悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ

文字の大きさ
100 / 148

きんにくひめ

しおりを挟む



「どうしたの、ユィリくん!」

 すぐに僕の異変に気づいて駆け寄ってくれるアーシェくんが、やさしいです!

「きんにくひめの魔脈にね、なんか、みっしりした、硬いのがあって、世界最弱の僕の、ほっそい、ほっそい魔力さえ通らないの」

「なるほど」

 みんなが一瞬、うなずいたあと

「きんにくひめってなんだ──!」

 トトラが叫んだ。


 目を明けた僕は、魔力探査を中断する。

 しゃっと立って、しゃっと手のひらで指した。


「ねむれる、きんにくひめ」


 カイとサザお兄ちゃんが拍手してくれる。
 やさしい。

 セゥスが頭をなでなでしてくれた。
 やさしい。

 のーすちゃんが、うむうむしてる。
 やさしい。

 アーシェくんの肩が、ぷるぷるしてる。

「間違いないね」


「じゃない──! お兄ちゃんには、ラディ・10・ラゼンっていう立派な名前があるんだよ……!
 この間までラディ・1・ラゼンだったのに、ねむりひめになっちゃったから……」

 くやしそうに涙をにじませるトトラに

「ひめって言った!」

 つっこんでみました。


「お兄ちゃんは、ひめだよ」

 そこは納得しているらしいです。


「ねむりひめになったラディより、トトラのほうが順位が低いんだね」

 セゥスさまが、笑顔です……!


「うわあん! セゥスが、いじめる──!」

 僕の背中にかくれるトトラが、かわいーです。

 しかし僕、ちっちゃいので、かばってあげるどころか、トトラが丸見えな件について!



「そ、それで、ユィリくん、お兄ちゃんが眠ってることについて、何かわかったのかな?」

 聞いてくれるトトラに、僕は首をひねる。


「魔脈にね、僕の、ほっそい、ほっそい魔力でさえ、ちっとも通らない何かがあるんだよ。その先に行けなかった」

 アーシェが、かわいいぴんくの眉をひそめる。


「……魔脈瘤?」

「まみゃくりゅう?」

 首をかしげたのは僕だけだった。
 皆の顔が、真っ青だ。


「そんなものができたら、一瞬で──!」

 しんでしまう。泣きそうなトトラに言えなかったのだろう、のーすちゃんが口をつぐんだ。

 セゥスの唇から笑みが消える。


「魔脈瘤ができるということは、魔脈の流れが途絶えるということだ。
 僕たちは世界の魔素を体内に取りこんで生きている。
 魔脈にこぶができ、完全に魔脈を塞いでしまうと、魔力が体内を流れることができなくなり、ほどなく……」

 消えてしまう語尾を覆うように、トトラが叫ぶ。


「で、でも、お兄ちゃんは、ひと月も眠り続けてる!
 もし、そんなひどい病気だったら、とっくに、はかなくなってる!」

 のーすちゃんが、腕を組んだ。


「筋肉で、もってるんじゃないか……?」

「……は……? ふざけないでよ!」

 泣きだしそうなトトラに、セゥスは首をふる。


「魔力や魔素のことは、まだ解明されていない部分も大きいんだ。
 魔脈に魔力が流れていることは知られているけれど、体内の骨や筋肉に魔力が蓄えられているという学説もある」

「そ、そうなの……!?」

 ぽかんとするトトラに、セゥスが微笑む。

「11番目であっても、王族を名乗るなら、もうちょっとお勉強しようね。
 もう僕は王族じゃないけど、元としては、ちょっと恥ずかしくなっちゃうから」

「ひ、ひどいよう……! セゥスがいじめる──!」

 僕の背中に隠れるトトラが、かわいいです。


「……ということは、ラディ殿下は、きんにくに蓄えた魔力で生きてるってこと……?」

 アーシェくんが解説してくれました。


「さすが、きんにくひめ!」


 拍手する僕に、皆がうむうむしてる。

 トトラの、お兄ちゃんを見る目が、尊敬になってる。






しおりを挟む
感想 326

あなたにおすすめの小説

夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。

伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。 子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。 ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。 ――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか? 失望と涙の中で、千尋は気づく。 「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」 針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。 やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。 そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。 涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。 ※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。 ※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。

【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい

雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。 延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

もう観念しなよ、呆れた顔の彼に諦めの悪い僕は財布の3万円を机の上に置いた

谷地
BL
お昼寝コース(※2時間)8000円。 就寝コースは、8時間/1万5千円・10時間/2万円・12時間/3万円~お選びいただけます。 お好みのキャストを選んで御予約下さい。はじめてに限り2000円値引きキャンペーン実施中! 液晶の中で光るポップなフォントは安っぽくぴかぴかと光っていた。 完結しました *・゚ 2025.5.10 少し修正しました。

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

望まれなかった代役婚ですが、投資で村を救っていたら旦那様に溺愛されました。

ivy
BL
⭐︎毎朝更新⭐︎ 兄の身代わりで望まれぬ結婚を押しつけられたライネル。 冷たく「帰れ」と言われても、帰る家なんてない! 仕方なく寂れた村をもらい受け、前世の記憶を活かして“投資”で村おこしに挑戦することに。 宝石をぽりぽり食べるマスコット少年や、クセの強い職人たちに囲まれて、にぎやかな日々が始まる。 一方、彼を追い出したはずの旦那様は、いつの間にかライネルのがんばりに心を奪われていき──? 「村おこしと恋愛、どっちも想定外!?」 コミカルだけど甘い、投資×BLラブコメディ。

処理中です...