戦国終わらず ~家康、夏の陣で討死~

川野遥

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戦国筑後川合戦

戦闘①

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 黒田家を主体とした徳川軍は久留米城の北二里の場所に布陣した。この場所で主だった者が一同に会し、明日以降の行動を確認する。



 説明をするのは立花宗茂であった。

「まず、明朝になりましたら、黒田殿、井上殿、栗山殿は久留米城の救援に向かっていただきます。ただ、城と連携を取ることは考える必要はございません。一揆方は鉄砲が少ないので防御主体の陣形を取るものと思われますので、これを少しでも押しこんでいただきたい」

「押し込むのか?」

 黒田長政が首を傾げた。

「確かに渡河して交戦するので我々は背水の陣となる形であるが、城の近くで戦った方が良いのではなかろうか?」

「構うことはございません。そのまま押し込んでいただければ」

「左様か。立花殿がそう言うのであれば…」

 完全に納得したわけではない様子であったが、黒田長政は承知する。

「鍋島殿は佐賀を出て蓮池城まで向かっているはずです。現在、書状を送り、それがしの方からこうしてほしいという要望は出しております。ただ、如何せん鍋島殿の布陣場所は戦場から離れているので、それがしの目論見通りに動くかどうか分かりません。鍋島殿の動きについてはあくまで補佐的なものと考えていただきたい」

 一同が頷く。

「真田殿はご自身の判断で動いていただければと思います」

「難しい役割ですな」

「真田殿ほどの者であれば、それがしが指示を出すより自身の判断を大切にされた方がよろしいかと」

「承知しました」

「わしは?」

 忠直が自らを指さす。

「越前様は総大将として戦況を把握していただければと…」

 宗茂の予想通りの回答に、がっかりと頭を落とす。

「仕方ない。立花殿はどうされる?」

「それがしは別動隊として動くつもりでございます」

「別動隊とな?」

「はい。このあたりはそれがしにとってなじみのある場所。それに応じた働きをしたいと考えております」

「承知した」

 立花宗茂ほどの者が、「自分に任せてほしい」と言ってくるとなると誰も文句を言えない。

 かくして軍議は終了し、それぞれが自らの部隊へと戻っていった。



 一方、ほぼ横列隊形で北上している一揆軍にも徳川方の布陣状況が見えてきた。

「ふむ。全軍筑後川の北側に布陣。わしら側から見て久留米城の西側に黒田隊とその家老、東側にも別の黒田隊がおるのう」

「立花と真田は見えぬようだ」

「恐らく真田は本隊と共におるのではないだろうか。本隊はちょうど川の向こうの城の後ろ側あたりにおるのではないか?」

「なるほど。立花隊は?」

「分からぬ。ただ、日ノ本中に名をとどろかせた名将だ。侮ってはならんだろう。ともあれ、わしらはわしらで準備をするだけじゃ。鉄砲の数ではどうしても圧倒的に負けるからのう。今回も盾を押し出すような形で前進せよ」

 指示を出していると、付近の農民から情報を聞いたらしい伝令がかけつけてくる。

「申し上げます。立花隊が川を渡り、高良山を目指しているようです」

「高良山?」

 好次が高良山の方向を向いた。

「要衝ではあるが、久留米城を守るにあたって、あの地に布陣する必要があるのか?」

 とは言っても、立花宗茂が率いる部隊である。好次は部隊を二つほど割いて、高良山方面への備えとして置くこととした。


 翌朝の早い時間帯。

「高良山にいた立花隊、更に南に向かうようです」

 付近の住民からの続報が入ってくる。

「更に南?」

 好次がけげんな顔をした。

「高良山から南に向かうと戦場とは全く関係のない方向に進むことになるが…」

「あるいは迂回して生津か、柳河を目指しているのでは?」

「生津の廃城を占領しても仕方なかろう。あるとすれば柳河か…」

 立花宗茂がかつて柳河城主であったことは好次も知っている。

「他の者には分からぬ柳河城の攻略法を、立花宗茂は知っているという可能性はあるな」

 久留米を落としても柳河城を攻略されれば、展開は振り出しに戻ることになる。それは避けたいところではあったが。

「とはいえ、田中殿が協力してくれる以上は、立花宗茂といえどもそう簡単には城を落とすことはできまい。ただ、念のため昨日の部隊の一つは立花隊を追跡させよう」

 そう指示を出して、北を向く。

「どうやら川向うの部隊が、それぞれ動き出しそうだな」

 善右衛門の見立て通り、間もなく黒田隊の旗が動き出し、橋を渡って久留米城側への移動を開始した。

「よし、わしらも迎え撃て!」

 好次の号令で、一揆軍の部隊も北へ向けて移動を開始した。



 川向うに渡る黒田隊を眺めながら、忠直は不機嫌そうに頬杖をついていた。

「つまらぬのう…」

「そういうことを言ってはなりませぬ」

 幸村が苦笑しながら言う。

「今回、立花殿が敢えてこのような布陣を取ったのは、越前様に総大将としての自覚と才気を磨いてほしいという思いからでございますぞ」

「もちろん、それは理解しておるが…」

 若い忠直は、自らが駆けまわってこその戦場だという思いはどうしても消えない。

「信綱。そなたが総大将になるというのはどうだ? そなたもいずれ徳川家の中核を担う男。どんと構える経験は必要であろう」

「越前様。寝言は寝てから申してください」

 信綱の容赦ない物言い、忠直が口を尖らせた。

「お主もどんどん直孝みたいになってきたのう」

「しかし、数では圧倒的に負けておりますが、どのような形でひっくり返すつもりなのでございましょうか…。別動隊を指揮したということは、もしや長躯柳河城を目指すのでしょうか?」

 信綱の問いかけに幸村が頷く。

「そうかもしれん。だが、それは立花殿にしか分からぬこと。我々は先入観を持たず、戦場の状況をつぶさに見極めて対応せねばならぬ」

「承知いたしました」

 信綱は頷き、前線の様子を高台から眺めるのであった。



 最前線の黒田長政は、指揮をとりながら様子を確認する。

「我が方、敵を押し込んでおります!」

「うむ。引き続き押し続けよ」

 指示を出して、長政は傍らにある久留米城を見上げる。

「城と連絡をとった方がいいのではないかと思うがのう…」

「殿?」

「いや、何でもない。押し込め!」



 久留米城内には田中忠政の兄吉興がいた。城内には柳河での切支丹の活動に反対して、ここまで駆けつけてきた三千弱の人間がおり、その半数以上が武装して戦闘の準備をしていた。

「黒田軍は、城を無視して進んでおるぞ」

 兵士達からの声に吉興が首を傾げる。

「どういうことなのであろう? 我々のことを当てにしていないということだろうか?」

「申し上げます。立花左近将監殿の使いの者がこの書状を」

 伝令が駆け込んできた。吉興は書状を開く。

「何々。『相手方が崩れたら、一気に攻勢を仕掛けよ?』。相手が崩れたらというのはどういう意味だ? あれだけの数の軍が整然としておるではないか」

 一揆軍は何重にも部隊を織りなしていて、少し押され気味ではあるが乱れている気配はない。むしろ、数の差を考えれば、昼になる頃には黒田隊の方が疲労して乱れてしまうのではないかとも思えた。

「訳が分からぬが、立花殿ほどの者が言う以上はそうなるのだろうか…」

 だが、全員、疑問を抱いても結局は「立花宗茂が言うのだから」と納得してしまうのであった。
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