55 / 60
二章 復讐のその後
55 重ねる季節
しおりを挟む
三月の、桜がとても綺麗な日。引っ越した先の部屋に春夜君が遊びに来てくれた。
私は四月から大学に進学し、春夜君は高校の三年生に進級する。
結局、以前約束していた春夜君のお家に引っ越す計画は取りやめになった。春夜君が「よく考えたら花織がいるんでした。絶対にダメです」と言い出した。
でも春夜君が高校を卒業したら二人暮らしをする約束をしている。
彼のマンションのすぐ隣の建物に賃貸物件の空きがあり、家賃が割と安かったので私だけ先に引っ越した。春夜君も高校を卒業したら引っ越して来る予定だ。……と言っても、すぐ近所に住んでいるのだから会おうと思えば結構頻繁に会えるだろう。
今いる部屋は三階建てのビルの二階にある。
春夜君の住むマンションの敷地に桜が植えてある。淡い青空の下、花びらが陽光と戯れ街路を春色に染めていく様は穏やかで、この一時に出会えた事を心から尊く思った。
次に咲く頃には一緒に暮らしているのかもしれない。微笑んでドアを閉めた。
居間の床に座る春夜君に紅茶を差し出した。その際、床に置かれたスマホの待ち受け画面が見えた。
「あっ、その写真」
見覚えがあって言い及ぶ。頬が緩んでしまう。
「懐かしい!」
それは春夜君と出会った頃、彼や友人たちと行った海辺で撮影したものだった。もっと見たいなと思っていたら春夜君がスマホを手渡してくれた。待ち受けにされていた画像をよく見ると……。
「えっ? これ私大きくない?」
手前にいる私が遠近の関係で画面の半分くらいを占めている。私が映っているという事は、ほとりちゃんが撮ってくれたものだ。奥の方に小さく朔菜ちゃんとさりあちゃんもいる。指で画像を拡大して確認する。
「ユララの朔菜ちゃんとさりあちゃん、やっぱり可愛いなぁ。私もちょっとユララの格好してみたいって思ったよ」
懐かしみながら、しみじみと口にした。あれ?
春夜君が薄目でこっちを見ている。不満のありそうな表情で言われた。
「明の方が可愛い」
「うっ」
呻いて胸の真ん中を押さえた。春夜君は私の心臓を止めたいの?
彼の手が肩に触れる。頬や唇に口付けされる。
「春夜君はあまりユララが好きじゃない……?」
疑問に思っていた事を聞いてみた。
「……普通ですね。別にいいですよ、明がユララの服を着ても。但しほかの奴に見せないで。オレにだけ見せて」
「えっ……?」
想像したら物凄く恥ずかしい気がしてきた。
「楽しみにしてますね」
ニヤッとした顔で言ってくる。彼からの接触が止まらない。
「……春夜君、何か……焦ってる?」
首へ伝わる刺激に身震いした。
「そうですね。明だけ大学に行かせるの不安です」
目を見開いた。
「大丈夫だよ、心配しなくても。私ぼけっとしてるかもしれないけど晴菜ちゃんや皆もいるし! 楽しみなんだ」
笑って言うと彼は苦笑した。
「そういう意味じゃないです」
「じゃあ、どういう意味?」
見上げて尋ねる。
「春夜君の気持ちを……私が分かるまで教えて?」
彼が答えるまで少しの間があった。
「……いつからそんなにあざとくなったんですか?」
指摘されてしまった。そうだよ。私は春夜君を落としたいんだよ。白状する。
「だって私の方が焦ってるから」
赤面している筈の顔を両手で覆った。
高校を卒業して一緒の学び舎に通えなくなる。それだけの事でとても不安な方向に考える時もある。春夜君が新しいクラスメイトの誰かを好きにならないとも限らないとか、つい想像して自己嫌悪に陥るなんて日常的にある。
「ますます心配になりました」
告げられた心情が思い掛けなくて「え? 何で」と思って見返した。「まだ分かってないの?」と言いたげな目で睨んでくる。
凄く近くで小さく答えを教えてもらった。だけど動悸が激しくなるばかりで深く意味を理解できていなかった。
私が推量するより彼の気持ちが重いと知るのは、もう少し先の話である。
私は四月から大学に進学し、春夜君は高校の三年生に進級する。
結局、以前約束していた春夜君のお家に引っ越す計画は取りやめになった。春夜君が「よく考えたら花織がいるんでした。絶対にダメです」と言い出した。
でも春夜君が高校を卒業したら二人暮らしをする約束をしている。
彼のマンションのすぐ隣の建物に賃貸物件の空きがあり、家賃が割と安かったので私だけ先に引っ越した。春夜君も高校を卒業したら引っ越して来る予定だ。……と言っても、すぐ近所に住んでいるのだから会おうと思えば結構頻繁に会えるだろう。
今いる部屋は三階建てのビルの二階にある。
春夜君の住むマンションの敷地に桜が植えてある。淡い青空の下、花びらが陽光と戯れ街路を春色に染めていく様は穏やかで、この一時に出会えた事を心から尊く思った。
次に咲く頃には一緒に暮らしているのかもしれない。微笑んでドアを閉めた。
居間の床に座る春夜君に紅茶を差し出した。その際、床に置かれたスマホの待ち受け画面が見えた。
「あっ、その写真」
見覚えがあって言い及ぶ。頬が緩んでしまう。
「懐かしい!」
それは春夜君と出会った頃、彼や友人たちと行った海辺で撮影したものだった。もっと見たいなと思っていたら春夜君がスマホを手渡してくれた。待ち受けにされていた画像をよく見ると……。
「えっ? これ私大きくない?」
手前にいる私が遠近の関係で画面の半分くらいを占めている。私が映っているという事は、ほとりちゃんが撮ってくれたものだ。奥の方に小さく朔菜ちゃんとさりあちゃんもいる。指で画像を拡大して確認する。
「ユララの朔菜ちゃんとさりあちゃん、やっぱり可愛いなぁ。私もちょっとユララの格好してみたいって思ったよ」
懐かしみながら、しみじみと口にした。あれ?
春夜君が薄目でこっちを見ている。不満のありそうな表情で言われた。
「明の方が可愛い」
「うっ」
呻いて胸の真ん中を押さえた。春夜君は私の心臓を止めたいの?
彼の手が肩に触れる。頬や唇に口付けされる。
「春夜君はあまりユララが好きじゃない……?」
疑問に思っていた事を聞いてみた。
「……普通ですね。別にいいですよ、明がユララの服を着ても。但しほかの奴に見せないで。オレにだけ見せて」
「えっ……?」
想像したら物凄く恥ずかしい気がしてきた。
「楽しみにしてますね」
ニヤッとした顔で言ってくる。彼からの接触が止まらない。
「……春夜君、何か……焦ってる?」
首へ伝わる刺激に身震いした。
「そうですね。明だけ大学に行かせるの不安です」
目を見開いた。
「大丈夫だよ、心配しなくても。私ぼけっとしてるかもしれないけど晴菜ちゃんや皆もいるし! 楽しみなんだ」
笑って言うと彼は苦笑した。
「そういう意味じゃないです」
「じゃあ、どういう意味?」
見上げて尋ねる。
「春夜君の気持ちを……私が分かるまで教えて?」
彼が答えるまで少しの間があった。
「……いつからそんなにあざとくなったんですか?」
指摘されてしまった。そうだよ。私は春夜君を落としたいんだよ。白状する。
「だって私の方が焦ってるから」
赤面している筈の顔を両手で覆った。
高校を卒業して一緒の学び舎に通えなくなる。それだけの事でとても不安な方向に考える時もある。春夜君が新しいクラスメイトの誰かを好きにならないとも限らないとか、つい想像して自己嫌悪に陥るなんて日常的にある。
「ますます心配になりました」
告げられた心情が思い掛けなくて「え? 何で」と思って見返した。「まだ分かってないの?」と言いたげな目で睨んでくる。
凄く近くで小さく答えを教えてもらった。だけど動悸が激しくなるばかりで深く意味を理解できていなかった。
私が推量するより彼の気持ちが重いと知るのは、もう少し先の話である。
0
あなたにおすすめの小説
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話
頼瑠 ユウ
青春
高校一年生の上条悠斗は、同級生にして幼馴染の一ノ瀬綾乃が別のクラスのイケメンに告白された事を知り、自身も彼女に想いを伝える為に告白をする。
綾乃とは家が隣同士で、彼女の家庭の事情もあり家族ぐるみで幼い頃から仲が良かった。
だが、悠斗は小学校卒業を前に友人達に綾乃との仲を揶揄われ、「もっと女の子らしい子が好きだ」と言ってしまい、それが切っ掛けで彼女とは疎遠になってしまっていた。
中学の三年間は拒絶されるのが怖くて、悠斗は綾乃から逃げ続けた。
とうとう高校生となり、綾乃は誰にでも分け隔てなく優しく、身体つきも女性らしくなり『学年一の美少女』と謳われる程となっている。
高嶺の花。
そんな彼女に悠斗は不釣り合いだと振られる事を覚悟していた。
だがその結果は思わぬ方向へ。実は彼女もずっと悠斗が好きで、両想いだった。
しかも、綾乃は悠斗の気を惹く為に、品行方正で才色兼備である事に努め、胸の大きさも複数のパッドで盛りに盛っていた事が発覚する。
それでも構わず、恋人となった二人は今まで出来なかった事を少しずつ取り戻していく。
他愛の無い会話や一緒にお弁当を食べたり、宿題をしたり、ゲームで遊び、デートをして互いが好きだという事を改めて自覚していく。
存分にイチャイチャし、時には異性と意識して葛藤する事もあった。
両家の家族にも交際を認められ、幸せな日々を過ごしていた。
拙いながらも愛を育んでいく中で、いつしか学校では綾乃の良からぬ噂が広まっていく。
そして綾乃に振られたイケメンは彼女の弱みを握り、自分と付き合う様に脅してきた。
それでも悠斗と綾乃は屈せずに、将来を誓う。
イケメンの企てに、友人達や家族の助けを得て立ち向かう。
付き合う前から好感度が限界突破な二人には、いかなる障害も些細な事だった。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件
マサタカ
青春
俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。
あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。
そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。
「久しぶりですね、兄さん」
義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。
ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。
「矯正します」
「それがなにか関係あります? 今のあなたと」
冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。
今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人?
ノベルアッププラスでも公開。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる