【完】チェンジリングなヒロインゲーム ~よくある悪役令嬢に転生したお話~

えとう蜜夏

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二十七 失敗したイベント

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 翌日の午後は良い天気で皆様と学園の庭園を散策することになった。何故か先生までも一緒にいらっしゃるのよ。朝からきゃっきゃうふふとご令嬢方が騒いでいたから、先生の耳にも入ってしまい叱られると思ったら午後の授業は皆で学校内の散策に変わってしまった。なんということでしょう。

 学校の庭は美しい花々が今が盛りと咲き誇っていた。庭師もいて季節に相応しい花々が咲くようにしている。まあ、どのお家もそうだけどね。ご令嬢方は花を愛でて詩を口ずさんだり、歌を歌っているので私は彼女らを眺めているとあるシーンとダブってしまった。それは――――――。『ゆるハー』の名場面の一つ。



 お隣のプリムラ学園の中庭でいたずらな風が吹いてヒロインの髪が木の枝に髪が引っかかって途方に暮れていると――。

『あ、やだ。髪が木に……。困ったわ。どうしよう』

『動かないで。取ってあげるよ』

『あ、ユリアン様……』

『君は綺麗な髪をしてるね。ふふ。それになんて柔らかいのだろう』

 ヒロインはそんなユリアン様の言葉に頬を染めて、ユリアン様に体を密着されて、優しくされるというシーン。そんな『ゆるハー』の中でも王道ユリアンルートの急接近シーンを思い出していた。見たい! 見たいわ。こういうのは大体エニシダが多いのよね。その花言葉は謙虚とか清楚なんだけど恋の苦しみなんてものもあるのよ。ヒロインとユリアン様の許されない苦しい恋……。『ゆるハー』で悶えたシーンの一つだわ。あの時の一押しのイケメンボイスの声優さんだったものねぇ。なんてしみじみ思いながら……。

 ――だけど、今、私は同じことをジョーゼットにしていたのよ。おかしい。こんな筈では無いのに。こういう絡まった髪をそっと優しく外してあげるのは少女マンガや少女小説にはよくあるシーンだけど私は女性ですよ? 確かに今日の私は外で動きやすいような生地の外出着を着ているわ。濃紺に銀都銀の縁取りの入った手の込んだもので見るからにノーブルって感じだけどね。お兄様が誂えてくれたのでぴったりで動きやすい。ついジョーゼットが困っていたので体が動いてしまったのよ。他の皆様は侍女に日傘を持たせるほどの深窓ぶり。



「ああ、駄目、ジョーゼット。動かないで、余計に絡まるわ」

「痛っ。ごめんなさい。アーシア……」

 ――指先の無い手袋で良かったわ。悪いけどお裁縫のレベルはもうカンストだから器用さは十分あると思う。大体、スキルのレベルは3でカンストらしいわ。ゆるゲーすぎる。

 私はジョーゼットの淡いけぶるような美しい金髪を優しく解すように枝から取ってあげた。

 ――それにしてもジョーゼットの金髪は陽光に煌いて金ぴか。それに良い香りがするし。素敵ねえ。どんなお手入れしているのかしら?

「――んまあぁ。なんということ……」

 先生まで私とジョーゼットのやり取りをご覧になっていて奇妙な溜息と感嘆のような声を漏らせていた。いや、見ているだけなら何か枝切りはさみでも持ってきてください。その方が早かったと思います。私の背は高い方だから、取ってあげましたけれどね。そもそも私達は見世物ではありませんよ。先生。授業はきちんとしましょう。



 そんなゆるゆるな授業を今日も終えた。こんな感じで私のここでも学園生活は至極平凡に過ぎていった。



 ――だけど、私はとある現場を目撃することになった。それはジョーゼットのお陰であの塔の屋上へ私もこっそり忍び込むことができるようになったのよ。鍵は器用に開けることができてしまった。残念ながら侍女はついてきているけどね。

 そして、私の手にはオペラグラス。ふふふ。お隣のプリムラ学園を覗き見したかったのよ。あわよくばちらっとでもユリアン様が見えればなんて思ってやってきたのだけど。だって、そろそろ、プリムラ学園ではあのお茶会から次のイベントに差し掛かる筈。

 ――あ、今、ガブちゃんがプリムラ学園の中庭に来たわ。ああ、あれよ。例のユリアン様ルートの名場面『髪が木の枝に』をやろうとしているのね。もう直ぐしたら生徒会のメンバーが通りかかってあの場面が見える。あんなものは自分でするものじゃないの。見るものなの。

 暫く、私はオペラグラス越しでその光景を眺めていたけれど、待てども生徒会メンバーは現れなかったの。しびれを切らしたガブちゃんは自分で無理やり枝から髪の毛を取っていたのが見えた。痛そう。……まあ、イベントは必ず起きるというもじゃないから。ファイト。ガブちゃん。

「――お嬢様。そろそろ。お夕食のお時間です」

 そして、握り拳をしていたら侍女から抑揚のない声で我に返った。

「あら、もうそんな時間なのね」

 侍女がいて良かった。うっかり夕食を逃すとこだったわ。私はいそいそと部屋に戻って着替えた。そう、貴族様のルールの一つ。食事や外出など用途に分けて一日に何回も着替える。だから身の回りの世話をする人が必要なのよ。私は用意してくれた衣装に袖を通した。今夜のメニュー何かな? 一応、献立もあるし、事前に申し込めば希望の料理も作って貰える。私はジョーゼットの隣に座る。



 食堂に着くと今日は舌平目のムニエルで前菜にはグリーンアスパラと生ハム添え。あ、お酒よりミネラルウオーターでお願いします。え? 魚だから白ワインで? 結構よ。お水がいいの。焼き立てパンの香ばしい香り。更にデザートはイチゴのフロールとタルトですって。コルセットの無い服で良かったわ。あ、お代わりお願いね。

 隣ではジョーゼットが小さな可愛い口で少しずつ食べていた。いけない。私も高位令嬢として気を付けないと。ムニエルなんか三口で食べ終われそう。あ、パンのお代わり……。と言う前に侍女が補充してくれた。お水もね。能面無表情だけど有能なうちの侍女は後で給料を上げてあげなきゃね。

「今日の放課後はアーシアが居なくて。探したのよ」

「あ、ちょっと用事があって、あちこちに行っていたの」

「もう、アベル王太子様が急にいらしてたから、アーシアも一緒にと探したのに」

「王太子様が? ああそうだったの。ごめんなさいね」

 ――王太子はやっぱりジョーゼットの元に通っているのね。『ゆるハー』とそこは設定が同じね。でも、仲よさそうだから、ジョーゼットもこの学校からきっと三年以内には出ていくでしょうね。婚約者候補だけど今のところ周囲のご令嬢方もジョーゼットが婚約者として認めているみたいだし。私の出番は無いわ。ルークお兄様には悪いけどね。

 でも、他のご令嬢は一緒に呼ばなかったのかしら?

「素敵でしたわ! 流石アベル王太子様です。優雅で、知的でそれでいてユーモアもおありで……」

 そんな賛辞の声がそこかしこから上がった。――どうやら結構なご令嬢が同席したみたね。こっそり、観察するとジョーゼットは女神のような微笑を浮かべてその声に同意している。他の方々は一部やや誇らしげに王太子様とお話しできたのを話していた。全体的には楽しそうなので私も微笑んで眺めていた。賑やかになった食事も終えてそれぞれが部屋に戻り始めた。ジョーゼットとは部屋が近いので最後は彼女と二人になることが多い。

 だけど部屋に戻る際にぽつりとジョーゼットが漏らしていたのが耳に入った。

「……だから、アーシアに一緒にいて欲しかったの」

「え? 何か言った?」

「ううん。何も。何でも無いわ。アーシア。また明日ね」

 私は部屋に入ってノートを広げる振りをして机に座った。こうすると侍女に不審には思われまい。――そして、確認すると――。
 

 《ステータス》
 
  アーシア・モードレット……

 
 [好感度]



  ジョーゼット・ローレン ↓DOWN

  ガブリエラ・ミーシャ ↓DOWN

  アベル王太子     ↓DOWN……


 ……ええ? だからどういう基準で上がり下がりしてるの? 教えて『ゆるハー』の製作者様……。私は腑に落ちぬままベッドに入った。リアル・ユリアン人形を白のタキシーバージョンに替えて抱きしめると少しもやもや感が薄れて眠りに落ちた。
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