【完結】かわいい彼氏

  *  ゆるゆ

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ちょっとおとな

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 桜が咲く。
 舞い降りる花びらを追いかけるたび、世界を薄紅に染めあげる花を見あげるたび、遥斗は涼真と出逢った日を思いだす。

 遥斗と涼真は小学校3年生に進級した。
 青いランドセルが、随分さまになってきて、得意になっていたのに。

「まだ手ぇつないで登校してんの?」

「ガキっぽーい!」

 からかわれるようになった。

 ぷくりとふくれた遥斗は、そっと隣の涼真に目を移す。

 自分が何と言われるのも構わないけれど、りょーくんまで酷いことを言われたり、からかわれたりするのは、だめだ。

 小学校3年生になって、オトナに近づいた遥斗は、男の子が男の子をすきになるのは、ちょっとめずらしいことだと学習していた。

 テレビで見た。
 びーえるというのだ。ぼーいずらぶの略らしい。

 ドラマもしてるみたいで、人気があるみたいで、びーえるを、すきになってくれる人はたくさんいるけれど、でも偏見を持つ人も多いのだという。

 びーえるは、すきだけど、現実は無理な人もいるみたいだ。

 同性同士がずっと一緒にいることは、パートナーシップ制度でしか実現できないことも知った。

 正式に、りょーくんと、伴侶になれない。

 打ちのめされた8歳の遥斗はしょんぼりした後で、気づいた。


 りょーくんの恋人にさえ、なってなかった!


 もっと、しょんぼりした。



 そう、恋人でもない、小学校2年生でもなくなってしまった遥斗は、お手々をつないで登下校から卒業しなくてはならないのだ。

 しょんもり遥斗は、うつむいたまま、ささやいた。


「……りょーくん、手、つなぐの、やめる?」

 夜空の瞳が、瞬いた。

 涼真が、首をふる。

 夜空の髪が、さらさら揺れる。


「で、でも、皆がうるさいよ」

 しばらく沈黙した涼真が、こくりとうなずいた。


「……ハルが、いやなら……」

 ちいさな声にかぶさるように叫んだ。


「いやじゃないよ!」

 涼真の手をにぎった。

 ぎゅうぎゅう、にぎった。


「いやじゃない!」

 泣きだしそうに揺れる視界で、叫んだ。

 目を見開いた涼真が、遥斗の手をにぎってくれる。

 ぎゅうぎゅう、にぎってくれる。


「……じゃあ、皆のいない、ところで」

 ほんのり朱いまなじりで、ささやいてくれた。

 跳びあがった遥斗は、とろけて笑う。


「うん!」

 皆がいるのは小学校の近くだけだ。すぐにふたりきりの道になる。

 りょーくんと、手をつないでいられる。

 ちょっと遠い小学校に通えることが、うれしくてたまらなくなる。









 小学3年生は、ちょっとオトナだ。
 2月になると女の子たちが、きゃわきゃわして、男の子たちが、そわそわしてる。

「一条くんって、かっこいーよね」

 涼真の名前が呼ばれた途端、遥斗は『ぐりん!』と振り向きたいのを懸命にこらえた。

 誰が、りょーくんをかっこいーと言ったのか、そうっと見る。

 かわいい女の子だと、遥斗の胸は、ぎゅうぎゅう軋んだ。


「えー、無口すぎない?」

 唇を尖らせる女の子も、顔が赤い。

「そこがいーの!」

「チョコあげるー?」

 楽しそうに、ちょっと恥ずかしそうに、うれしそうに、明るく笑う女の子たちに、ぎゅうぎゅうする胸を押さえた遥斗は、ふしぎな言葉に首をかしげた。

「ちょこ?」

 涼真はよく手作りのクッキーやケーキをもらっているけれど、チョコレイトは珍しい。

「うっそ、はると、知らねーの?」

 にやにやしたクラスメイトに小突かれた。

「すきな人に、チョコをあげる日なんだよ」

 眼鏡のクラスメイトが教えてくれる。

「2月14日!」

「ばれんたいん!」

 瞬いた遥斗は涼真を振りかえる。


「そうなの?」

 こくんと涼真がうなずいた。

 なるほど、ほんとうらしい。


「はると、いっつも、りょうまに確認するよな」

 つまらなさそうに言うクラスメイトに、遥斗は胸を張る。

「だって、りょーくん、嘘つかないもん」

「なんだよ、俺らが嘘つきだってのか?」

 遥斗は、しっかりうなずいた。

「この間、今日、ふのみそ汁って言ったのに、給食、コーンスープだった!」

 ちゃんと覚えているんだぞ!

「あ、あれは冗談っていうか、恐怖のみそ汁だよ。言いがかりだ!」

 クラスメイトは憤慨していたけれど、遥斗が信じられるのは、いつだって涼真だ。


 皆の言うことがほんとうなら、2月14日は、すきな人にチョコレイトをあげる日なのだ。


 りょーくんに、チョコレイトをあげる日だ!







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