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戦国筑後川合戦
和睦①
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肥後・熊本にも久留米での戦いの顛末及び柳河での状況はすぐに伝わった。
島津家久が舌を巻く。
「相当なものとは思うていたが、予想以上のものであるのう」
「かくなるうえは、この熊本城で徹底的に籠城するしか…」
「馬鹿を申すな」
家久が樺山久高をたしなめる。
「このあたりが潮時じゃろう。松平忠直と和睦する」
「和睦?」
一同が驚いた。
「何を驚いておるのじゃ。お主ら、まさかわしが九州を統一するまで意地でもやめぬとでも思っていたのか?」
「い、いや…」
「良いか。相手には真田幸村がおる。日本一の兵じゃ。そして、一か月前に豊後に派遣した偵察隊が立花宗茂にあっさりと返り討ちにあったということも忘れてはおるまい。つまり、これ以上を望むのは無理だということだ。そうである以上、今までの得たものをなるべく守る方向で動くのが良い」
「そんな虫のいい話が通りますか?」
「通らねば、毛利や切支丹と連携して戦うのみよ。徳川としてもこやつらを早く何とかしたいだろうから、そこから先は条件闘争となる」
「ということは、日向をいただき、肥後を返すということでしょうか?」
伝統的に島津家は薩摩・大隅・日向を根拠地としていることもある。先祖伝来の土地を確保したいという点であれば理由としても不相当でないように思われた。
「そんなことはお主らのかんがえることではないわ。早く紙と筆を用意せい」
家久は決断すると早い。すぐに書状を作成すると、柳河へと送った。
翌日には、家久の意向が記された書状が柳河に届く。
ただ、松平忠直は長宗我部盛親と合流するため、久留米に向かっている。そのため、田中忠政に柳河を任せて、松平信綱、立花宗茂、真田幸村の三人も久留米へと向かった。
長宗我部盛親はまだたどりついていない。
「島津からの書状とは…」
忠直は不思議そうな顔をして書面を開いた。
読んでいくにつれ、表情が険しくなっていく。
「何が書かれてありますか?」
松平信綱が問いかける。その傍らには立花宗茂と真田幸村もいる。
「うむ。まず、一揆軍の撃退について祝着至極に存ずると書いておる」
「うん? ほぼ同盟状態で、熊本城も共同で落としたと聞きますが」
「続いて、日向と肥後については、五月の戦いの結果を受けて、農村や諸将が不穏当になったこともあり、九州に安定をもたらすため、やむをえず手を出したと書いておる」
一同が苦笑を浮かべる。
「肥後については、加藤美作守、加藤右馬允(正方)が対立しており、それが原因で一揆も起こることとなっていたために、この二人を切腹させ、加藤忠廣と清浄院については混乱を放置していた責任を取ってもらい、鹿児島で謹慎させているとある。従って、肥後が安定するまでもうしばらく我々に任せていただきたいと。日向については有馬殿や秋月殿を島津家が後ろ盾になっていたが、今後は徳川家にこれを任せたいとある」
「つまり、肥後はこのまま寄越せ、日向は返してやる。その条件で和睦をしようじゃないかということでございますな」
真田幸村も呆れたように言う。
「切支丹、毛利家といった面々を討伐するに際して、島津家としても叶う限りの協力をしたいと締めておるな」
「また、随分と諦めが早いですね。豊後で立花殿が蹴散らしたとはいっても、先遣隊の二千やそこらの兵だけでしょう?」
松平信綱は蔑むような口調であった。
「どうしたものかのう」
松平忠直の視線が田中忠政に向いた。
(田中については、表立って反抗はしていなかったから、穏便に処理することに問題はなかったが、島津の場合はそうもいかぬからのう…。とはいえ、以前立花殿も申しておったが、琉球のこともあるから島津を潰すというのは現実的ではない。潰せないのであれば、早い段階で和睦した方がよいのか)
「越前様、さすがにこの申し出を受けると、黒田殿、細川殿、鍋島殿らが不満を抱くと思いますが」
「うむ。分かっておる。ただ、受けないとなると熊本城を攻撃せねばならなくなるし、当然多大な時間がかかる。そうなると他の地域の応援が遅れることになる」
「その通りでございますな」
「恐らく島津はそれが分かって、こういう条件を吹っかけてきているのだろう。島津も本音はこの辺りで手を打ちたいのであろうが、だからといって無条件にやめるつもりでいるわけでもないと」
「恐れながら越前様…」
田中忠政が顔をあげる。
「島津については分かりませぬが、一揆軍に関しては私の得た情報としまして、ルソンからの援軍が天草や島原に向かっているということでございます」
「何?」
「一揆軍との交渉の中で、そのような形で脅しをかけてまいりました」
「イスパニアも支援するということか?」
「いえ、イスパニアの話は出てきませんでしたが、マニラで過ごしている以前日ノ本にいた者達が向かってくるということでございまして、その中にはかつて大名だった者達も何人かいる可能性があります」
「…となると、やはり島津と戦いを避けられるのであれば、避けた方が良いか。む、待てよ。こういう方策はどうだろう?」
忠直の提案に、四人は頷いた。
「よし、それでは信綱と真田殿に熊本まで行ってもらうことにしよう」
「分かりました」
10月10日。
熊本城の大広間で、島津家久、喜入忠続と松平信綱、真田幸村が向かい合う。
「先だって、島津殿より申し出のありました和睦条件でございますが、肥後は島津家のものとし、日向については徳川家に返還するという条件でよろしいか?」
松平信綱が尋ねる。
「はい。その通りでございます」
「この件について、九州郡代松平越前様の回答を申し上げます。島津家に肥後一国を与えることはやぶさかではないが、現在、肥後・天草では一揆軍が活動を続けており、これを鎮圧したうえであれば、譲ることを認める。これならば、島津殿の功績が明らかになり、他の者も納得するゆえ、ということでございます。いかがでしょうか?」
「ふむ。当然でございますな」
「それまでは熊本城は両家の管理とし、徳川家からは田中筑後守殿を派遣することといたします」
「田中殿?」
「何か?」
「いや、人選についてそれがしが言うところではないが、てっきり立花左近将監殿が来るのではないかと思っていたゆえ」
「立花殿は、島津家とは色々遺恨もあるゆえ、つまらぬいさかいが起こる可能性がある。今回、大切なのは徳川家のためであり、故に田中殿を代わりに派遣するということでございました」
「…左様であるか。ならば、島津家としても異議はない」
「それでは、和睦内容を清書し、誓書いたしましょう」
「うむ」
熊本城の祐筆達が和睦案を清書し、それを確認のうえ、島津家久と松平信綱が署名する。
「それでは、国境にいる田中殿をすぐに呼んでまいります」
信綱が従者に指示を出し、城の外へと走らせた。
その間、真田幸村は後ろで座っている。島津家久の視線が幸村に向いた。
「真田殿、先の大坂ではすさまじい活躍だったそうで…」
「いや、偶々武運が向いただけのことでございます」
「それは謙遜というものであろう。数日前の久留米での戦いでも、立花殿と阿吽の呼吸で一揆軍を壊滅させたとも伺った。誠に日ノ本一の兵とは、真田殿のことを言うのでありましょう」
「島津殿にも勇猛な薩摩隼人が多くいるではありませぬか。鬼島津殿の異名は私もよく知るところです」
「ああ、あれは私の父ではありますが、ただ単に勇猛なだけの猪武者でございます。とても真田殿のようなことはできませぬ。いやはや、素晴らしきことよ」
その後、幸村と信綱は家久のひとりよがりな話にしばらく付き合わされるのであった。
島津家久が舌を巻く。
「相当なものとは思うていたが、予想以上のものであるのう」
「かくなるうえは、この熊本城で徹底的に籠城するしか…」
「馬鹿を申すな」
家久が樺山久高をたしなめる。
「このあたりが潮時じゃろう。松平忠直と和睦する」
「和睦?」
一同が驚いた。
「何を驚いておるのじゃ。お主ら、まさかわしが九州を統一するまで意地でもやめぬとでも思っていたのか?」
「い、いや…」
「良いか。相手には真田幸村がおる。日本一の兵じゃ。そして、一か月前に豊後に派遣した偵察隊が立花宗茂にあっさりと返り討ちにあったということも忘れてはおるまい。つまり、これ以上を望むのは無理だということだ。そうである以上、今までの得たものをなるべく守る方向で動くのが良い」
「そんな虫のいい話が通りますか?」
「通らねば、毛利や切支丹と連携して戦うのみよ。徳川としてもこやつらを早く何とかしたいだろうから、そこから先は条件闘争となる」
「ということは、日向をいただき、肥後を返すということでしょうか?」
伝統的に島津家は薩摩・大隅・日向を根拠地としていることもある。先祖伝来の土地を確保したいという点であれば理由としても不相当でないように思われた。
「そんなことはお主らのかんがえることではないわ。早く紙と筆を用意せい」
家久は決断すると早い。すぐに書状を作成すると、柳河へと送った。
翌日には、家久の意向が記された書状が柳河に届く。
ただ、松平忠直は長宗我部盛親と合流するため、久留米に向かっている。そのため、田中忠政に柳河を任せて、松平信綱、立花宗茂、真田幸村の三人も久留米へと向かった。
長宗我部盛親はまだたどりついていない。
「島津からの書状とは…」
忠直は不思議そうな顔をして書面を開いた。
読んでいくにつれ、表情が険しくなっていく。
「何が書かれてありますか?」
松平信綱が問いかける。その傍らには立花宗茂と真田幸村もいる。
「うむ。まず、一揆軍の撃退について祝着至極に存ずると書いておる」
「うん? ほぼ同盟状態で、熊本城も共同で落としたと聞きますが」
「続いて、日向と肥後については、五月の戦いの結果を受けて、農村や諸将が不穏当になったこともあり、九州に安定をもたらすため、やむをえず手を出したと書いておる」
一同が苦笑を浮かべる。
「肥後については、加藤美作守、加藤右馬允(正方)が対立しており、それが原因で一揆も起こることとなっていたために、この二人を切腹させ、加藤忠廣と清浄院については混乱を放置していた責任を取ってもらい、鹿児島で謹慎させているとある。従って、肥後が安定するまでもうしばらく我々に任せていただきたいと。日向については有馬殿や秋月殿を島津家が後ろ盾になっていたが、今後は徳川家にこれを任せたいとある」
「つまり、肥後はこのまま寄越せ、日向は返してやる。その条件で和睦をしようじゃないかということでございますな」
真田幸村も呆れたように言う。
「切支丹、毛利家といった面々を討伐するに際して、島津家としても叶う限りの協力をしたいと締めておるな」
「また、随分と諦めが早いですね。豊後で立花殿が蹴散らしたとはいっても、先遣隊の二千やそこらの兵だけでしょう?」
松平信綱は蔑むような口調であった。
「どうしたものかのう」
松平忠直の視線が田中忠政に向いた。
(田中については、表立って反抗はしていなかったから、穏便に処理することに問題はなかったが、島津の場合はそうもいかぬからのう…。とはいえ、以前立花殿も申しておったが、琉球のこともあるから島津を潰すというのは現実的ではない。潰せないのであれば、早い段階で和睦した方がよいのか)
「越前様、さすがにこの申し出を受けると、黒田殿、細川殿、鍋島殿らが不満を抱くと思いますが」
「うむ。分かっておる。ただ、受けないとなると熊本城を攻撃せねばならなくなるし、当然多大な時間がかかる。そうなると他の地域の応援が遅れることになる」
「その通りでございますな」
「恐らく島津はそれが分かって、こういう条件を吹っかけてきているのだろう。島津も本音はこの辺りで手を打ちたいのであろうが、だからといって無条件にやめるつもりでいるわけでもないと」
「恐れながら越前様…」
田中忠政が顔をあげる。
「島津については分かりませぬが、一揆軍に関しては私の得た情報としまして、ルソンからの援軍が天草や島原に向かっているということでございます」
「何?」
「一揆軍との交渉の中で、そのような形で脅しをかけてまいりました」
「イスパニアも支援するということか?」
「いえ、イスパニアの話は出てきませんでしたが、マニラで過ごしている以前日ノ本にいた者達が向かってくるということでございまして、その中にはかつて大名だった者達も何人かいる可能性があります」
「…となると、やはり島津と戦いを避けられるのであれば、避けた方が良いか。む、待てよ。こういう方策はどうだろう?」
忠直の提案に、四人は頷いた。
「よし、それでは信綱と真田殿に熊本まで行ってもらうことにしよう」
「分かりました」
10月10日。
熊本城の大広間で、島津家久、喜入忠続と松平信綱、真田幸村が向かい合う。
「先だって、島津殿より申し出のありました和睦条件でございますが、肥後は島津家のものとし、日向については徳川家に返還するという条件でよろしいか?」
松平信綱が尋ねる。
「はい。その通りでございます」
「この件について、九州郡代松平越前様の回答を申し上げます。島津家に肥後一国を与えることはやぶさかではないが、現在、肥後・天草では一揆軍が活動を続けており、これを鎮圧したうえであれば、譲ることを認める。これならば、島津殿の功績が明らかになり、他の者も納得するゆえ、ということでございます。いかがでしょうか?」
「ふむ。当然でございますな」
「それまでは熊本城は両家の管理とし、徳川家からは田中筑後守殿を派遣することといたします」
「田中殿?」
「何か?」
「いや、人選についてそれがしが言うところではないが、てっきり立花左近将監殿が来るのではないかと思っていたゆえ」
「立花殿は、島津家とは色々遺恨もあるゆえ、つまらぬいさかいが起こる可能性がある。今回、大切なのは徳川家のためであり、故に田中殿を代わりに派遣するということでございました」
「…左様であるか。ならば、島津家としても異議はない」
「それでは、和睦内容を清書し、誓書いたしましょう」
「うむ」
熊本城の祐筆達が和睦案を清書し、それを確認のうえ、島津家久と松平信綱が署名する。
「それでは、国境にいる田中殿をすぐに呼んでまいります」
信綱が従者に指示を出し、城の外へと走らせた。
その間、真田幸村は後ろで座っている。島津家久の視線が幸村に向いた。
「真田殿、先の大坂ではすさまじい活躍だったそうで…」
「いや、偶々武運が向いただけのことでございます」
「それは謙遜というものであろう。数日前の久留米での戦いでも、立花殿と阿吽の呼吸で一揆軍を壊滅させたとも伺った。誠に日ノ本一の兵とは、真田殿のことを言うのでありましょう」
「島津殿にも勇猛な薩摩隼人が多くいるではありませぬか。鬼島津殿の異名は私もよく知るところです」
「ああ、あれは私の父ではありますが、ただ単に勇猛なだけの猪武者でございます。とても真田殿のようなことはできませぬ。いやはや、素晴らしきことよ」
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