5 / 22
ららぽるん!
しおりを挟むお昼休みのチャイムが鳴ったら、お弁当とスマートフォンをつかんだ俺は、屋上へと駆けた。
気もちいい春の陽射しを弾く画面のマナーモードを解除する。
『お昼ごはん、真紀ちゃん、何食べた?
俺はね、屋上でお弁当。昨日の夜に作ったんだ。オムライス弁当だよ!』
ららぽるん!
着信音に鼓動が跳ねる。
スマートフォンをのぞきこむ頬が熱い。
『へえ、えらいな』
『えへへ。真紀ちゃんにも、ご飯つくってあげる!』
ららぽるん!
『たのしみ』
『ほ、ほんとに!? うれしい!
真紀ちゃん、今日のお昼は?』
ららぽるん!
『出先で立ち食いのたぬき。意外にうまい』
返してくれるメッセージ、ひとつひとつに、とろけてしまう。
「えへへへへえ」
スマートフォンばっかり気にするようになった俺に、一緒に屋上でパンをかじる友樹は、渋い顔だ。
「……わるい社会人に、だまされてんじゃねえの?」
「俺から告白したのに?」
きょとんとしたら、友樹はもっと渋い顔になった。
「気をつけろよ! まだ15歳なんだからな!
色々したらだめだから!」
真っ赤な顔で叫ばれた。
「い、いろいろ……!」
きゃ──!
『真紀ちゃん、真紀ちゃん、彼氏だよ! いろいろするんだよ! どうしよう!
きゃ──!』
ららぽるん!
『俺を犯罪者にする気か──! 3年我慢しろ──!』
しかられた。
スマートフォンから顔をあげた俺は、笑う。
「真紀ちゃん、やさしい、誠実な人だよ」
「そうだとしても、相手は大人なんだぞ。
高校生なんて、まだ15歳の子どもなんて、若いだけだろ。すぐつまんなくなるんじゃねえの?」
ぶっすりした友樹の言葉が、胸に刺さる。
……つまらない、かな。
うっとうしい、かな。
……うざい……?
考えたら、泣いてしまいそうだったから
『真紀ちゃん、だいすき』
ららぽるん!
『……俺も。愛希がすき』
──あぁ
うれしいときも、涙はこぼれるんだね。
メッセージを抱きしめる指が、ふるえてる。
まだ、逢ったばかりなのに
あなたのことを
揺れる髪とか
めちゃくちゃいい匂いがするとか
やさしい瞳とか
身体の芯に響く声とか
そっけないのに、やさしいメッセージしか、知らないのに
あなたを、すきになるには
もう、充分なんだ。
* * *
満員電車は、苦痛だ。
「あっ、すみませぇん!」
ちっとも『すまない』と思ってないだろう! という、にやにやした顔で、しなだれかかられるとか、もう真剣に勘弁してほしい。
『またまたあ、真紀ってば、もてて、うれしいんじゃないの?
かわいー子に、寄りかかられるとか、最高じゃん!』
『じゃあ、お前がなってみろ、麗乃!
初対面の、よく知らない人に寄りかかられるとか、きもちわ……自粛する』
いとこの麗乃にからかわれたことまで思いだして、余計に気分が落ちこんだ。
「きゃー、かっこいー!」
「やばくない?」
「声かける?」
「きゃ──!」
『いや、もう、顔のことはいいから』言いたくなる。
ほんとうは目深にキャップをかぶって、マスクと眼鏡で出勤したいが『真紀のその顔面力で、営業を頼みたい!』麗乃に泣いてすがられたので、髪や顔が崩れるといけないから、仕方なく顔をさらして出勤しているが、毎朝これか……!
こっちは出勤なんだよ。
この顔面は仕事に使うんだよ。
やめてくれ……!
うんざりする、暖房で蒸し暑い秋の満員電車で、かわいーのが流れてきた。
「……ぃーにぉぃ……」
人に、ことんと寄りかかって、寝た──!
「……え……? だ、だいじょうぶか……!?」
気分がわるいんじゃと思って心配したが、やすらかに寝てる。立ったまま。
……何だこの子!
びっくりした。
また『すいませぇん』かと思ったら、青城高校の制服だ。男子校だ。
しかも、真剣に寝てる……!
「ぐぅ」
気持ちよさそうだ。
ちっちゃい。
あったかい。
なんだこの子、いー匂いがする。
「……ん……」
人の胸を枕にして、居心地よいところにおでこをすりつけるとか、他の人にされたら『ぐぃいいい』押しのけそうなのに。
ふわふわの栗色の髪が、あごの下で揺れた。
くすぐったい。
まつげ、ながい。
なんだこの、かわいー子。
めちゃくちゃ、いー匂いがする……!
知らない間に、抱っこしてた。
……だって、寝てるから。
ほら、崩れ落ちたら危ないし。
そう、危険な高校生を保護してるだけだ、やましい気もちなんて、全然──
…………ない? ほんとうに……?
とくん
胸が、音をたてる。
とくん
目を開いてほしくて
俺を、映してほしくて
どきどきする。
524
あなたにおすすめの小説
目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?
綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。
湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。
そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。
その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。
転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~
トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。
突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。
有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。
約束の10年後。
俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。
どこからでもかかってこいや!
と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。
そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変?
急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。
慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし!
このまま、俺は、絆されてしまうのか!?
カイタ、エブリスタにも掲載しています。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
* ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
ヴィル×ノィユのお話です。
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけのお話を更新するかもです。
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】かわいい彼氏
* ゆるゆ
BL
いっしょに幼稚園に通っていた5歳のころからずっと、だいすきだけど、言えなくて。高校生になったら、またひとつ秘密ができた。それは──
ご感想がうれしくて、すぐ承認してしまい(笑)ネタバレ配慮できないので、ご覧になるときはお気をつけください! 驚きとかが消滅します(笑)
遥斗と涼真の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから飛べます!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】もふもふ獣人転生
* ゆるゆ
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
もふもふ獣人リトと、攻略対象の凛々しいジゼの両片思い? なお話です。
本編、舞踏会編、完結しました!
キャラ人気投票の上位のお話を更新しています。
リトとジゼの動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントなくてもどなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
『伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします』のノィユとヴィル
『悪役令息の従者に転職しました』の透夜とロロァとよい子の隠密団の皆が遊びにくる舞踏会編は、他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きしているので、お気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
ジゼの父ゲォルグ×家令長セバのお話が『ずっと、だいすきです』完結済みです。
ジゼが生まれるお話です。もしよかったらどうぞです!
第12回BL大賞さまで奨励賞をいただきました。
読んでくださった方、応援してくださった皆さまのおかげです。ほんとうにありがとうございました!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる