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私の頭の中をアレクシスとの今までの思い出が巡る。
婚約者候補の一人としてアレクシスとの顔合わせのお茶会に招かれたのは私が十二歳の時。
このようなお茶会に招かれるのは二度目だ。
一度目は第一王子イライアスの時。その時私は七歳で、イライアスは私より五歳上の十二歳。歳の近い令嬢が何人もいる中、七歳の子供が選ばれる筈もなく、また七歳の子供の私にとって整った顔立ちの十二歳の王子は何だか遠くて恐ろしい存在でしかなかった。
二度目の時、私は十二歳でアレクシスは十一歳。私より背が低く、青紫の緩くウェーブした髪を後ろで纏め、タンザナイトのような青紫の瞳が少し恥ずかしそうに私を見る。まるで女の子のように可憐なアレクシスに、私は「何て綺麗な子なの!?」と思った。
俗に言う「一目惚れ」だったわ。
お茶会に招かれたのは十人ばかりの上位貴族の令嬢たちだ。私と同じ歳の令嬢がもう一人、私より歳上の令嬢も二人いた。でもアレクシスと同じ歳の公爵令嬢や、歳下のかわいらしい侯爵令嬢もいたので、私が選ばれる事はないだろうと考えていた。
仕方ないわ。
アレクシス殿下はきっと凄い美男子になる。私はそんな麗しの王子様を遠くから眺めていよう。
初恋だから胸は痛いけど、将来お父様が決めた相手と結婚する前に「恋」を知れただけでもきっと私は幸せだわ。
「恋」を「憧れ」に言い換えて、街で売られているアレクシス殿下の絵姿を眺めているだけなら将来の旦那様も許してくれるんじゃないかしら?
そんな事を考えていた頃、王家からの使者が我が家にやって来た。
「エイデン侯爵家第二子クリスティナを第二王子アレクシスの妃として召し上げる」
国王の署名入りの書簡を読み上げる使者に、心の中で飛び上がりながらも、私は恭しくスカートを摘み淑女の礼を取る。
「承りました」
そう答える声が少し震えてしまった。
こうして婚約者となった私にアレクシスはよく手紙や贈り物をくれたり、会いに来たりしてくれたわ。
段々と背も伸びて、私の身長はすぐに抜かされ、私が十八歳、アレクシスが十七歳になった今では見上げる程になった。
青紫の髪と瞳は変わらずキラキラ輝いていて、かわいらしさのあった顔も精悍になって、私の想像よりも遥かに麗しく、かつ逞しい王子様になったアレクシスに私のときめきは激しくなるばかり。
幼い頃から植物が好きだったアレクシスは、趣味が高じて熱病に効く新種の薬草を作り出した事もある。それも十歳の頃に。
学園では園芸部に入り、学園の花壇で花や薬草の交配や品種改良をしている。
将来は穀物や野菜を痩せた土地でも育つよう品種改良をしていきたいらしい。
土いじりをするアレクシスは楽しそうで、私はそんなアレクシスを見ているのが好きだった。
「いつかクリスティナの瞳の色の薔薇を贈るね」
そう言って笑ったのはアレクシスが十四歳、学園へ入学したすぐ後の事だ。
私の瞳は、虹彩の縁取りが青、瞳孔に近い部分にヘーゼルが浮かび、二色が混ざらず存在する俗にアースアイと呼ばれる珍しいものらしい。
アレクシスが私のこの瞳を見て「こんな薔薇を作りたい」と思ったのが私が婚約者に選ばれた理由。
私は珍しい瞳で良かった!と、この瞳を授けてくれた神と両親に感謝したわ。
私たちは仲が良かったし、婚約者としての愛情も育んでいる、と、思っていた。
フローラが現れるまでは。
-----
「貴方は……誰…?」
そう呟いて、目を開けると、枕元の椅子に座っていたアレクシスが眉を顰める。
「クリスティナ?」
ああ、やっぱり好きだなあ。
私はアレクシスの緩やかに波打つ髪、形の良い眉、切長の眼、タンザナイトの瞳、筋の通った鼻、薄い唇、細い顎をじっと見つめた。
こんな風にじっくり顔を見たのは久しぶり。
少女のように愛らしい少年は、男らしく精悍な青年になったけど、笑ったら少し幼く見えてかわいいのよね。でも…笑顔を私に向けてくれたのは……随分と前の事だわ。
「……」
「…俺の事がわからないの?クリスティナ」
黙ってアレクシスを見ている私に、アレクシスはますます眉間の皺を深くする。
だって、「アレクシスは冷たい表情、低い声で『二度とフローラに近付くな』とクリスティナへと告げた。」なんて文字だけ思い出しても胸が痛い。
転生前にあの小説を読んだ時は主人公目線だったから「いいぞアレクシス!」って感じだったけど、今の私はクリスティナなんだもん。
あの台詞を目の前のアレクシスから言われると思うと怖くて……つい現実逃避してしまったのよ。
私の頭の中をアレクシスとの今までの思い出が巡る。
婚約者候補の一人としてアレクシスとの顔合わせのお茶会に招かれたのは私が十二歳の時。
このようなお茶会に招かれるのは二度目だ。
一度目は第一王子イライアスの時。その時私は七歳で、イライアスは私より五歳上の十二歳。歳の近い令嬢が何人もいる中、七歳の子供が選ばれる筈もなく、また七歳の子供の私にとって整った顔立ちの十二歳の王子は何だか遠くて恐ろしい存在でしかなかった。
二度目の時、私は十二歳でアレクシスは十一歳。私より背が低く、青紫の緩くウェーブした髪を後ろで纏め、タンザナイトのような青紫の瞳が少し恥ずかしそうに私を見る。まるで女の子のように可憐なアレクシスに、私は「何て綺麗な子なの!?」と思った。
俗に言う「一目惚れ」だったわ。
お茶会に招かれたのは十人ばかりの上位貴族の令嬢たちだ。私と同じ歳の令嬢がもう一人、私より歳上の令嬢も二人いた。でもアレクシスと同じ歳の公爵令嬢や、歳下のかわいらしい侯爵令嬢もいたので、私が選ばれる事はないだろうと考えていた。
仕方ないわ。
アレクシス殿下はきっと凄い美男子になる。私はそんな麗しの王子様を遠くから眺めていよう。
初恋だから胸は痛いけど、将来お父様が決めた相手と結婚する前に「恋」を知れただけでもきっと私は幸せだわ。
「恋」を「憧れ」に言い換えて、街で売られているアレクシス殿下の絵姿を眺めているだけなら将来の旦那様も許してくれるんじゃないかしら?
そんな事を考えていた頃、王家からの使者が我が家にやって来た。
「エイデン侯爵家第二子クリスティナを第二王子アレクシスの妃として召し上げる」
国王の署名入りの書簡を読み上げる使者に、心の中で飛び上がりながらも、私は恭しくスカートを摘み淑女の礼を取る。
「承りました」
そう答える声が少し震えてしまった。
こうして婚約者となった私にアレクシスはよく手紙や贈り物をくれたり、会いに来たりしてくれたわ。
段々と背も伸びて、私の身長はすぐに抜かされ、私が十八歳、アレクシスが十七歳になった今では見上げる程になった。
青紫の髪と瞳は変わらずキラキラ輝いていて、かわいらしさのあった顔も精悍になって、私の想像よりも遥かに麗しく、かつ逞しい王子様になったアレクシスに私のときめきは激しくなるばかり。
幼い頃から植物が好きだったアレクシスは、趣味が高じて熱病に効く新種の薬草を作り出した事もある。それも十歳の頃に。
学園では園芸部に入り、学園の花壇で花や薬草の交配や品種改良をしている。
将来は穀物や野菜を痩せた土地でも育つよう品種改良をしていきたいらしい。
土いじりをするアレクシスは楽しそうで、私はそんなアレクシスを見ているのが好きだった。
「いつかクリスティナの瞳の色の薔薇を贈るね」
そう言って笑ったのはアレクシスが十四歳、学園へ入学したすぐ後の事だ。
私の瞳は、虹彩の縁取りが青、瞳孔に近い部分にヘーゼルが浮かび、二色が混ざらず存在する俗にアースアイと呼ばれる珍しいものらしい。
アレクシスが私のこの瞳を見て「こんな薔薇を作りたい」と思ったのが私が婚約者に選ばれた理由。
私は珍しい瞳で良かった!と、この瞳を授けてくれた神と両親に感謝したわ。
私たちは仲が良かったし、婚約者としての愛情も育んでいる、と、思っていた。
フローラが現れるまでは。
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「貴方は……誰…?」
そう呟いて、目を開けると、枕元の椅子に座っていたアレクシスが眉を顰める。
「クリスティナ?」
ああ、やっぱり好きだなあ。
私はアレクシスの緩やかに波打つ髪、形の良い眉、切長の眼、タンザナイトの瞳、筋の通った鼻、薄い唇、細い顎をじっと見つめた。
こんな風にじっくり顔を見たのは久しぶり。
少女のように愛らしい少年は、男らしく精悍な青年になったけど、笑ったら少し幼く見えてかわいいのよね。でも…笑顔を私に向けてくれたのは……随分と前の事だわ。
「……」
「…俺の事がわからないの?クリスティナ」
黙ってアレクシスを見ている私に、アレクシスはますます眉間の皺を深くする。
だって、「アレクシスは冷たい表情、低い声で『二度とフローラに近付くな』とクリスティナへと告げた。」なんて文字だけ思い出しても胸が痛い。
転生前にあの小説を読んだ時は主人公目線だったから「いいぞアレクシス!」って感じだったけど、今の私はクリスティナなんだもん。
あの台詞を目の前のアレクシスから言われると思うと怖くて……つい現実逃避してしまったのよ。
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