【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ

文字の大きさ
11 / 28

どちらが

しおりを挟む



 ……真紀ちゃんが、大人の男の人と、仲よさそうにしてる……

 友達じゃないかとか、同僚じゃないかと思えないほど、親密そうだった。


 ──浮気……?

 ………………どちら、が…………?


 真紀が、満員電車で告白してきた高校生を、ちょっとからかうつもりだったら……?

 社会人で、大人で、誰もが振り返るくらい、かっこいい真紀が、初対面の高校生を相手にするはずなんてない。

 ほんとうは真紀は、この人とずっとつきあっていて──俺は……遊ばれた……? いや、からかわれただけなんじゃ……

 いかずちのように落ちた思考に、首を振る。



 満員電車で寝ちゃった俺を、抱っこしてくれた、あなたを

 俺と、手をつないでくれた、あなたを

 俺を、抱きしめてくれた、あなたを

 俺に、はじめての、ちゅうをくれた、あなたを


 ──信じてる、のに。




「……愛希……?
 バイト?
 聞いてないんだけど」

 凛々しい真紀の眉が、ちょっぴり、おこだ。


『隣の人は、誰……?』

 聞きたい気もちを、のみこむ。


「……内緒にしておいて、かっこよく、おごってあげて、びっくりさせたかった」

 答えたら、切れ長の真紀の瞳が、まるくなる。

 ふうわり真紀の唇がほころぶのを邪魔するみたいに声をかけたのは、モデルのように長い手足で、やわらかに波打つ亜麻色の髪で、真紀にしなだれかかる男だった。


「真紀、知りあいなの? 親戚の子ども?」

 やわらかな低い声が、これほど耳障りに聞こえるなんて、知らなかった。

 まるで見せつけるみたいに、俺の目の前で、真紀にあまえるように擦り寄る細い身体に、まるで見くだされるみたいに送られる流し目に、やすりを掛けられたみたいに、心がきしむ。


「……っ」

 なにか、言おうと思った。


『俺は、真紀ちゃんの彼氏です!』

『真紀ちゃんの恋人なんだから!』

『ちゅうだって、してくれた』

『すきって、言ってくれた──!』

 唇を突いてあふれようとした言の葉が、苦く舌を刺して消えてゆく。


 ……迷惑かもしれない。

 もしこの人が同僚だったら?

 会社で、噂されたら?


『東城、彼氏がいるんだって』

『しかも高校生』

『やばくない?』

 言われてしまったら?


 何にもしていない、いや、ちゅうはしたけど……!
 清らかな、おつきあいなのに、抱っこと、ちゅうしかしていないのに、真紀ちゃんが、いけないことをしている人みたいに言われてしまったら──?


 絶対、言えない……!

 にぎりしめた拳が、ふるえる。


 その手を、やさしくつつんでくれたのは、真紀だった。

 見あげたら、いつも鋭い切れ長の瞳をやわらかに細めてくれる。

 真紀のぬくもりが、しみてくる。



 とろけそうな香りがする。


 はじめて逢ったときから

 はじめて抱っこしてくれたときから


 だいすきな

 だいすきな

 真紀の香りだ。







しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

夜が明けなければいいのに(洋風)

万里
BL
大国の第三皇子・ルシアンは、幼い頃から「王位には縁のない皇子」として育てられてきた。輝く金髪と碧眼を持つその美貌は、まるで人形のように完璧だが、どこか冷ややかで近寄りがたい。 しかしその裏には、誰よりも繊細で、愛されたいと願う幼い心が隠されている。 そんなルシアンに、ある日突然、国の命運を背負う役目が降りかかる。 長年対立してきた隣国との和平の証として、敵国の大公令嬢への婿入り――実質的な“人質”としての政略結婚が正式に決まったのだ。 「名誉ある生贄」。 それが自分に与えられた役割だと、ルシアンは理解していた。 部屋に戻ると、いつものように従者のカイルが静かに迎える。 黒髪の護衛騎士――幼い頃からずっと傍にいてくれた唯一の存在。 本当は、別れが怖くてたまらない。 けれど、その弱さを見せることができない。 「やっとこの退屈な城から出られる。せいせいする」 心にもない言葉を吐き捨てる。 カイルが引き止めてくれることを、どこかで期待しながら。 だがカイルは、いつもと変わらぬ落ち着いた声で告げる。 「……おめでとうございます、殿下」 恭しく頭を下げるその姿は、あまりにも遠い。 その淡々とした態度が、ルシアンの胸に鋭く突き刺さる。 ――おめでとうなんて、言わないでほしかった。 ――本当は、行きたくなんてないのに。 和風と洋風はどちらも大筋は同じようにしようかと。ところどころ違うかもしれませんが。 お楽しみいただければ幸いです。

ランドセルの王子様(仮)

万里
BL
大学生の森下優太(20)は、ある日の夕暮れ、ひったくり犯に襲われ絶体絶命のピンチに陥る。そんな彼を救ったのは、鮮やかなシュートで犯人を撃退した小学生の少年、日向蒼だった。 ランドセルを背負いながらも、大人顔負けの冷徹さと圧倒的なカリスマ性を持つ蒼。その姿に、優太はあろうことか「一目惚れ」をしてしまう。「相手は小学生、これはただの尊敬だ」と自分に言い聞かせる優太だったが、蒼のクールな瞳と救われた手の温もりが頭から離れない。 親友には「自首しろ」と呆れられながらも、理性と本能(ときめき)の狭間で葛藤する。禁断(?)のドキドキが止まらない、20歳男子による「かっこよすぎるヒーロー(小学生)」への片思い(自認はリスペクト)。

出戻り王子が幸せになるまで

あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
初恋の相手と政略結婚した主人公セフィラだが、相手には愛人ながら本命がいたことを知る。追及した結果、離縁されることになり、母国に出戻ることに。けれど、バツイチになったせいか父王に厄介払いされ、後宮から追い出されてしまう。王都の下町で暮らし始めるが、ふと訪れた先の母校で幼馴染であるフレンシスと再会。事情を話すと、突然求婚される。 一途な幼馴染×強がり出戻り王子のお話です。 ※他サイトにも掲載しております。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

偽りの聖者と泥の国

篠雨
BL
「感謝すら忘れた者たちに、明日を語る資格はない」 自らの都合で聖王セシルを追放し、異世界から新たな「勇者」を召喚したアドレアン聖王国。 しかし、その身勝手な選択が、国を、大地を、そして人々の心を根底から腐らせていく。 壊れゆく少年勇者と、彼を歪に愛した騎士。 二人の執着が交わったとき、聖王国は二度と再生不能な終焉へと突き進む。 裏切り者たちには、因果応報という名の、容赦なき報いが下る。 これは、傲慢な国が崩壊するまでの、無慈悲な記録。 ----------------------------------------- 『嘘つき王と影の騎士』から引き続き読んでくださる皆様へ この物語は、セシルを虐げた者たちが、ただただ因果応報の末路を辿るだけの物語です。 本編に救いはありません。 セシルたちのその後が気になるという方は、本編は飛ばして、最終話の後に掲載する「閑話」のみをお読みいただくことをお勧めいたします。 本作は『嘘つき王と影の騎士』の続編となりますが、前作をお読みでない方でも一つの物語としてお楽しみいただけます。

【創作BLオメガバース】優しくしないで

万里
BL
壮士(そうし)は男のΩ。幼馴染の雅人(まさと)にずっと恋をしていた。雅人は太陽のように眩しくて、壮士の世界を変えてくれた存在。彼の影を追うように、同じスポーツを始め、同じ高校に進学し、ずっと傍にいた。 しかし、壮士のヒートのせいで、雅人も充てられて発情してしまう。壮士は必死に項を守り、番になることを拒む。好きだからこそ、こんな形では結ばれたくなかった。壮士は彼の幸せを願って別の大学へ進学する。 新しい環境で出会ったのは、α・晴臣(はるおみ)。彼もまた、忘れられない人がいるという。 互いに“好きな人”を抱えたまま始まる関係。心の隙間を埋め合うふたり。けれど、偽りのはずだったその関係に、いつしか本物の感情が芽生えていく?

処理中です...