【完結】双子の兄が主人公で、困る

両親にあいさつにゆくのです

１８７人目だよ

　１８７人目のルティ──！

　びっくりしたルティは、衛士に話を聞いてみた。

「そんなにルティっていっぱいいるの？　よくある名前なのかな？」

　お疲れオーラを背負った衛士が長々と、ため息をつく。


「誰にもなびかないってご高名だったうちのトロテ王国第二王子クヒヤ殿下が、突然留学先から、平民の男の子を伴侶にするって連れ帰ってきたんだよ。トロテは引っくり返ったような騒ぎさ」

　腕を組む衛士の隣の衛士も、おそろいのオーラで、ため息をついた。

「そりゃーかわいーんだってさ。
　滅多とない薄紅の髪ってことは、ちらっと見た衛士が広めたらしいが、他のことはちっとも」

「その薄紅の髪のかわいー平民の子には、弟がいてさ、生国で何かあったらしくて、両親が逃げてきたんだと」

「それをクヒヤ殿下が保護したって噂も、すぐにトロテに広まった」

　衛士たちのため息に圧されるように、ルティは、うなだれた。


　──迷惑かけて、ごめんよ。

　両親にも、クヒヤ殿下にも、カティにも。

　申しわけなくなりつつ傾聴するルティに、衛士たちはため息とともに話してくれる。


「──ってことは、弟も逃げてくるだろうってなるよな？」

「……そ、そうかもしれませんね」

　ルティは、ひきつる。

　実際、どうしようもなくなったらカティとクヒヤ殿下に頼ろうとしてた！　ごめん！


「ってなると『逃げてきたルティです！　保護してください！』って叫んで、薄紅の髪をしてたら、クヒヤ殿下に逢えると思うよな？」

　さらにルティは引きつった。


「……そ、そうかもしれません……」

「まあかわいーにしてもだ『ただの平民だろ』『たかが知れてる』『自分のほうが絶対かわいい！』『クヒヤ殿下を落としてみせる！』　って意気込んだ美少年たちが、魔法で薄紅に変えた髪で、クヒヤ殿下に突撃してるわけだよ」

　………………。

「……１８６人も……」

　美少年祭りだ。


「……そ、それで、クヒヤ殿下は……？」

　おずおず聞いたルティに、衛士のため息が降ってくる。

「クヒヤ殿下は伴侶（予定）の方を、ご自分の宮に囲われていてな、見たことのある衛士が、ほとんどいないんだ」

　な、なるほど。
　ヤンデレ発動中。

　かわいい、かわいいカティを、他の誰にも見せたくない、あれね。


「……実際に、クヒヤ殿下がお逢いになるまで、ほんとうにルティなのかどうか、わからんだろう」

　ため息しかない衛士に、うなずく。

「……そ、そうです、ね……」

　冷や汗が出てきたよ。


「しかもほんとうにルティとやらが逃げてくるかもしれん状況なわけだ」

「……そ、そうです、ね……」


　ごめんなさい、クヒヤ殿下！

　めっちゃくっちゃ迷惑かけてるぅううう──！


『そうですね』しか言えずに泣きそうになるルティの隣で、トトがたくましい胸を張った。


「もうため息の日々は終わりです。本物のルティが来ましたから！」

　トトがドヤ顔だよ。


「……皆、自分が本物だって言ったよ……」

　遠くなる衛士の目に、トトの瞳が切れあがる。


「………………は…………？」

　ゴゴゴゴゴゴゴ……！

　ゆうらり、トトの身体がぶれるように、闘気が噴きあがる。


「世界一かわいいルティを前に、何を言ってる……？」


　トトの周りに逆巻く闘気があふれて、国境の砦が揺れだしたよ──！



「ぎゃあぁあ──！」

「な、なんだ！？」

「な、なんか、こわいの来た──！」


　衛士の皆さん、こわがらせてごめんよ！



　１８７人目のルティが、こわいトトを連れてきました。


　クヒヤ殿下にお詫びに行かせてください……！