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三十九 猛獣使いとサーベルタイガー
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ユリアン様もサーベルらしきものを手に持っていた。文武に秀でているという設定よ。流石はユリアン様。今はゆっくり見惚れる訳にはいかないけど。――こんな展開になるなんて。『ゆるハー』は学園物なんだってば。
称号の猛獣使いは発動しているの? ムチもオートモードになるのかしら。
護衛に囲まれて私の姿を見るとサーベルタイガーも警戒しているのかそれ以上進まなかった。ユリアン様が私の前に居るので分かり辛い。
「君に何かあったら……。危険だから下がりなさい、アーシア」
ユリアン様がそう言ってくれたのが、また格好いい。こういうシーンって『ゆるハー』にあっ……。ある筈ないからね。
「いえ、ユリアン様こそ、危険です」
私は祈るように称号の威力を求めた。あのときどうやって称号は得られたのだろう。ぐるるると低い威嚇の声が放たれる。私はじっとサーベルタイガーの方を見ていたら目があってしまったのよ。
目を逸らすとやられる――。そんな確信めいた気持ちになる。だらだらと油汗が額や体から流れるのが分かる。手に持ったムチが汗で滑りそう。
「アーシア?」
ユリアン様の心配そうな声がどこか遠くから聞こえる程。サーベルタイガーとの睨み合いは続いた。だけど周囲も騒ぎ声がだんだん静まっているようだった。
本当に勘弁して。私は普通の庶民なんです。ちょっとムチが使えたり、見た目も派手だったりするけど至って普通だった筈。サーベルタイガーなんて歴史の教科書かゲームの中でしか知らないわよ。
だけど視線を合わせる内に何だか眼力というか圧力を感じられる気がした。逸らせることは危険だと分かっているけどこのまま睨み合ってもいずれは私の方が体力負けをする。
じわりと私は一歩進みだした。
「アーシア!」
ユリアン様の心配げな声が聞こえたけれど私はサーベルタイガーの方に進んでいく。一歩進むたびに感じていたサーベルタイガーの圧力が弱まっていく。見ようによっては格好いい猫。もっと可愛ければいいなあ。
そんな風に思いながら進むと少し縮んだように感じた。あくまでも感じだけど。気が付けば直ぐ手が触れるとこまで近寄れた。ムチで叩いたり威嚇することも出来るけど。間近にみると綺麗な瞳をしていた。
「ここにいる人を傷つけないで」
そう話しかけるとサーベルタイガーは瞬きをした。そして尻尾を内側に丸めたのだった。
「できればお座り」
私が囁くとゆっくりと従ってくれた。撫でたいくらいの従順さだったの。ほっとしたけれどまだ警戒は緩めないわ。その内警備の物が捕獲用のものを持ってきてくれる筈だから。それまでの時間稼ぎよ。
「……猛獣使いだ。モードレット侯爵の子息は猛獣使いだったのか。あのサーベルタイガーをあんなにいとも容易く従わせている」
誰かの呟きが聞こえたけれど場内は私の成り行きを見守ってくれていた。やがて、集まった警備隊らとともにサーベルタイガーを無事檻に入れることに成功したのだった。
目を話すとふにゃふにゃと体の力が抜けていく。そのまま蹲ってしまった。倒れる前に王太子様とユリアン様の心配気な声を聞いた気がした。
私が再び目を覚ますと既に二日が経っていた。そんなに眠りこけていたのかとびっくりしたが、あの式典の事件は王太子様のお力で箝口令が敷かれていたらしい。でも、有力な貴族も招いていたから難しいのではないかと私は思っている。幸いなことに猛獣使いはお兄様だと思われていた。
お兄様は一命を取り留めて、まだ床についてはいるけれどあれこれと指示をだしていると聞いたので部屋を訪れた。
「お兄様、大丈夫ですか? 安静になさらないと」
「何のこれしき……。とはいえお前には随分世話になったな」
「あ、いえ、何もできませんでしたけど」
「サーベルタイガーを威圧で制したのは見事なものだったと聞いている。お前の力が無かったなら今頃は……」
「幸運でした」
「お前には悪いがあれは私ということになっているので訂正はしないぞ」
目立ちたくはないので私は黙って肯いた。溜息をついているとガブちゃんがお見舞いをしたいといってやってきた。
「この度はルーク様は大変な目にあわれて……。ミーシャ商会としてもご協力は惜しみません」
「有り難い申し出、それにまだこのような無様な格好でお会いするとは……」
それがまた良いのとかいうガブちゃんの呟きは聞かなかったことにしてあげた。
「まさか、こんな強硬手段に出てくるとは……。これを機に王太子様はいろいろとなされるらいい。お前も身辺には気をつけろ」
「私が王太子の婚約者候補だからですか? それだったら、違うと公表すれよろしいかと」
「それだけではないようだな。どちらかというとこの町が貿易港になって我が家が、というか私に権力が集まるのを危惧した連中の仕業のようだ。だから式典の妨害をしようと……。あわよくば王太子も私が害したら一石二鳥というとこなのだろう」
「一体それはどういう……」
「まだ、調査段階だ。お前たちもあまり出歩かないように。ミーシャ商会も貿易に絡んでいると思われて危険だ」
「お言葉ですが、我が商会はそれぐらいでどうにかなるようなものではありません。ルーク様にはご心配なされず」
しおらしくガブちゃんが話すけれど……。良い男の傷病の姿いただきましたっ。なんて小声で言っていたのはお兄様には内緒にしておくわ。
その後、王宮からは開港式は無事済んだとの公式発表がされた。一部の男爵家などが処分を受けたけれどそれはサーベルタイガーを飼育していた罪などという奇妙な内容だった。
「あれが飼育されていたの? 納得いかないわ」
「仕方ないだろう。王族が絡んでいるから調査が難航しているのだ」
渋い顔をしながらお兄様も館に戻る準備をしていた。ここでの休暇も終わり一度都に戻る予定だ。それから私は……。予定通りジョーゼットの高原の別荘へ。星が綺麗なんだって。お兄様からもお許しは頂いたの。
今のところ、あの事件の首謀者は捜査中のためかなりを潜めているみたいだし、有力公爵家からの別荘のご招待だから、我が家としても断る理由は無かった。それに式典でのことも大きく広まらなかったのは公爵家の協力もあったからみたい。ありがとうジョーゼットのお父様。
そして私の荷物にはやっぱり、ムチとドレスとお兄様の洋服があるのよ。だから、高原のワンピースとかは無いの? あと麦わら帽子とか。
称号の猛獣使いは発動しているの? ムチもオートモードになるのかしら。
護衛に囲まれて私の姿を見るとサーベルタイガーも警戒しているのかそれ以上進まなかった。ユリアン様が私の前に居るので分かり辛い。
「君に何かあったら……。危険だから下がりなさい、アーシア」
ユリアン様がそう言ってくれたのが、また格好いい。こういうシーンって『ゆるハー』にあっ……。ある筈ないからね。
「いえ、ユリアン様こそ、危険です」
私は祈るように称号の威力を求めた。あのときどうやって称号は得られたのだろう。ぐるるると低い威嚇の声が放たれる。私はじっとサーベルタイガーの方を見ていたら目があってしまったのよ。
目を逸らすとやられる――。そんな確信めいた気持ちになる。だらだらと油汗が額や体から流れるのが分かる。手に持ったムチが汗で滑りそう。
「アーシア?」
ユリアン様の心配そうな声がどこか遠くから聞こえる程。サーベルタイガーとの睨み合いは続いた。だけど周囲も騒ぎ声がだんだん静まっているようだった。
本当に勘弁して。私は普通の庶民なんです。ちょっとムチが使えたり、見た目も派手だったりするけど至って普通だった筈。サーベルタイガーなんて歴史の教科書かゲームの中でしか知らないわよ。
だけど視線を合わせる内に何だか眼力というか圧力を感じられる気がした。逸らせることは危険だと分かっているけどこのまま睨み合ってもいずれは私の方が体力負けをする。
じわりと私は一歩進みだした。
「アーシア!」
ユリアン様の心配げな声が聞こえたけれど私はサーベルタイガーの方に進んでいく。一歩進むたびに感じていたサーベルタイガーの圧力が弱まっていく。見ようによっては格好いい猫。もっと可愛ければいいなあ。
そんな風に思いながら進むと少し縮んだように感じた。あくまでも感じだけど。気が付けば直ぐ手が触れるとこまで近寄れた。ムチで叩いたり威嚇することも出来るけど。間近にみると綺麗な瞳をしていた。
「ここにいる人を傷つけないで」
そう話しかけるとサーベルタイガーは瞬きをした。そして尻尾を内側に丸めたのだった。
「できればお座り」
私が囁くとゆっくりと従ってくれた。撫でたいくらいの従順さだったの。ほっとしたけれどまだ警戒は緩めないわ。その内警備の物が捕獲用のものを持ってきてくれる筈だから。それまでの時間稼ぎよ。
「……猛獣使いだ。モードレット侯爵の子息は猛獣使いだったのか。あのサーベルタイガーをあんなにいとも容易く従わせている」
誰かの呟きが聞こえたけれど場内は私の成り行きを見守ってくれていた。やがて、集まった警備隊らとともにサーベルタイガーを無事檻に入れることに成功したのだった。
目を話すとふにゃふにゃと体の力が抜けていく。そのまま蹲ってしまった。倒れる前に王太子様とユリアン様の心配気な声を聞いた気がした。
私が再び目を覚ますと既に二日が経っていた。そんなに眠りこけていたのかとびっくりしたが、あの式典の事件は王太子様のお力で箝口令が敷かれていたらしい。でも、有力な貴族も招いていたから難しいのではないかと私は思っている。幸いなことに猛獣使いはお兄様だと思われていた。
お兄様は一命を取り留めて、まだ床についてはいるけれどあれこれと指示をだしていると聞いたので部屋を訪れた。
「お兄様、大丈夫ですか? 安静になさらないと」
「何のこれしき……。とはいえお前には随分世話になったな」
「あ、いえ、何もできませんでしたけど」
「サーベルタイガーを威圧で制したのは見事なものだったと聞いている。お前の力が無かったなら今頃は……」
「幸運でした」
「お前には悪いがあれは私ということになっているので訂正はしないぞ」
目立ちたくはないので私は黙って肯いた。溜息をついているとガブちゃんがお見舞いをしたいといってやってきた。
「この度はルーク様は大変な目にあわれて……。ミーシャ商会としてもご協力は惜しみません」
「有り難い申し出、それにまだこのような無様な格好でお会いするとは……」
それがまた良いのとかいうガブちゃんの呟きは聞かなかったことにしてあげた。
「まさか、こんな強硬手段に出てくるとは……。これを機に王太子様はいろいろとなされるらいい。お前も身辺には気をつけろ」
「私が王太子の婚約者候補だからですか? それだったら、違うと公表すれよろしいかと」
「それだけではないようだな。どちらかというとこの町が貿易港になって我が家が、というか私に権力が集まるのを危惧した連中の仕業のようだ。だから式典の妨害をしようと……。あわよくば王太子も私が害したら一石二鳥というとこなのだろう」
「一体それはどういう……」
「まだ、調査段階だ。お前たちもあまり出歩かないように。ミーシャ商会も貿易に絡んでいると思われて危険だ」
「お言葉ですが、我が商会はそれぐらいでどうにかなるようなものではありません。ルーク様にはご心配なされず」
しおらしくガブちゃんが話すけれど……。良い男の傷病の姿いただきましたっ。なんて小声で言っていたのはお兄様には内緒にしておくわ。
その後、王宮からは開港式は無事済んだとの公式発表がされた。一部の男爵家などが処分を受けたけれどそれはサーベルタイガーを飼育していた罪などという奇妙な内容だった。
「あれが飼育されていたの? 納得いかないわ」
「仕方ないだろう。王族が絡んでいるから調査が難航しているのだ」
渋い顔をしながらお兄様も館に戻る準備をしていた。ここでの休暇も終わり一度都に戻る予定だ。それから私は……。予定通りジョーゼットの高原の別荘へ。星が綺麗なんだって。お兄様からもお許しは頂いたの。
今のところ、あの事件の首謀者は捜査中のためかなりを潜めているみたいだし、有力公爵家からの別荘のご招待だから、我が家としても断る理由は無かった。それに式典でのことも大きく広まらなかったのは公爵家の協力もあったからみたい。ありがとうジョーゼットのお父様。
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