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こどもです
しおりを挟むはらはらしながら見あげる僕を抱いたまま、リィフェルはため息をついた。
「……母上も、伴侶なしで私を生んだだろう」
「それとこれとは違うんですー! ……いや、よく考えなくても子どもより伴侶のほうが許せないな。ちょっとノォナとか邪魔だから、しめとく?」
物騒に閃く月の瞳に、リィフェルが叫ぶ。
「しめるな!」
月のきみは面白そうに唇をつりあげた。
「俺をしかるリィも、大きな声を出すじゃないか」
「子どもか!」
「ふーんだ! 精霊は永遠の子どもですー!」
唇をとがらせて舌を出すおかあさんの月の瞳が、いたずらっ子みたいにひらめいた。
精霊は老いることもないのだろう、リィフェルの弟のようにさえ見える。
「あぁあもう! だから来たくないんだ!」
「ひ、ひどい、リィ!」
泣きだしそうな瞳で抱きつくリヴァリゼに、あきれたように吐息したリィフェルは、おかあさんの月の髪をやさしくなでる。
「報告は、した。もしもの時は、私が必ず止める。母上の手をわずらわせることはしないと約束する。認可は保留でいい」
「だ、だからだめだ! リィが子どもを持つなんて、絶対ぜったい絶対だめだ──!」
叫ぶリヴァリゼに、リィフェルは告げる。
「トェルは、私の子だ」
まっすぐな声だった。
微塵の迷いもない言葉に、僕の視界が揺れる。
「……おとーた……」
あなたの子。
言ってもらえるたび、僕の心は、おとうさんでいっぱいになってゆく。
感動にふるえる僕に、リヴァリゼが目をむいた。
「おとうさんって呼んだぁアア──!」
絶叫するリヴァリゼに、とがった耳をふさいだリィフェルは手を挙げる。
「報告は、したから」
リィフェルの周りに光の粒がきらめいた。
ふわりと浮きあがるリィフェルを、伸びたリヴァリゼの手が止める。
「も、もももう帰るの!? ゆっくり泊まっていきなよ、せっかく来てくれたのに!
月の御力も今日はいっぱいだよ、満月だから!」
リヴァリゼの指の先に、まるい月が輝いた。
ふいとリィフェルが、顔をそらす。
「……認可してくれるなら、泊まってもいい」
「くぅう──!」
くるしげに顔を歪めたリヴァリゼが、うなだれた。
「……俺がどれだけ反対しても、リィフェルはその魔族の子を育てるんだな」
うなずくリィフェルの、母とおそろいの髪が流れる。
「リィは頑固だからなあ。言いだしたら聞きやしねえ」
「同じ言葉を、母上に返す」
鼻を鳴らすリィフェルに、月のきみは笑った。
「リィも、そんな顔をするようになったか。いつも感情なさそうで、心配してたんだよ」
「母上の感情表現が、大仰すぎるんだ」
すねたように唇をとがらせるリィフェルは、さっきのリヴァリゼにとてもよく似ていた。
僕は、笑う。
「そ、くり」
二精の月の瞳が、おんなじように瞬いた。
「なんだこいつ、いい子じゃねえか!」
「母上と一緒にするな──!」
歓喜と悲嘆の叫びに、はさまれた僕は、声を立てて笑う。
「そ、くり」
「いい子だ──!」
「トェル──!」
おばあちゃんの腕に抱っこされた僕は、ぬくもりに包まれる。
──……あったかい。
おとうさんと、よく似た、けれどすこし違う香りがした。
おばあちゃんの、香りだ。
「……認可は」
ぶすくれたリィフェルのつぶやきに、リヴァリゼは、おごそかに、うなずいた。
「してやってもいい。リィがこの子と一緒に毎日遊びに来るなら。経過観察だ」
「月に1回」
「2日に1回!」
「週に1回」
「3日に1回! これ以上は、まからん!」
胸を張るリヴァリゼに、リィフェルは肩を落とす。
「……3日か……」
「リィの力を蓄えるにも丁度いい。
万一のときは、リィが止めてくれるんだろ?」
天にかかる月を見あげたリィフェルは、月の光を、月の力を吸いこむように目を閉じる。
「3日に一回、トェルを見せにくる。月のきみの認可があれば、精霊界は黙る。
……頼む」
胸に手をあてるリィフェルに、リヴァリゼは目を細めた。
「……リィが俺に頼むのは、はじめてだな」
おかあさんの手が、おそろいの息子の髪を、やさしくなでた。
「月のきみリヴァリゼの名を以て、月の精リィフェルが、人の子トェルを養い育てることを、認可する」
あふれる光が、天の月と呼応するように輝いた。
リヴァリゼからこぼれるやわらかな光が、おとうさんと僕を祝福するように舞いあがる。
「お月さまも、いいってさ」
微笑んだリヴァリゼは、リィフェルの胸のうえの手に指を重ねる。
「困ったことがあったら、何でも頼れ。
俺は、リィの母ちゃんだ」
胸を叩いて、笑ってくれた。
リィフェルの瞳が、揺れる。
「……ありがとう」
かすれた声で、リィフェルはささやいた。
おかあさんを慕う、こどもの微笑みだった。
きょうも、おとうさんが、かわいいです。
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