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番外編1-2
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ナタリー編2
ナタリーは卒業パーティーにヒューゴから贈られた薄緑のドレスで出席した。ウエストのリボンは光沢のあるブラウンだ。
ナタリーはウエストのリボンに同色で細かく得意の刺繍をした。目立たないが、それが却ってさり気なく、とても素敵に仕上がったと我ながら満足している。
ナタリーをエスコートするヒューゴは壇上のゲスト、王太子殿下と婚約者のオリーを眺めている。
オリーは王族の色であり王太子の色である紫のドレスを纏っている。王太子はオリーの瞳の色の緑の衣装だ。
オリー様を見ているのかしら?
壇上を見るヒューゴの眉間には微かに皺が寄っている。
「…絵になるな」
ヒューゴが呟く。
確かに王太子と王太子の婚約者は、物語の挿絵のように麗しい。ナタリーは「そうですね」と頷いた。
-----
ナタリーが学園を卒業した一カ月後、王位継承の儀と婚儀が行われた。
ナタリーはシンディーとパレードを見に行った。豪奢な白いドレスで沿道へ手を振るオリーはとても幸せそうに見えた。
次の年の初夏、ナタリーとヒューゴは結婚式を挙げた。
「なかなか子供って授からないものなのね…」
結婚して三年が経った。そろそろ義理の両親やヒューゴの期待に応えたい。
「こればかりは、天に任せるより他にないわ。陛下と王妃殿下にもまだお子様はいらっしゃらないのだし、焦る事はないわよ」
シンディーが肩を竦める。シンディーが他家に嫁いでから一年が経つ。
「そうなんだけど…」
ナタリーはため息を吐いた。
「何…?」
「…もしこのまま子ができないのなら…り、離縁を…と」
ベッドに座ったナタリーは俯いて言う。
「……離縁…したいのか?」
ナタリーの前に立ったヒューゴは眉間に皺を寄せる。
ナタリーは首を横に振る。
「侯爵家には…跡取りが必要だから…」
「跡取りなど、親戚から養子を迎えれば良い」
ヒューゴはナタリーの両肩を掴むとベッドに押し倒す。
「離縁など、しない」
噛み付くように口付けた。
ーーその噂は、情報管理機関であるエバンス家だからこそいち早く伝わって来たのだろう。
「王妃付き侍女の産んだ男子の瞳の色が…紫らしい」
「…え?」
苦々しい表情で言うヒューゴ。刺繍をしていたナタリーが顔を上げる。
「それは…まさか…」
「滅多な事を口に出すな。…これから事実関係を調べる」
陛下の御子なのか、と言い掛け、ヒューゴに制された。
それからヒューゴは諜報員、間者を駆使して侍女と陛下の関係を調べていた。
王妃付きの侍女は伯爵夫人であるが、公爵家の血筋なので、子供にも王家の血は入ってはいるのだ。
「どんなに調べても、陛下にも侍女にも何も出てこん。あの子供も、瞳の色以外は、髪色も目鼻立ちも父である伯爵によく似ている。…あれは陛下の御子ではない」
「そう。良かった…」
陛下が侍女に手を付けるような方でなくて。そして王妃殿下が友人でもある侍女と、陛下に裏切られていなくて。
「そうだな」
ヒューゴが苦く笑う。
ヒューゴ様はあの子が陛下の御子であった方が良かったのかしら…?オリー様が悲しまれたり苦しまれたりするのに?
…まさか、傷付いたオリー様に付け込もうと…?
「まさかね」
ナタリーは小さく呟いた。
-----
「ナタリー、よくやった」
長男のオスカーが生まれた時、ヒューゴの眼には涙が浮かんでいた。
義理の父母からナタリーに子ができぬなら側妻を、と言われた時にもヒューゴは頑なに断った。
ナタリーはそんなヒューゴが嬉しくもあったが、申し訳なくも思った。ようやく子供が産まれて、しかも男子で、心底ホッとしたのだった。
それにしても、妊娠が分かってからのヒューゴはなかなかに過保護だった。歩くだけで心配され、散歩にも付き添われた。お腹が大きくなって来ると階段などでは必ず手を取られ、趣味の刺繍でさえも「根を詰めるな」と注意をされたのだ。
オスカーが1歳を過ぎた頃「王妃殿下がご懐妊された」とヒューゴが言った。
「安定期に入るまで公表は控えるが、来年の春にはお産まれになる」
「まあ、良かったわ」
「…側妃を迎える話が本格化する前で何よりだ」
「やはり…そういう話が出ていたんですね…」
国王陛下夫妻に御子が産まれなければ、側妃を迎え、子を成す事は避けられないのだ。
「ああ。王妃殿下は気丈にされていたが、やはり気になさっておられただろうからな」
翌春、無事に王子が産まれ、国中が歓喜に湧く。
そしてその年の夏、王妃殿下の第二子ご懐妊が公表された。
ナタリーは卒業パーティーにヒューゴから贈られた薄緑のドレスで出席した。ウエストのリボンは光沢のあるブラウンだ。
ナタリーはウエストのリボンに同色で細かく得意の刺繍をした。目立たないが、それが却ってさり気なく、とても素敵に仕上がったと我ながら満足している。
ナタリーをエスコートするヒューゴは壇上のゲスト、王太子殿下と婚約者のオリーを眺めている。
オリーは王族の色であり王太子の色である紫のドレスを纏っている。王太子はオリーの瞳の色の緑の衣装だ。
オリー様を見ているのかしら?
壇上を見るヒューゴの眉間には微かに皺が寄っている。
「…絵になるな」
ヒューゴが呟く。
確かに王太子と王太子の婚約者は、物語の挿絵のように麗しい。ナタリーは「そうですね」と頷いた。
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ナタリーが学園を卒業した一カ月後、王位継承の儀と婚儀が行われた。
ナタリーはシンディーとパレードを見に行った。豪奢な白いドレスで沿道へ手を振るオリーはとても幸せそうに見えた。
次の年の初夏、ナタリーとヒューゴは結婚式を挙げた。
「なかなか子供って授からないものなのね…」
結婚して三年が経った。そろそろ義理の両親やヒューゴの期待に応えたい。
「こればかりは、天に任せるより他にないわ。陛下と王妃殿下にもまだお子様はいらっしゃらないのだし、焦る事はないわよ」
シンディーが肩を竦める。シンディーが他家に嫁いでから一年が経つ。
「そうなんだけど…」
ナタリーはため息を吐いた。
「何…?」
「…もしこのまま子ができないのなら…り、離縁を…と」
ベッドに座ったナタリーは俯いて言う。
「……離縁…したいのか?」
ナタリーの前に立ったヒューゴは眉間に皺を寄せる。
ナタリーは首を横に振る。
「侯爵家には…跡取りが必要だから…」
「跡取りなど、親戚から養子を迎えれば良い」
ヒューゴはナタリーの両肩を掴むとベッドに押し倒す。
「離縁など、しない」
噛み付くように口付けた。
ーーその噂は、情報管理機関であるエバンス家だからこそいち早く伝わって来たのだろう。
「王妃付き侍女の産んだ男子の瞳の色が…紫らしい」
「…え?」
苦々しい表情で言うヒューゴ。刺繍をしていたナタリーが顔を上げる。
「それは…まさか…」
「滅多な事を口に出すな。…これから事実関係を調べる」
陛下の御子なのか、と言い掛け、ヒューゴに制された。
それからヒューゴは諜報員、間者を駆使して侍女と陛下の関係を調べていた。
王妃付きの侍女は伯爵夫人であるが、公爵家の血筋なので、子供にも王家の血は入ってはいるのだ。
「どんなに調べても、陛下にも侍女にも何も出てこん。あの子供も、瞳の色以外は、髪色も目鼻立ちも父である伯爵によく似ている。…あれは陛下の御子ではない」
「そう。良かった…」
陛下が侍女に手を付けるような方でなくて。そして王妃殿下が友人でもある侍女と、陛下に裏切られていなくて。
「そうだな」
ヒューゴが苦く笑う。
ヒューゴ様はあの子が陛下の御子であった方が良かったのかしら…?オリー様が悲しまれたり苦しまれたりするのに?
…まさか、傷付いたオリー様に付け込もうと…?
「まさかね」
ナタリーは小さく呟いた。
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「ナタリー、よくやった」
長男のオスカーが生まれた時、ヒューゴの眼には涙が浮かんでいた。
義理の父母からナタリーに子ができぬなら側妻を、と言われた時にもヒューゴは頑なに断った。
ナタリーはそんなヒューゴが嬉しくもあったが、申し訳なくも思った。ようやく子供が産まれて、しかも男子で、心底ホッとしたのだった。
それにしても、妊娠が分かってからのヒューゴはなかなかに過保護だった。歩くだけで心配され、散歩にも付き添われた。お腹が大きくなって来ると階段などでは必ず手を取られ、趣味の刺繍でさえも「根を詰めるな」と注意をされたのだ。
オスカーが1歳を過ぎた頃「王妃殿下がご懐妊された」とヒューゴが言った。
「安定期に入るまで公表は控えるが、来年の春にはお産まれになる」
「まあ、良かったわ」
「…側妃を迎える話が本格化する前で何よりだ」
「やはり…そういう話が出ていたんですね…」
国王陛下夫妻に御子が産まれなければ、側妃を迎え、子を成す事は避けられないのだ。
「ああ。王妃殿下は気丈にされていたが、やはり気になさっておられただろうからな」
翌春、無事に王子が産まれ、国中が歓喜に湧く。
そしてその年の夏、王妃殿下の第二子ご懐妊が公表された。
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