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第18話 ヒロインを決めるのは誰なのか
しおりを挟む「え?誰が来たって?」
薬師ギルドでフィルナンドは聞きなれない人物の訪問を告げられて、首を傾げるどころかこめかみがピクピクとしてしまうほどに不愉快な気持ちになった。何しろその人物はフィルナンドにとって最も悪しき存在で、できることなら永遠に消え去って欲しいと思うほどにダイキライな人物だからだ。
にもかかわらず、その人物がフィルナンドに会いに来たかというのだ。
頼んでもいないのに。
いや、面識もないのに先触れもなく、まして誰からの紹介状もなく訪問してくるなんて非常識である。貴族に有るまじき行為だ。それどころか、フィルナンドは婚約者のいない独身の伯爵家嫡男である。そんな人物の仕事場に押しかけてくる貴族令嬢なんて、非常識極まりなくて社交界で後ろ指刺されること間違いない行為である。
「フィル」
入室の許可なんてしていない。それどころか、面会の承諾なんてしていないのに、薬師ギルド副所長のフィルナンドの仕事部屋に堂々と無断侵入してきたのはアンテレーゼその人であった。
しかも、初対面なのにいきなりの愛称呼びである。
(マルティンにさえまだ呼ばれてないのに、なんでこの女如きがっ)
はらわたが煮えくり返るほどの怒りを押さえ込み、フィルナンドは入口に高飛車な空気をまとって仁王立ちしているアンテレーゼを見た。その背後には申し訳なさそうに立つメイドと、アンテレーゼに押し退けられたらしい護衛騎士の姿があった。
「あんた誰?」
マルティンに話しかける時の10倍程低い声でフィルナンドはアンテレーゼに問いかけた。もちろん、この無作法者の正体なんてわかりきっていることだけど、大事なことなので身元を確認させていただく。
「……………………」
フィルナンドの姿を見て、アンテレーゼの動きが止まった。じっくりたっぷり時間をかけてフィルナンドを確認して、それからヨロヨロと近づいてきた。もちろん、フィルナンドはそんな不躾な態度を許可した覚えは無い。いや、永久に許可なんてしない。
「フィル、あなたメガネはどうしちゃったのよ」
フィルナンドの顔を見て、叫ぶようにアンテレーゼが言い放った。フィルナンドにとって、それは禁句であるというのに。
「メガネ?」
今度はフィルナンドの片眉がピクピクと痙攣するような動きをした。もちろん、前髪に隠れているからアンテレーゼには見えてはいない。
「そうよ。だって貴方すっっっっごい不恰好なメガネをかけていたはずよ。メガネどこいっちゃったのよ」
フィルナンドがメガネをかけていないことを非難するアンテレーゼに、フィルナンドはマグマのように煮えたぎる嫌悪感を隠すことができなくなってしまった。いや、もとよりアンテレーゼがこの世で一番大嫌いなのだ。マルティンと結ばれた今、フィルナンドが遠慮する必要なんてどこにもないのである。
「はぁ?あんた何言ってんの?だいたい僕は入室の許可なんてしてないよね?ここ、薬師ギルドなんどけど、誰の許可を得て入ってきたわけ?国の最高機密なんだけど?なに?スパイか何か?マジでお前なんなんだよ」
フィルナンドが怒りに任せて立ち上がって文句を浴びせると、流石にアンテレーゼも驚きすぎて後ろに数歩よろけてしまった。
「だいたいさぁ、お前みたいな尻軽女になんかに僕のメガネについて教えてやる必要ないでしょ。不恰好で悪かったね。僕はとっくにメガネは卒業してるんですぅ。視力回復のポーションは自分で作りましたぁ」
フィルナンドがバカにするように言葉を紡げば、アンテレーゼは信じられないものを見るような目でフィルナンドを見た。
「え?ポーションを自分で作った?なんで?必要素材のアイテムは入手困難なはず……それよりも、視力回復のポーションのレシピを一体どこで?」
先ほどフィルナンドが言った通り、ポーションのレシピは国家機密に匹敵するほどの貴重な資料である。薬師ギルドで厳重に保管され、閲覧ができるのは薬師ギルドに所属している薬師だけである。この世界に医者はおらず、病気や怪我はなんでもポーションで治すのだ。だから、ポーションが作れる薬師は国にとって貴重な存在でなのである。
「そんな重要機密を教える義理はありませーん。ぼくのマルティンに酷いことをした女なんて絶対に許さないんだからね。覚悟しておいてよね」
フィルナンドがそう告げると、護衛の騎士がアンテレーゼの肩を掴んだ。
「ちょ、何するのよ。私は侯爵令嬢よ!王太子妃候補筆頭なんだから、不敬よ。手を離しなさいよ」
全くもって、それらしく見えない口汚い言葉を発するアンテレーゼを、護衛騎士は無表情で引きづるようにフィルナンドの部屋から連れ去ってしまった。その後を慌ててアンテレーゼのメイドたちがついていく。
「二度とそのツラ見せるな」
フィルナンドは扉の向こうの廊下に向かって悪態をついたのだった。
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