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おねだり
しおりを挟む「友達にあげるチョコは、友チョコって言うんだぞ」
「自分にあげるチョコは、自分チョコ、ごほうびチョコなんだってー」
得意げに胸を張って教えてくれるクラスメイトに、遥斗は素直に感心した。
「へー。皆もあげるの?」
首を傾げた遥斗に、皆は顔をみあわせる。
「い、いや、男があげてもいいと思うけど……」
もごもごしてる。
「女の子が、男の子にくれる日だったんだって」
クラスメイトの眼鏡が輝いた。
「それが、友チョコとか、自分にごほうびチョコとか、男もあげたらいいじゃんみたいになってきたっぽい」
「くわしいね!」
みんな、すごいなあ。
尊敬の目になる遥斗に、ちょっと赤くなった皆が笑った。
「知らない、はるとのほうが珍しいから」
肩に手を置かれた。
ちょっと恥ずかしくなった。
そういえば、オトナな高校生のアニメでも、ちょこれいとの話があった気がする。
ばれんたいんが、チョコレイトをすきな人にあげる日なら
……りょーくんに、あげる……?
それはきっと、昔なら告白の意味だったのかもしれないけれど、今なら友達のチョコレイトだと思ってもらえるかもしれない。
ひそやかに『りょーくん、だいすき』が伝えられるかもしれない。
とくりと遥斗の鼓動が跳ねる。
一緒に帰る道で、涼真の手を、いつもより、ぎゅっとにぎってしまった。
『痛い』とか『離せ』とか、涼真は言わない。
応えるように、遥斗の手をにぎりかえしてくれる。
ぎゅ
涼真の手をにぎるたび
ぎゅう
涼真がにぎりかえしてくれるたび
とくとく遥斗の鼓動は駆けてゆく。
心臓が音をたてるたび、遥斗は涼真がすきになる気がした。
手をつなぐたび
瞳がかさなるたび
涼真に夢中になって
瞳がうるんで
頬が熱くて
どんどん涼真が、だいすきになってゆく。
「おかーさん、おこづかい、ください!」
両手を出して頭をさげた遥斗に、おかあさんは眉をひそめた。
どちらかというと厳しいおかあさんが、遥斗のお小遣い担当だ。
最初はおとうさんが、お小遣いをくれようとしたのだけれど
『際限なくあげちゃうでしょう! だめ!』
『えぇ~』
『遥斗のお小遣いは、おかーさんが、あげます!』
おかあさんの猛反対によって、おとうさんは遥斗にお小遣いを決してあげないよう宣告された。おとうさんが、しおしおしょげてた。遥斗もせつない。
なので、遥斗が交渉するのは、おかあさんだ。
てごわい。
今も、おかあさんの目は、うろんだ。
「前借りなんて覚えるのはよくないよ。我慢しなさい」
いつもなら、ここであきらめる。
しょんぼりして、来月を待つ。
でも遥斗は首をふった。
りょーくんに『だいすき』を、ひっそり、こっそり、伝えたい……!
「だめ! 2月14日じゃないとだめなんだって!」
きょとんとしたおあかさんが、悲痛な顔になる。
「すきな子ができたの──!?」
おかあさんの悲鳴に、おとうさんも飛んできた。
「そ、そうなのか、遥斗──!」
──年長さんのときから、ずっと、りょーくんがすき。
打ち明けたら、やさしい両親は、遥斗のことをきらいになってしまうだろうか。
胸が、ぎゅうっとする。
涼真の両親にも伝わったり、涼真がいやな思いをすることになったらだめだと、遥斗は首をふる。
「あ、あの、友チョコ、あげるって聞いて。毎日、一緒に登下校してるから。りょーくんにあげたいなって」
ぽそぽそ、半分ほんとうのことを告げた。
上目遣いで見あげたら、両親はほっとしたように吐息する。
「なあんだ、そっか」
おかあさんも、おとうさんも、いっぺんに顔がほにゃほにゃになった。
「女の子を連れてくるのかと、どきどきしたよ!」
『男の子のりょーくんを連れてきたいです』
言いたい口が、もごもごした。
「あ、あの、それで、おこづかい……」
上目遣いで、おかあさんを見あげる。
「仕方ないわねえ」
ため息とともに、おかあさんが財布を開いてくれた。
「はる、こういう急な出費に備えて、おこづかいは、きちんと貯めておかないとだめだぞ」
かがんで目をあわせて諭してくれるおとうさんに、遥斗はうなだれる。
「だって、ばれんたいん、知らなくて……ゲームの発売日だった……」
貯めたおこづかいが、一瞬で消える日だ。
「それは仕方ないな」
おとうさんが納得してくれた。よかった。
無事、おこづかいをもらえました! やた!
チョコレイト、買いにゆくよー!
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