ!?だけど、そうなるって教えたら…きっとテイルだって動いてくれるだろ!?」
猛竜騎士「国と個人を一緒にするな…。お前は、生き返ったばかり…新たに生まれたばかりの赤ん坊の国に戦争をさせたいのか?」
魔剣士「あ…?」
猛竜騎士「確かに恵まれた"母体"から産まれた、新生たるテイルの国家。しかし、今はまだ赤ん坊に過ぎないんだぞ」
魔剣士「じゃあ何も対策が出来ないってことなのか。諦めろってことなのか…!?」
猛竜騎士「誰が諦めると言った?」
魔剣士「はい?」

猛竜騎士は「ふぅ!」と一呼吸おき、静かな口調でそれを言った。

猛竜騎士「ここまで来たら、世界戦争を止めるのは誰の役目だ」
魔剣士「……なぬ?」
白姫「も、もしかして……!」
セージ「ちょっ……」

その、まさかであった。

猛竜騎士「俺たちは現時点をもって、次の目標を中央大地、王都セントラルにするべきだろう。意味は分かってくれるな」

次の目標は、中央大地――。この意味、すぐに理解できる。

魔剣士「……マジでか!?」
白姫「本当ですか!?」
セージ「本気!?」

それを聞いた三人は驚きの声を上げた。以前より、"そうなるかもしれない"という考えはあったのだが。

セージ「セ、セントラルはバウンティハンターも多くいるのよ!?白姫ちゃんが危ないって分かってるの!?」
猛竜騎士「では、世界戦争を待つのか?」
セージ「そうは言わないけど、今セントラルに向かうのは……!」
猛竜騎士「最早その辺のバウンティハンターは相手にならん。いや、魔剣士は世界を担う実力を持っているだろう」
セージ「そ、そうだとしても……!貴方、言ってることが分かってるの…?」
猛竜騎士「無論だ。分からずにして言う程、頭は腐っていない」

国に戦いを売るというレベルの話ならば、これで三度目にもなる。個人の実力と経験が熟しつつある今、セントラルとて相手に出来ないわけではないと考えていた。
それに、他人では決して成し獲ない"事情"があった。

猛竜騎士「闇魔法の会得者を潰すことが出来るのは魔剣士だけでもある。その意味もあって、俺ら以外に適任はいないだろう」

そう、闇魔法の芽が出たというのなら、それを潰せるのは闇魔法を会得している者だけ。
早い段階で潰さねば、魔剣士と同じレベルの会得者が現れた時、世界はセントラルの戦いよりも悲惨に終焉へ向かっていくことになるかもしれないのだ。

セージ「それはそうかもしれないけど……!白姫ちゃんは……!」
猛竜騎士「俺と魔剣士は勿論だが、お前が心配した白姫の存在は何よりも重要だ」
白姫「わ、私ですか?」
猛竜騎士「セージ、お前も分かっているんだろう」
セージ「…っ」

本当は、セージも彼女の重要性を理解をしていた。
魔剣士たちがセントラルの野望を砕いた時、指導者として立てるのは彼女だけ。
それも、同じ砂国の姫が立ち上がったことを目の前で見ることが出来たというのは、彼女の心の深層的部分より本人も知らずに良い方向へと干渉してくれるはずだ。

セージ(だけど……!)

心配する心は尽きない。
そもそも間接的ならまだしも、アサシン本人と直接対峙するような危険があると知っていたら、砂国への依頼をするつもりはなかった。それに、闇魔法の術者だったなどと、軽く見ていた自分が恥ずかしくなる。
だから、つい……。

セージ「大事な人が、そんなの…心配するじゃない……」

自分らしくない言葉を漏らしてしまった。

猛竜騎士「セージ……」
セージ「本当は分かってた。適任者が貴方たちしかいないってことは……」
猛竜騎士「…」
セージ「だけど、危険な目に合うって分かっているのに、そんなことを許したくはなかったの…!」
猛竜騎士「…」
セージ「……良いわよ。本当は、分かってるから…」
猛竜騎士「あぁ……」
セージ「世界を救えるのは、貴方たちだけなんだって……」

彼らの覚悟を意味ないものにすることは許されない。
魔剣士の実力、白姫と猛竜騎士との出会い。この全ては、世界が望んだ導きだったのだろう。

セージ「研究者である私にとっては、運命なんてのは眉唾ものだけどね。だけど、世界がきっと、そう望んだんでしょうから……」

猛竜騎士「必ず世界は救う。安心して待っててくれ」
セージ「当たり前でしょ。もし何かあったら、私が許さないんだから!」
猛竜騎士「フッ、分かったよ」

いよいよセージの気持ちに気づいていてか、猛竜騎士は彼女をまっすぐに見つめ、優しく微笑みを見せたのだった。

魔剣士「……っつーことは、ついにセントラルへ戻るのか」
白姫「私の故郷…。こんなかたちで戻るなんて思わなかった、思いもしなかった……」
魔剣士「覚悟は」
白姫「ある。大丈夫。私はどんな覚悟でも出来てるから」
魔剣士「それでこそ白姫だ。俺がどんな時でも守ってやるからよ!」
白姫「うんっ…!大好き、魔剣士!」
魔剣士「おっ…、おうっ!!」

四人はそれぞれの意志を固め、旅立ちの時。
いよいよ決戦の地となる"セントラル"へと向かう。

セージ「……ちょっと、猛竜騎士。良い?」
猛竜騎士「ん……?」

すると、決心に燃える魔剣士たちの横で、セージは猛竜騎士を呼んであることを耳打ちする。
この話は非常に重要だったのだが、彼女はある考えのもと、猛竜騎士にだけ伝えたのだった……。

…………
……


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――その頃、セントラル王城。
地下牢に増築併設された"研究室"と"実験室"には、魔法研究連より派遣された"スパイ研究者"の立会のもと、実験が行われていた。
「……ッ!!」
そして、その実験で起きている驚愕の光景を前に、研究者は言葉を失っていた。
(こんなことが…あって…いいのか……!)

目の前には、見るも無残な遺体の山。山。山。積み重なる死体は男女とも関係なく、ただの肉塊のようになっているものさえあった。
それは、闇魔法の研究で扱われた"人"の処理場所であったことの他、今…現在。このスパイの目の前で起こっている、"男"による惨劇の結果だった。

(見ては…いられない……!)

その男は、闇魔法の研究の結果、この時における成功者の"第一号"。最悪なことに、セージの読みの通りセントラルでは既に闇魔法の会得者が誕生していたのだ。
闇魔法の会得者であるその男。持て余す力に、市民権の持たない人を次々と捕縛するように命令し、研究者のもとで力を試していたというわけだった。
そして、彼は魔剣士と面識を持つ、猛竜騎士よって退場させられていたあの男……。

ブレイダー「闇魔法って、凄いね!どんどん力が溢れてくるよ……!」

"ブレイダー"。
白姫を襲い、魔剣士の怒りを買い、猛竜騎士によって退場させられた、若き両刀の剣士。
彼こそ、セントラルで第一号の成功者、闇魔法の会得者となっていた。
それに加え、この闇魔法の始まりは、セントラルにとっては別の良い意味となる"波"をもたらすのだった。
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…………
……

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