悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん

文字の大きさ
2 / 52

1

しおりを挟む
1

 私の頭の中をアレクシスとの今までの思い出が巡る。
 婚約者候補の一人としてアレクシスとの顔合わせのお茶会に招かれたのは私が十二歳の時。
 このようなお茶会に招かれるのは二度目だ。
 一度目は第一王子イライアスの時。その時私は七歳で、イライアスは私より五歳上の十二歳。歳の近い令嬢が何人もいる中、七歳の子供が選ばれる筈もなく、また七歳の子供の私にとって整った顔立ちの十二歳の王子は何だか遠くて恐ろしい存在でしかなかった。

 二度目の時、私は十二歳でアレクシスは十一歳。私より背が低く、青紫の緩くウェーブした髪を後ろで纏め、タンザナイトのような青紫の瞳が少し恥ずかしそうに私を見る。まるで女の子のように可憐なアレクシスに、私は「何て綺麗な子なの!?」と思った。
 俗に言う「一目惚れ」だったわ。

 お茶会に招かれたのは十人ばかりの上位貴族の令嬢たちだ。私と同じ歳の令嬢がもう一人、私より歳上の令嬢も二人いた。でもアレクシスと同じ歳の公爵令嬢や、歳下のかわいらしい侯爵令嬢もいたので、私が選ばれる事はないだろうと考えていた。
 仕方ないわ。
 アレクシス殿下はきっと凄い美男子になる。私はそんな麗しの王子様を遠くから眺めていよう。
 初恋だから胸は痛いけど、将来お父様が決めた相手と結婚する前に「恋」を知れただけでもきっと私は幸せだわ。
 「恋」を「憧れ」に言い換えて、街で売られているアレクシス殿下の絵姿を眺めているだけなら将来の旦那様も許してくれるんじゃないかしら?
 そんな事を考えていた頃、王家からの使者が我が家にやって来た。
「エイデン侯爵家第二子クリスティナを第二王子アレクシスの妃として召し上げる」
 国王の署名入りの書簡を読み上げる使者に、心の中で飛び上がりながらも、私は恭しくスカートを摘み淑女の礼を取る。
「承りました」
 そう答える声が少し震えてしまった。

 こうして婚約者となった私にアレクシスはよく手紙や贈り物をくれたり、会いに来たりしてくれたわ。
 段々と背も伸びて、私の身長はすぐに抜かされ、私が十八歳、アレクシスが十七歳になった今では見上げる程になった。
 青紫の髪と瞳は変わらずキラキラ輝いていて、かわいらしさのあった顔も精悍になって、私の想像よりも遥かに麗しく、かつ逞しい王子様になったアレクシスに私のときめきは激しくなるばかり。

 幼い頃から植物が好きだったアレクシスは、趣味が高じて熱病に効く新種の薬草を作り出した事もある。それも十歳の頃に。
 学園では園芸部に入り、学園の花壇で花や薬草の交配や品種改良をしている。
 将来は穀物や野菜を痩せた土地でも育つよう品種改良をしていきたいらしい。
 土いじりをするアレクシスは楽しそうで、私はそんなアレクシスを見ているのが好きだった。
「いつかクリスティナの瞳の色の薔薇を贈るね」
 そう言って笑ったのはアレクシスが十四歳、学園へ入学したすぐ後の事だ。

 私の瞳は、虹彩の縁取りが青、瞳孔に近い部分にヘーゼルが浮かび、二色が混ざらず存在する俗にアースアイと呼ばれる珍しいものらしい。
 アレクシスが私のこの瞳を見て「こんな薔薇を作りたい」と思ったのが私が婚約者に選ばれた理由。
 私は珍しい瞳で良かった!と、この瞳を授けてくれた神と両親に感謝したわ。

 私たちは仲が良かったし、婚約者としての愛情も育んでいる、と、思っていた。

 フローラが現れるまでは。

-----

「貴方は……誰…?」
 そう呟いて、目を開けると、枕元の椅子に座っていたアレクシスが眉を顰める。
「クリスティナ?」
 ああ、やっぱり好きだなあ。
 私はアレクシスの緩やかに波打つ髪、形の良い眉、切長の眼、タンザナイトの瞳、筋の通った鼻、薄い唇、細い顎をじっと見つめた。
 こんな風にじっくり顔を見たのは久しぶり。
 少女のように愛らしい少年は、男らしく精悍な青年になったけど、笑ったら少し幼く見えてかわいいのよね。でも…笑顔を私に向けてくれたのは……随分と前の事だわ。
「……」
「…俺の事がわからないの?クリスティナ」
 黙ってアレクシスを見ている私に、アレクシスはますます眉間の皺を深くする。
 だって、「アレクシスは冷たい表情、低い声で『二度とフローラに近付くな』とクリスティナへと告げた。」なんて文字だけ思い出しても胸が痛い。
 転生前にあの小説を読んだ時は主人公目線だったから「いいぞアレクシス!」って感じだったけど、今の私はクリスティナなんだもん。
 あの台詞を目の前のアレクシスから言われると思うと怖くて……つい現実逃避してしまったのよ。



しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。 だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。 理由は簡単だった。 「君は役に立ちすぎた」から。 すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、 “静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。 そこで待っていたのは―― 期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。 前に出なくていい。 誰かのために壊れなくていい。 何もしなくても、ここにいていい。 「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」 婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、 何者にもならなくていいヒロインの再生と、 放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。 これは、 “役に立たなくなった”令嬢が、 ようやく自分として生き始める物語。

愚かな王太子に味方はいない

遥彼方
恋愛
「オレリア・ヴァスール・ド・ユベール。君との婚約を破棄する」  20歳の誕生日パーティーの場で、俺は腕に別の令嬢をぶら下げて、婚約者であるオレリアに婚約破棄を言い渡した。  容姿も剣も頭も凡庸で、愚直で陰気な王太子。  全てにおいて秀才で、華麗な傑物の第二王子。  ある日王太子は、楽しそうに笑い合う婚約者と弟を見てしまう。 二話目から視点を変えて、断罪劇の裏側と、真実が明らかになっていきます。 3万文字強。全8話。「悪女の真実と覚悟」までで本編完結。 その後は番外編です。 この作品は「小説になろう」にも掲載しております。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

『婚約者を大好きな自分』を演じてきた侯爵令嬢、自立しろと言われたので、好き勝手に生きていくことにしました

皇 翼
恋愛
「リーシャ、君も俺にかまってばかりいないで、自分の趣味でも見つけて自立したらどうだ?正直、こうやって話しかけられるのはその――やめて欲しいんだ……周りの目もあるし、君なら分かるだろう?」 頭を急に鈍器で殴られたような感覚に陥る一言だった。 彼がチラリと見るのは周囲。2学年上の彼の教室の前であったというのが間違いだったのかもしれない。 この一言で彼女の人生は一変した――。 ****** ※タイトル少し変えました。 ・暫く書いていなかったらかなり文体が変わってしまったので、書き直ししています。 ・トラブル回避のため、完結まで感想欄は開きません。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

政略結婚の作法

夜宮
恋愛
悪女になる。 そして、全てをこの手に。 政略結婚のために身分違いの恋人のいる王太子の婚約者となった公爵令嬢は、妹の囁きを胸に悪女となることを決意した。 悪女と身分違いの恋人、悪女になるはずだった妹の物語。

二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

処理中です...