【完】チェンジリングなヒロインゲーム ~よくある悪役令嬢に転生したお話~

えとう蜜夏

文字の大きさ
26 / 49

二十六 密約?

しおりを挟む
 謎な称号と早くもカンストしていたユリアン様の好感度にどうしたものか……。

「お嬢様。何かお飲物をご用意いたしましょうか?」

「ほわっ?」

   ――いけないわ。侍女がいたのよ。つい、いつものように机に座って確認していたわ。端から見れば何にも無いところを食い入る様に眺めてたのよ。

「いいえ、パーティーに出て、疲れからもう休みます。あなたももうよくてよ」

 ……うっかり奇妙なことをして、お兄様に報告されては堪らない。

 しかし、鉄壁の無表情な彼女が初めて目を少し見開いた。どうやら驚いているようだった。そうよね。今までは我儘し放題ですものね。お兄様の言うことは絶対服従だったけど後は……。使用人など玩具としかみていなかったというか。今まではね! もう中身は小市民だから。

 私はにへらと笑って誤魔化すと侍女はますます困惑気味だった。眠さもあって私はリアル・ユリアン人形を抱き締めるとベッドに入った。そう言えば着せ替え用にいろいろ持って帰ったの。白いタキシードに合わせて白いシルクハットなんか作ってもいいわよね。

 侍女は何が言いたげだったけれど私がベッドに入ると大人しく出で行ってくれた。とは言え隣接する使用人用の小部屋だけどね。





 翌日の朝食の席では休日のことが話題に上がった。それにしても皆様は小食です。私なんか朝からがっつりいきますよ。バターたっぷりのトーストにカスタードクリームたっぷりのパンケーキにスクランブルエッグ、食後のコーヒーとか紅茶も。え? 野菜たっぷりのホットサンドもあるって? 流石は私の好みを熟知している侍女が来てくれると良いわね。
 
「――まあ、アーシアはユリアン様とレイン子爵家のガーデンパーティに行っていたのね。教えてくれれば私も行ったのに」

 ぷうと頬を膨らませるジョーゼットはとても可愛い。

「そうですわ。私どもも参加致しましたのに……。残念ですわ……」

 そんな風に周囲からは声が上がっていたが私は侍女が持ってきてくれたホットサンドを口に入れるのに意識を集中させていた。

 ――でも、あのクリス様のパーティはこのご令嬢方には危険だったかもしれない。クリス様のターゲットにかかってしまっていたら、特にジョーゼットなんて大変なことになるからね。

「でも、レイン子爵家は古くからの名門ですけど最近は……」

 ご令嬢のお一人がそんな事を言い出したが、しっと口止めするような声も聞こえて忽ち消えてしまった。

 ……あの、クリス様の噂のことをご存知な令嬢もいらっしゃるようね。

 それにしても『ゆるハー』の攻略対象者は、メインルートのライル伯爵家のユリアン。次にレイン子爵家のクリス。そして、私の知ってる隠れキャラのアベル王大子。これはガブちゃんとも同じ。

  騎士団長の息子のジルは私のやった方にはいたけど見た目が全然違う。テンプレのガチムチ筋肉系だったもの。ガブちゃんが言うにはそもそも攻略対象ですらなかったと言っていたわよね。何か違う。

 それにガブちゃんが今回狙っているというルークお兄様は私の知ってる方はライバルキャラの兄がいるという設定だけで立ち絵さえ無かったのよねえ。でも、ガブちゃんと私の取り違えが分かったら、実の兄妹なんて禁断の相手になるのよ。いいのかしら? ガブちゃんはゲームの様に言ってるけど……。それに実際のルークお兄様がそんな生易しい相手とは思えないわ。まあ、頑張ってと言うしかないけれどね。

「……じゃあ、そう言うことでいいかしら?     アーシア?」

 ――しまった。全然聞いて無かったわ。

「え?    御免なさい。聞いて無かったわ。ちょっと、その考え事をしていて」

「もう、アーシアったら、私と一緒に放課後は学園の庭を散策しましょうと言う約束よ」

「あ。ああいいわよ。そんなこと」

「まあ、では私もご一緒させていただきたいわ!」    

 周囲から口々にそんな声が上がる。

「あら、困ったわね。アーシアったら、人気ものだから。うふふふ」

 そんな風にジョーゼットが困ったように笑うのも可愛い。つられて私も微笑んでみせると向かいに座っていたご令嬢がぽっと頬を染めた。――何々、どうしたの? 今日は暑いのかしらね。

 今朝も私はお兄様の服を着ている。品の良い白と薄い水色のデザインのフロックコートに襟元がひらひらのブラウス。正しく某歌劇団の豪華衣装のようで楽しい。でも、侍女には手出し無用と断った。着替えは自分で出来て当然なのよ。黒い髪はストレートに戻したわ。小ドリル頭では眠れやしない。

「今日はアーシアと二人でね。だって、私は外出禁止でつまらなかったもの。それなのにアーシアはパーティに出て楽しい時間を過ごしたようだし」

 先日の騒ぎでジョーゼットはどうやらお家からそんなことを言い渡されたようだった。少し可哀想なので私は承諾した。周囲からは残念そうな声が上がるが、次の日にと言うと次々に散歩の申し入れがあった。何? 今は気候が良いから散歩日和だけど。散歩がブームなの?



 いつものように礼法や語学にダンスといった授業を受ける。放課後になるとジョーゼットと学園内の散歩に出かけた。二人きりといいつつ。それぞれの侍女も少し離れてついてきている。だけど他のご令嬢が居ないだけで静かだった。

「ほら、ここ。向こうの学園が見えるのよね」

 そう言って向かったのは立ち入り禁止の塔の一番上。――どうしてこんなとこまで入れるのよ? やはり、ジョーゼットって、高位ご令嬢だわ。ジョーゼットの言う方を見遣ると確かに小さいけれど人影とか見える。これってオペラグラスとかだったら十分見えるわね。塀が高いからお互い本当に見えないし、そもそも交流も無いけれど。あっても生徒会の役員くらいだし。何たって、経営方針からして違いすぎるわ。あちらは庶民も利用できる上級専門学校。こちらは貴族の花嫁学校。
 
「私ね。王太子妃になるのは嫌じゃないの。王太子様は素敵よ。だけど……少し不安になるし、その……」

 ジョーゼットはそこで言葉を切ると今度は夕焼けに変わりつつある空を眺めた。

     ――そんな気弱なこと言って大丈夫なの? 私も一応高位貴族の令嬢。ルークお兄様からは王太子妃の座を狙えというとんでもないこと命令されたけどね。悪いけど私も前世か何か分からないけど二十年生きてきた経験値を思い出したから前のように盲目に従うという訳にはいかないわ。私の人生ですもの。

「あら、ジョーゼットとアベル王太子様はお似合いよ」

「ふふ。ありがとう。アーシア。あなたにそう言ってもらえると安心ね。これからもどうかお友達でいてね」

 ジョーゼットは私の手を握り締めてきた。小さな綺麗な貴婦人の手。手袋越しに温かさが伝わってくる。貴婦人は素手にならないのよ。私はほら、ムチの出番があるから手袋は指先ないヤツだけどね。え? それ違うって? ムチを使うからノー手袋では怪我をするからね。

 そんなことを考えつつ私は暢気にジョーゼットの可愛い笑顔を見ていた。俗にいう「禁断の塔事件」と後で噂されていることに私は全く知らないままだった。 
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします

恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。 王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい? つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!? そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。 報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。 王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。 2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……) ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について

夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。 ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。 しかし、断罪劇は予想外の展開へ。

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

婚約破棄だ!と言われ実家に帰ったら、最推しに餌付けされます

黒猫かの
恋愛
王国の第一王子クレイスから、衆人環視の中 で婚約破棄を言い渡されたローゼン侯爵令嬢ノエル。

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

処理中です...