没落令嬢は僻地で王子の従者と出会う

ねーさん

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番外編1-1

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ナタリー編1

 ああ…この人、本当にオリー様を好きなのね。

 ナタリーは、カフェに入って来たオリーを見た瞬間に眼を輝かせる目の前の自身の婚約者をぼんやりと眺めた。
「あら、ナタリー様とヒューゴ様、ごきげんよう」
「ごきげんようオリー様」
「…ごきげんよう。オ、オリー嬢」

 あ、どもった。緊張しているのね。

 挨拶を交わすとオリーは店の奥へ行く。奥には個室があるのだ。
 ナタリーは、無表情なのに少し耳を赤くしてオリーの後ろ姿を見ているヒューゴの様子を観察していた。
 エバンス侯爵家の嫡男ヒューゴと、オリー・マーシャル公爵令嬢は同い歳だ。
 ヒューゴとオリーは王子、王女の遊び相手として小さい頃から王宮でよく顔を合わせていたそうだ。
 ヒューゴはずいぶん前からオリーを好きだったらしいが、オリーは14歳の時、六歳年上の第一王子と婚約したので、当時ヒューゴは随分落ち込んだらしい。と、ヒューゴの妹から聞いた。
 子爵令嬢であるナタリーがヒューゴと婚約したのはつい最近の事で、ナタリーは今学園の四年生で18歳になったばかり、ヒューゴは三歳年上の21歳だ。
 ナタリーは特にヒューゴを好きでも嫌いでもない。貴族の婚約など皆こんなものだろうと思っていた。

 好きって、どんな感じなのかしら。婚約者が他の女性を想っているのって、普通はもっと切なかったり淋しかったりするのよね?

「どうした?」
 じっとヒューゴを見つめていると、視線に気づいたヒューゴが訝しげにこちらを見た。
「…いえ。オリー様が来られたと言う事は殿下もこのカフェに来られるのかな、と思いまして」
「ナタリーは王太子殿下のファンだったか」
「そうですね。立太子式の殿下はとても麗しかったですわ」
 ナタリーはうっとりと数年前の第一王子の立太子式を思い出す。
「…そうだな」
 ヒューゴは苦笑いして、お茶を飲んだ。

-----

「王太子殿下とオリー様は何故まだご結婚されないのかしら?」
 ヒューゴの妹のシンディーが言う。
 シンディーはナタリーの一つ年下で、今日はシンディー主催のお茶会にナタリーも参加している。
「何でも、王太子殿下にもオリー様にも、それぞれお互い以外に想う方がおられるとか、おられないとか…」
 お茶会に参加した令嬢の一人がそう言うと、他の令嬢も口々に「結局おられるんですか?おられないんですか?」「私はオリー様の王太子妃教育が捗っていないからと聞きましたわ」「だから他に想う方がおられるから勉強に身が入らないのでは?」「殿下の方が結婚を引き延ばしておられる説は?」「オリー様のご友人をお好きなのではとの噂が…」「ええ~!?」と盛り上がる。
 ナタリーが「皆さま情報通なのですね…」と呟くと、シンディーが「ナタリー様は呑気過ぎますわ」と言う。
「我がエバンス侯爵家は王宮の情報管理部門の統括を担っているんです。その嫡男の婚約者は当然この程度の情報は知っておかなければいけないのです!」
 シンディーの力説に周りの令嬢も頷く。ナタリーは肩を竦めて
「…精進します」
 と言った。
「そう言えば、オリー様の想い人はヒューゴ様では、という噂もありますわね」
 令嬢の言葉に一同が騒めく。シンディーはハッとした様子を見せ、ナタリーはポカンと口を開ける。
「…お兄様?確かにオリー様は小さい頃からよく知ってはいますが…」
 シンディーはそう言うと、ナタリーに視線をやる。
「こ、この程度の真偽不明の情報に当たっても、決して困ったり焦ったりしないよう、冷静に物事を処理分析するのですわ」
「承知しました」

 シンディーも初耳のようだわ。
 オリー様の想い人がヒューゴ様?
 …まさか、ね。

「あら、私はオリー様の想い人はマーシャル家の庭師だと聞きましたわ」「私はオリー様の家庭教師ガヴァネスのご兄弟と」「出入りの商人と」「まあ~物語みたいですわね」「身分違いの恋ですわ」「この間のお舞台みたいですわ」「私も見ました!」
「…話が逸れたようね」
 シンディーが小声でナタリーに言う。
「そうね」
「…私はオリー様を昔から知っているけれど、オリー様に本当に想い人が居たとしても、それはお兄様ではないわ」
「シンディー…」
「絶対違うから…気にしないでね」
 
 私が気にするといけないと思ってくれたのね。

「ありがとう。シンディー」
 ナタリーはシンディーに笑顔を向けた。

 ナタリーが卒業を三カ月後に控えた冬、国王が倒れる。そして、わすが一カ月で崩御。
 春には王太子が王位を継承し、王位継承の儀と同時に婚礼の儀を執り行う事が決定した。


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