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「オリビア、ダグラスのお父様とお母様はどんな方だったんだ?」
オリビアの兄オスカーは厨房で椅子に座り、するするとジャガイモの皮を剥きながら言う。
「お母様はお綺麗な方だったわ。お父様は…本当に!ダグラスによく似てたわ!」
オリビアもオスカーの向かいに座り、ジャガイモの皮を剥いている、が、するするとは行かない。
「そうなんだ。オリビア、それじゃ実がなくなるよ」
「…ジャガイモは凹凸があって難しいわ…初心者向きじゃなかった。人参にするわ」
オリビアはようやく剥いたジャガイモを水の入ったボウルに入れる。オスカーは苦笑いしながら言った。
「そんなに似てたの?」
「そうなの。ダグラスが歳を取ったらこうなるのねって感じ」
オリビアはダグラスと共に再度チャンドラー伯爵家の領地屋敷を訪れた時の事を思い出す。
ダグラスの父と母が領地に来るのに合わせて、挨拶と結婚の具体的な話をするためだ。
ちなみに使用人たちはこの間行った時より皆キチンと弁えた行動をしていた。やはり旦那様がいると違うらしい。
ダグラスの母は挨拶もそこそこにオリビアの手を取って「仲良くしましょうね」と笑ってくれた。
さすが王妃の侍女と言う気品でとても若々しくて美しい。
オリビアは密かに「この女性が紫の瞳の子を生んだなら、それは王との仲を疑いたくもなるわ」と思った。
心の中でそう思っただけだったが、後からダグラスも自分が大きくなって母親を客観的に見たら、そう勘繰るのも無理もないな、と思ったと聞いた。
ダグラスの父はむっつりと黙っていた。
…ダグラスそっくり。
切れ長の眼。筋の通った鼻。薄い唇。赤茶の髪。眼鏡は掛けていないが、ダグラスが歳を取るとこんな風になるのか。
オリビアはそう思って暫く父の顔を眺めてしまった。
「…元侯爵家の娘が、こんなしがない伯爵家の次男などに嫁いでも、何の益もあるまい」
そう言いながらオリビアを見る。目が合って「将来のダグラス」像を重ねて頬が熱くなる。
「父上!」
「あなた!」
ダグラスと母が同時に咎める声を出す。
父は「ふん」と息を吐くと、応接室から出て行った。
「…オリビア、何故赤くなっている?」
ダグラスが胡乱な目をしてオリビアを見る。
「だって…未来のダグラスもあんなに格好良いのかと想像しちゃって」
「…それは嬉しいが、それはオリビアにとって父が格好良いと言う事だから、それはそれで複雑だな…」
「ダグラスの方が格好良いわよ。もちろん」
「…まあ良しとしよう」
「コホン。貴方たち、お母様が目の前にいる事を忘れてないかしら?」
今にも手を取り合おうとしていた二人はパッと離れる。
母はそんな二人を微笑まし気に眺めると
「ダグラスが幸せそうで嬉しいわ」
と笑った。
「オリビア様、オスカー様もう聞いていませんよ」
ジルが左手でするするとジャガイモを剥きながら言う。オスカーは厨房の奥へ行ってしまったようだ。
「もう。お兄様、自分が聞いたくせに。…ジル、左手なのに私より上手いわね」
「オリビア様より器用ですからね」
「ジルはもうルイと結婚したの?」
「…何ですか急に」
ジルが眉間に皺を寄せてオリビアを見る。
「結婚してもしばらくは辺境伯領にいるし、質素倹約のために料理ができた方が良いかなと思って練習してるけど、結婚といえばジルはもうルイと結婚したのかしら?と思ったの」
「ご丁寧な解説、痛み入ります」
「どういたしまして。で?」
「…私たちの場合、世間一般の結婚とは違いますからね。私はオリビア様と共に居ますし、ルイはダグラス様の側に居ますし。だから顔を合わせるのもたまにですよ。便宜上『結婚』とは言いますが、実態は『裏』へ私の首にはルイと言う鈴が付いている、と知らしめている感じです」
「…そういうものなの?」
「そういうものです」
ジルは剥いたジャガイモを水に漬け、また新しいジャガイモを手に取る。
「まあ、オリビア様とダグラス様が結婚されれば、私とルイが顔を合わせる機会も増えますよ」
「そうね…ジルはルイを好きなの?」
ジルは片眉を上げる。
「…ルイは腕が良いので尊敬してます」
「ダグラスは『ルイはジルを気に入ってる』って言ってたわよ」
「…そんな感じはしないですけどね。そういえば、ダグラス様の後の領主様の側近は見つかったのですか?」
「話を逸らしたわね」
オリビアはジトっとジルを見る。
「そんな事ないです。ダグラス様の後任が見つからないと領地へ行けませんし」
「そうね。でもまだよ。さすがになかなか居ないわよね」
オリビアは人参と格闘しながら首を横に振る。
何しろ、領主パリスがパリヤ第一王子だという秘密を知り、自身が秘密を守る事はもちろんだが、周りにも秘密が漏れないように気を遣え、パリスに苦言を呈する事ができ、更に「影」を使いこなせる者が必要なのだ。
「秘密を知り、それを守れ、諌言ができ、『影』を使える者…心当たりがあるのですが」
「え?誰?」
オリビアがジルを見ると、ジルは視線を厨房の奥へと向けた。
「更に、料理もできます」
オリビアも厨房の奥へと視線を向ける。
「オリビアとジルが視線を合わせて頷くと、オスカーが呑気に「何?」と振り向いた。
ー了ー
「オリビア、ダグラスのお父様とお母様はどんな方だったんだ?」
オリビアの兄オスカーは厨房で椅子に座り、するするとジャガイモの皮を剥きながら言う。
「お母様はお綺麗な方だったわ。お父様は…本当に!ダグラスによく似てたわ!」
オリビアもオスカーの向かいに座り、ジャガイモの皮を剥いている、が、するするとは行かない。
「そうなんだ。オリビア、それじゃ実がなくなるよ」
「…ジャガイモは凹凸があって難しいわ…初心者向きじゃなかった。人参にするわ」
オリビアはようやく剥いたジャガイモを水の入ったボウルに入れる。オスカーは苦笑いしながら言った。
「そんなに似てたの?」
「そうなの。ダグラスが歳を取ったらこうなるのねって感じ」
オリビアはダグラスと共に再度チャンドラー伯爵家の領地屋敷を訪れた時の事を思い出す。
ダグラスの父と母が領地に来るのに合わせて、挨拶と結婚の具体的な話をするためだ。
ちなみに使用人たちはこの間行った時より皆キチンと弁えた行動をしていた。やはり旦那様がいると違うらしい。
ダグラスの母は挨拶もそこそこにオリビアの手を取って「仲良くしましょうね」と笑ってくれた。
さすが王妃の侍女と言う気品でとても若々しくて美しい。
オリビアは密かに「この女性が紫の瞳の子を生んだなら、それは王との仲を疑いたくもなるわ」と思った。
心の中でそう思っただけだったが、後からダグラスも自分が大きくなって母親を客観的に見たら、そう勘繰るのも無理もないな、と思ったと聞いた。
ダグラスの父はむっつりと黙っていた。
…ダグラスそっくり。
切れ長の眼。筋の通った鼻。薄い唇。赤茶の髪。眼鏡は掛けていないが、ダグラスが歳を取るとこんな風になるのか。
オリビアはそう思って暫く父の顔を眺めてしまった。
「…元侯爵家の娘が、こんなしがない伯爵家の次男などに嫁いでも、何の益もあるまい」
そう言いながらオリビアを見る。目が合って「将来のダグラス」像を重ねて頬が熱くなる。
「父上!」
「あなた!」
ダグラスと母が同時に咎める声を出す。
父は「ふん」と息を吐くと、応接室から出て行った。
「…オリビア、何故赤くなっている?」
ダグラスが胡乱な目をしてオリビアを見る。
「だって…未来のダグラスもあんなに格好良いのかと想像しちゃって」
「…それは嬉しいが、それはオリビアにとって父が格好良いと言う事だから、それはそれで複雑だな…」
「ダグラスの方が格好良いわよ。もちろん」
「…まあ良しとしよう」
「コホン。貴方たち、お母様が目の前にいる事を忘れてないかしら?」
今にも手を取り合おうとしていた二人はパッと離れる。
母はそんな二人を微笑まし気に眺めると
「ダグラスが幸せそうで嬉しいわ」
と笑った。
「オリビア様、オスカー様もう聞いていませんよ」
ジルが左手でするするとジャガイモを剥きながら言う。オスカーは厨房の奥へ行ってしまったようだ。
「もう。お兄様、自分が聞いたくせに。…ジル、左手なのに私より上手いわね」
「オリビア様より器用ですからね」
「ジルはもうルイと結婚したの?」
「…何ですか急に」
ジルが眉間に皺を寄せてオリビアを見る。
「結婚してもしばらくは辺境伯領にいるし、質素倹約のために料理ができた方が良いかなと思って練習してるけど、結婚といえばジルはもうルイと結婚したのかしら?と思ったの」
「ご丁寧な解説、痛み入ります」
「どういたしまして。で?」
「…私たちの場合、世間一般の結婚とは違いますからね。私はオリビア様と共に居ますし、ルイはダグラス様の側に居ますし。だから顔を合わせるのもたまにですよ。便宜上『結婚』とは言いますが、実態は『裏』へ私の首にはルイと言う鈴が付いている、と知らしめている感じです」
「…そういうものなの?」
「そういうものです」
ジルは剥いたジャガイモを水に漬け、また新しいジャガイモを手に取る。
「まあ、オリビア様とダグラス様が結婚されれば、私とルイが顔を合わせる機会も増えますよ」
「そうね…ジルはルイを好きなの?」
ジルは片眉を上げる。
「…ルイは腕が良いので尊敬してます」
「ダグラスは『ルイはジルを気に入ってる』って言ってたわよ」
「…そんな感じはしないですけどね。そういえば、ダグラス様の後の領主様の側近は見つかったのですか?」
「話を逸らしたわね」
オリビアはジトっとジルを見る。
「そんな事ないです。ダグラス様の後任が見つからないと領地へ行けませんし」
「そうね。でもまだよ。さすがになかなか居ないわよね」
オリビアは人参と格闘しながら首を横に振る。
何しろ、領主パリスがパリヤ第一王子だという秘密を知り、自身が秘密を守る事はもちろんだが、周りにも秘密が漏れないように気を遣え、パリスに苦言を呈する事ができ、更に「影」を使いこなせる者が必要なのだ。
「秘密を知り、それを守れ、諌言ができ、『影』を使える者…心当たりがあるのですが」
「え?誰?」
オリビアがジルを見ると、ジルは視線を厨房の奥へと向けた。
「更に、料理もできます」
オリビアも厨房の奥へと視線を向ける。
「オリビアとジルが視線を合わせて頷くと、オスカーが呑気に「何?」と振り向いた。
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