魔剣士「お姫様の家出に付き合うことになった」【現在完結】

Naminagare-波流-

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第九章【セントラル】

9-26 大好きだから

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―――2時間後。
魔剣士、白姫、猛竜騎士の三人はベッドのうえで気を失っているバンシィの前で、どうするべきかを話し合っていた。
きつく縛った布を外し、少女の姿で横たわる彼女を見ると、酷い傷をつけてしまったと魔剣士は自分の不甲斐なさに肩を落とし、猛竜騎士は「気にするな」と幾度も声をかけた。

魔剣士「バレちまった…。いずれこうなったかもしれねーけど、失敗ばっかで…どうしたらいいか分かんねーよ……」

倒すべきチャンスを逃したこと、バンシィに自分の考えが分かってしまったこと、魔剣士はどうしたらいいか分からなかった。

猛竜騎士「そう気を落とすな…。魔剣士、お前が闇魔法の会得者であることはバレていないんだろう?」
魔剣士「それはそうだと……思う。だけど、俺がブレイダーを討つ意味と、世界を救おうとしていることをバレて、バンシィはブレイダーにそれを伝えようとしたんだ……」

これは完全なる勘違いである。バンシィの魔剣士に嫌われたくない一心で取ってしまった行動に、大きいすれ違いが発生してしまった。

白姫「バンシィちゃんが、そんなことを……?」
魔剣士「本気でしくじった…。俺ひとりで行動するなんて甘かったんだ……ッ」
白姫「バンシィちゃんが本当に…、そうなの……?」
魔剣士「あぁ、そうだよ。俺からローブを奪って、逃げて……!」
白姫「バンシィちゃんが……」

しかし、ここで一つの光明。白姫は彼女の瞳を見た時、どうしてもそんなことをするように思えなかったのだ。
白姫にとっては全てを知ったうえでの心苦しい言葉だったが、この状況でそれを口にしないわけにはいかない。

白姫「……ま、魔剣士」
魔剣士「何だよ……」
白姫「本当にバンシィちゃんは、魔剣士のことをブレイダーに伝えようとしたのかな……?」
魔剣士「……どういう意味だよ」
白姫「私はバンシィちゃんの眼を見てたから、彼女の気持ちが分かったんだ」
魔剣士「気持ち……?」
白姫「うん。バンシィちゃんは、魔剣士のことを本気で…その……、信じてたから。私には、バンシィちゃんが魔剣士を裏切ろうなんて思ったことが考えられなくて……」
魔剣士「……コイツは最大の敵になり得る男の妹だぞ。それを裏切らないとどうして言い切れる!」

白姫の瞳に宿る、読むチカラを信用していないわけではない。実際にアサシンから身を守ることが出来たのも彼女の鋭い感覚のおかげだったし、自分の気持ちもよくバレてしまっていた。

魔剣士「確かに…、お前のその言葉は信じたいよ。だけどな……」

状況が状況だけに、信じられるわけがないのだ。

白姫「信用しなくてもいい。だけど、バンシィちゃんの気持ちは凄く伝わったから……」
魔剣士「……あの行動を見ていないからだ」
白姫「あの行動って…、キ、キスの…こと……?」
魔剣士「ち、違うわ!そこじゃなくて、コイツが俺のローブを奪ったところを……!」
白姫「……だから、そうじゃないんだってば!!」
魔剣士「うぉっ…!?」
猛竜騎士「おっと……」

珍しい白姫の大声に、二人は驚く。なかなか察してくれない魔剣士に、白姫はいい加減しびれを切らしたようだった。

白姫「魔剣士、この子は……!」

言っていいのか悩んだが、魔剣士とて全てを分かっていない訳ではないだろうし、言って悪いことではないだろう。

白姫「魔剣士のことが、好きなのっ……!」
魔剣士「……あ?」
白姫「だから、魔剣士のことが好きなんだってば…。フランメお兄ちゃんとしてじゃなくて、きっと、本気で……!」
魔剣士「え、あ…?」
白姫「…っ」
魔剣士「……ち、ちょっと待て。確かに好き好き言ってたけど、それはたまたま寂しいからだとか、構ってほしいからとかで…」
白姫「そうじゃないよ…。きっと本気だから。魔剣士は誰にでも優しいから、この子の心に触れるには充分過ぎる何かをやったんだよ……」

差し伸べた手、自らを犠牲にしても守ろうとしたあったかい手。それに開いた心。

魔剣士「い、いや……!待て、待て待て……!待て、白姫!」
白姫「どうしたの?」
魔剣士「さすがに、会ったばっかりでそれはないだろう!そりゃ優しくしたっつーか、面倒見たかもしんねーけど……!」
白姫「そ、そんなこと……!」

魔剣士の言葉に、猛竜騎士はまるで「鏡だな」と笑った。

魔剣士「何…?」
猛竜騎士「好きになることに理由はない。人が人に惹かれることに不思議ではないし、一瞬で好きになることに理由がいるのか?」
魔剣士「へっ……」
猛竜騎士「お前だって、出会いからすぐに惹かれた人間がいるんじゃないのか?」
魔剣士「……おい、ちょっ」
猛竜騎士「さぁーてな。それでもお前は、バンシィが出会ってすぐにお前のことを"好きになるわけがない"と言えるのか?」
魔剣士「うっ……」

全くもってその通りだった。

猛竜騎士「本気はもちろんのこと、冗談だとしても、好きだと言ってくれた相手に"嘘をつくな"というのはあまりにも酷だとは思わないか?」
魔剣士「うぐっ……」
猛竜騎士「……拒否するのはいいが、否定はするんじゃない」
魔剣士「あ…、わ、分かったよ……」

何かを否定することほど、人としての格が下がることは無いと、持論ながら言い聞かせ、魔剣士は納得した。

魔剣士「じゃ、じゃあ…どうすりゃいいんだよ……」
白姫「あくまでも私の感覚だから、違ってたら…って思うけど、間違いはないなって……そう思う」
魔剣士「好きだとしても、それが何の関係がある。逃げた理由となんの関係がある?」
白姫「私が一緒の状況だったら、バンシィちゃんの行動も分かる気がしたから。好きになったのに、その人に敵だと思われて、迫られて、その雰囲気に怖くなって……」
魔剣士「……!」

同じ立場だとしたら、彼女がどんな思いだったのかよくわかる。……いや、彼女の経験から考えれば、きっと自分が思っている以上に怖かったのかもしれない。

魔剣士「そ、そうか…。そうだったんだよな……」
白姫「魔剣士……」
魔剣士「まーた気付かせてもらっちまった。白姫、オッサン、ありがとよ……」
白姫「ううん……」
猛竜騎士「あぁ、それは良いさ。それより、これからどうするかだ」
魔剣士「これから…か……」

バンシィに存在を気付かれてしまったことは、今後の行動を左右する状況だった。
また、ブリレイが王城に籠っているようで最近の情報も分からないため、これからの行動が制限されていた。

魔剣士「……バンシィの目を覚まさせるか?」
白姫「えっ!」
魔剣士「俺の魔力が体内に停滞して、まだ目覚めてないだけだ。それを抜けさせれば、目は覚ますと思う」
白姫「で、でも……」
魔剣士「分かってる。もちろん、逆に魔力を与えて深い眠りにつかせておくことも可能だ。目を覚まさせることが、バンシィにとってどうなるか……。白姫はどう思う?」
白姫「え、わ…私は……」

きっと大丈夫だと思う。魔剣士が優しく接すれば、彼女も分かってくれるはず。
だけど、白姫にとっては、魔剣士のことを大好きだと行動を取れる彼女が目を覚ますことはわずかばかり嫌だった。

白姫「……きちんと、お話しすれば分かってくれると思うから」

しかし、我がままを言うことはもっと情けなくなるから。自分の気持ちがどうとか、言ってる場合じゃないから。

魔剣士「分かった。オッサンはどう思う?」
猛竜騎士「……お前の自由にしたらいい。但し、覚悟は決めておくことだ」
魔剣士「覚悟…だって?」
猛竜騎士「確かにお前を好きでいてくれるかもしれない。ただ、お前がこの子に刃を向けたことも事実で、敵にならない可能性はゼロではないということだ」
魔剣士「……この子を殺せっていうのか」
猛竜騎士「言う言葉は無い。それを理解することは、お前の責任だ。全てを押し付けるようなことはしたくないが、よく分かっていてほしいことだ」
魔剣士「…っ」

そう言われると一気に不安になる。目を覚まさせることが正解なのか、眠りにつかせることが正解なのか。

魔剣士「…」

同じ立場で物事を考える。全てが分かるとは言わないが、相手の立場になって考え、それを分かろうとする気持ちこそ大事なのだ。

魔剣士「……分かった」

そして、決める。

魔剣士「もしバンシィが目覚めた時、全てが終わっていたら…。ブレイダーや俺、誰もがいなくなっていたら。バンシィは何よりも悲しんでしまうと思う」
猛竜騎士「……そうだな」
魔剣士「だから……」
白姫「うんっ…」
魔剣士「目を覚まさせて、全てを伝える。それでダメなら、俺はこの手で……」

世界の敵になるというのなら、容赦はしない。魔剣士は立ち上がり、すぅすぅと寝息をたてるバンシィの頬に優しく触れた。

魔剣士「バレちまったことだ。俺が上手く立ち回れなかったせいで、勝手かもしんねーけど……」

彼女を起こすように、掌へイメージ。バンシィを目覚めよと、目覚めろと。

魔剣士「バンシィ、ごめんな……」

バンシィの身体に影響を及ぼしていた魔剣士の魔力が取り除かれると、彼女は「うぅん」と反応する。
やがて一分くらい経ったあとだろうか、彼女のまぶたがゆっくりと開き始め、意識を取り戻したことが分かった。
問題は、ここから。

魔剣士「……バンシィ」
バンシィ「…」
魔剣士「聞こえるか。バンシィ、俺だ…フランメだ……」
バンシィ「…」

少し呆けているのか、薄目の状態で魔剣士をじっと見つめたまま動かないバンシィ。
だが、次に魔剣士が「バンシィ!」と名を呼んだ時。状況を把握したのか、シーツを握りしめて顔を隠しながら、壁に背をぶつけて「やだぁっ!!」と声を上げた。

魔剣士「バンシィ!」
バンシィ「やだ、やだぁっ!!いやだっ!!」
魔剣士「お、落ち着け!俺だ、フランメだ!!」
バンシィ「いや、いやぁぁっ!!やだっ、やだよぉっ!!!」

攻撃された恐怖なのか、それとも自分を認識していないのか、泣き叫んで話を聞こうとしない。まるで、あのリングの上で見せた顔と一緒で、魔剣士はハっとする。

魔剣士「……バンシィッ!!」

バンシィの握っていたシーツを無理やり剥がし、彼女の掌を握りしめる。

魔剣士「俺だ、フランメだ…、落ち着いてくれ、話を聞いてくれ……!」

わずかに込める炎の魔力、掌に温もりを感じる程度に。

バンシィ「いや…、やだよ……!いや…だよぉ………!」
魔剣士「頼むから落ち着いてくれ…!バンシィ、俺だから……!」
バンシィ「う、あうぅぅっ、いやぁ……!」

あのとき届いた声が、今は届かない。

魔剣士「バンシィ、俺だ……!」

魔剣士、白姫、猛竜騎士、三人は彼女が傷をつけられた恐怖にかられているのだと、そう思っていた。
だが、彼女はそれより、もっと"恐怖"していることがあったことを、次の言葉で理解した。

バンシィ「お兄ちゃんに、嫌われるの…やだ……!」
魔剣士「……何?」
バンシィ「私がいると、お兄ちゃんが私のこと嫌いになるから……!来ないで、やだぁっ……!」
魔剣士「お前……!」

彼女は、目覚めた時より意識はハッキリとしていた。ただ、魔剣士が自分と接した時、近くにいては嫌われると、逃げなければと思っていたのだった。

魔剣士「バンシィ、お前のことは嫌いにならん!!嫌いじゃない!!」
バンシィ「嘘だよぉ…、さっき、だから、フランメお兄ちゃんが私に、攻撃して……!」
魔剣士「くっ…!?」

もちろん、恐怖はその恐怖だけではなく、魔剣士が剣を振ったことも記憶の傷となってしまっていたのだが。

魔剣士「……違う、あれは仕方なくだ…!分かってもらえないかもしれねーけど、俺はお前が好きだ!大好きだから、落ち着いてくれ!!」

白姫(…っ!)

大好きだという言葉に、
"トクン!"と白姫の心が脈打った。

バンシィ「だいすき…、嘘つくのいやだよ……。一緒にいたら、嫌いになるって……!」
魔剣士「そんなこと言ってない!本当に嫌いだったら、こうやってても握ってねーし、お前の近くにいたりしない!」
バンシィ「あ…、う…ぅ………」
魔剣士「……落ち着いてくれ。お前に話をしたいことがあるんだ」
バンシィ「お……、はな…し……?」
魔剣士「嫌いという話じゃない。お前が知りたかった全てを、話す。だから落ち着いてくれ……!」
バンシィ「…おはなし……」

熱意という熱意、嫌いじゃない、大好きという言葉に、バンシィは少しずつ落ち着きを取り戻した。
やがて、バンシィの隣に腰を下ろして彼女の手を握ったまま、魔剣士は"覚悟"を決めて、全てを話し始めたのだった。

………


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2、30分も経ったであろうか。
魔剣士が今まで体験したこと、自分の本当の名を、白姫、猛竜騎士の存在を、全てをバンシィに伝えた。
世界の明日を救うと言った意味も、ここで彼女は全てを知ることとなった。

バンシィ「フランメお兄ちゃんが魔剣士お兄ちゃんで、闇魔法の使い手…なの……?」
魔剣士「騙していてすまなかった。俺は、明日のために名を知られるわけにはいかなかったんだ」
バンシィ「それじゃ、その仮面も顔を隠すために……?」
魔剣士「あ、あぁ……」

ここまで伝えておいて、いまさら無駄なことだ。魔剣士は仮面を外し、素顔を晒した。

バンシィ「魔剣士お兄ちゃん……なの……?」
魔剣士「幻惑魔法の一種だ。これに触れておいてくれ…、仮面に宿る魔力を知っていれば、俺が仮面を着用してもそう認識できるはずだ」

バンシィに仮面を持たせ、自分の全てを教えた。これで敵に寝返るような素振りを見せたら、覚悟のうえで行動するしかない。

バンシィ「……お兄ちゃんの優しさも、嘘だったの?」
魔剣士「それは違う。お前を本当に助けたいと思ったから、リングの上でも行動した。お前が負けそうになるとは思わなくて、焦ったんだぞ」
バンシィ「う……」
魔剣士「お前に触れた手は、嘘をついていたか考えてほしい。騙していたことばっかりだったが、お前を大事に思ったのは本心からだ」

眼を見つめ、本心であることをしっかりと伝える。これで彼女がどのように動くのか、魔剣士は心底怖かっただろう。
白姫と猛竜騎士も同様に仮面を外し、二人のやりとりを静かに見守った。

バンシィ「……お兄ちゃん」
魔剣士「な、何だ……?」
バンシィ「お兄ちゃんは、僕に何をしてほしいの?」
魔剣士「何?」
バンシィ「それを教えて、全てを知って、お兄ちゃんがどんな風に考えてるか分かった…。だけど、僕にそれを教えて、何をしてほしいのかなって……」
魔剣士「何をって、お前……」
バンシィ「……それくらい分かるよ。僕だって冒険者なんだから、それを伝える意味くらい…」
魔剣士「バンシィ……」

彼女は、世界を担う戦いに巻き込まれてしまったことを充分に理解していた。

魔剣士「お前は、ブレイダーに俺らのことを伝えようと思っていたんじゃないのか?」
バンシィ「……有り得ないよ。僕は、魔剣士お兄ちゃんと一緒にいたかっただけだもん…!だからローブだって……!」
魔剣士「…」
バンシィ「お兄ちゃん、僕のこと嫌いになった?逃げて、弱くて、惨めで、情けなくて……、嫌いになったよね……」
魔剣士「……何でだよ!俺だって、お前に剣を向けちまったことを後悔してるんだ」
バンシィ「じゃあ傍にいても嫌いにならない?僕のこと、好きでいてくれる?」
魔剣士「あ、あぁもちろんだ……」

まるで告白のように、白姫は見ていられずそっぽを向いた。

魔剣士「それで、バンシィ……」
バンシィ「うん……」
魔剣士「改めて言うが、俺はお前の兄を討たなければだめなんだ。お前はそれを許せるか?」
バンシィ「ブレお兄ちゃんを…殺すんだよね……」
魔剣士「そうだ。殺したくはないが、力を持っちまった以上、あいつは世界の敵になる」
バンシィ「……うん」
魔剣士「だから、お前はそれが許せるか?お前は、俺らの行動を知ってこれからどう動く?それを教えてほしい」
バンシィ「そういうことだったんだね……」

鋭いバンシィは、自分がどんな状況なのか承知している。裏切りをかけられていることも、ここでの回答がどうなるかも。

バンシィ「…」

わずかな時間、無言となって何かを考える様子を見せていたが、やがてバンシィは笑顔を見せた。

バンシィ「……お兄ちゃん!」
魔剣士「な、なんだ?」
バンシィ「関係ないけど、ちょっとだけ剣を貸してほしいなーって。あ、柄の部分は持ってていいから!」
魔剣士「は、はい?」
バンシィ「ちょっと気になることがあって!」
魔剣士「……まぁいいけど」

床に置いた鞘を拾うと、剣を抜いて、バンシィに見せる。

バンシィ「これが僕を守ってくれた剣で、魔剣士お兄ちゃんの大事な剣なんだよね……」
魔剣士「あぁ、俺の相棒だ。いつまでも刃折れしなくて助かってるぜ」
バンシィ「そっか、凄く大事なものなんだ。……それじゃ、僕は」
魔剣士「ん?」
バンシィ「……ごめんね、魔剣士お兄ちゃん」

小さく謝ったあと、バンシィはまさかの行動を取った。刃を掴み、自らの首にあてたかと思うと、野菜や肉をスパっと切り裂くように、自らの首を剣に滑らせたのだ。

魔剣士「おいっ!!?」
白姫「バンシィちゃんっ!!」
猛竜騎士「いかんっ!!!」

辺りに鮮血が飛沫し、真っ赤に濡らす。白姫は慌てて光魔法を唱え、バンシィの首に出来た傷を癒しを与える。

バンシィ「ご、ごほっ…!」
魔剣士「バカ野郎、お前…何してんだコラァ!!!」
バンシィ「げほっ…!う、うれし……な……。僕のた…めに……ほんき…で、おこってるんだ………」
魔剣士「ふっざけんな、直ぐに治すぞ!!白姫、頼む、だめだ、今、バンシィを殺したくなんかないんだ!!」
白姫「分かってる!!絶対に治癒してみせるからっ!!」

猛竜騎士は別の部屋にある回復剤を取りに走った。

バンシィ「うくっ…!は、はぁ、はぁっ……!」

白姫のヒーリングは何とか傷を止血するが、流れ出た血によって体力が大きく削られ、呼吸が浅い。

魔剣士「バカ野郎がぁ!!どうしてこんなことしたんだっ!!!」
バンシィ「こ、これで……お兄ちゃんの…記憶になれるならって…………」
魔剣士「な、何言ってやがんだ!!」
バンシィ「僕…、ぼ、僕は……、決められないから……」
魔剣士「決められないって…!」
バンシィ「お兄ちゃん、優しいから……。僕が、決められなかったとしても、きっと、僕のことを殺せないと…思ったから……」
魔剣士「……ッ!」
バンシィ「だったら、大好きなお兄ちゃんの、ために……、僕、自分で…死ねるから……!」
魔剣士「お前、ふざけ……!!」

家族として見てきたブレイダーを殺すことに、悩んだバンシィ。
大好きな魔剣士は優しいから、自分をきっと殺せない。だけど、自分は殺されなかったら裏切るかもしれない。そしたら、お兄ちゃんに嫌われてしまうかもしれない。そんなのは、嫌だ。好きなままでいてほしかったから、記憶に残るように、魔剣士の剣で自ら命を断ってもいいと思った。

バンシィ「……で、でも…ね…」
―――でもね。

バンシィ「お兄ちゃん、本気で、僕のこと…心配してくれて、怒ってくれてる……」
―――凄く嬉しい。やっぱり優しい。

バンシィ「やっぱり、魔剣士…お兄ちゃんが大好きだから……、生きて、魔剣士お兄ちゃんと一緒に…いた…く…なっちゃった………」
―――魔剣士の優しさを感じていたい。

自分の存在が邪魔だと分かっていたから、自ら命を断とうとしたのに。こんな時でも、魔剣士は消えてほしい存在の自分に対し、必死で助けてくれている。

魔剣士「白姫ぇっ!!オッサン、早くしてくれぇっ!!俺は無力だ、くそ、くそぉっ!!」
白姫「め…いっぱいだよっ……!全部の魔力を出すから……!」

本当の優しさってあったかいんだね……。
言葉は乱暴でも、その手はずっと握っていてくれるから……。

魔剣士「ダメだ、絶対に生きてもらう!!お前が生きたいのだと願うなら、死なせはしねぇっ!!!」
バンシィ「お兄ちゃ…ん…………」
魔剣士「バンシィ、しっかりしろォ!!バンシィッ……!!!!」
バンシィ「…っ」

…………
……


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――時間は、いつの間にか過ぎていた。
バンシィが目覚めた頃には、カーテンの隙間から朝日が差し込み、そこで疲労から気絶するように眠る魔剣士と白姫、猛竜騎士の三人がどれほど自分のために精力してくれたのかよく分かった。

バンシィ「…」

身体はかなり軽い。どうやら、自分は助かったようだった。

バンシィ「魔剣士お兄ちゃん……」

最後に見たのは、魔剣士が必死に自分を助けようと手を握り、名前を呼んでくれたこと。
今は寝息をたてて夢の中のようだが、あんなに嬉しいことは無かった。

バンシィ「…」

みんなを起こさないように静かに立ち上がり、床で眠る三人に、近くにあったシーツとタオルをそれぞれかける。
あれほど血に汚れていた服や床はすっかり綺麗になっていて、徹夜で頑張ってくれたのだろう。

バンシィ「魔剣士お兄ちゃん、白姫お姉ちゃん、猛竜騎士のおじさん……」

猛竜騎士、白姫には頬に軽いキスを。魔剣士には「卑怯でごめんね」と唇にキスをした。

バンシィ「僕が全部終わらせれば、問題ないよね……。お兄ちゃんとずっといたいから、ずっと好きでいてほしいから、僕が頑張ってくるから……」

バンシィは深い眠りについた三人に挨拶を済ませると、魔剣士のローブを手に取り、静かに部屋から出て行ったのだった。

そして、それから遅れること30分後。
ぴったり閉じられた窓に鳥の羽音が響き、ブラインドの仕切り部分を足場にしたようで、"コツコツ"とクチバシで叩く音が、三人を起こしたのだった。

…………
……


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