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三十八 大荒れ! 海の祭典
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私が王太子様の婚約者候補になることで危害を加えようとする派閥は――。あまり考えたくなくて私は手をぎゅっと握りしめた。どうしたらいいのだろう。今からでも出来そうなことは……。襲撃を受けて王太子様は都へ増援要請をしている。帰るときにまた襲撃されては大変だものね。あとはこの町の警備の強化よね。もともと式典のために事前に都から応援部隊は事前に来てくれていた。それでも、こんなことになるなんて。
「あら、お出迎えが無いと思ったらこんなことになっていたのね」
「お母様!」
部屋にはいつの間にかお母様がいらしていた。安心して思わず抱きついてしまった。柔らかくて良い匂いがしてほっとする。
「モードレット侯爵夫人。この度は……」
王太子様がそう話しかけようとしたけれどお母様は
「ふふ。王太子様。ようこそいらっしゃいました。そのような言葉はまだ必要ありませんわ。こちらの不手際で至らなかったことをお詫びしなければならないのはこちらの方ですもの」
「しかし……」
「お母様……。でも、ルークお兄様が……」
「アーシア、こんなことは貴族なら良くあることです。レディが取り乱してはなりませんよ。……それに可愛らしいお嬢さんが怯えているじゃない。どなたかしら?」
お母様の問いにガブちゃんが慌てて頭を下げた。
「私はミーシャ商会が娘のガブリエラと申します。アーシア様には一緒に休暇を過ごそうと誘っていただいております。今回の式典も出席をさせて頂こうと思っておりました」
「あら、そうだったのね。アーシアったらいつの間にこんな可愛らしい友人ができたのかしらね」
「奥様、いつも我がミーシャ商会をご利用いただきありがとうございます。私としてもこの度のことアーシア様のの友人として深く心を痛めております。ミーシャ商会の一員として私も出来る限りご協力する所存です」
ガブちゃんの友人と言う言葉に私は何故かじんとしてしまった。それよりガブちゃんの参加は駄目だと言われてしまうんじゃないかと考えていた。近隣の貴族も開港式に招いてはいるけれど。
ガブちゃんの言葉にお母様のお顔が輝いた。
「まあ、嬉しいわ。ミーシャ商会のお力なら是非お借りしたいの。ルークがこのようになったのは周囲に知られたくないわ」
そうして、じっと私を見つめていらした。
「だからね。アーシア。あなたがルークの代わりをしなさい」
「は? 私がですか? 無理無理!」
もう、お母様の言葉に素が出てしまったけれどお母様の眼光ですぐさま私は押し黙ってしまった。
「式の間だけです。挨拶は私と王太子様であなたは座っていればいいの。ルークの他の衣装は? 早速アーシアに合わせて頂戴。ガブリエラさん。少しお願いがあるわ。探して欲しいものがありますの」
お母様の無茶振りに私は唖然となっていた。到着した医師達の治療のために一旦私達は部屋を出た。お兄様の青ざめた顔が痛々しい。いつもは圧政されていたけれどやはりそこは家族として傷つけられると私の中で怒りがふつふつと湧いてきた。折角楽しいはずのバカンスが台無しになってしまったじゃない。
式典の流れを打ち合わせると王太子様にはお休み頂いた。ガブちゃんからは手に入ったと喜び勇んできたものは黒い鬘だった――。
「こんなの付けてもお兄様にはなれませんってば」
「大丈夫です。母はあなたをルークとして扱います。王太子様にもそうお願いしてあります」
「そんなので大丈夫な訳が……」
そうして、厚底靴まで用意されていた。やるのね。確かにそうかけ離れてはいないけれど。私は用意された衣装に袖を通しながら式典の挨拶文を覚えようとぶつぶつ練習する羽目になった。
ほぼ完徹の翌朝、式典当日。お兄様は幸いに命には別条なく今はお薬でお休みになっていた。いよいよ、ルークお兄様に扮した私の登場。
王太子様とお母様は一緒に近隣領地の有力者に挨拶をされている。幸いなことに数が多いから流れ作業のような感じ。それに王太子様がご来席なので人員は厳選されているので不審に思られつつも追及されずに済んだ。
特殊メイクのように化粧を施されるとお兄様かもと思える仕上がりになっていた。背とか体格はちょっと足りないけどね。私は愛用のムチの入ったポケットに時折手を入れて安心する。これはお守りのようなもの。剣は使えないけれどいざとなったらこれで戦える。
「この度は我が領地の開港を祝って参加される皆様に感謝を申し上げる次第であります。本日はこの国の次期当主であられる王太子様もお迎えして、これからここでは貿易港として更なる発展に――」
そんな私の言葉を皮切りに式典は順調に進んだ。出来る限り要らないものは省いてくれた。お母様も微笑を湛えていた。集まっている人々も王太子様とお母様の美貌に注意が向けられていた。その内、来賓の席に私は見覚えのある顔を見つけた。ユリアン様とジョーゼットだった。それぞれお家の方もご一緒のようだった。
今回の事がジョーゼットのお家からだたっとしたら嫌なことだわ。貴族の権謀術数はよくあることとはいえ。――そもそも、お兄様が私を王太子様の婚約者候補になどと無謀なことを考えたからで、ユリアン様のままだったらこんなことには……。勿論、現段階では何処からの襲撃からは分かってはいないけれどね。
式典は無事終わりに差し掛かった。だけど、入場門の方から悲鳴が上がった。そこにはモンスターの一種であるサーベルタイガーが乱入していきたのだ。逃げ惑う人々に一気に会場は大混乱となっていた。
「血まみれの祭典となるがいい!」
そう叫んだ男性は警備兵らが取り押さえたが、サーベルタイガーは一個小隊で討伐するほどのレベルだ。今回の警備では町や会場に分散しているため、即座に集めるとなると若干時間がかかってしまう。その間にどれくらいの被害になるのか。
どうして、ここまで……。ここって、『ゆるハー』なんだよね? モンスターとかでない筈なんだけど!
今まで魔獣なんかは間近で見たこと無かったから流石に私の足も震えてくる。有力貴族の方々の護衛の人がサーベルタイガーを囲むようにしていた。だけどかれらも本格的な装備はしておらずいずれは……。もう、いい加減色々あったし、完徹の疲れで私もハイテンション状態になってるの。
「お母様は皆様の避難誘導をお願いしますわ。お兄様。この借りは後で返してもらいますわよ!」
「アーシア! 早くお逃げなさい!」
「あなた、何やってるのよ」
流石のお母様もモンスター相手にはどうしようも無いようだし、ガブちゃんも心配してくれていた。私は自分の持つスキルを思い出したのよ。ポケットからムチを出して駆け下りる。一瞬ジョーゼットとすれ違った。心配そうなジョーゼット。そして、護衛らの側に寄るとユリアン様がいたのよ。
「ユリアン様、危険です。お下がりください」
「何だ君は……。王国の騎士の一人として逃げる訳には……。まさか、君、アーシアじゃ」
私はにやりと笑って見せた。令嬢として楚々とした微笑のつもりだけどね。
私はポケットから出したムチで地面を叩いて見せた。結構いい音が響いた。びくりとサーベルタイガーがこちらを見る。スキルって発動してる? 猛獣使いってサーベルタイガーも対象の筈よね?
「あら、お出迎えが無いと思ったらこんなことになっていたのね」
「お母様!」
部屋にはいつの間にかお母様がいらしていた。安心して思わず抱きついてしまった。柔らかくて良い匂いがしてほっとする。
「モードレット侯爵夫人。この度は……」
王太子様がそう話しかけようとしたけれどお母様は
「ふふ。王太子様。ようこそいらっしゃいました。そのような言葉はまだ必要ありませんわ。こちらの不手際で至らなかったことをお詫びしなければならないのはこちらの方ですもの」
「しかし……」
「お母様……。でも、ルークお兄様が……」
「アーシア、こんなことは貴族なら良くあることです。レディが取り乱してはなりませんよ。……それに可愛らしいお嬢さんが怯えているじゃない。どなたかしら?」
お母様の問いにガブちゃんが慌てて頭を下げた。
「私はミーシャ商会が娘のガブリエラと申します。アーシア様には一緒に休暇を過ごそうと誘っていただいております。今回の式典も出席をさせて頂こうと思っておりました」
「あら、そうだったのね。アーシアったらいつの間にこんな可愛らしい友人ができたのかしらね」
「奥様、いつも我がミーシャ商会をご利用いただきありがとうございます。私としてもこの度のことアーシア様のの友人として深く心を痛めております。ミーシャ商会の一員として私も出来る限りご協力する所存です」
ガブちゃんの友人と言う言葉に私は何故かじんとしてしまった。それよりガブちゃんの参加は駄目だと言われてしまうんじゃないかと考えていた。近隣の貴族も開港式に招いてはいるけれど。
ガブちゃんの言葉にお母様のお顔が輝いた。
「まあ、嬉しいわ。ミーシャ商会のお力なら是非お借りしたいの。ルークがこのようになったのは周囲に知られたくないわ」
そうして、じっと私を見つめていらした。
「だからね。アーシア。あなたがルークの代わりをしなさい」
「は? 私がですか? 無理無理!」
もう、お母様の言葉に素が出てしまったけれどお母様の眼光ですぐさま私は押し黙ってしまった。
「式の間だけです。挨拶は私と王太子様であなたは座っていればいいの。ルークの他の衣装は? 早速アーシアに合わせて頂戴。ガブリエラさん。少しお願いがあるわ。探して欲しいものがありますの」
お母様の無茶振りに私は唖然となっていた。到着した医師達の治療のために一旦私達は部屋を出た。お兄様の青ざめた顔が痛々しい。いつもは圧政されていたけれどやはりそこは家族として傷つけられると私の中で怒りがふつふつと湧いてきた。折角楽しいはずのバカンスが台無しになってしまったじゃない。
式典の流れを打ち合わせると王太子様にはお休み頂いた。ガブちゃんからは手に入ったと喜び勇んできたものは黒い鬘だった――。
「こんなの付けてもお兄様にはなれませんってば」
「大丈夫です。母はあなたをルークとして扱います。王太子様にもそうお願いしてあります」
「そんなので大丈夫な訳が……」
そうして、厚底靴まで用意されていた。やるのね。確かにそうかけ離れてはいないけれど。私は用意された衣装に袖を通しながら式典の挨拶文を覚えようとぶつぶつ練習する羽目になった。
ほぼ完徹の翌朝、式典当日。お兄様は幸いに命には別条なく今はお薬でお休みになっていた。いよいよ、ルークお兄様に扮した私の登場。
王太子様とお母様は一緒に近隣領地の有力者に挨拶をされている。幸いなことに数が多いから流れ作業のような感じ。それに王太子様がご来席なので人員は厳選されているので不審に思られつつも追及されずに済んだ。
特殊メイクのように化粧を施されるとお兄様かもと思える仕上がりになっていた。背とか体格はちょっと足りないけどね。私は愛用のムチの入ったポケットに時折手を入れて安心する。これはお守りのようなもの。剣は使えないけれどいざとなったらこれで戦える。
「この度は我が領地の開港を祝って参加される皆様に感謝を申し上げる次第であります。本日はこの国の次期当主であられる王太子様もお迎えして、これからここでは貿易港として更なる発展に――」
そんな私の言葉を皮切りに式典は順調に進んだ。出来る限り要らないものは省いてくれた。お母様も微笑を湛えていた。集まっている人々も王太子様とお母様の美貌に注意が向けられていた。その内、来賓の席に私は見覚えのある顔を見つけた。ユリアン様とジョーゼットだった。それぞれお家の方もご一緒のようだった。
今回の事がジョーゼットのお家からだたっとしたら嫌なことだわ。貴族の権謀術数はよくあることとはいえ。――そもそも、お兄様が私を王太子様の婚約者候補になどと無謀なことを考えたからで、ユリアン様のままだったらこんなことには……。勿論、現段階では何処からの襲撃からは分かってはいないけれどね。
式典は無事終わりに差し掛かった。だけど、入場門の方から悲鳴が上がった。そこにはモンスターの一種であるサーベルタイガーが乱入していきたのだ。逃げ惑う人々に一気に会場は大混乱となっていた。
「血まみれの祭典となるがいい!」
そう叫んだ男性は警備兵らが取り押さえたが、サーベルタイガーは一個小隊で討伐するほどのレベルだ。今回の警備では町や会場に分散しているため、即座に集めるとなると若干時間がかかってしまう。その間にどれくらいの被害になるのか。
どうして、ここまで……。ここって、『ゆるハー』なんだよね? モンスターとかでない筈なんだけど!
今まで魔獣なんかは間近で見たこと無かったから流石に私の足も震えてくる。有力貴族の方々の護衛の人がサーベルタイガーを囲むようにしていた。だけどかれらも本格的な装備はしておらずいずれは……。もう、いい加減色々あったし、完徹の疲れで私もハイテンション状態になってるの。
「お母様は皆様の避難誘導をお願いしますわ。お兄様。この借りは後で返してもらいますわよ!」
「アーシア! 早くお逃げなさい!」
「あなた、何やってるのよ」
流石のお母様もモンスター相手にはどうしようも無いようだし、ガブちゃんも心配してくれていた。私は自分の持つスキルを思い出したのよ。ポケットからムチを出して駆け下りる。一瞬ジョーゼットとすれ違った。心配そうなジョーゼット。そして、護衛らの側に寄るとユリアン様がいたのよ。
「ユリアン様、危険です。お下がりください」
「何だ君は……。王国の騎士の一人として逃げる訳には……。まさか、君、アーシアじゃ」
私はにやりと笑って見せた。令嬢として楚々とした微笑のつもりだけどね。
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