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最初の発情期のとき、『一緒にいさせてほしい』と言ったのをきっかけに、次のときも、その次のときも―― 晴臣は、壮士のそばにいてくれた。
『お前は何も悪くない』
その言葉を聞いた瞬間、壮士の中にずっと沈んでいた重い塊が、ほんの少しだけ軽くなった気がした。
ヒートのたびに、自分を責めていた。
Ωであること。 男であること。 誰かを巻き込んでしまうこと。 誰かを傷つけてしまうかもしれないこと。
それら全部が、自分の中にある“欠陥”のように思えていた。
でも、晴臣は違った。
壮士のことを否定しなかった。 責めなかった。 ただ、静かに受け止めてくれた。
そして、自分の過去も話してくれた。
(優しいやつだ……)
そう思った。
でも、それは壮士にだけ向けられたものじゃない。 晴臣は、基本的に誰にでも分け隔てなく優しい。 傷ついた人間を見れば、手を差し伸べる。 イケメンで、努力家で、周りからの信頼も厚くて、女にもモテる。
だからこそ――その優しさに甘えるわけにはいかないと思った。
自分だけが特別だなんて、思ってはいけない。
それでも、ふとした瞬間に、心が揺れる。
水を飲ませてくれる手が、そっと頬に触れたとき。 熱に浮かされて泣きそうになったとき、背中を撫でてくれたとき。 何も言わずに、ただ隣にいてくれたとき。
そのたびに、壮士は思ってしまう。
(――伊川に触ってほしい……)
その手で、もっと触れてほしい。 その声で、もっと名前を呼んでほしい。 その目で、もっと自分だけを見てほしい。
でも、それはただの本能だ。
ヒートのせいだ。 孤独のせいだ。 弱さのせいだ。
そう言い聞かせる。
これは恋じゃない。 これは錯覚だ。 これは、間違いだ。
――そう思いたかった。
*
部活が終わって、今日は練習のないオフの日だった。壮士は、晴臣のアパートに行く。ここのところ、大体どちらかの家にいる気がする。
「しっかりと食えよ! お前は細いんだから!」
そう言いながら、晴臣はエプロン姿でフライパンを振っていた。
焼きそばの香ばしい匂いが部屋に広がる。その姿は、どう見ても“お袋”そのものだった。
手際よく麺をほぐし、野菜を炒め、ソースを絡める。 真剣な顔で料理する晴臣を見ていると、なんだか不思議な気持ちになる。
(こいつは、なんでこんなに優しいんだろう…)
そう思った瞬間、不意に晴臣のスマホが鳴った。
画面に一瞬だけ映った名前は、女子の名前だった。
壮士は、見てはいけないものを見たような気がして、思わず目を逸らした。
晴臣は少しだけ躊躇してから、「すまん、ちょっと電話する」と言って、スマホを耳に当てた。
そして、どこかよそ行きの声で話し始める。
「ああ、大丈夫だ……」
その声は、いつも壮士に向けるものとは違っていた。 少しだけ柔らかくて、少しだけ丁寧で――
大学でも、晴臣は女子に囲まれていることがある。 告白されることもあるだろう。 そんな話は、晴臣はしない。 けれど、壮士は知っている。
電話越しに女子の笑い声が漏れ聞こえ、晴臣が笑う。
楽しそうで、嬉しそうで―― その声が、胸に刺さった。
(なんだよ、嬉しそうにしやがって…)
壮士は、焼きそばの皿を見つめながら、心の奥がざわつくのを感じていた。
さっきまで、あんなに近くにいたのに。 今は、まるで遠くに行ってしまったみたいだった。
(……ああ、イヤだ。 ムカつく。 どうして…)
違う。
(俺が好きなのは――雅人だ)
今までも、これからも。 ずっと息を殺して生きていけば、それでよかったのに。
それなのに――こいつのせいで……。どんどん、欲張りになる。
もっと。 もっと。 もっと。
「朝永、どうした?」
電話を終えた晴臣がスマホを置く。声が優しい。
「んでもねえよ…」
心が、揺れる。
これは、恋じゃない。 これは、錯覚だ。 ヒートのときに一緒にいるからだ。
そう思いたかった。
(……ああ、実家の犬に会いてーな。もふもふして、癒されてえ)
そう思っても、癒されたいのは、きっと心の方だった。
晴臣の笑顔が、誰かの声で笑うのを見るのが、こんなに苦しいなんて。
自分は、ただの“友達”で。 ただの“世話される側”で。 ただの“Ω”で。
――それ以上には、なれない。
そう思うと、焼きそばの味が少しだけ苦く感じた。
*
晴臣に迷惑をかけるくらいなら、いっそ離れた方がいい。 このまま距離を置いて、何もなかったことにしてしまえばいい。 そうやって、心を静めようとしていた。
(男のΩなんて、面倒くさいだけだろう……)
そんなことを考えていたときだった。今日の授業が終わり、部室に行く途中。
「おーい、朝永!」
後ろから声がかかって、振り向くと、同じゼミのαが駆け寄ってきた。名前は確か、高橋だったか。明るくて、少し距離感が近いタイプだ。
「今日の教授、面白かったな!」
そう言いながら、いきなり肩を組まれる。
「うわっ、離せっ……!」
壮士は少し身を引こうとしたが、高橋はお構いなしにぐいぐい距離を詰めてくる。
「なに照れてんだよ~、俺らの仲じゃねえか!」
笑いながら、今度は頭をわしゃわしゃと撫でてくる。
「おい、やめろって!髪ぐちゃぐちゃになるだろ!」
「いいじゃん、似合ってるって」
そう言って、高橋は壮士の首元に顔を寄せてきた。
壮士は軽く高橋の腕を振りほどいた。
「じゃ、俺部活あるから。また明日な」
「ああ、じゃーな!」
そう言って歩き出す壮士の背中を、高橋はしばらく見つめていた。
前方から、晴臣が歩いてくるのが見えた。
壮士は軽く手を挙げて、部室に入ろうとした――その瞬間、腕を掴まれた。
「……っ!」
驚いて振り返ると、晴臣の顔が歪んでいた。眉をしかめ、目を細めている。
「朝永、その匂い……」
「……あぁ?」
「ちょっと来い」
言うが早いか、晴臣は強い力で壮士の腕を引っ張った。
「はあ?! なんだよ?! 離せ!!」
本能的に抵抗する。けれど、晴臣の力は強かった。
「いいから来い!!」
そのまま部室に押し込まれ、背中をドアに押しつけられる。
「痛って……!」
「誰だ……?」
低く、抑えた声だった。
「はあ?!」
「誰にマーキングされた?!」
その言葉に、壮士は眉間に皺を寄せた。
「マーキング……? 知らねえよ……」
「正直に言え……!」
晴臣の手が、肩に食い込むほど強く握られる。
壮士は、怒りに任せて叫んだ。
「知らねえもんは知らねえよ! 大体、誰にマーキングされようが、お前には関係ねぇだろ!!」
「……言え!!」
「俺はお前のもんじゃねえ!!」
その言葉に、晴臣の目が見開かれた。
そして――次の瞬間、壮士の肩に、晴臣の歯が食い込んだ。
「痛っ……!! おい、バカ、やめろ!!」
壮士は晴臣の背中を殴った。何度も、強く。
けれど、晴臣はびくともしない。
「お前は、俺のものだ……」
低く、熱を帯びた声でそう言って、また噛みついた。
「くそっ……! 目、覚ませよ、このバカ!!」
壮士は、怒りと恐怖と混乱の中で、思い切り晴臣の頭に頭突きを食らわせた。
鈍い音が響く。自分も痛い。晴臣も痛そうだった。
ようやく晴臣が少し距離を取った隙に、壮士は逃げようとした。
けれど、ドアは晴臣の手で押さえられていて、開かない。
「……どけよ……!」
息を荒げながら、壮士は晴臣を睨んだ。
「……すまん、悪かった」
晴臣は頭突きされた箇所を押さえながら、少しだけ顔をしかめて言った。
壮士は、まだ息が荒いまま、ドアにもたれていた。
「一体、何のつもりだ…?」
そう言うと、晴臣はしばらく黙った。
沈黙が、部室の空気を重くする。
そして、意を決したように、晴臣は言った。
「……お前が好きだ」
「……あー……、……ええ?!」
壮士の頭は、言葉の意味を理解するより先に、驚きで真っ白になった。
「好きだ。番になってほしい」
「は?」
「お前が他のαと番になるのは嫌だ」
「え……? 本気か……?」
目が点になっている壮士をよそに、晴臣は真剣な目で見つめていた。
その目に、冗談の色はなかった。
「本気だ」
壮士は、目を見開いた。
一体こいつは、何を言っているんだ?番になりたい……だと?
「いや、ちょっと待て……正気か?」
「大丈夫だ。今の頭突きで落ち着いた。正気だ」
「でも、お前好きな人いるって……」
「ああ、その人のことも好きだ」
なんで聞いてしまったのか。胸がズキリと痛む。だが晴臣は続けた。
「でも今は、お前の方が好きだ」
壮士の顔がカアッと熱くなる。
「お前、何言って…」
「なあ、番にならないか」
「ちょ、待て…、男のΩなんて出来損ないだぞ?子どももできないし、番になんてなったら、将来必ず邪魔になる。お前の足かせになるだけだ…」
「足かせになんてならない。お前がいい。子どもができなくても、お前がいればいい。お前にとっても、悪くないはずだ」
壮士は、胸の奥がざわつくのを感じながら、言葉を絞り出す。
「む、無理だ。俺は誰の番にもなる気は…」
「……わかった。番にならなくてもいい」
その言葉に、壮士は少しだけほっとした。
――それも、つかの間だった。
「それでも、一番近くにいたい」
その言葉に、壮士は顔が熱くなるのを感じた。
「何言ってんだよ…。お前、頭、おかしいんじゃねえの……?」
照れ隠しのように言ったが、晴臣は真剣だった。
「お前を他のαに取られると思ったら、抑えられなくなった。噛んで悪かった……」
「……」
壮士は、言葉を失った。
晴臣の目は、まっすぐに壮士を見ていた。
「ずっと、傍にいさせてくれ」
壮士は、胸の奥がじわりと熱くなるのを感じた。
それが、怖くて、嬉しくて、どうしていいかわからなかった。
『お前は何も悪くない』
その言葉を聞いた瞬間、壮士の中にずっと沈んでいた重い塊が、ほんの少しだけ軽くなった気がした。
ヒートのたびに、自分を責めていた。
Ωであること。 男であること。 誰かを巻き込んでしまうこと。 誰かを傷つけてしまうかもしれないこと。
それら全部が、自分の中にある“欠陥”のように思えていた。
でも、晴臣は違った。
壮士のことを否定しなかった。 責めなかった。 ただ、静かに受け止めてくれた。
そして、自分の過去も話してくれた。
(優しいやつだ……)
そう思った。
でも、それは壮士にだけ向けられたものじゃない。 晴臣は、基本的に誰にでも分け隔てなく優しい。 傷ついた人間を見れば、手を差し伸べる。 イケメンで、努力家で、周りからの信頼も厚くて、女にもモテる。
だからこそ――その優しさに甘えるわけにはいかないと思った。
自分だけが特別だなんて、思ってはいけない。
それでも、ふとした瞬間に、心が揺れる。
水を飲ませてくれる手が、そっと頬に触れたとき。 熱に浮かされて泣きそうになったとき、背中を撫でてくれたとき。 何も言わずに、ただ隣にいてくれたとき。
そのたびに、壮士は思ってしまう。
(――伊川に触ってほしい……)
その手で、もっと触れてほしい。 その声で、もっと名前を呼んでほしい。 その目で、もっと自分だけを見てほしい。
でも、それはただの本能だ。
ヒートのせいだ。 孤独のせいだ。 弱さのせいだ。
そう言い聞かせる。
これは恋じゃない。 これは錯覚だ。 これは、間違いだ。
――そう思いたかった。
*
部活が終わって、今日は練習のないオフの日だった。壮士は、晴臣のアパートに行く。ここのところ、大体どちらかの家にいる気がする。
「しっかりと食えよ! お前は細いんだから!」
そう言いながら、晴臣はエプロン姿でフライパンを振っていた。
焼きそばの香ばしい匂いが部屋に広がる。その姿は、どう見ても“お袋”そのものだった。
手際よく麺をほぐし、野菜を炒め、ソースを絡める。 真剣な顔で料理する晴臣を見ていると、なんだか不思議な気持ちになる。
(こいつは、なんでこんなに優しいんだろう…)
そう思った瞬間、不意に晴臣のスマホが鳴った。
画面に一瞬だけ映った名前は、女子の名前だった。
壮士は、見てはいけないものを見たような気がして、思わず目を逸らした。
晴臣は少しだけ躊躇してから、「すまん、ちょっと電話する」と言って、スマホを耳に当てた。
そして、どこかよそ行きの声で話し始める。
「ああ、大丈夫だ……」
その声は、いつも壮士に向けるものとは違っていた。 少しだけ柔らかくて、少しだけ丁寧で――
大学でも、晴臣は女子に囲まれていることがある。 告白されることもあるだろう。 そんな話は、晴臣はしない。 けれど、壮士は知っている。
電話越しに女子の笑い声が漏れ聞こえ、晴臣が笑う。
楽しそうで、嬉しそうで―― その声が、胸に刺さった。
(なんだよ、嬉しそうにしやがって…)
壮士は、焼きそばの皿を見つめながら、心の奥がざわつくのを感じていた。
さっきまで、あんなに近くにいたのに。 今は、まるで遠くに行ってしまったみたいだった。
(……ああ、イヤだ。 ムカつく。 どうして…)
違う。
(俺が好きなのは――雅人だ)
今までも、これからも。 ずっと息を殺して生きていけば、それでよかったのに。
それなのに――こいつのせいで……。どんどん、欲張りになる。
もっと。 もっと。 もっと。
「朝永、どうした?」
電話を終えた晴臣がスマホを置く。声が優しい。
「んでもねえよ…」
心が、揺れる。
これは、恋じゃない。 これは、錯覚だ。 ヒートのときに一緒にいるからだ。
そう思いたかった。
(……ああ、実家の犬に会いてーな。もふもふして、癒されてえ)
そう思っても、癒されたいのは、きっと心の方だった。
晴臣の笑顔が、誰かの声で笑うのを見るのが、こんなに苦しいなんて。
自分は、ただの“友達”で。 ただの“世話される側”で。 ただの“Ω”で。
――それ以上には、なれない。
そう思うと、焼きそばの味が少しだけ苦く感じた。
*
晴臣に迷惑をかけるくらいなら、いっそ離れた方がいい。 このまま距離を置いて、何もなかったことにしてしまえばいい。 そうやって、心を静めようとしていた。
(男のΩなんて、面倒くさいだけだろう……)
そんなことを考えていたときだった。今日の授業が終わり、部室に行く途中。
「おーい、朝永!」
後ろから声がかかって、振り向くと、同じゼミのαが駆け寄ってきた。名前は確か、高橋だったか。明るくて、少し距離感が近いタイプだ。
「今日の教授、面白かったな!」
そう言いながら、いきなり肩を組まれる。
「うわっ、離せっ……!」
壮士は少し身を引こうとしたが、高橋はお構いなしにぐいぐい距離を詰めてくる。
「なに照れてんだよ~、俺らの仲じゃねえか!」
笑いながら、今度は頭をわしゃわしゃと撫でてくる。
「おい、やめろって!髪ぐちゃぐちゃになるだろ!」
「いいじゃん、似合ってるって」
そう言って、高橋は壮士の首元に顔を寄せてきた。
壮士は軽く高橋の腕を振りほどいた。
「じゃ、俺部活あるから。また明日な」
「ああ、じゃーな!」
そう言って歩き出す壮士の背中を、高橋はしばらく見つめていた。
前方から、晴臣が歩いてくるのが見えた。
壮士は軽く手を挙げて、部室に入ろうとした――その瞬間、腕を掴まれた。
「……っ!」
驚いて振り返ると、晴臣の顔が歪んでいた。眉をしかめ、目を細めている。
「朝永、その匂い……」
「……あぁ?」
「ちょっと来い」
言うが早いか、晴臣は強い力で壮士の腕を引っ張った。
「はあ?! なんだよ?! 離せ!!」
本能的に抵抗する。けれど、晴臣の力は強かった。
「いいから来い!!」
そのまま部室に押し込まれ、背中をドアに押しつけられる。
「痛って……!」
「誰だ……?」
低く、抑えた声だった。
「はあ?!」
「誰にマーキングされた?!」
その言葉に、壮士は眉間に皺を寄せた。
「マーキング……? 知らねえよ……」
「正直に言え……!」
晴臣の手が、肩に食い込むほど強く握られる。
壮士は、怒りに任せて叫んだ。
「知らねえもんは知らねえよ! 大体、誰にマーキングされようが、お前には関係ねぇだろ!!」
「……言え!!」
「俺はお前のもんじゃねえ!!」
その言葉に、晴臣の目が見開かれた。
そして――次の瞬間、壮士の肩に、晴臣の歯が食い込んだ。
「痛っ……!! おい、バカ、やめろ!!」
壮士は晴臣の背中を殴った。何度も、強く。
けれど、晴臣はびくともしない。
「お前は、俺のものだ……」
低く、熱を帯びた声でそう言って、また噛みついた。
「くそっ……! 目、覚ませよ、このバカ!!」
壮士は、怒りと恐怖と混乱の中で、思い切り晴臣の頭に頭突きを食らわせた。
鈍い音が響く。自分も痛い。晴臣も痛そうだった。
ようやく晴臣が少し距離を取った隙に、壮士は逃げようとした。
けれど、ドアは晴臣の手で押さえられていて、開かない。
「……どけよ……!」
息を荒げながら、壮士は晴臣を睨んだ。
「……すまん、悪かった」
晴臣は頭突きされた箇所を押さえながら、少しだけ顔をしかめて言った。
壮士は、まだ息が荒いまま、ドアにもたれていた。
「一体、何のつもりだ…?」
そう言うと、晴臣はしばらく黙った。
沈黙が、部室の空気を重くする。
そして、意を決したように、晴臣は言った。
「……お前が好きだ」
「……あー……、……ええ?!」
壮士の頭は、言葉の意味を理解するより先に、驚きで真っ白になった。
「好きだ。番になってほしい」
「は?」
「お前が他のαと番になるのは嫌だ」
「え……? 本気か……?」
目が点になっている壮士をよそに、晴臣は真剣な目で見つめていた。
その目に、冗談の色はなかった。
「本気だ」
壮士は、目を見開いた。
一体こいつは、何を言っているんだ?番になりたい……だと?
「いや、ちょっと待て……正気か?」
「大丈夫だ。今の頭突きで落ち着いた。正気だ」
「でも、お前好きな人いるって……」
「ああ、その人のことも好きだ」
なんで聞いてしまったのか。胸がズキリと痛む。だが晴臣は続けた。
「でも今は、お前の方が好きだ」
壮士の顔がカアッと熱くなる。
「お前、何言って…」
「なあ、番にならないか」
「ちょ、待て…、男のΩなんて出来損ないだぞ?子どももできないし、番になんてなったら、将来必ず邪魔になる。お前の足かせになるだけだ…」
「足かせになんてならない。お前がいい。子どもができなくても、お前がいればいい。お前にとっても、悪くないはずだ」
壮士は、胸の奥がざわつくのを感じながら、言葉を絞り出す。
「む、無理だ。俺は誰の番にもなる気は…」
「……わかった。番にならなくてもいい」
その言葉に、壮士は少しだけほっとした。
――それも、つかの間だった。
「それでも、一番近くにいたい」
その言葉に、壮士は顔が熱くなるのを感じた。
「何言ってんだよ…。お前、頭、おかしいんじゃねえの……?」
照れ隠しのように言ったが、晴臣は真剣だった。
「お前を他のαに取られると思ったら、抑えられなくなった。噛んで悪かった……」
「……」
壮士は、言葉を失った。
晴臣の目は、まっすぐに壮士を見ていた。
「ずっと、傍にいさせてくれ」
壮士は、胸の奥がじわりと熱くなるのを感じた。
それが、怖くて、嬉しくて、どうしていいかわからなかった。
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