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第九章【セントラル】
9-27 何を信じれば
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バンシィが出発して30分後、窓を叩かれた音で目を覚ました三人は、どう動くものか頭を悩ませていた。
魔剣士たちを起こした正体は、氷山帝国より飛ばされた魔梟で、ようやくセージに起こったことが三人に伝わったところだった。
魔剣士「何が…、どうなってんだ……?」
猛竜騎士「この手紙は一体……」
白姫「手紙をくれたってことは、よっぽど切羽詰まった状態ってことなんでしょうけど……。セージさんは大丈夫なんでしょうか……」
猛竜騎士「……アイツがそう単純に倒れるなんか思っちゃいないさ…」
気付かぬよう拳を強く握りしめたのは、二人は知っても知らないふりをしてくれるだろう。
魔剣士「……結局、事態は最悪だったってか。全く笑えるぜ」
セージのことも、謎の手紙のことも心配だったが、それよりも消えたバンシィについての考えが尽きなかった。
白姫「バンシィちゃん……」
魔剣士「……あんなこと言っても、結局は俺らを裏切ったってことなのかねぇ。信じた俺らが馬鹿だったってことか」
大きくため息。彼女が行方知れずとなった今、どこへ向かったかは大体の予想はつく。
たった30分前の出来事だったが、魔剣士たちにとっては、どれくらい前に、何のために、どうして何も言わず消えたのか分からなかった。
白姫「……それでも、信じたいのは本当に馬鹿だよね」
魔剣士「あァ?」
しかし、白姫だけは彼女を信じた。信じる理由があった。
白姫「だって、バンシィちゃんは……」
魔剣士「ん……」
彼女は、自分たちにかけてくれたタオルを見たあと、消えた魔剣士のローブが掛かっていたクローゼットを指差した。
白姫「本当に裏切るんだったら、こんなことをしないし、あんなに言ってた魔剣士のローブをまた持ってくなんてありえないと思うから……」
魔剣士「……さすがに人が好過ぎだ。お前の瞳は本当にアイツの気持ちも分かってたようだけどよ、今回ばかりは違うだろ」
白姫「そ、そうだよね……」
魔剣士「俺らのことも王城、アイツらにバレてるよ。セージは意味不明なこと残して倒れちまったみたいだし、さーて…どうすんのって話だよ」
両腕を目いっぱい伸ばし、欠伸をすると、ベッドへと背中から"ぼふん!"と横になった。
魔剣士「……今、何時だ」
白姫「え、えーっと……、8時30分かな」
魔剣士「……フン、朝9時から騎士団の集会だ。その前に俺らの秘密を話ツケるってことで道理がいくんじゃないのか」
白姫「あ、う…うん……」
魔剣士「ふわぁーあ…、アホなこと言っちまったもんだぜ。俺らの秘密を伝えてよ、もしかすると最初から俺が女に弱いって分かってたブレイダーがけしかけた罠だったんじゃねーの?」
白姫「……でも、バンシィちゃんは本気で魔剣士のことを好きだったって。好きなんだって、分かってる…よね…?」
魔剣士「だからそれもさぁ……」
白姫「……魔剣士ッ!!そうじゃなかったら、自分から首を切ったりしない!!」
魔剣士「おぅっ!?」
同じ気持ちだから、同じ立場だったら、そうしてたかもしれないから。ついつい声が大きくなった。
白姫「あ……、ご、ごめんね……」
魔剣士「い、いや……」
白姫「その……バンシィちゃんはね、魔剣士のことを本気で好きじゃなかったら、あんな危険な真似はしないと思ったから……」
魔剣士「…」
裏切られたという気持ちが先行するばかりで、また、過ちを起こすところだったのだろうか。
―――しかし。
魔剣士「それもまた同じような内容で繰り返すが、お前がそういうなら、今回…あいつが消えた理由は何だと思うんだ」
白姫「えっ?」
魔剣士「前に逃げた理由はそこにいれなかったから。今回は、アイツが本心から"俺と一緒にいたい"って望んだわけで、消えた理由にならないだろ…?」
白姫「う、うん……」
魔剣士「そこをどう考えるんだ、白姫は」
命の瀬戸際で、バンシィは確かに「魔剣士と一緒にいたい」と訴えた。あれが本心なら、今回消えた理由はどうしてだと言いたいのだ。
白姫「そ、それは……」
……言葉に詰まる。
少なくとも、魔剣士と生きたいと願った彼女の訴えは本物だったと思うし、命を捨てるような真似も、裏切る真似もするわけがないと白姫は考える。
だったら、どうして消えたのか。もし自分が同じ立場なら、"大好きな魔剣士"のために出来ることを考えた時――…。
白姫「も、もしかして……っ」
魔剣士「んあ?」
何かの閃き。
ところが次の言葉は、白姫ではなく猛竜騎士が"別のこと"で口を開いたのだった。
猛竜騎士「ま、まさかッ!!?」
白姫「ふぇ?」
魔剣士「……何だ?オッサンもバンシィの気持ちに賛同して…」
猛竜騎士「違う!そちらの話じゃあない!」
魔剣士「じゃあ何だよ……」
猛竜騎士「この手紙についてだ…。まさかとは思うが、いや、しかし……」
魔剣士「だから何だよ!」
猛竜騎士「よく聞け……」
猛竜騎士は手紙を拡げ、改めて読み直した。
―――ご一行様へ。
すぐにお伝えしたいことがあります。
このお手紙が何者かに渡る可能性がある手前、詳細はお話しすることが出来ません。
簡潔にお伝え致しますと、マスター様が倒れられました。
その際に残された言葉として、あの男、闇、瞳。
気付けなかったということを、ご一行様にお伝えしてほしいと仰られておりました。
非常に情けないことではありますが、我々ではこの言葉の意味を理解することが出来ませんでした。
その為、取り急ぎ共有までに、この情報をご一行様へお伝え致したく。
願わくば、このお手紙がご一行様に届きます様。
猛竜騎士「……意味が、分からないか?」
魔剣士「んあ?」
猛竜騎士「この語彙は、俺たちに与えられたヒントだ」
魔剣士「そりゃヒントてことくらいは分かるけどよ」
猛竜騎士「……では、一つ一つ聞こう」
魔剣士「あ?」
猛竜騎士は記載された語彙を指差し、質問を投げた。
猛竜騎士「闇とは、なんだ」
魔剣士「闇魔法のことか……?」
猛竜騎士「では、瞳とは」
魔剣士「眼のことだろ?変な意味がなけりゃ、多分だが」
猛竜騎士「……あの男とは」
魔剣士「あの男って、セージが言ってたってことはそりゃ……、王とかブリレイとか……」
猛竜騎士「セージの観点から"あの男"と言えるのは、接していた人物だけだ。つまり、ブリレイの線が高い」
魔剣士「お、おぉ……?」
鋭い感性、洞察力が光る。
猛竜騎士「闇、瞳、ブリレイのこと。これは、ブリレイが何らかのかたちで闇魔法に関わっていたということだろう」
魔剣士「……同じ研究者同士だし、そりゃ関わっても」
猛竜騎士「そうじゃない。ここで出るのが、"気付けなかった"ということだ」
魔剣士「気付けなかった……」
猛竜騎士「つまり、セージが気付かない何かが。闇魔法に関わる何かが、ブリレイにあるということじゃないかと思う」
魔剣士「…!」
更に核心へ、セージの身に起こったことが功を奏した。
猛竜騎士「そしてセージが倒れたという意味。これは、敵意を持っているという可能性がグンと高いと読んだ」
魔剣士「…なっ!」
白姫「ブリレイさんが…!?」
猛竜騎士「自身が倒れ、気付いてほしい闇魔法とブリレイの繋がり。これは敵意を持っているといって差し支えないだろうが、だが…どうしてもわからないのは……」
"瞳"という存在。
こればかりは、何かの隠語であるのか、そのまま"眼"を指している言葉なのか、それがどうしても分からなかった。
魔剣士「……とにかく、ブリレイが俺らの敵である可能性が高くなったってのは確かなんだろ」
猛竜騎士「悲しいことだが、信じたくもないが…な……」
白姫「それじゃあ、魔剣士のことも既にハイルへ伝わっている可能性が……」
猛竜騎士「……高いということだ」
魔剣士「……ッ!」
猛竜騎士「また最悪なことに、お前たちの言っていたバンシィの存在も……」
ブリレイが裏切っている。また、バンシィが用意されていた人物だったのなら。
彼女が駄々をこねて、魔剣士を部屋へ入れた際に"ブレイダー"が魔剣士と接触するために待機していたことも納得できた。
猛竜騎士「そう決めるのは良くないと分かっている。だが……」
魔剣士「だ、だがもこうもねーよ。八方ふさがりは変わらないじゃねーか。もうバレてるっていう形で立ち回る他はねーんじゃねーか……?」
猛竜騎士「……それしかないな」
魔剣士「ハハッ…、まぁ上等じゃねーの。闇魔法の会得者として、世界を救うにこれほど面白い展開はねーよ!!」
猛竜騎士「魔剣士……」
魔剣士「それに、どんなにバレていたとしても俺の最大の秘密はバレてねぇ。第三段階っつーのか、魔法化の秘術はまだ奥の手で残ってる」
左腕にイメージし、炎を燃え上がらる。
猛竜騎士「……そうだな。それで、これからの行動についてだが」
魔剣士「あぁ」
猛竜騎士「今は、ブリレイの言った通りに立ち回るんだ。怪しんでいることを悟られては不味いからな」
魔剣士「分かった。だけどなんだ、奇襲を仕掛けられたリ向こうが動いてきてどうしようもない事態になったなら……」
猛竜騎士「戦う他はない。それと、俺らも仮面を被ってお前に着いていく。恥ずかしいことだが、闇魔法の会得者に白姫を狙われては…俺の手に負える相手じゃないからな……」
魔剣士「分かった」
一体、この国で何が起きようとしているのか。
セージの伝えたかった真意、ブリレイの秘密。ハイル王、ブレイダー、バンシィ、クロイツ騎士団。
明日の光は、まだ一片たりとも感じることが出来ない。裏切りが裏切りを呼ぶ今、信じるものは自分の他ないのだろうか。
白姫「…」
ところが、白姫だけは違った。敵として疑う他ないバンシィやブリレイの存在に、彼女はバンシィを信じていた。
実際に言ったとしても、彼女も裏切ったわけではない。何故なら、この時、バンシィもまた身の危険に晒されていたのだから。
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――王城地下、実験場にて。
ブレイダー「……まさか、妹に命を狙われるなんて思いもしなかったよ」
バンシィ「ブ、ブレお兄ちゃん……!」
30分前、ブレイダーに王城にいると分かっていたバンシィはブレイダーの名を出すことで地下実験場へと案内されていた。
ブレイダーも快諾して彼女を通したのだが、剣を向けられたのはいささか予想外だったらしい。
ブレイダー「……僕に勝てるわけないのにね」
バンシィは両手を"闇魔法"の凍結により自由を奪われていた。純度が高い闇魔力を溶解することは容易ではなく、地面に倒され、剣を突きつけられている。
ブレイダー「どうして僕に攻撃を仕掛けたのさ。バンシィ、君は僕のお手伝いで来たのに……」
バンシィ「ふ、フランメお兄ちゃんのため……」
ブレイダー「……あの時の。そんなに大好きになっちゃったの?」
バンシィ「僕を真剣に見てくれるから…。その時に助けてくれるから……」
ブレイダー「ふーん……」
彼女が回想したのは、リングの上で差し伸べられた魔剣士の"手"だった。
バンシィ「ブレお兄ちゃんは、助けてくれたけど、その時に…僕を……助けてくれなかった……」
ブレイダー「……あぁ、そういうことかぁ」
バンシィ「だから、僕は、助けてくれたフランメお兄ちゃんのために戦いたいから……っ!」
ブレイダー「はぁー…、僕も嫌われちゃったものだよ……」
ブレイダーはバンシィの首筋をそっと指先で撫でる。
ブレイダー「あのさぁ、君が彼のことを好きだとしても、君が彼のことを好きになるとは限らないでしょ?」
バンシィ「……それでも、良い…!」
ブレイダー「いやいや、全然良くないと思うんだけど。そもそもバンシィ、君は凄く汚れているのに好きになってくれる人がいると思ってるの?」
バンシィ「ち、違う……!僕は汚いって分かってるから…!それでも、僕を見てくれたフランメお兄ちゃんのために…戦いたいから……!」
ぎりぎりと氷結された両腕を必死に動かそうとする。
ブレイダー「……ホンットに壊れてるね。普通、連れ添った兄に対してそんな簡単に剣を向けるなんてありえないよ?」
バンシィ「僕もおかしいと思うけど…、だったら壊れてるままに、思ったままに行動するから……!」
ブレイダー「……ふぅん。潜在意識的に目覚めちゃったのかな?」
バンシィ「潜在意識……?」
ブレイダー「うんうん」
にっこり笑って、人差し指を立てながら"えーっとね"と説明を始めた。
だがそれは、バンシィにとって絶望を覚える内容だった。
ブレイダー「簡単に言えば、僕と君が連れ添って来た中でたーっくさんいろんな目にあってきたけど、あれさ、全部…僕の仕業なんだよねー……」
バンシィ「……えっ?」
ブレイダー「君を孤児として拾ってから、お兄ちゃんとして呼ばせて、冒険途中のお金になるじゃん。だからだよ」
バンシィ「ブレ…お兄ちゃん……?」
ブレイダー「途中から面倒になって一人旅に切り替えたけどさ。ま、どのみちこうなる運命だったのかもしれないなーって今ちょっとだけ思っちゃった、ははっ」
バンシィ「……ッ!」
笑いながら、どうでも良さそうにブレイダーは口を開いた。
次にブレイダーは「君の家族を殺したのは、君を利用するために僕がやったことなんだ」と言う前に、バンシィが行動を起こせたのは良かったのかもしれないが。
バンシィ「……ブレイダーお兄ちゃんッ…!!」
無詠唱による、背側を狙った氷結の槍がブレイダーを襲う。しかし、飛び出た殺意は読み取られ、素手に生成した小さな炎壁(えんへき)によってそれは阻まれた。
ブレイダー「……これで二度目だね。もう、君は僕の敵だと思うことにするよ」
バンシィ「僕は元々、もう、そのつもりで……!」
ブレイダー「フフッ!いや何、僕としてもそのほうが好都合なんだ。君をここに呼んだ理由はね、兄としては君を敵に見ないと中々できないことだったから」
バンシィ「何を……!」
ブレイダー「君には天性の魔力がある。バンシィ、君には僕の新たな闇魔力の"糧"となってもらうんだ。君の力の全て、僕が貰うから安心してほしいな」
バンシィ「そ、それってどういう……」
………
…
バンシィが出発して30分後、窓を叩かれた音で目を覚ました三人は、どう動くものか頭を悩ませていた。
魔剣士たちを起こした正体は、氷山帝国より飛ばされた魔梟で、ようやくセージに起こったことが三人に伝わったところだった。
魔剣士「何が…、どうなってんだ……?」
猛竜騎士「この手紙は一体……」
白姫「手紙をくれたってことは、よっぽど切羽詰まった状態ってことなんでしょうけど……。セージさんは大丈夫なんでしょうか……」
猛竜騎士「……アイツがそう単純に倒れるなんか思っちゃいないさ…」
気付かぬよう拳を強く握りしめたのは、二人は知っても知らないふりをしてくれるだろう。
魔剣士「……結局、事態は最悪だったってか。全く笑えるぜ」
セージのことも、謎の手紙のことも心配だったが、それよりも消えたバンシィについての考えが尽きなかった。
白姫「バンシィちゃん……」
魔剣士「……あんなこと言っても、結局は俺らを裏切ったってことなのかねぇ。信じた俺らが馬鹿だったってことか」
大きくため息。彼女が行方知れずとなった今、どこへ向かったかは大体の予想はつく。
たった30分前の出来事だったが、魔剣士たちにとっては、どれくらい前に、何のために、どうして何も言わず消えたのか分からなかった。
白姫「……それでも、信じたいのは本当に馬鹿だよね」
魔剣士「あァ?」
しかし、白姫だけは彼女を信じた。信じる理由があった。
白姫「だって、バンシィちゃんは……」
魔剣士「ん……」
彼女は、自分たちにかけてくれたタオルを見たあと、消えた魔剣士のローブが掛かっていたクローゼットを指差した。
白姫「本当に裏切るんだったら、こんなことをしないし、あんなに言ってた魔剣士のローブをまた持ってくなんてありえないと思うから……」
魔剣士「……さすがに人が好過ぎだ。お前の瞳は本当にアイツの気持ちも分かってたようだけどよ、今回ばかりは違うだろ」
白姫「そ、そうだよね……」
魔剣士「俺らのことも王城、アイツらにバレてるよ。セージは意味不明なこと残して倒れちまったみたいだし、さーて…どうすんのって話だよ」
両腕を目いっぱい伸ばし、欠伸をすると、ベッドへと背中から"ぼふん!"と横になった。
魔剣士「……今、何時だ」
白姫「え、えーっと……、8時30分かな」
魔剣士「……フン、朝9時から騎士団の集会だ。その前に俺らの秘密を話ツケるってことで道理がいくんじゃないのか」
白姫「あ、う…うん……」
魔剣士「ふわぁーあ…、アホなこと言っちまったもんだぜ。俺らの秘密を伝えてよ、もしかすると最初から俺が女に弱いって分かってたブレイダーがけしかけた罠だったんじゃねーの?」
白姫「……でも、バンシィちゃんは本気で魔剣士のことを好きだったって。好きなんだって、分かってる…よね…?」
魔剣士「だからそれもさぁ……」
白姫「……魔剣士ッ!!そうじゃなかったら、自分から首を切ったりしない!!」
魔剣士「おぅっ!?」
同じ気持ちだから、同じ立場だったら、そうしてたかもしれないから。ついつい声が大きくなった。
白姫「あ……、ご、ごめんね……」
魔剣士「い、いや……」
白姫「その……バンシィちゃんはね、魔剣士のことを本気で好きじゃなかったら、あんな危険な真似はしないと思ったから……」
魔剣士「…」
裏切られたという気持ちが先行するばかりで、また、過ちを起こすところだったのだろうか。
―――しかし。
魔剣士「それもまた同じような内容で繰り返すが、お前がそういうなら、今回…あいつが消えた理由は何だと思うんだ」
白姫「えっ?」
魔剣士「前に逃げた理由はそこにいれなかったから。今回は、アイツが本心から"俺と一緒にいたい"って望んだわけで、消えた理由にならないだろ…?」
白姫「う、うん……」
魔剣士「そこをどう考えるんだ、白姫は」
命の瀬戸際で、バンシィは確かに「魔剣士と一緒にいたい」と訴えた。あれが本心なら、今回消えた理由はどうしてだと言いたいのだ。
白姫「そ、それは……」
……言葉に詰まる。
少なくとも、魔剣士と生きたいと願った彼女の訴えは本物だったと思うし、命を捨てるような真似も、裏切る真似もするわけがないと白姫は考える。
だったら、どうして消えたのか。もし自分が同じ立場なら、"大好きな魔剣士"のために出来ることを考えた時――…。
白姫「も、もしかして……っ」
魔剣士「んあ?」
何かの閃き。
ところが次の言葉は、白姫ではなく猛竜騎士が"別のこと"で口を開いたのだった。
猛竜騎士「ま、まさかッ!!?」
白姫「ふぇ?」
魔剣士「……何だ?オッサンもバンシィの気持ちに賛同して…」
猛竜騎士「違う!そちらの話じゃあない!」
魔剣士「じゃあ何だよ……」
猛竜騎士「この手紙についてだ…。まさかとは思うが、いや、しかし……」
魔剣士「だから何だよ!」
猛竜騎士「よく聞け……」
猛竜騎士は手紙を拡げ、改めて読み直した。
―――ご一行様へ。
すぐにお伝えしたいことがあります。
このお手紙が何者かに渡る可能性がある手前、詳細はお話しすることが出来ません。
簡潔にお伝え致しますと、マスター様が倒れられました。
その際に残された言葉として、あの男、闇、瞳。
気付けなかったということを、ご一行様にお伝えしてほしいと仰られておりました。
非常に情けないことではありますが、我々ではこの言葉の意味を理解することが出来ませんでした。
その為、取り急ぎ共有までに、この情報をご一行様へお伝え致したく。
願わくば、このお手紙がご一行様に届きます様。
猛竜騎士「……意味が、分からないか?」
魔剣士「んあ?」
猛竜騎士「この語彙は、俺たちに与えられたヒントだ」
魔剣士「そりゃヒントてことくらいは分かるけどよ」
猛竜騎士「……では、一つ一つ聞こう」
魔剣士「あ?」
猛竜騎士は記載された語彙を指差し、質問を投げた。
猛竜騎士「闇とは、なんだ」
魔剣士「闇魔法のことか……?」
猛竜騎士「では、瞳とは」
魔剣士「眼のことだろ?変な意味がなけりゃ、多分だが」
猛竜騎士「……あの男とは」
魔剣士「あの男って、セージが言ってたってことはそりゃ……、王とかブリレイとか……」
猛竜騎士「セージの観点から"あの男"と言えるのは、接していた人物だけだ。つまり、ブリレイの線が高い」
魔剣士「お、おぉ……?」
鋭い感性、洞察力が光る。
猛竜騎士「闇、瞳、ブリレイのこと。これは、ブリレイが何らかのかたちで闇魔法に関わっていたということだろう」
魔剣士「……同じ研究者同士だし、そりゃ関わっても」
猛竜騎士「そうじゃない。ここで出るのが、"気付けなかった"ということだ」
魔剣士「気付けなかった……」
猛竜騎士「つまり、セージが気付かない何かが。闇魔法に関わる何かが、ブリレイにあるということじゃないかと思う」
魔剣士「…!」
更に核心へ、セージの身に起こったことが功を奏した。
猛竜騎士「そしてセージが倒れたという意味。これは、敵意を持っているという可能性がグンと高いと読んだ」
魔剣士「…なっ!」
白姫「ブリレイさんが…!?」
猛竜騎士「自身が倒れ、気付いてほしい闇魔法とブリレイの繋がり。これは敵意を持っているといって差し支えないだろうが、だが…どうしてもわからないのは……」
"瞳"という存在。
こればかりは、何かの隠語であるのか、そのまま"眼"を指している言葉なのか、それがどうしても分からなかった。
魔剣士「……とにかく、ブリレイが俺らの敵である可能性が高くなったってのは確かなんだろ」
猛竜騎士「悲しいことだが、信じたくもないが…な……」
白姫「それじゃあ、魔剣士のことも既にハイルへ伝わっている可能性が……」
猛竜騎士「……高いということだ」
魔剣士「……ッ!」
猛竜騎士「また最悪なことに、お前たちの言っていたバンシィの存在も……」
ブリレイが裏切っている。また、バンシィが用意されていた人物だったのなら。
彼女が駄々をこねて、魔剣士を部屋へ入れた際に"ブレイダー"が魔剣士と接触するために待機していたことも納得できた。
猛竜騎士「そう決めるのは良くないと分かっている。だが……」
魔剣士「だ、だがもこうもねーよ。八方ふさがりは変わらないじゃねーか。もうバレてるっていう形で立ち回る他はねーんじゃねーか……?」
猛竜騎士「……それしかないな」
魔剣士「ハハッ…、まぁ上等じゃねーの。闇魔法の会得者として、世界を救うにこれほど面白い展開はねーよ!!」
猛竜騎士「魔剣士……」
魔剣士「それに、どんなにバレていたとしても俺の最大の秘密はバレてねぇ。第三段階っつーのか、魔法化の秘術はまだ奥の手で残ってる」
左腕にイメージし、炎を燃え上がらる。
猛竜騎士「……そうだな。それで、これからの行動についてだが」
魔剣士「あぁ」
猛竜騎士「今は、ブリレイの言った通りに立ち回るんだ。怪しんでいることを悟られては不味いからな」
魔剣士「分かった。だけどなんだ、奇襲を仕掛けられたリ向こうが動いてきてどうしようもない事態になったなら……」
猛竜騎士「戦う他はない。それと、俺らも仮面を被ってお前に着いていく。恥ずかしいことだが、闇魔法の会得者に白姫を狙われては…俺の手に負える相手じゃないからな……」
魔剣士「分かった」
一体、この国で何が起きようとしているのか。
セージの伝えたかった真意、ブリレイの秘密。ハイル王、ブレイダー、バンシィ、クロイツ騎士団。
明日の光は、まだ一片たりとも感じることが出来ない。裏切りが裏切りを呼ぶ今、信じるものは自分の他ないのだろうか。
白姫「…」
ところが、白姫だけは違った。敵として疑う他ないバンシィやブリレイの存在に、彼女はバンシィを信じていた。
実際に言ったとしても、彼女も裏切ったわけではない。何故なら、この時、バンシィもまた身の危険に晒されていたのだから。
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――王城地下、実験場にて。
ブレイダー「……まさか、妹に命を狙われるなんて思いもしなかったよ」
バンシィ「ブ、ブレお兄ちゃん……!」
30分前、ブレイダーに王城にいると分かっていたバンシィはブレイダーの名を出すことで地下実験場へと案内されていた。
ブレイダーも快諾して彼女を通したのだが、剣を向けられたのはいささか予想外だったらしい。
ブレイダー「……僕に勝てるわけないのにね」
バンシィは両手を"闇魔法"の凍結により自由を奪われていた。純度が高い闇魔力を溶解することは容易ではなく、地面に倒され、剣を突きつけられている。
ブレイダー「どうして僕に攻撃を仕掛けたのさ。バンシィ、君は僕のお手伝いで来たのに……」
バンシィ「ふ、フランメお兄ちゃんのため……」
ブレイダー「……あの時の。そんなに大好きになっちゃったの?」
バンシィ「僕を真剣に見てくれるから…。その時に助けてくれるから……」
ブレイダー「ふーん……」
彼女が回想したのは、リングの上で差し伸べられた魔剣士の"手"だった。
バンシィ「ブレお兄ちゃんは、助けてくれたけど、その時に…僕を……助けてくれなかった……」
ブレイダー「……あぁ、そういうことかぁ」
バンシィ「だから、僕は、助けてくれたフランメお兄ちゃんのために戦いたいから……っ!」
ブレイダー「はぁー…、僕も嫌われちゃったものだよ……」
ブレイダーはバンシィの首筋をそっと指先で撫でる。
ブレイダー「あのさぁ、君が彼のことを好きだとしても、君が彼のことを好きになるとは限らないでしょ?」
バンシィ「……それでも、良い…!」
ブレイダー「いやいや、全然良くないと思うんだけど。そもそもバンシィ、君は凄く汚れているのに好きになってくれる人がいると思ってるの?」
バンシィ「ち、違う……!僕は汚いって分かってるから…!それでも、僕を見てくれたフランメお兄ちゃんのために…戦いたいから……!」
ぎりぎりと氷結された両腕を必死に動かそうとする。
ブレイダー「……ホンットに壊れてるね。普通、連れ添った兄に対してそんな簡単に剣を向けるなんてありえないよ?」
バンシィ「僕もおかしいと思うけど…、だったら壊れてるままに、思ったままに行動するから……!」
ブレイダー「……ふぅん。潜在意識的に目覚めちゃったのかな?」
バンシィ「潜在意識……?」
ブレイダー「うんうん」
にっこり笑って、人差し指を立てながら"えーっとね"と説明を始めた。
だがそれは、バンシィにとって絶望を覚える内容だった。
ブレイダー「簡単に言えば、僕と君が連れ添って来た中でたーっくさんいろんな目にあってきたけど、あれさ、全部…僕の仕業なんだよねー……」
バンシィ「……えっ?」
ブレイダー「君を孤児として拾ってから、お兄ちゃんとして呼ばせて、冒険途中のお金になるじゃん。だからだよ」
バンシィ「ブレ…お兄ちゃん……?」
ブレイダー「途中から面倒になって一人旅に切り替えたけどさ。ま、どのみちこうなる運命だったのかもしれないなーって今ちょっとだけ思っちゃった、ははっ」
バンシィ「……ッ!」
笑いながら、どうでも良さそうにブレイダーは口を開いた。
次にブレイダーは「君の家族を殺したのは、君を利用するために僕がやったことなんだ」と言う前に、バンシィが行動を起こせたのは良かったのかもしれないが。
バンシィ「……ブレイダーお兄ちゃんッ…!!」
無詠唱による、背側を狙った氷結の槍がブレイダーを襲う。しかし、飛び出た殺意は読み取られ、素手に生成した小さな炎壁(えんへき)によってそれは阻まれた。
ブレイダー「……これで二度目だね。もう、君は僕の敵だと思うことにするよ」
バンシィ「僕は元々、もう、そのつもりで……!」
ブレイダー「フフッ!いや何、僕としてもそのほうが好都合なんだ。君をここに呼んだ理由はね、兄としては君を敵に見ないと中々できないことだったから」
バンシィ「何を……!」
ブレイダー「君には天性の魔力がある。バンシィ、君には僕の新たな闇魔力の"糧"となってもらうんだ。君の力の全て、僕が貰うから安心してほしいな」
バンシィ「そ、それってどういう……」
………
…
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