王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?

ねーさん

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番外編1

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デイジーの追憶

「あの黒い瞳に睨んで欲しいわ…」
 うっとりと言うデイジーを、ルナは白い目で見つめる。
「ジーン様は確かに格好良いけど、冷たくない?四年間学園で見てても笑ったの見た事ないかも」
「そこが良いんじゃない!」
 デイジー・ワイアットは街の医者の娘、ルナ・プレスコットは伯爵家の令嬢で、父は王宮の議会で議長をしていた。
 立場は違えど学園で同じクラスになった1年生の時からの友人だ。
「ルナはアリシア様の親衛隊でジーン様と親しいんでしょう?」
「親しくはないわ。ジーン様が裏で親衛隊を取り仕切ってらっしゃるから話す機会はあるけど」
「良いな~。私、結局一回も話した事ないまま卒業しそう。で、ジーン様はアリシア様をお好きなのかしら?」
「うーん…主家の令嬢で王太子の婚約者だから不審な輩は近づけたくない気持ちは伝わるけど、アリシア様を好きとかではない感じよ」
「そうかー…卒業までにお手紙とか渡したら…」
「デイジー告白するつもり?」
「…断られるのはわかってる。わかってるけど…あわよくば、あの瞳に睨まれたい…」
「…変態」
 ルナは呆れた顔でデイジーを眺めた。

 学園を卒業してから二年が経った。
 デイジーは卒業前にジーンに手紙を渡した事を思い出す。「ごめんね」と、ジーンは申し訳なさそうに言っていた。
 あの黒い瞳は睨むような光は宿していない。睨まれなくて残念な気持ちはあったが、やはり根は優しい人なのかと余計にときめいたのも良い思い出だ。
「デイジー、薬買って来て!」
 学園を卒業してからは薬学の研究所で働いている。いつか父が営む自宅兼診療所で、自分が調合した薬を患者さんに処方したいと薬剤師の資格を手に入れるべく勉強中だ。
「はーい」
 研究所の休みには自宅兼診療所で勉強しなから診療所の手伝いをしていた。
 父から薬のメモを受け取って、町外れの薬局へ歩いて行く。
「早く診療所で薬を作れるようになりたいな」
 ふと、通りの向こうに黒い髪の男性が目に入る。学園でジーンを見ていた名残りで未だに黒髪の人には視線をが吸い寄せられてしまうのだ。
「あれ、本当にジーン様…?それに、あの銀の髪は…アリシア様だ…」
 アリシアはつい先日学園を卒業した。少し前にパリヤが廃太子され、アリシアとの婚約を解消した、と話題になった。
 そしてアリシアは自家の第二執事と婚約したと。
 ルナとは卒業後立場の違いもありあまり会えていないが、手紙は遣り取りしていて、この事件の顛末も後からではあるがデイジーもルナから聞いていた。

 ジーン様はどこかの貴族の養子になってアリシア様との結婚許可が降りたってルナの手紙に書いてあったっけ。

 デイジーは通りの向こうから段々近付いてくる黒髪と銀髪をぼんやり眺めた。

 あ…手を、繋いでる。

 ジーンとアリシアは手を繋いで歩いていた。
 アリシアが片手で胸の前に抱え持っているのは小さな丸いカステラが何個も入った露天で売っているお菓子の袋だ。
 片手に袋、片手はジーンと繋いでいる。
 すると、ジーンが袋に手を入れ、カステラを一つ取ってアリシアの前に差し出す。

 あ!「あーん」だわ!

 アリシアは恥ずかしそうに首を横に振っていたが、やがて小さく口を開けてジーンの手からカステラを食べた。
 咀嚼しながら恥ずかしそうに俯くアリシアを、ジーンは優しい笑顔で見つめている。

 ジーン様が…笑ってる。

 学園で、四年間見つめ続けて、一度も見た事のない笑顔。優しい眼差しだ。

 やっぱりジーン様はアリシア様を好きだったんだわ。
 ルナはアリシア様が婚約破棄された時ものすごく怒ってたけど、ジーン様とアリシア様にとっては結果良かった事だったのよ!

 デイジーは嬉しくなって、今晩ルナに手紙を書こう、と思いながら薬局への角を曲がった。

「ご機嫌だな」
 薬局の息子で、薬剤師として働くマックスがデイジーに声を掛ける。
「そうなの。さっきジーン様を見掛けたの」
「ふーん。ジーンって、デイジーの好きな男だっけ」
「好きな、じゃなくて、好きだった、よ」
 マックスは薬を数えながら「過去形ね」と呟く。
「数が足りないな。すぐ調合するけど、待つ?また来る?」
 マックスが店の裏の調合室の方へ足を向けながら言う。
「調合する所見てて良い?」
「いいよ」
「やった!」
 嬉しそうにマックスに着いて行くデイジーに、マックスが振り向いて言った。
「デイジー、薬剤師の資格が取れたら、この店で一緒に働かないか!?と言うか、俺の、よっ嫁に来ないか?」
 マックスの耳は真っ赤だ。
「私はお父さんの診療所で、患者さんに合わせて薬を調合して処方したいの」
 デイジーがけろりとして言うと、マックスは肩を落とす。
「そうだったな…」
「でもここから診療所に通うのも、良いかもね」
「え?」

 ルナへの手紙に書く事がまた増えたわ。

 デイジーは悪戯っぽく笑うと、マックスの腕に飛びついた。

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