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第6話 冒険者たちのささやかな宴
しおりを挟む【ネコのシッポ】に向かうマルティンの背中を見送った冒険者は、そのまま冒険者ギルドには入らず、斜め前の酒場に向かった。扉を開けて中に入れば、下町の酒場に似合わない騎士が二人座っていた。
「【ネコのシッポ】に誘導したぜ。あそこは酒が出ないから大抵の冒険者は利用しない。飯が美味いんで昼間は賑わうけどな」
それを聞くと、騎士の二人は頷いた。
「では約束通りに報酬を渡そう。仲間たちによろしくな」
そう言って、冒険者の肩を叩いて二人の騎士は酒場を後にした。その姿が完全に見えなくなるのを確認すると、冒険者はこの店の店主の顔を見た。
「安心しろ。ぜーんぶ買い取ってもらってあらぁ」
「よっしゃあ」
冒険者はすぐさま冒険者ギルドへと駆け込んだ。
「お前ら!今夜は宴だ!」
「「「「「おおおーー」」」」」
歓喜の声を上げ、冒険者たちが酒場へとなだれ込む。当然ながら、先に報酬を受け取ってしまったギルド職員たちは仲間には入れない。そもそも、業務上知り得た情報で報酬を受け取ること事態が間違いなのであるが。
「飲み食い代はぜんぶ頂いているが、椅子やテーブルを壊すんじゃね~ぞ」
酒場の店主に注意され、冒険者たちは口を揃えて素直な返事をした。何しろ今夜はただ酒ただ飯、食べ放題で飲み放題だ。気前の良いお貴族様が、男前の新人冒険者を指定した宿屋に誘導するだけで報酬をくれると言ってきたのだ。もちろん、この場にいる冒険者全員と言うから驚きである。
「本当にいいんですか?」
まだ若い本当の新人冒険者たちがどこかソワソワしながら酒場にやってきた。
「気にすんな!お貴族様からの施しだ!」
「そうだぞ。ただし!あの男前の冒険者には関わるなよ」
「そうだぞ。下手な真似して絡んだりすんじゃねーぞ」
既に酒を飲み始めたベテランたちが口々に注意事項を言い始めた。
「いいか、お前らよく聞いて絶対に忘れるなよ」
ある程度酒場に冒険者たちが揃ってきた頃、マルティンを【ネコのシッポ】に誘導した冒険者が口を開いた。手にはエールの入ったジョッキが握られているが、そこは気にするところではない。
「あの男前の新人冒険者のことでお前らに言っておきたいことがある」
談笑していた冒険者たちの視線がいっせいに集まった。
「今日の呑み代飯代を払ってくれたお貴族様からの伝言だ。『僕のマルティンに手を出したら承知しないからね』ってことだ。マルティンって言うのがあの男前の名前だ。まだこっちにまで噂は流れてきないが、覚えておけ、マルティンは侯爵家のおぼっちゃまだった。婚約破棄の関係で侯爵家を追い出されたらしいから、その辺のところをつつくのはご法度だ。下手なことをして消されても俺は知らねーからな。冒険者やってんなら、自分の身は自分でまもれよ」
それを聞いて、マルティンの姿を見た冒険者はすぐに納得した。が、一部は思った事をそのまま口に出してきた。
「おいおい、受付嬢のアンナちゃんは大丈夫なのかよ」
冒険者ギルドで見たやり取りを思い出しての発言だ。
「ギルドも金を受け取っちまったからな。仕事上で知った情報で金を受け取ったのは、俺もどうかと思うけどよ。ギルドの連中がここに来ていないってことは、なんかしらお貴族様から圧がかかってんだろうよ」
「俺が出たあと珍しくギルドのトビラに鍵かけてたぜ」
そんな話を聞けば少々根性の悪い冒険者も黙って唾を飲み込んだ。
「もう、飲んじまったヤツは今更だぜ?」
そんなことを言って、手にしたジョッキのエールを飲み干した。それをみて、冒険者たちは覚悟を決めた。と言うより、関わらなければそれでいい。と判断したのだった。
「んなこた、わかったってんだよ!」
そう叫んでジョッキエールをいっせいにあおる冒険者たち。本当に酒場の酒と食べ物が全て冒険者たちの腹に治まってしまい、酒場の店主は次の日店を開くことが出来なかったのだった。
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