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21 ペンテ共和国へ
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翌朝、目が覚めれば幌馬車の中で一人でしたが私の起きた気配にテオが馬車の中に顔を見せてくれました。
「おはよう。ミリア。朝食はできているよ」
「わあ。ごめんなさい。ありがとう。テオ、私も手伝うよ」
あれからぐっすり眠ってしまいました。こんなに眠れたのは久しぶりです。神殿の寝台と違って幌馬車の簡易寝袋なのにね。
外に出てテオの側に行きました。
気持ちを伝え合えたのでなんとなく気恥ずかしい朝です。どうして振舞ったらいいのか分かりません。
食器を受け取ろうとしてお互いの指先が触れてしまって、思わず落としてしまいました。
「悪りぃ」
「ごめんなさい!」
同時に言ったものだから、お互い顔を見合わせると笑ってしまいました。
自分の大好きな人がいるという何気ない日常はとても楽しいし嬉しいものですね。
そして、簡単な朝食を終えると私達はテオの家があるペンテ共和国に向かいました。
テオが馬車を出そうとするとき野営した樹々の向こう、ミレニア王国の方に黒雲がかっているように見えたけれど季節外れの嵐でも来るのでしょうか。
テオから聞くと昨夜は急だったので行商人が使う近道を通ったそうです。少しでも早くミレニア王国から離れたかったと言っていました。追手が心配だとか言っていましたが、テオは心配性ですね。王太子様から追放されたのです。そんな私を探す人などいないでしょう。あ、でも本当に国外に出たかの確認はされるでしょうけれどそれもパーシーさんがきちんと報告してくれていることでしょう。
ペンテ共和国の首都へ向かう大きな街道に出ると行きかう人々がたくさんいました。
「凄い人ね」
「大半はミレニア王国の大神殿への参拝客達だよ」
「こんなに……」
私は幌馬車から人々の列を見ていました。そして、昨夜が野営だったからと早めに町の宿に向かいました。そこにもミレニア王国へ参拝に行く人や帰る人が町に溢れていました。
食事時はどの店でも満席でした。
『大神殿で絶対聖女様を見るんだ』
『女神様の祝福の光が見られるといいねぇ』
そんなことを口々に話していました。
「本当、ミレニア王国へ行く人が多いね。私は国の外に出るのは初めてだから……」
「ああ、だからミレニア王国の参拝客は良い商売になるんだ。いろいろとね」
「そうなんだ」
私達は宿屋の部屋で早めに休んで窓から町の人々を物珍しく眺めていました。するとテオが、
「そういや、ミリアの着ているのって昨日と同じだし、それって聖女見習いの作業着だよね? 他の着替えとかは?」
「えへへ。私って驚くほど聖女生活していたみたいで実は聖女の司祭服とか作業着しか持ってなかったの。おかしいよね」
そう言って手荷物から平時の簡易な司祭服を取り出して見せた。
「おかしくなんかないよ。でも、それにそうなら服が必要だね。司祭服だと参拝者の中にミリアを見ている人がいて気づかれたら大変なことになるし」
そうしてテオに連れられて宿を出て慣れた感じで服を飾っているお店に入ると、
「あら、テオ坊ちゃん。今日は仕入れの日でしたっけ?」
「ああ、いや、今日は私用で、その、彼女に服を見せて欲しいんです。今直ぐ着られる普段着用のものをお願いします」
「えっ? ええ、直ぐにお持ちいたしますね」
そうして奥から色とりどりの服を持って来てくれました。
「そうですね。こちらのクリーム色のワンピースドレスなんてどうでしょうか? 若奥様にぴったりです。あ、いえ……」
「わ、若奥様……」
若奥様なんて言われて私は顔が熱くなりました。
「若奥様で良いじゃないか。そうだね。ミリアに良く似合うのでそのまま着て行こう。それとそちらの空色のワンピースとコバルトブルーのドレスも、あ、そのエプロンも……」
テオは慣れた感じで次々と注文をするので慣れない私は目が回ってきました。
そしてやっと終わって荷物を包んでもらいながら、私はしみじみとした感じでテオに言いました。
「テオは凄いね。何か選び慣れているというか、私はこんなお買い物するのは初めてだから戸惑っちゃって」
そう言うとテオが慌てて叫びました。何故か店の人は手を止めて固唾を呑んで私達の様子を見ています。
……何かいけなかったのでしょうか?
「ばっ、客に商品を選び慣れているだけだよ。女性に服を買うのはミリアが初めてだし、これからだってミリアだけだから!」
「そうなの?」
私が尋ねるとお店の人も大きく肯いていました。
良く分からないながらも私はお店で明るいクリーム色のワンピースを着せてもらうと何だか気持ちも明るくなりました。
「見て見て! 商人の若奥様って感じかな?」
私がくるりとその場で回って見せるとテオは顔を真っ赤にして無言になりました。そして私の手を繋ぐと黙って宿まで戻りました。
何も言わないので心配でしたが、ぼそりと可愛いよと言ってくれたのでほっとしました。
――もしかしてテオは照れ屋さんなのかも。でも私も可愛いと言われて恥ずかしいので俯いて歩きました。
それから、旅を続けて、ほどなくして私達はミレニア王国の隣国であるペンテ共和国の首都に着きました。テオと一緒だから検問所もスムーズに通ることができました。
ペンテ共和国はミレニア王国とは違って、住民が選んだ人が代表となって国を束ねているそうです。代表を選ぶために選挙とかいうのがあるみたい。ミレニア王国にそんなものは無かったので面白そう。
貴族とかの身分も無くて皆が平等だって聞いていました。行きかう人々の表情は明るくとても暮らしやすそうです。
それになんだかミレニア王国より活気があって、こちらの方が女神様の祝福が一杯ありそうです。空気までもキラキラ光っています。
あとはこの国には冒険者ギルドというのもあるのです。ミレニア王国には何故かありませんでしたけれど。本の中や詩人の弾き語りに出てくるので気になっていました。どんなものか是非見に行きたいですね。
ペンテ共和国の中心部に向かうとこの国でも女神様の神殿はありました。
ここも元聖女として後で覗いてみたいものです。
そして、ペンテ共和国の中心地近くにあるテオの家であるカリスト商会にほどなく着きました。
そこはとても大きな商会で後から知ったのだけどペンテ共和国でもテオの家は豪商として指折り数えられるほどの大きな商会みたいです。
商会の建物の隣にも建物があってテオを見ると自然と門番が開けてくれました。幌馬車だって敷地にそのまま入りました。
こちらは店舗ではなくテオ達の自宅だそうです。商会の方は小売りのお店ではなくお店同士の商売の取引のみを扱っているところでみたいです。馬車を預けるとテオと一緒に建物に入りました。
「ただいま戻りました」
テオが言いながら入ると奥に大きな机があって忙しそうに立ち働いていた女性が振り向きました。
「あら、テオ? お帰り。早かったわね。今回はどうだった? そうそう、あんたの大神殿の聖女様とは今回はどうだったの? なんたってあんたは聖女様に惚れこんで……、まあ? あんた、可愛い女の子連れているじゃない!」
「母さん! 余計なことは言わなくていいから!」
「あ、あら。おほほ。ごめんなさいね。それで彼女は?」
ニヤニヤしながら女性がテオをつついてきました。
「彼女はミリアさんだよ。その事情があって、出身の村を探しているんだ。それでその……」
「ミリア。聞いたことのある名だね。ああ、そうか。あんたの聖女様と同じ名前だ!」
「母さん! もう、やめてくれよ」
テオが堪りかねたようにまた叫んだ。
――あんたの聖女って、テオには他にいたの?
でも聖女って一人だし、ミリアってのは……、私の名前だし、えええ!
テオも真っ赤になっているし、私も顔が真っ赤になってしまった。
流石に鈍くさい私でも気がつきました。テオは本当に私のことをずっと……。
「え、あの、そのミリアです」
私も自己紹介も出来ずしどろもどろになってしまった。
「ミリアは気にしなくていいから! 今まで通りにして」
「あ、うん」
「あ、やっぱり。ちょっとは気にして……」
そう言うとテオのお母さんに向き直った。
「彼女はミレニア王国の聖女だったミリアさんだ。だけど解任されて追放になったから僕のお嫁さんになってもらうことになったんだ」
「はっひゃ?」
テオのお母さんは奇声を発して間の抜けた顔になったけれど私とテオの顔を素早く交互に眺めているとにやりと笑った。
「でかした! 息子!」
「い、いいのか?」
「成人した息子が決めたんだ。何の文句を言うんだい? それに話した通りの可愛い子じゃない。気に入ったよ! 私だって商人で生きてきたんだ。人を見る目はそれなりのものだよ」
「ありがとう。母さん」
「ありがとうございます」
そうして二人で顔を真っ赤にしているとテオのお母さんに更に奥へと案内されました。
「おはよう。ミリア。朝食はできているよ」
「わあ。ごめんなさい。ありがとう。テオ、私も手伝うよ」
あれからぐっすり眠ってしまいました。こんなに眠れたのは久しぶりです。神殿の寝台と違って幌馬車の簡易寝袋なのにね。
外に出てテオの側に行きました。
気持ちを伝え合えたのでなんとなく気恥ずかしい朝です。どうして振舞ったらいいのか分かりません。
食器を受け取ろうとしてお互いの指先が触れてしまって、思わず落としてしまいました。
「悪りぃ」
「ごめんなさい!」
同時に言ったものだから、お互い顔を見合わせると笑ってしまいました。
自分の大好きな人がいるという何気ない日常はとても楽しいし嬉しいものですね。
そして、簡単な朝食を終えると私達はテオの家があるペンテ共和国に向かいました。
テオが馬車を出そうとするとき野営した樹々の向こう、ミレニア王国の方に黒雲がかっているように見えたけれど季節外れの嵐でも来るのでしょうか。
テオから聞くと昨夜は急だったので行商人が使う近道を通ったそうです。少しでも早くミレニア王国から離れたかったと言っていました。追手が心配だとか言っていましたが、テオは心配性ですね。王太子様から追放されたのです。そんな私を探す人などいないでしょう。あ、でも本当に国外に出たかの確認はされるでしょうけれどそれもパーシーさんがきちんと報告してくれていることでしょう。
ペンテ共和国の首都へ向かう大きな街道に出ると行きかう人々がたくさんいました。
「凄い人ね」
「大半はミレニア王国の大神殿への参拝客達だよ」
「こんなに……」
私は幌馬車から人々の列を見ていました。そして、昨夜が野営だったからと早めに町の宿に向かいました。そこにもミレニア王国へ参拝に行く人や帰る人が町に溢れていました。
食事時はどの店でも満席でした。
『大神殿で絶対聖女様を見るんだ』
『女神様の祝福の光が見られるといいねぇ』
そんなことを口々に話していました。
「本当、ミレニア王国へ行く人が多いね。私は国の外に出るのは初めてだから……」
「ああ、だからミレニア王国の参拝客は良い商売になるんだ。いろいろとね」
「そうなんだ」
私達は宿屋の部屋で早めに休んで窓から町の人々を物珍しく眺めていました。するとテオが、
「そういや、ミリアの着ているのって昨日と同じだし、それって聖女見習いの作業着だよね? 他の着替えとかは?」
「えへへ。私って驚くほど聖女生活していたみたいで実は聖女の司祭服とか作業着しか持ってなかったの。おかしいよね」
そう言って手荷物から平時の簡易な司祭服を取り出して見せた。
「おかしくなんかないよ。でも、それにそうなら服が必要だね。司祭服だと参拝者の中にミリアを見ている人がいて気づかれたら大変なことになるし」
そうしてテオに連れられて宿を出て慣れた感じで服を飾っているお店に入ると、
「あら、テオ坊ちゃん。今日は仕入れの日でしたっけ?」
「ああ、いや、今日は私用で、その、彼女に服を見せて欲しいんです。今直ぐ着られる普段着用のものをお願いします」
「えっ? ええ、直ぐにお持ちいたしますね」
そうして奥から色とりどりの服を持って来てくれました。
「そうですね。こちらのクリーム色のワンピースドレスなんてどうでしょうか? 若奥様にぴったりです。あ、いえ……」
「わ、若奥様……」
若奥様なんて言われて私は顔が熱くなりました。
「若奥様で良いじゃないか。そうだね。ミリアに良く似合うのでそのまま着て行こう。それとそちらの空色のワンピースとコバルトブルーのドレスも、あ、そのエプロンも……」
テオは慣れた感じで次々と注文をするので慣れない私は目が回ってきました。
そしてやっと終わって荷物を包んでもらいながら、私はしみじみとした感じでテオに言いました。
「テオは凄いね。何か選び慣れているというか、私はこんなお買い物するのは初めてだから戸惑っちゃって」
そう言うとテオが慌てて叫びました。何故か店の人は手を止めて固唾を呑んで私達の様子を見ています。
……何かいけなかったのでしょうか?
「ばっ、客に商品を選び慣れているだけだよ。女性に服を買うのはミリアが初めてだし、これからだってミリアだけだから!」
「そうなの?」
私が尋ねるとお店の人も大きく肯いていました。
良く分からないながらも私はお店で明るいクリーム色のワンピースを着せてもらうと何だか気持ちも明るくなりました。
「見て見て! 商人の若奥様って感じかな?」
私がくるりとその場で回って見せるとテオは顔を真っ赤にして無言になりました。そして私の手を繋ぐと黙って宿まで戻りました。
何も言わないので心配でしたが、ぼそりと可愛いよと言ってくれたのでほっとしました。
――もしかしてテオは照れ屋さんなのかも。でも私も可愛いと言われて恥ずかしいので俯いて歩きました。
それから、旅を続けて、ほどなくして私達はミレニア王国の隣国であるペンテ共和国の首都に着きました。テオと一緒だから検問所もスムーズに通ることができました。
ペンテ共和国はミレニア王国とは違って、住民が選んだ人が代表となって国を束ねているそうです。代表を選ぶために選挙とかいうのがあるみたい。ミレニア王国にそんなものは無かったので面白そう。
貴族とかの身分も無くて皆が平等だって聞いていました。行きかう人々の表情は明るくとても暮らしやすそうです。
それになんだかミレニア王国より活気があって、こちらの方が女神様の祝福が一杯ありそうです。空気までもキラキラ光っています。
あとはこの国には冒険者ギルドというのもあるのです。ミレニア王国には何故かありませんでしたけれど。本の中や詩人の弾き語りに出てくるので気になっていました。どんなものか是非見に行きたいですね。
ペンテ共和国の中心部に向かうとこの国でも女神様の神殿はありました。
ここも元聖女として後で覗いてみたいものです。
そして、ペンテ共和国の中心地近くにあるテオの家であるカリスト商会にほどなく着きました。
そこはとても大きな商会で後から知ったのだけどペンテ共和国でもテオの家は豪商として指折り数えられるほどの大きな商会みたいです。
商会の建物の隣にも建物があってテオを見ると自然と門番が開けてくれました。幌馬車だって敷地にそのまま入りました。
こちらは店舗ではなくテオ達の自宅だそうです。商会の方は小売りのお店ではなくお店同士の商売の取引のみを扱っているところでみたいです。馬車を預けるとテオと一緒に建物に入りました。
「ただいま戻りました」
テオが言いながら入ると奥に大きな机があって忙しそうに立ち働いていた女性が振り向きました。
「あら、テオ? お帰り。早かったわね。今回はどうだった? そうそう、あんたの大神殿の聖女様とは今回はどうだったの? なんたってあんたは聖女様に惚れこんで……、まあ? あんた、可愛い女の子連れているじゃない!」
「母さん! 余計なことは言わなくていいから!」
「あ、あら。おほほ。ごめんなさいね。それで彼女は?」
ニヤニヤしながら女性がテオをつついてきました。
「彼女はミリアさんだよ。その事情があって、出身の村を探しているんだ。それでその……」
「ミリア。聞いたことのある名だね。ああ、そうか。あんたの聖女様と同じ名前だ!」
「母さん! もう、やめてくれよ」
テオが堪りかねたようにまた叫んだ。
――あんたの聖女って、テオには他にいたの?
でも聖女って一人だし、ミリアってのは……、私の名前だし、えええ!
テオも真っ赤になっているし、私も顔が真っ赤になってしまった。
流石に鈍くさい私でも気がつきました。テオは本当に私のことをずっと……。
「え、あの、そのミリアです」
私も自己紹介も出来ずしどろもどろになってしまった。
「ミリアは気にしなくていいから! 今まで通りにして」
「あ、うん」
「あ、やっぱり。ちょっとは気にして……」
そう言うとテオのお母さんに向き直った。
「彼女はミレニア王国の聖女だったミリアさんだ。だけど解任されて追放になったから僕のお嫁さんになってもらうことになったんだ」
「はっひゃ?」
テオのお母さんは奇声を発して間の抜けた顔になったけれど私とテオの顔を素早く交互に眺めているとにやりと笑った。
「でかした! 息子!」
「い、いいのか?」
「成人した息子が決めたんだ。何の文句を言うんだい? それに話した通りの可愛い子じゃない。気に入ったよ! 私だって商人で生きてきたんだ。人を見る目はそれなりのものだよ」
「ありがとう。母さん」
「ありがとうございます」
そうして二人で顔を真っ赤にしているとテオのお母さんに更に奥へと案内されました。
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