【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ

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どきどき

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 いつもなら、知らない人に密着されるのも、胸で眠られるのも、ましてや、よだれまみれにされるとか……! きもちわ……自粛する! しかないのに、どうして、この子は、全然いやじゃないんだろう。

 それどころか、抱っこしてしまうんだろう。


 ふわふわの髪も、ぐうぐうの寝顔も、桜の唇からこぼれてゆく、よだれまで。

 かわいい。


 ……どうしよう。

 胸がよだれで濡れてゆくことさえ、どきどきする。


 そっと、髪をなでてみた。

 ふあふあだった。

 どきどきする。


 ちいさな肩だ。

 手は? 指は? ちいさい?

 ふわふわの髪に鼻をうずめて、すんすんしたい……!


 落ちつけ、俺──!

 内心わたわたで、顔は大人を装って、でも抱っこする手に、ちょっと力がこもったりしていたら
 

「青城ー、青城です。右の扉が開きます。扉にご注意ください」

 少年が跳び起きた。


 幻のような時間は、終わったらしい。


 あたたかな、ちいさな身体が、離れる。

 とても、とても残念に思っていたら

「あ、あの、明日もこの電車に乗りますか!?
 俺、愛希です! 片白愛希!」

『あき』

 きみの名が、きらきら胸に落ちてくる。


「東城真紀」

 俺の名を告げる声が、はずんでる。







 クリーニング代を払ってほしいとかじゃない、また明日逢えるかもしれないことがうれしくて、俺の顔は崩れていたらしい。

「何にやにやしてんの、真紀。っていうか、そのシャツどうしたんだ! 濡れてるぞ!
 っつか、透けてて、えろいから──! 着替えろ!」

 出社した途端、いとこの麗乃に、しかられた。


「れいの社長の服も、いっつも胸元はだけてて、えろいと思いまーす!」

「いや、こいつのは、えろいというより、だらしないだろ」

「ひどい、真紀──!」

 親族と同級生しかいないスタートアップは資金繰りが厳しかったりするが、言いたいことを言えて、とても気楽だ。

 その厳しい資金繰りを何とかするために、社内でいちばん顔がよく、いちばん真面目そうで、一番しっかりしているという謎の評価を受けた俺が、毎日、営業や交渉を頑張っている。が

「プログラミングだけやってたいのに……」

 ついこぼれた本音に、麗乃が眉をさげた。

「いやもう、ほんとにごめん! でも俺が行ったら会社が終わりそうなんだけど!」

 幼なじみ兼いとこの麗乃に泣きつかれると弱い。


「じゃあ、外回り行ってくる」

「あ、シャツ着替えろよ!」

 さけぶ麗乃に、首をふる。

「すぐ乾くだろ。平気」

 かるく手をあげた。


 きみとの縁が切れてしまうみたいで、着替えたくないなんて。

 ……はずかしい。


 もういちど、きみに、逢いたい。

 ……思うだけで、どきどきする。


 ふあふあの髪に、もういちど、ふれたい。

 また、この胸で、眠ってくれないだろうか。

 願っても、高校生の愛希と社会人の自分では、毎日の電車で『おはよう』あいさつするくらいが、せいぜいだと思っていたのに。



「すきです。つきあってください!」


 告白された。


 鼓動が、止まった。


 いや、満員電車だぞ……!


 顔が、燃える。

 本気じゃないだろうとか、冗談かなとか、思う理性と、うらはらに、めちゃくちゃ、うれしい。


 ……どうしよう。

 高校生に告白されて、うれしくて、泣きそうだなんて、社会人としてどうなんだ……!

 自分へのつっこみすらも『愛希が、俺に、告白してくれた!』お祝いのファンファーレに変わってゆく。


 うれしくて

 はずかしくて

 夢みたいで


「よろしく、あき」

 しか言えなかった。



 告白されて、こんなにうれしかったのは、はじめてかもしれない。

 交換した電話番号に、どきどきする。


 まるで、はじめて、恋をしたみたいに。







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