【完結】かわいい彼氏

  *  ゆるゆ

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おねだり

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「友達にあげるチョコは、友チョコって言うんだぞ」

「自分にあげるチョコは、自分チョコ、ごほうびチョコなんだってー」

 得意げに胸を張って教えてくれるクラスメイトに、遥斗は素直に感心した。

「へー。皆もあげるの?」

 首を傾げた遥斗に、皆は顔をみあわせる。

「い、いや、男があげてもいいと思うけど……」

 もごもごしてる。

「女の子が、男の子にくれる日だったんだって」

 クラスメイトの眼鏡が輝いた。

「それが、友チョコとか、自分にごほうびチョコとか、男もあげたらいいじゃんみたいになってきたっぽい」

「くわしいね!」

 みんな、すごいなあ。

 尊敬の目になる遥斗に、ちょっと赤くなった皆が笑った。

「知らない、はるとのほうが珍しいから」

 肩に手を置かれた。
 ちょっと恥ずかしくなった。

 そういえば、オトナな高校生のアニメでも、ちょこれいとの話があった気がする。


 ばれんたいんが、チョコレイトをすきな人にあげる日なら

 ……りょーくんに、あげる……?

 それはきっと、昔なら告白の意味だったのかもしれないけれど、今なら友達のチョコレイトだと思ってもらえるかもしれない。


 ひそやかに『りょーくん、だいすき』が伝えられるかもしれない。


 とくりと遥斗の鼓動が跳ねる。

 一緒に帰る道で、涼真の手を、いつもより、ぎゅっとにぎってしまった。


『痛い』とか『離せ』とか、涼真は言わない。

 応えるように、遥斗の手をにぎりかえしてくれる。


 ぎゅ

 涼真の手をにぎるたび


 ぎゅう

 涼真がにぎりかえしてくれるたび


 とくとく遥斗の鼓動は駆けてゆく。



 心臓が音をたてるたび、遥斗は涼真がすきになる気がした。


 手をつなぐたび

 瞳がかさなるたび


 涼真に夢中になって


 瞳がうるんで

 頬が熱くて



 どんどん涼真が、だいすきになってゆく。

 







「おかーさん、おこづかい、ください!」

 両手を出して頭をさげた遥斗に、おかあさんは眉をひそめた。


 どちらかというと厳しいおかあさんが、遥斗のお小遣い担当だ。
 最初はおとうさんが、お小遣いをくれようとしたのだけれど

『際限なくあげちゃうでしょう! だめ!』

『えぇ~』

『遥斗のお小遣いは、おかーさんが、あげます!』

 おかあさんの猛反対によって、おとうさんは遥斗にお小遣いを決してあげないよう宣告された。おとうさんが、しおしおしょげてた。遥斗もせつない。


 なので、遥斗が交渉するのは、おかあさんだ。

 てごわい。

 今も、おかあさんの目は、うろんだ。


「前借りなんて覚えるのはよくないよ。我慢しなさい」

 いつもなら、ここであきらめる。
 しょんぼりして、来月を待つ。

 でも遥斗は首をふった。

 りょーくんに『だいすき』を、ひっそり、こっそり、伝えたい……!


「だめ! 2月14日じゃないとだめなんだって!」

 きょとんとしたおあかさんが、悲痛な顔になる。


「すきな子ができたの──!?」

 おかあさんの悲鳴に、おとうさんも飛んできた。


「そ、そうなのか、遥斗──!」


 ──年長さんのときから、ずっと、りょーくんがすき。


 打ち明けたら、やさしい両親は、遥斗のことをきらいになってしまうだろうか。

 胸が、ぎゅうっとする。

 涼真の両親にも伝わったり、涼真がいやな思いをすることになったらだめだと、遥斗は首をふる。


「あ、あの、友チョコ、あげるって聞いて。毎日、一緒に登下校してるから。りょーくんにあげたいなって」

 ぽそぽそ、半分ほんとうのことを告げた。

 上目遣いで見あげたら、両親はほっとしたように吐息する。


「なあんだ、そっか」

 おかあさんも、おとうさんも、いっぺんに顔がほにゃほにゃになった。

「女の子を連れてくるのかと、どきどきしたよ!」


『男の子のりょーくんを連れてきたいです』

 言いたい口が、もごもごした。


「あ、あの、それで、おこづかい……」

 上目遣いで、おかあさんを見あげる。

「仕方ないわねえ」

 ため息とともに、おかあさんが財布を開いてくれた。

「はる、こういう急な出費に備えて、おこづかいは、きちんと貯めておかないとだめだぞ」

 かがんで目をあわせて諭してくれるおとうさんに、遥斗はうなだれる。

「だって、ばれんたいん、知らなくて……ゲームの発売日だった……」

 貯めたおこづかいが、一瞬で消える日だ。


「それは仕方ないな」

 おとうさんが納得してくれた。よかった。




 無事、おこづかいをもらえました! やた!


 チョコレイト、買いにゆくよー!







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