魔剣士「お姫様の家出に付き合うことになった」【現在完結】

Naminagare-波流-

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第九章【セントラル】

9-25 してはいけなかったこと

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魔剣士(好都合にも程がある…。暗殺…、今ここでコイツを倒して王城内に入って王を討てば……)

とんでもないチャンスが転がって来たことに、"ドクン"と緊張の鼓動が大きく鳴った。

魔剣士「……な、なぁブレイダー…」
ブレイダー「何さ?まだ聞くなら、本当に殺す……」
魔剣士「あぁいやいや、そうじゃない!そうじゃなくて、闇魔法について聞きたいんだが……」
ブレイダー「何を聞きたいの?」

やはりこの男、相変わらずの性格をしている。こんな話に乗るとは、常軌を逸している。

魔剣士(落ち着け、ココこそ落ち着け。この男から情報を引き出すことが先だ……)

ブレイダーがどこまでの闇魔法を会得しているのか、第二段階まで到達はしているのだろうか。騎士団のこれからと、王について。聞きたいことは山ほどあった。

魔剣士「や…、闇魔法ってのは……どういう魔法なんだ……?」
ブレイダー「フフ、興味があるんだね」
魔剣士「あ、当たり前だ…。強くなる道としたら、闇魔法が一番早いと聞くからな……」
ブレイダー「……確かにそうだね。闇魔法は凄く強力さ…、次から次へと魔力が溢れる無限の魔力で、どんな魔法も意のままに操れるんだ…」
魔剣士「無造作の魔力ってことか……?」
ブレイダー「そうさ…。僕は圧倒的な力で、騎士団の象徴として世界を導く。唯一無二の存在になるんだ……!」

気持ちよさそうに、自身が一番だと豪語する。どうやら基本となる無造作の魔力を知っているということは、本当にブレイダーは闇魔法の会得者となったらしい。

魔剣士「そ、そうか……。お前以外に、闇魔法の会得者はいるのか……?」
ブレイダー「いるわけないでしょう。僕は選ばれた人間なんだ」
魔剣士「そうか…、羨ましいな……」
ブレイダー「フフフッ、嬉しい言い方だよ…。明日から騎士団の仲間として、よろしくね……」
魔剣士「あ、あぁ…!分かった……」
ブレイダー「それじゃ僕は、それを伝えに来ただけだから。妹とは仲良くやってくれると嬉しいよ」
魔剣士「それも承知した……」

ブレイダーはベッドから立ち上がると、すれ違いざまに二人の肩を"ポン"と叩く。

魔剣士(ここ…か……!?)

今なら、この瞬間なら、殺れる。騎士団の象徴、白姫を泣かせた敵、世界の明日を亡ぼす最大の敵となるこの男を―――…!

魔剣士(…ッ!)

しかし、振り向いた時。バンシィの顔が映り、彼を殺したあとのことを考えると、その刃を振うことが出来なかった。

バンシィ「お兄ちゃん……?」
魔剣士「……くっ!」

ブレイダーは「また明日ね」と笑うと、部屋から出て行った。大チャンスを逃してしまったことに、魔剣士は「くそぉっ!」と床を叩いた。

バンシィ「ど、どうしたの…。やっぱり僕のせいで、お兄ちゃんを倒せなかったことが……」
魔剣士「……違うっ!!そうじゃない、お前は関係ない!!」
バンシィ「じゃあどうして…怒ってるの……?」
魔剣士「くっ…、くそが……!お前はどうして、どうしてアイツの妹だったんだよ……!!」

もしバンシィがいなければ、確実にアイツを討てていた。しかし、彼女がいなければ出会えなかったのも事実。せめて妹じゃなければ、せめて知り合いならば、もしも敵ならば。あることないことが、グルグルと脳裏で回った。

バンシィ「ご、ごめん…ね……。僕のせいなんだよね、だけど…き、嫌いにならないで……」
魔剣士「お前は…、どうして…!」
バンシィ「お兄ちゃん…、ぼ、僕……」
魔剣士「全て知らなければよかったんだ…。俺は、それだったら……!」

覚悟がなかった。本当に、本当に、本当に、損な性格をしている。
その性格で、世界の明日を救うことが出来た瞬間を逃してしまった後悔と、情けなさでいっぱいになった。

魔剣士「……だけど違う。お前のせいじゃない…!」
バンシィ「ぼ、僕のせい……」
魔剣士「違う!お前のせいじゃない、俺の覚悟が、たった一人の女の子の明日を考えただけで、討てなかった!!これで…世界を……笑うぜ……」
バンシィ「え……?」

そもそもブレイダーが最初から闇魔法の会得者だと知っていれば、討っていいものかと聞いていた。

魔剣士「バンシィ、お前に…聞きたいことがある…………」

……いや、そもそも恨みがある相手の時点で、倒していいものかと聞いておけばよかったのだ。

バンシィ「お、お兄ちゃん…、何を聞きたいの……?」
魔剣士「……お前は、兄を殺されて平気か」
バンシィ「えっ?」
魔剣士「あいつは敵だ。今の俺にとっての最大の敵だ。お前は、身内であるアイツが討たれたらどうする……?」
バンシィ「それって、殺すってこと……?」
魔剣士「そうだ」

嘘をつく理由がない。嘘をついたところで、意味はない。

バンシィ「どうして、敵なの?シュヴァンお姉ちゃんに酷いことしたから……?」
魔剣士「……それもある。だけど、本当のことは言えないんだ」
バンシィ「どうして…?」
魔剣士「とにかく、俺はあいつを討つしかないんだ。アイツは自分の強さに心酔してた、危険な存在だ!」
バンシィ「…っ!」

ここで魔剣士は間違いを犯す。彼女のことを"子供"と思うあまり発した言葉、それは熟練の冒険者にとって充分すぎるパズルピースだった。

バンシィ「……も、もしかして、…世界を…救うってそういうこと…なの…?」
魔剣士「へ…?」

彼女は勘付いてしまった。

バンシィ「やっぱりそうなんだ…、フランメお兄ちゃんは……、世界を救うために、何かをしてるの……?」
魔剣士「そ、それは……!ど、どうしてそんなことを…思うんだ!」

不味い状況になった。闇魔法の会得者ブレイダーの身内であるバンシィに知られた以上、口を封じる必要が出てくる。それだけは避けたい。出来るわけがない。

バンシィ「さっき、リングのうえで呟いてたのを聞いたから……。それに、闇魔法の会得者だってことが…、危険な存在だってこと……なんだよね……」
魔剣士「ち、違うって!俺はあいつを仇として……!」
バンシィ「違わないと思う……。本当のこと…、教えてよ……」
魔剣士「違う、違うんだって!それは……!」
バンシィ「お兄ちゃん……!」

完全にそれを知ってしまった彼女は、裾を強く掴み、魔剣士の着用していたローブがはらりと落ちる。

バンシィ「お兄ちゃんは、僕にブレお兄ちゃんの情報を知るために近づいたの……?優しくしたのは嘘だったの……?」
魔剣士「嘘じゃない…、お前が妹だなんてことも知らなかった!」
バンシィ「じゃあ本当のことを教えてよ…。お兄ちゃんの目的は何なの…?騎士団に入ることじゃないの……?」
魔剣士「そ、それはそうだ…!騎士団に入ることが目的で……」
バンシィ「じゃあなんでブレお兄ちゃんを殺そうとするの…?世界を救うって何…?最大の敵って、仇討ちの意味じゃないんだよね……?」
魔剣士「くっ…!!」

大好きになった魔剣士。信じていたからこそ、全てを知りたいと思った。
この時、バンシィは魔剣士に敵対心の一つも抱いてはいない。対して、魔剣士はバンシィが自分の敵になったとしか思えなかった。

魔剣士「バンシィ、お前は……!」
バンシィ「…っ!」

"敵になった"と認識された、それを感覚的にバンシィは読み取った。
だから、慌てた。バンシィは魔剣士に"自分は敵じゃない"と教えるために、その行動しかなかった。

バンシィ「お兄ちゃ…んっ……!」
魔剣士「うおっ!?」

魔剣士を強く引き寄せる。そして、そっとキスをした。

魔剣士「…っ!」
バンシィ「っ…」

彼女が優しさを、好きであると、信じていると伝えるには、その経験しかなかったから。

魔剣士「や、やめろっ……!」

魔剣士はそれを振り払った。バンシィはそれで受け入れられると思っていた。

バンシィ「あっ……!」

受け入れられると思ったのに。それを弾かれた瞬間、バンシィは"嫌われた"と思った。

バンシィ「お、お兄ちゃ……!僕っ……!」
魔剣士「バンシィ、お前は……!」

この場にいたくない。近くにいたら、魔剣士に嫌われる。きっとこのままじゃ嫌われる。でも、絶対に嫌われたくない。
バンシィは怖くなって、走り出す。逃げだした。ここにいたくないその一心で。

バンシィ「…ッ!」

だけど、このままお兄ちゃんと離れるのは嫌だ。その想いで、あろうことか先ほど脱げた魔剣士の"ローブ"を持って、部屋から飛び出した。

魔剣士「おい、バンシィッ!!」

これが最悪の失敗だった。バンシィは知らなかったが、魔剣士は"闇魔法の所持者"として、その魔力が纏わりつくのを知っている。これによって、魔剣士はブレイダーにそれを伝えようとして自分の前からローブをもって逃げ出したのだと思ったのだ。

魔剣士「バンシィッ!!」

決して彼女はブレイダーにそれを伝えようとは考えていない。だが、行動から魔剣士はそうとしか思えなかった。
廊下に飛び出し、走り去るバンシィ。それを追って自分も廊下に、彼女の後姿はまだ見える。

魔剣士「……ッ!!!」

―――どうして。
さっきまで、こんなことになるなんて思いもしなかった。

魔剣士(俺は、世界の明日のために……、覚悟は……決めないといけねぇんだ…………ッ!!)

最後のキスは別れのキスだったのか。
彼女が敵になったと思い込んだ魔剣士は、まだ見える背中に向かって、剣に手を伸ばす。

魔剣士「バンシィ、許せ……」

鞘から剣を抜き、抜刀した瞬間、雷撃の魔力を込めた。
"……イメージ"
第二段階のイメージによる魔法は、極力バンシィを傷つけないように集中し、強く強くイメージして、彼女へと…………放った。

魔剣士「…っ」

一直線に伸びた雷撃は、瞬時にバンシィへと到達する。"バチバチ"と強烈な電撃は彼女を襲い、大きく吹き飛す。
壁に叩きつけられる寸前に、魔剣士は縮地によって彼女を抱きかかえたが、その時、彼女は完全に気を失っていた。

魔剣士「バンシィ……」

気絶させることはわけない。ただ、怯える彼女に刃を向けたことが、何よりも苦しかった。
とにかく一旦、猛竜騎士の自宅へバンシィを連れて帰る。彼女がどんな反応をするのか、心底怖くなっていた。耐えがたい傷をつけてしまったのではないかという、恐怖が。

魔剣士「…」

―――だが。
実はこの時、魔剣士が"強くイメージ"をした第二段階の闇魔法を使ったことで、起きてはいけないことが起きていたのは、知る由もなかった。

………


―――闇魔法の共鳴。

ブレイダー「……今の感覚は、まさか…!い、いや…でも…………!!」

持つ者にしか感じ得ぬ、闇の鼓動。
強くイメージした闇魔力は、感知する者こそ感知できるものだったが、それをブレイダーが感じないはずはなかった。

ブレイダー「嘘だ…。僕以外にも、近くに…闇の力を持つ人が……!?」

そう、感知する者こそ、感知できるもの――…。

ブリレイ「……今の、感覚は…」

…………
……

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