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26
学園の休暇の日、アリシアは卒業パーティーの打ち合わせのためウィルフィス公爵家に帰っていた。
ダイアナや他の侍女やメイド、母コーネリアまでドレスがリボンがレースがネックレスが靴が、と大騒ぎだった。
「家中の女性が一堂に会してるみたいだな」
「そうね…むしろ私が蚊帳の外だわ…おかしい、私のドレスのはずなのに」
アリシアとジーンは大騒ぎを眺めながら壁際に並んで立っていた。
「卒業パーティーでこれだと、結婚式の時はどうなるの…」
アリシアは卒業から半年後と決まった自身の結婚式の準備へと思いを馳せる。結婚式だからウェディングドレスはもちろん、披露宴のカラードレスもある。しかもお色直しは一回ではない。
「なるべく簡素に…って誰も聞いてないわ!」
その時、開いたドアからホリーが顔を覗かせる。
「うちよりすごいわね…」
真顔で呟くホリーに
「ホリーどうしたの?ホリーも家だったわよね?今日は」
アリシアがそう言うと、ホリーはパッと顔を綻ばせる。
「アリシア、聞いて!」
アリシアの両手を取ると、上下にぶんぶんと振る。
「うん?」
「お父様が『卒業パーティーはグレッグ様にエスコートしてもらえ』って!」
「ホリー、それって?」
「そう、結婚の許可が出たのよ!」
ウィルフィス公爵家嫡男グレッグが、ロビンソン伯爵家の長女ホリーに婚姻を申し込んで五ヵ月弱、ホリーの父にであるロビンソン伯爵はホリーを嫁がせる事をずっと渋っていたのだ。
「ホリー…」
いつの間にか、ホリーの後ろにグレッグが立っている。
「グレッグ様!」
ホリーが満面の笑みで振り向いてグレッグを見る。
「かっかわ…」
かわいいと言いかけてグレッグは口を噤む。あんまりかわいいとか好きとか言い過ぎると何故かホリーに怒られるのだ。
ホリーは照れると、怒った振りをするらしい。照れ隠しだ。
「お父様から結婚の許可が出ました!」
「うん。嬉しいよ。すごく嬉しい」
でも…とグレッグは言う。
「その報告、アリシアより先に聞きたかったし、手を握るのも俺のじゃない?」
ホリーはアリシアの両手を握り締めたままだった。
-----
ホリーとグレッグは、ホリーのドレスに合う物があるか、エスコート用の衣装を見にグレッグの部屋へと行く。
「この調子だと放っておいたら勝手に色々決まってそうね。ある意味楽だわ…」
相変わらず大騒ぎの女性陣を見ながら、アリシアは呟く。
アリシアの好みも熟知した侍女やメイドたちだ、放っておいてもおかしな事にはならないだろう。
「アリシア、離れ見に行こうか」
ジーンが言うと、アリシアは「うん」と頷く。
アリシアとジーンは結婚後、ウィルフィス家の離れに住むことになった。
離れは庭を隔てて本邸からは見えなくなっていて、離れ用に門や庭もあり、独立性もある。今は半年後の結婚式に向けて改装中だ。
「アリシアとの結婚を許してもらっただけでなく、こうして住む所までお世話をしてもらって、旦那様には感謝しても仕切れないな」
応接室として使う予定の部屋に入る。柔らかい色の壁紙はアリシアとジーンの意見が一致した物だ。
「ジーン…」
「俺はアリシアと一緒にいられるならどんな辛酸でも舐めるつもりだったのに…こんなに恵まれてて良いんだろうか?」
ジーンが部屋を見回しながら呟く。
アリシアは無言でジーンの背中に抱き着いた。
「アリシア?」
何事もなければ、今している卒業パーティーのドレスも、結婚後の新生活の準備も、相手はパリヤだったのだ。
王宮に上がればウィルフィス家の執事であるジーンとは顔を合わせる事もなく、里下りしても親しく話す事すらできなかっただろう。
「ジーン…好き…」
アリシアは呟く。一生本人には告げられないはずだった言葉。
「アリシア…」
ジーンは、胴に回ったアリシアの腕を優しく解くと、正面から抱き締める。
固く抱き合った。
「こんなの、夢じゃないかと時々思うよ」
「私も…でも夢じゃないもの。もし夢だったら、覚めたら絶望して死んじゃうわ」
「俺も。またアリシアの部屋を見つめるだけの頃には戻りたくない」
「え?」
「…何だ。俺が夜によく庭に出てアリシアの部屋を見てたの、気付いてると思ってた」
「え、そうだったの?」
道理で夜中にバルコニーに出る度ジーンに会うはずだ。アリシアは顔を上げてジーンをまじまじと見つめる。
「そう…ごめん。気持ち悪い?」
照れた様に苦笑いするジーンにアリシアは笑いかける。
「全然。私も毎晩バルコニーに出れば良かったわ」
ジーンがふっと笑う。
抱き合った手を緩めて見つめ合う。
ゆっくり顔が近付いて、アリシアはそっと目を閉じた。
ーーFin
学園の休暇の日、アリシアは卒業パーティーの打ち合わせのためウィルフィス公爵家に帰っていた。
ダイアナや他の侍女やメイド、母コーネリアまでドレスがリボンがレースがネックレスが靴が、と大騒ぎだった。
「家中の女性が一堂に会してるみたいだな」
「そうね…むしろ私が蚊帳の外だわ…おかしい、私のドレスのはずなのに」
アリシアとジーンは大騒ぎを眺めながら壁際に並んで立っていた。
「卒業パーティーでこれだと、結婚式の時はどうなるの…」
アリシアは卒業から半年後と決まった自身の結婚式の準備へと思いを馳せる。結婚式だからウェディングドレスはもちろん、披露宴のカラードレスもある。しかもお色直しは一回ではない。
「なるべく簡素に…って誰も聞いてないわ!」
その時、開いたドアからホリーが顔を覗かせる。
「うちよりすごいわね…」
真顔で呟くホリーに
「ホリーどうしたの?ホリーも家だったわよね?今日は」
アリシアがそう言うと、ホリーはパッと顔を綻ばせる。
「アリシア、聞いて!」
アリシアの両手を取ると、上下にぶんぶんと振る。
「うん?」
「お父様が『卒業パーティーはグレッグ様にエスコートしてもらえ』って!」
「ホリー、それって?」
「そう、結婚の許可が出たのよ!」
ウィルフィス公爵家嫡男グレッグが、ロビンソン伯爵家の長女ホリーに婚姻を申し込んで五ヵ月弱、ホリーの父にであるロビンソン伯爵はホリーを嫁がせる事をずっと渋っていたのだ。
「ホリー…」
いつの間にか、ホリーの後ろにグレッグが立っている。
「グレッグ様!」
ホリーが満面の笑みで振り向いてグレッグを見る。
「かっかわ…」
かわいいと言いかけてグレッグは口を噤む。あんまりかわいいとか好きとか言い過ぎると何故かホリーに怒られるのだ。
ホリーは照れると、怒った振りをするらしい。照れ隠しだ。
「お父様から結婚の許可が出ました!」
「うん。嬉しいよ。すごく嬉しい」
でも…とグレッグは言う。
「その報告、アリシアより先に聞きたかったし、手を握るのも俺のじゃない?」
ホリーはアリシアの両手を握り締めたままだった。
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ホリーとグレッグは、ホリーのドレスに合う物があるか、エスコート用の衣装を見にグレッグの部屋へと行く。
「この調子だと放っておいたら勝手に色々決まってそうね。ある意味楽だわ…」
相変わらず大騒ぎの女性陣を見ながら、アリシアは呟く。
アリシアの好みも熟知した侍女やメイドたちだ、放っておいてもおかしな事にはならないだろう。
「アリシア、離れ見に行こうか」
ジーンが言うと、アリシアは「うん」と頷く。
アリシアとジーンは結婚後、ウィルフィス家の離れに住むことになった。
離れは庭を隔てて本邸からは見えなくなっていて、離れ用に門や庭もあり、独立性もある。今は半年後の結婚式に向けて改装中だ。
「アリシアとの結婚を許してもらっただけでなく、こうして住む所までお世話をしてもらって、旦那様には感謝しても仕切れないな」
応接室として使う予定の部屋に入る。柔らかい色の壁紙はアリシアとジーンの意見が一致した物だ。
「ジーン…」
「俺はアリシアと一緒にいられるならどんな辛酸でも舐めるつもりだったのに…こんなに恵まれてて良いんだろうか?」
ジーンが部屋を見回しながら呟く。
アリシアは無言でジーンの背中に抱き着いた。
「アリシア?」
何事もなければ、今している卒業パーティーのドレスも、結婚後の新生活の準備も、相手はパリヤだったのだ。
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「ジーン…好き…」
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「アリシア…」
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固く抱き合った。
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「私も…でも夢じゃないもの。もし夢だったら、覚めたら絶望して死んじゃうわ」
「俺も。またアリシアの部屋を見つめるだけの頃には戻りたくない」
「え?」
「…何だ。俺が夜によく庭に出てアリシアの部屋を見てたの、気付いてると思ってた」
「え、そうだったの?」
道理で夜中にバルコニーに出る度ジーンに会うはずだ。アリシアは顔を上げてジーンをまじまじと見つめる。
「そう…ごめん。気持ち悪い?」
照れた様に苦笑いするジーンにアリシアは笑いかける。
「全然。私も毎晩バルコニーに出れば良かったわ」
ジーンがふっと笑う。
抱き合った手を緩めて見つめ合う。
ゆっくり顔が近付いて、アリシアはそっと目を閉じた。
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