【完】チェンジリングなヒロインゲーム ~よくある悪役令嬢に転生したお話~

えとう蜜夏

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四十 星空と高原の別荘

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 お兄様はこの世界の医療師達による医術のお陰で回復をなさったので、私も安心して高原の別荘に旅立つことにしたの。それと、ユリアン様からのお手紙や贈り物が私に届くようになったのよ。
 
 どうやら、サーベルタイガーに私が対峙していたときにユリアン様が庇ってくれたことがお兄様のお耳に入ったみたいね。少しは見直したなんてお兄様が漏らしていたの。





 そうしてやってきたのは美しい星空の見える高原。降るような満天の星空が美しいと評判の別荘地よ。ついにお友達のジョーゼットの別荘にお呼ばれしたわ。いろいろあったから護衛から使用人もそれなりに付いてきているけどね。今度こそ夏の休暇を楽しむわよ。お友達とね。もう、ぼっちは卒業なのよ。

 私がここに着いたときに白と淡いピンクの生地のドレスで出迎えてくれたジョーゼットに惚れ惚れしてしまった。やっぱり、ジョーゼットには可愛いピンクが良く似合っているのよ。

     別荘では有名な詩などを口ずさみながら高原の木々の間を一緒に散策していたけれどまるで夢の様でしたの。海のバカンスがバカンスじゃ無かったから余計にありがたみを感じたのよねえ。



 翌朝も気持ちの良い目覚め。朝はね貴族は基本遅くに起きるものなの。と言いつつ社交で朝駆けなんかもある。乗馬なのだけど実は覚醒前のアーシアは乗ったことが無かったのよね。でも、私は頑張ったの。だって、馬よ。白馬の馬に乗ってみたいじゃない?    それに乗馬は学園の授業にもあったから大分練習したのでそれなりに上達したのよ。

    別荘には私以外にも招待されたご令嬢も何人かいらしてるみたい。学園の人もいるから今のところ楽しい時間を過ごしてる。



 馬と言えば意地悪をする定番シチュエーションよね。鞍とかに細工をしてたり、馬を暴走させて乗っているヒロインが絶体絶命なんていうパターン。そして、そこにヒーローが駆けつけて助けるというロマンスには王道のパターンなの。そう言えば『ゆるハー』のユリアンルートにもあった気がする。

 あれは秋の乗馬大会に出だときかしら? 障害物競走でユリアン様の好感度を争うの。事前に私がヒロインの鞍の紐を切ってたんだわ。私がガブちゃんのを? それはもう有り得ないわね。それにそもそも乗馬大会なんて無いからね。障害物と言えば、某国のエリザベート妃がオリンピック級の乗馬の腕前だったとか。素敵よね。

 今はサンドイッチやパイを詰め込んだバスケットを持って高原にピクニックに来ていた。山々から木立を通る風のお陰で涼しくて寒いくらい。ご令嬢達はピクニック用の色とりどりのワンピースドレスで華やかなの。それに引き換え私は……。いつも通りお兄様のフロックコート。薄い水色の生地に金糸銀糸の縫い取りの素晴らしい上着とひらひらなブラウスが某歌劇団の男役を彷彿とさせているんだけど。

 有名な詩を朗読したり、刺繍をしたりしているご令嬢まで、共通なのはおしゃべりが止まらない。社交界の独身美形男性の情報交換がされたり、ドレスやアクセサリーの流行や美味しいお菓子の話で弾んでいます。

「今現在は何と言っても王太子様が素敵……。ジョーゼット様とお似合いですこと」

「あら、アーシア様だって、でも、ルーク様が何と言っても……」

 お兄様が意外と人気でびっくりしていますの。追いかけっこは危険だけど私を捉まえてごらんなさいなどと楽しいことをして……いませんよ。

 白樺っぽい木立の中を散策していると気が付けばジョーゼットと二人になった。パキリと小枝が足元で折れる音ぐらいしか聞こえないほど静かだった。大分奥まで来たのかしら? だけど木々の間からは護衛の姿が見受けられたので一先ず安心する。

「……ねえ、アーシア。私は先日のことで決めたのよ」

「先日? もしかして、あの海の……」

 アーシアもあの式典には来てくれていた。私は危険な目に遭わせたことのお詫びを言おうと身構えた。

「そう、勇敢な姿だったわ。何故かルーク様がしたことになっているけど……」

「え、ええ。怖い思いをさせてしまって、ルークお兄様が、その」

 私はジョーゼットの言葉にしどろもどろになっていた。

「私ね。アーシアの立派な姿に、あなたの方がアベル王太子様に相応しいと思ったの」

 私はジョーゼットの言った言葉が暫く意味を理解できなかった。

「王太子に相応しい?」

「ええ、だから私は婚約者候補を辞退しようと考えているの」

 ジョーゼットは肩を震わせて俯いていた。

 ――ふぁっ? 何がどうして?

 私が呆然としているうちにジョーゼットはいたたまれなくなったのか突然俯いたまま小走りに駆けだしたのよ。私は慌てて我に返って追いかけたの。こっちはズボンだから直ぐに追いついたけど。ジョーゼットの細い手首を掴まえている。

「ジョーゼット、ちょっと待ちなさい。私の話を聞いて頂戴。そもそもあれは……ルークお兄様よ。私が、そのムチなんて使わないし、猛獣なんて懐かせないし……。いろいろと……」

 それでもジョーゼットは黙って俯いたまま。私はとうとう大声で叫んでいた。

「それに私はミーシャ商会のガブリエラちゃんと赤子の時に取り違えられているのよ! 庶民なのよ!    だから王太子様の婚約者になるなんて無理なの!」

 私は走ったことと叫んで息切れして後はぜえはあとしか言えなかった。ジョーゼットは驚いて涙に濡れた顔を上げてやっと私の方を見上げてくれた。
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