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22 テオの家と結婚式
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客間に通されてふかふかのソファに座ると薫り高いお茶も運ばれてきました。それぞれが口を付けてから、テオのお母さんが尋ねてきました。
「で、ミレニア王国の聖女が交代なんてビッグニュースはまだ聞いてないよ」
「そうなのか? 僕はたまたま市が出る日にミリアに会って聞かされて、それで急いで国を出る準備をしたから家に知らせるどころじゃなくて……」
「そう。もっと情報が欲しいわね」
暫く考え込むテオのお母さんとテオを見て私も何か話せないかと思いました。
「あの、私も急にヘンリー王太子様から儀式の最中に婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまって、あ、でも永久ではなく暫くの間ということらしいです。多分次のサマンサ様が聖女となられて落ち着いたら戻ってもいいと仰っていました。戻るとこなんてないのでどこかの神殿の下女とかと考えていたのですが……」
「だめだ! ミリアはもうあんなところに戻らなくていい。……その、僕のお嫁さんとして一緒にお店を……、えっとその……」
「テオ……」
また二人で見合わせると真っ赤になって俯いてしまった。
「あらあら。まあまあ。そうねぇ」
テオのお母さんが何かを考え込んでから意地の悪そうな笑みを浮かべました。
「じゃあさあ、ミリアさん。あなたは本当にテオと結婚する意志はあるの? テオは平民で三男だから財産なんてないわよ? 贅を尽くした聖女様の生活をしていたら、テオとの生活なんて無理じゃないかしら?」
「母さん! 何言っているんだよ。さっき賛成してくれたじゃないか」
――何か試されているような感じがしますね。女神様に祈っているときにもあるものね。それに尊いものは得難いと仰っています。
「あの、何が贅沢かはあまり分かりませんが、テオと一緒に日々の食事と暖かい寝床が得られるように頑張ります!」
私はテオのお母さんにそう宣言しました。横でテオが顔を真っ赤にして目を潤ませてぎゅっと私の手を握ってくれてました。僕だってミリアを幸せにしたいとか小さい声がテオから聞こえました。
――私だって、テオからのプロポーズを受けたんだもん。多少の障害があっても乗り越えないとね。女神様の教えにもあるもの栗のとげとげを恐れては中の美味しさは味わえないと。
「うふふ。やぁん。ミリアちゃん可愛いわ。やっぱり聖女様は違うわね。清らか! 尊い!」
何故がテオのお母さんは先程の厳しい表情とはがらりと変えて満面の笑みで喜ばれてしまった。そして両手をパンと叩きました。
「ねえ。じゃあ早速、結婚式をしましょう! うふふ。テオ、こんな大きな魚は逃がしちゃだめよ」
「か、母さん?」
「そうねぇ。超特急で仕上げれば三日もあればウエディングドレスは大丈夫なところあるし、あ、あんたは何でもいいわね?」
その豹変ぶりに呆気にとられていた私達へテオのお母さんは次々と言いだしてきました。
「なんだか大変なことになったね」
ドレスから女神教の神殿の手配まで、あっという間でした。
テオのお母さんはやり手の仕事人ですね。テオの家のカリスト家は豪商の一つだからかなりの無理が利くみたいです。三日後に式まで挙げることも決まってしまいました。
急だけどドレスもとても素敵で気に入ったものになりそうだった。
それまで来客用の離れに案内されて二人で住まわせてもらいました。そこもとても素敵な家で使用人までいるのには驚きました。
一日が慌ただしく過ぎ去って、私はテオに話すことがあったのでテオの部屋に向かうと、
「ねえ、今、大丈夫?」
テオは寝台に倒れ込んでいたけれど私を見て起き上がってくれました。
「あ、ああ。ミリアは疲れてない? 母さんは強引だから」
「ちょっとね」
「母さんが暴走しちゃって。本当にごめん」
「ううん。良いの。祝福してくれるんだもん。とても嬉しいよ。それより、大事な話を言ってなくて……」
「何?」
なかなか言い出せないでいるとテオが焦っていろいろと言いだしました。
「あ、母さんにびっくりして、今更なかったことにしたいとか。後悔しているとか? 結婚を止めたいとかはダメだ。頼むからミリアは絶対に手放さないよ」
「そうじゃなくて。テオのお母さんは良い人だからそんな心配はないの。あのね。私の魔力は多いでしょ?」
「は? はあ、まあ、そうだけど。それが?」
テオは私の話が直ぐには分からないようでした。私もどう言っていいのか分かりません。前聖女様からお聞ききしただけですから。
「多分だけど、その聖女は清らかでないとなれないんだって、私も聖女候補になるとき確認されたんだけどその……」
「え? 清らかって……、もしかして……」
テオの顔色がやや赤らんだので私は肯いた。
「女神様の祝福とかにも関わってくるんだって、よく分からないけど……。だからテオと結婚すると祝福が出てこなかったり魔力が無くなったりするかも。そうなるとテオの魔道具作りを手伝えないかもと思ったの。私がテオの役に立てるのってそれぐらいしかなくて……」
テオにガバッと抱き着かれてしまったので途中で言えなくなりました。
「……ミリアが聖女候補じゃなければ僕達は出会えなかったけれど僕は何度も聖女じゃなければと願っていたんだよ」
「……」
「僕にはミリアがミリアであればいいんだ。眠いとかお腹空いたとか言って僕の持って来たお菓子を美味しそうに食べながら僕の隣で居眠りしているのを見るのが好きなんだよ。おかしいかな」
「お、おかしいよ! 私そんなに眠たいとか、お腹空いたとか言ってない……」
――言っていたかも……。聖女になってから、とにかく寝る間もあまりなかった気がする。テオと話しながら寝てしまったことも何度もあったかな。
でも、聖女に選ばれたからと頑張っていたの。女神様や祈願者の方に必要とされるならば私も生きてい良いんだと思っていたから。
私は親に売られるような子だから、他の誰かに必要だと思われたかった。だから一生懸命頑張っていた。
ふふとテオが笑うのが伝わってきた。
抱き締められているせいでしょうか、何だか身体の中まで暖かくなってきて冷えていた心が解かされる気がします。居心地よくて何も考えられなくなるほどでした。
「ミリアはもう聖女を頑張らなくて良いんだよ。ミリアはミリアなんだから」
「テオ……」
それから私達は三日後に結婚式を挙げました。
急だった割には神殿にたくさんの参列者が来てくれて祝っていただきました。
テオがペンテ共和国の人だから私も今日からペンテ共和国の人となったのです。
今日からミリア・カリストです。今まで名前しかなかったので少しこそばゆいですね。
ミレニア王国からは国外追放されましたし、戻ることもないから丁度いいかもしれません。マルクトの神殿や村にはその内行くかもしれないけれど別にペンテ共和国の人間でも構わないものね。
テオのお母さんや兄達に見守られて式も無事済みました。テオのお父さんは小さい頃に亡くなっているそうです。テオのお母さんが一人でテオやお兄さん達を育てて商会を盛り立てたみたいです。
私はお父ちゃんがどうなっているのか、もう顔もよく覚えていません。――薄情な娘でしたね。
ゆくゆくはミレニア王国とかの支店をテオに任せてもと言ってくださいましたが、追放されているので別の国の支店という話になりました。なんたって妻が国外追放を言い渡されていますからね。
「暫くミレニア王国とは反対の方の国を回ろうか」
「あ、でも私はミレニア王国を出たことが無いから、ペンテ共和国をいろいろ回ってみたいな」
「なら、行商がてらにペンテの地方の村を回るのもいいかな」
テオがそういうので私も肯いた。
「うん。そうしよう。いろいろ旅をしてみたい!」
「その村独自の郷土料理とかあってそこでしか食べられない美味しいものもあるんだよ」
「うわぁ。楽しみだね!」
私が両手を上げて喜ぶとテオは苦笑していました。
「ミリアは本当に……」
「テオ、どうしたの? 早く行こうよ!」
「ああ、どこにでも一緒に行こう! ……僕のミリア」
「で、ミレニア王国の聖女が交代なんてビッグニュースはまだ聞いてないよ」
「そうなのか? 僕はたまたま市が出る日にミリアに会って聞かされて、それで急いで国を出る準備をしたから家に知らせるどころじゃなくて……」
「そう。もっと情報が欲しいわね」
暫く考え込むテオのお母さんとテオを見て私も何か話せないかと思いました。
「あの、私も急にヘンリー王太子様から儀式の最中に婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまって、あ、でも永久ではなく暫くの間ということらしいです。多分次のサマンサ様が聖女となられて落ち着いたら戻ってもいいと仰っていました。戻るとこなんてないのでどこかの神殿の下女とかと考えていたのですが……」
「だめだ! ミリアはもうあんなところに戻らなくていい。……その、僕のお嫁さんとして一緒にお店を……、えっとその……」
「テオ……」
また二人で見合わせると真っ赤になって俯いてしまった。
「あらあら。まあまあ。そうねぇ」
テオのお母さんが何かを考え込んでから意地の悪そうな笑みを浮かべました。
「じゃあさあ、ミリアさん。あなたは本当にテオと結婚する意志はあるの? テオは平民で三男だから財産なんてないわよ? 贅を尽くした聖女様の生活をしていたら、テオとの生活なんて無理じゃないかしら?」
「母さん! 何言っているんだよ。さっき賛成してくれたじゃないか」
――何か試されているような感じがしますね。女神様に祈っているときにもあるものね。それに尊いものは得難いと仰っています。
「あの、何が贅沢かはあまり分かりませんが、テオと一緒に日々の食事と暖かい寝床が得られるように頑張ります!」
私はテオのお母さんにそう宣言しました。横でテオが顔を真っ赤にして目を潤ませてぎゅっと私の手を握ってくれてました。僕だってミリアを幸せにしたいとか小さい声がテオから聞こえました。
――私だって、テオからのプロポーズを受けたんだもん。多少の障害があっても乗り越えないとね。女神様の教えにもあるもの栗のとげとげを恐れては中の美味しさは味わえないと。
「うふふ。やぁん。ミリアちゃん可愛いわ。やっぱり聖女様は違うわね。清らか! 尊い!」
何故がテオのお母さんは先程の厳しい表情とはがらりと変えて満面の笑みで喜ばれてしまった。そして両手をパンと叩きました。
「ねえ。じゃあ早速、結婚式をしましょう! うふふ。テオ、こんな大きな魚は逃がしちゃだめよ」
「か、母さん?」
「そうねぇ。超特急で仕上げれば三日もあればウエディングドレスは大丈夫なところあるし、あ、あんたは何でもいいわね?」
その豹変ぶりに呆気にとられていた私達へテオのお母さんは次々と言いだしてきました。
「なんだか大変なことになったね」
ドレスから女神教の神殿の手配まで、あっという間でした。
テオのお母さんはやり手の仕事人ですね。テオの家のカリスト家は豪商の一つだからかなりの無理が利くみたいです。三日後に式まで挙げることも決まってしまいました。
急だけどドレスもとても素敵で気に入ったものになりそうだった。
それまで来客用の離れに案内されて二人で住まわせてもらいました。そこもとても素敵な家で使用人までいるのには驚きました。
一日が慌ただしく過ぎ去って、私はテオに話すことがあったのでテオの部屋に向かうと、
「ねえ、今、大丈夫?」
テオは寝台に倒れ込んでいたけれど私を見て起き上がってくれました。
「あ、ああ。ミリアは疲れてない? 母さんは強引だから」
「ちょっとね」
「母さんが暴走しちゃって。本当にごめん」
「ううん。良いの。祝福してくれるんだもん。とても嬉しいよ。それより、大事な話を言ってなくて……」
「何?」
なかなか言い出せないでいるとテオが焦っていろいろと言いだしました。
「あ、母さんにびっくりして、今更なかったことにしたいとか。後悔しているとか? 結婚を止めたいとかはダメだ。頼むからミリアは絶対に手放さないよ」
「そうじゃなくて。テオのお母さんは良い人だからそんな心配はないの。あのね。私の魔力は多いでしょ?」
「は? はあ、まあ、そうだけど。それが?」
テオは私の話が直ぐには分からないようでした。私もどう言っていいのか分かりません。前聖女様からお聞ききしただけですから。
「多分だけど、その聖女は清らかでないとなれないんだって、私も聖女候補になるとき確認されたんだけどその……」
「え? 清らかって……、もしかして……」
テオの顔色がやや赤らんだので私は肯いた。
「女神様の祝福とかにも関わってくるんだって、よく分からないけど……。だからテオと結婚すると祝福が出てこなかったり魔力が無くなったりするかも。そうなるとテオの魔道具作りを手伝えないかもと思ったの。私がテオの役に立てるのってそれぐらいしかなくて……」
テオにガバッと抱き着かれてしまったので途中で言えなくなりました。
「……ミリアが聖女候補じゃなければ僕達は出会えなかったけれど僕は何度も聖女じゃなければと願っていたんだよ」
「……」
「僕にはミリアがミリアであればいいんだ。眠いとかお腹空いたとか言って僕の持って来たお菓子を美味しそうに食べながら僕の隣で居眠りしているのを見るのが好きなんだよ。おかしいかな」
「お、おかしいよ! 私そんなに眠たいとか、お腹空いたとか言ってない……」
――言っていたかも……。聖女になってから、とにかく寝る間もあまりなかった気がする。テオと話しながら寝てしまったことも何度もあったかな。
でも、聖女に選ばれたからと頑張っていたの。女神様や祈願者の方に必要とされるならば私も生きてい良いんだと思っていたから。
私は親に売られるような子だから、他の誰かに必要だと思われたかった。だから一生懸命頑張っていた。
ふふとテオが笑うのが伝わってきた。
抱き締められているせいでしょうか、何だか身体の中まで暖かくなってきて冷えていた心が解かされる気がします。居心地よくて何も考えられなくなるほどでした。
「ミリアはもう聖女を頑張らなくて良いんだよ。ミリアはミリアなんだから」
「テオ……」
それから私達は三日後に結婚式を挙げました。
急だった割には神殿にたくさんの参列者が来てくれて祝っていただきました。
テオがペンテ共和国の人だから私も今日からペンテ共和国の人となったのです。
今日からミリア・カリストです。今まで名前しかなかったので少しこそばゆいですね。
ミレニア王国からは国外追放されましたし、戻ることもないから丁度いいかもしれません。マルクトの神殿や村にはその内行くかもしれないけれど別にペンテ共和国の人間でも構わないものね。
テオのお母さんや兄達に見守られて式も無事済みました。テオのお父さんは小さい頃に亡くなっているそうです。テオのお母さんが一人でテオやお兄さん達を育てて商会を盛り立てたみたいです。
私はお父ちゃんがどうなっているのか、もう顔もよく覚えていません。――薄情な娘でしたね。
ゆくゆくはミレニア王国とかの支店をテオに任せてもと言ってくださいましたが、追放されているので別の国の支店という話になりました。なんたって妻が国外追放を言い渡されていますからね。
「暫くミレニア王国とは反対の方の国を回ろうか」
「あ、でも私はミレニア王国を出たことが無いから、ペンテ共和国をいろいろ回ってみたいな」
「なら、行商がてらにペンテの地方の村を回るのもいいかな」
テオがそういうので私も肯いた。
「うん。そうしよう。いろいろ旅をしてみたい!」
「その村独自の郷土料理とかあってそこでしか食べられない美味しいものもあるんだよ」
「うわぁ。楽しみだね!」
私が両手を上げて喜ぶとテオは苦笑していました。
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「ああ、どこにでも一緒に行こう! ……僕のミリア」
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