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ららぽるん!
しおりを挟むお昼休みのチャイムが鳴ったら、お弁当とスマートフォンをつかんだ俺は、屋上へと駆けた。
気もちいい春の陽射しを弾く画面のマナーモードを解除する。
『お昼ごはん、真紀ちゃん、何食べた?
俺はね、屋上でお弁当。昨日の夜に作ったんだ。オムライス弁当だよ!』
ららぽるん!
着信音に鼓動が跳ねる。
スマートフォンをのぞきこむ頬が熱い。
『へえ、えらいな』
『えへへ。真紀ちゃんにも、ご飯つくってあげる!』
ららぽるん!
『たのしみ』
『ほ、ほんとに!? うれしい!
真紀ちゃん、今日のお昼は?』
ららぽるん!
『出先で立ち食いのたぬき。意外にうまい』
返してくれるメッセージ、ひとつひとつに、とろけてしまう。
「えへへへへえ」
スマートフォンばっかり気にするようになった俺に、一緒に屋上でパンをかじる友樹は、渋い顔だ。
「……わるい社会人に、だまされてんじゃねえの?」
「俺から告白したのに?」
きょとんとしたら、友樹はもっと渋い顔になった。
「気をつけろよ! まだ15歳なんだからな!
色々したらだめだから!」
真っ赤な顔で叫ばれた。
「い、いろいろ……!」
きゃ──!
『真紀ちゃん、真紀ちゃん、彼氏だよ! いろいろするんだよ! どうしよう!
きゃ──!』
ららぽるん!
『俺を犯罪者にする気か──! 3年我慢しろ──!』
しかられた。
スマートフォンから顔をあげた俺は、笑う。
「真紀ちゃん、やさしい、誠実な人だよ」
「そうだとしても、相手は大人なんだぞ。
高校生なんて、まだ15歳の子どもなんて、若いだけだろ。すぐつまんなくなるんじゃねえの?」
ぶっすりした友樹の言葉が、胸に刺さる。
……つまらない、かな。
うっとうしい、かな。
……うざい……?
考えたら、泣いてしまいそうだったから
『真紀ちゃん、だいすき』
ららぽるん!
『……俺も。愛希がすき』
──あぁ
うれしいときも、涙はこぼれるんだね。
メッセージを抱きしめる指が、ふるえてる。
まだ、逢ったばかりなのに
あなたのことを
揺れる髪とか
めちゃくちゃいい匂いがするとか
やさしい瞳とか
身体の芯に響く声とか
そっけないのに、やさしいメッセージしか、知らないのに
あなたを、すきになるには
もう、充分なんだ。
* * *
満員電車は、苦痛だ。
「あっ、すみませぇん!」
ちっとも『すまない』と思ってないだろう! という、にやにやした顔で、しなだれかかられるとか、もう真剣に勘弁してほしい。
『またまたあ、真紀ってば、もてて、うれしいんじゃないの?
かわいー子に、寄りかかられるとか、最高じゃん!』
『じゃあ、お前がなってみろ、麗乃!
初対面の、よく知らない人に寄りかかられるとか、きもちわ……自粛する』
いとこの麗乃にからかわれたことまで思いだして、余計に気分が落ちこんだ。
「きゃー、かっこいー!」
「やばくない?」
「声かける?」
「きゃ──!」
『いや、もう、顔のことはいいから』言いたくなる。
ほんとうは目深にキャップをかぶって、マスクと眼鏡で出勤したいが『真紀のその顔面力で、営業を頼みたい!』麗乃に泣いてすがられたので、髪や顔が崩れるといけないから、仕方なく顔をさらして出勤しているが、毎朝これか……!
こっちは出勤なんだよ。
この顔面は仕事に使うんだよ。
やめてくれ……!
うんざりする、暖房で蒸し暑い秋の満員電車で、かわいーのが流れてきた。
「……ぃーにぉぃ……」
人に、ことんと寄りかかって、寝た──!
「……え……? だ、だいじょうぶか……!?」
気分がわるいんじゃと思って心配したが、やすらかに寝てる。立ったまま。
……何だこの子!
びっくりした。
また『すいませぇん』かと思ったら、青城高校の制服だ。男子校だ。
しかも、真剣に寝てる……!
「ぐぅ」
気持ちよさそうだ。
ちっちゃい。
あったかい。
なんだこの子、いー匂いがする。
「……ん……」
人の胸を枕にして、居心地よいところにおでこをすりつけるとか、他の人にされたら『ぐぃいいい』押しのけそうなのに。
ふわふわの栗色の髪が、あごの下で揺れた。
くすぐったい。
まつげ、ながい。
なんだこの、かわいー子。
めちゃくちゃ、いー匂いがする……!
知らない間に、抱っこしてた。
……だって、寝てるから。
ほら、崩れ落ちたら危ないし。
そう、危険な高校生を保護してるだけだ、やましい気もちなんて、全然──
…………ない? ほんとうに……?
とくん
胸が、音をたてる。
とくん
目を開いてほしくて
俺を、映してほしくて
どきどきする。
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