【完結】かわいい彼氏

  *  ゆるゆ

文字の大きさ
9 / 75

ぎゅう

しおりを挟む



 遥斗のおかあさんが、ショッピングモールに設けられたチョコレイトコーナーに連れて行ってくれた。
 きらきらの包み紙に、愛がいっぱい詰まっているみたいで、遥斗の胸がどきどきする。

 500円玉をにぎりしめた遥斗は、一生懸命チョコレイトを選んだ。
 ちょっと足りなかったけど、お小遣いの前借りで乗り切った。

「前借りなんて、これきりよ。癖になると、借金地獄に落ちるから」

 こわい。

 こくこくうなずいた遥斗は、チョコレイトを買った。白い包みに青いリボンの、きれいなチョコレイトだ。

 凛として、涼やかで、かっこいー。

 りょーくんに、似てると思った。
 これだ! って。
 

 遥斗の手のなかで、ちいさな箱に包まれたチョコレイトが揺れる。

 カタカタ音が鳴るたび、とくとく鼓動が駆けた。


『友ちょこ、あげる』

 そう言って、渡せばいい。


『りょーくん、だいすき』を。


 




 2月14日、帰り道で渡そうと、ランドセルにチョコレイトを忍ばせた遥斗は、朝からどきどきだ。

 涼真とつなぐ手まで、さっむいのに汗ばんでしまう気がする。

 いちおう学校におやつを持ってきてはいけないことになっていて、チョコレイトもだめなのだけれど、年に一度の行事だからか、黙認してくれているようだった。

 学校全体が、きゃわきゃわ、そわそわしている。


 涼真と一緒に校門をくぐって、すぐだった。

「あ、あの、一条くん、これ──! もらって、ください!」

 女の子が、♡のチョコレイトを差しだした。

 瞬く涼真に、女の子はチョコレイトを押しつけて、真っ赤な耳で駆けていった。


 肺を錐で刺されたみたいに、息ができない。

 ぎゅうぎゅうする胸で、遥斗はふるえる唇を開く。


「……あ、あの……りょーくん、さっきの子と……つきあう、の……?」


「………………は…………?」

 びっくりするほど、低い声だった。

 跳びあがる遥斗を、いつも涼やかな涼真の切れ長の瞳がにらみつける。

「二度と、言うな」

「……で、でも……」


「絶対、ない」

 断言してくれた。


 喜んだら、あの女の子に申しわけない。わかっているのに、胸はとくとく音をたてた。

 さっきは息ができないほど痛かったのに、今はふわふわあったかい。


「……りょーくん」


『僕も、りょーくんに、チョコレイト持ってきたんだ。りょーくんが、だいすきだから』

 言えない唇が、もごもご動いた。



「行こう、ハル」

 涼真が、手をひいてくれる。

 つながる指があったかくて、頬が熱い。

 涼真のそばにいられる、それだけで、いつだって、どきどきするんだ。
 





「一条くん、これあげる」

「あたしも!」

「もらってください!」

 次々女の子がやってきて、可愛らしいチョコレイトの包みを渡していった。

「いらない」

 断ろうとする涼真の手に、ぴんくの包みが押しつけられる。

「もらってくれるだけでいいの!」

「おねがい!」

 困ったように涼真の眉が下がって、涼真の机にはチョコレイトが積みあがった。


「一条、やべえ」

 男の子たちの視線は、最初は冷たかったけれど、だんだん尊敬になってきた。

 チョコレイトにうずもれるような涼真を見かねた担任の先生が、紙袋をくれる事態だ。

「これに入れて机の横にかけておこうか。……いいなあ、一条──!」

 お兄さんな先生の本音がこぼれてた。


「りょーくん、すごいね」

 胸が痛いとか、切なさを超えて、遥斗まで、びっくりになってきた。

 可愛い女の子からチョコレイトをもらったら、うれしいと思う。

 けれど、うつむく涼真は、困っているようだった。
 断っているのに渡されちゃうと、困ると思う。

『もらってくれるだけでいい』まで拒絶されたら、すごく傷つく。それをわかっているから突き返さないのだろう涼真は、やっぱり、やさしい。

 紙袋にぱんぱんに詰まってゆくチョコレイトを見つめた遥斗は、そっとランドセルを抱きしめる。

 遥斗のチョコレイトが、行き場を失くした気がした。






 学校では勿論、帰り道でも、遥斗は『チョコレイト、あげる』言いだせなかった。

 あんなにたくさんチョコレイトがあるんだから、さらに渡すと迷惑になるというのもあったし、数多のチョコレイトに埋もれてしまうという、さみしさもあった。


 いつものとおり、手をつないで帰っているのに、涼真が遠くに行ってしまった気がした。

 遥斗の手の届かない、遠くへ。



「……じゃあ、りょーくん、また明日ね」

 手をふって、お互いの家に入ろうとしたとき、離そうとした手をつかまれた。


「ハル、これ」

 涼真が鞄から取りだしたのは、白い包みだった。


「なあに?」

「やる」

 ぐい、と押しつけられた遥斗は、白い包みに結ばれた赤いリボンの蝶結びに目を落とす。


「どうしたの、りょーくん。今日は、僕の誕生日じゃないよ。今日は──」

 バレンタイン。チョコレイトをあげる日だ。


「…………え…………?」

 手の中の包みに、目を落とした。


 遥斗はずっと涼真にくっついていたから、女の子たちが涼真に渡したチョコレイトもぜんぶ見た。赤やピンク、たまに黄色の包み紙があったけれど、白はなかった。おぼえてる。


「……これ……」

 涼真のまなじりが、ほんのり朱い。


 跳びあがった遥斗は、あわててランドセルを下ろした。もう涼真には渡せないから、両親に、いつものお礼だと言って渡そう、そう思っていたチョコレイトを取りだした。

 ランドセルのなかでカタカタ揺れて、曲がってしまったリボンを丁寧になおす。


「りょーくん、これ、あげる」


『りょーくん、だいすき』を、あげる。


 差しだしたら、涼真は目をまるくした。



「……え……?」

 遥斗とおんなじ反応だ。笑った遥斗は、涼真の手のなかに、青いリボンをかけた白い包みを押しこんだ。


「いっぱいあって、いらないかもしれないけど、でも、いつもありがとうの、僕の気もち」


 ほんとは『だいすき』の気もち。


 熱い頬で、ささやいた。

 遥斗と、青いリボンのチョコレイトを何度も見た涼真の唇が、やわらかにほころんだ。



「……ありがとう、ハル」

 笑ってくれた……!

 きゅんきゅん、遥斗の胸が音をたてる。


「僕も、ありがとう! りょーくんからもらえるなんて、思ってもみなかったから、すっごくうれしい!」

 白い包みを抱きしめて、笑う。
 涼真も、青いリボンの包みに、微笑んでくれた。


「じゃあ、また明日!」

 手をふって、家に入る。


 どきどき鳴る胸で、ランドセルを背負ったままの遥斗は、ふるえる指で、紅いリボンをほどき、白い包みを開けた。

 なかには、まるいチョコレイトが入っていた。ふわふわのココアがまぶしてある。


「おお、遥斗、おかえり。チョコレイトもらったのか!」

 バレンタインだからと、会社員なおかあさんといっしょに有給休暇をもぎとって、ふたりでデートしたらしいおとうさんが、目敏い。

 いや、玄関でランドセルを背負ったまま、包みを開けている息子がいたら、気になるだろう。しかも今日はバレンタインだ。

「はるちゃん、すごい! 初チョコレイトじゃない!? 見せて見せて」

 おかあさんも飛んできた。遥斗の手のなかのチョコレイトに、おかあさんの目がまるくなる。

「すごい、トリュフじゃん。高そう。どこの?」

 おかあさんに、ぺっと包み紙を奪われた。

「……あれ、何も書いてない」

 ふつうなら店の名前を印字してあるのに、確かに紙は真っ白だ。

「わあ、これ、手づくりなんじゃない? はるちゃん、やるう!」

 ばんばん背を叩かれた。いたい。

 じゃなかった!

「て、手づくり!?」

「紙にもリボンにも店名がないし、原材料とかのシールもないでしょう。手づくりだよ、きっと。誰からもらったの?」

 遥斗はもごもご口を動かして、首をふった。

「て、手づくりじゃ、ない、と思う、よ」


 だって、涼真が遥斗に、手づくりのチョコレイトをくれるだなんて、ありえない。

 あ、そうか、あのおねえちゃんみたいなおかあさんが、あのやさしそうなおとうさんが、涼真に作ってあげたチョコレイトの残りを包んでくれたのかも。それならわかる。おすそわけだ。


 ──きっと、何の意味もない。

 わかっているのに、チョコレイトをつまむ指は、ふるえた。


 そうっと口にいれる。

 ココアパウダーが、ほんのりほろ苦くて、歯を立てると、くしゅりと溶けたチョコレイトは、とろけるように甘かった。



「……おいしー……」


 涼真が、遥斗にくれたチョコレイトだ。


 何の意味もなくても、おそすわけでも、胸の奥が、じんわり熱い。



 うれしいのに、胸の奥が、ぎゅうっとする。








しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために

ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話 ※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。

地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。 誰の心にも触れたくない。 無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。 その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。 明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、 偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。 無機質な顔の奥に隠れていたのは、 誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。 気づいてしまったから、もう目を逸らせない。 知りたくなったから、もう引き返せない。 すれ違いと無関心、 優しさと孤独、 微かな笑顔と、隠された心。 これは、 触れれば壊れそうな彼に、 それでも手を伸ばしてしまった、 不器用な男たちの恋のはなし。

血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】

まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

オレにだけ「ステイタス画面」っていうのが見える。

黒茶
BL
人気者だけど実は人間嫌いの嘘つき先輩×素直すぎる後輩の (本人たちは気づいていないが実は乙女ゲームの世界である) 異世界ファンタジーラブコメ。 魔法騎士学院の2年生のクラウスの長所であり短所であるところは、 「なんでも思ったことを口に出してしまうところ。」 そして彼の秘密は、この学院内の特定の人物の個人情報が『ステータス画面』というもので見えてしまうこと。 魔法が存在するこの世界でもそんな魔法は聞いたことがないのでなんとなく秘密にしていた。 ある日、ステータス画面がみえている人物の一人、5年生のヴァルダー先輩をみかける。 彼はいつも人に囲まれていて人気者だが、 そのステータス画面には、『人間嫌い』『息を吐くようにウソをつく』 と書かれていたので、うっかり 「この先輩、人間嫌いとは思えないな」 と口に出してしまったら、それを先輩に気付かれてしまい・・・!? この作品はこの1作品だけでも読むことができますが、 同じくアルファポリスさんで公開させていただいております、 「乙女ゲームの難関攻略対象をたぶらかしてみた結果。」 「俺が王太子殿下の専属護衛騎士になるまでの話。」 とあわせて「乙女ゲー3部作」となっております。(だせぇ名前だ・・・笑) キャラクターや舞台がクロスオーバーなどしておりますので、 そちらの作品と合わせて読んでいただけたら10倍くらい美味しい設定となっております。 全年齢対象です。 BLに慣れてない方でも読みやすいかと・・・ ぜひよろしくお願いします!

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

処理中です...