【完結】お義父さんが、だいすきです

  *  ゆるゆ

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こどもです

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 はらはらしながら見あげる僕を抱いたまま、リィフェルはため息をついた。

「……母上も、伴侶なしで私を生んだだろう」

「それとこれとは違うんですー! ……いや、よく考えなくても子どもより伴侶のほうが許せないな。ちょっとノォナとか邪魔だから、しめとく?」

 物騒に閃く月の瞳に、リィフェルが叫ぶ。

「しめるな!」 

 月のきみは面白そうに唇をつりあげた。

「俺をしかるリィも、大きな声を出すじゃないか」

「子どもか!」

「ふーんだ! 精霊は永遠の子どもですー!」

 唇をとがらせて舌を出すおかあさんの月の瞳が、いたずらっ子みたいにひらめいた。

 精霊は老いることもないのだろう、リィフェルの弟のようにさえ見える。

「あぁあもう! だから来たくないんだ!」

「ひ、ひどい、リィ!」

 泣きだしそうな瞳で抱きつくリヴァリゼに、あきれたように吐息したリィフェルは、おかあさんの月の髪をやさしくなでる。

「報告は、した。もしもの時は、私が必ず止める。母上の手をわずらわせることはしないと約束する。認可は保留でいい」

「だ、だからだめだ! リィが子どもを持つなんて、絶対ぜったい絶対だめだ──!」

 叫ぶリヴァリゼに、リィフェルは告げる。


「トェルは、私の子だ」

 まっすぐな声だった。

 微塵の迷いもない言葉に、僕の視界が揺れる。


「……おとーた……」


 あなたの子。

 言ってもらえるたび、僕の心は、おとうさんでいっぱいになってゆく。



 感動にふるえる僕に、リヴァリゼが目をむいた。

「おとうさんって呼んだぁアア──!」

 絶叫するリヴァリゼに、とがった耳をふさいだリィフェルは手を挙げる。

「報告は、したから」

 リィフェルの周りに光の粒がきらめいた。
 ふわりと浮きあがるリィフェルを、伸びたリヴァリゼの手が止める。

「も、もももう帰るの!? ゆっくり泊まっていきなよ、せっかく来てくれたのに!
 月の御力も今日はいっぱいだよ、満月だから!」

 リヴァリゼの指の先に、まるい月が輝いた。

 ふいとリィフェルが、顔をそらす。

「……認可してくれるなら、泊まってもいい」

「くぅう──!」

 くるしげに顔を歪めたリヴァリゼが、うなだれた。

「……俺がどれだけ反対しても、リィフェルはその魔族の子を育てるんだな」

 うなずくリィフェルの、母とおそろいの髪が流れる。

「リィは頑固だからなあ。言いだしたら聞きやしねえ」

「同じ言葉を、母上に返す」

 鼻を鳴らすリィフェルに、月のきみは笑った。

「リィも、そんな顔をするようになったか。いつも感情なさそうで、心配してたんだよ」

「母上の感情表現が、大仰すぎるんだ」

 すねたように唇をとがらせるリィフェルは、さっきのリヴァリゼにとてもよく似ていた。


 僕は、笑う。

「そ、くり」

 二精の月の瞳が、おんなじように瞬いた。


「なんだこいつ、いい子じゃねえか!」

「母上と一緒にするな──!」

 歓喜と悲嘆の叫びに、はさまれた僕は、声を立てて笑う。

「そ、くり」

「いい子だ──!」

「トェル──!」

 おばあちゃんの腕に抱っこされた僕は、ぬくもりに包まれる。


 ──……あったかい。

 おとうさんと、よく似た、けれどすこし違う香りがした。

 おばあちゃんの、香りだ。


「……認可は」

 ぶすくれたリィフェルのつぶやきに、リヴァリゼは、おごそかに、うなずいた。

「してやってもいい。リィがこの子と一緒に毎日遊びに来るなら。経過観察だ」

「月に1回」

「2日に1回!」

「週に1回」

「3日に1回! これ以上は、まからん!」

 胸を張るリヴァリゼに、リィフェルは肩を落とす。

「……3日か……」

「リィの力を蓄えるにも丁度いい。
 万一のときは、リィが止めてくれるんだろ?」

 天にかかる月を見あげたリィフェルは、月の光を、月の力を吸いこむように目を閉じる。


「3日に一回、トェルを見せにくる。月のきみの認可があれば、精霊界は黙る。
 ……頼む」

 胸に手をあてるリィフェルに、リヴァリゼは目を細めた。

「……リィが俺に頼むのは、はじめてだな」

 おかあさんの手が、おそろいの息子の髪を、やさしくなでた。

「月のきみリヴァリゼの名を以て、月の精リィフェルが、人の子トェルを養い育てることを、認可する」

 あふれる光が、天の月と呼応するように輝いた。
 リヴァリゼからこぼれるやわらかな光が、おとうさんと僕を祝福するように舞いあがる。

「お月さまも、いいってさ」

 微笑んだリヴァリゼは、リィフェルの胸のうえの手に指を重ねる。

「困ったことがあったら、何でも頼れ。
 俺は、リィの母ちゃんだ」

 胸を叩いて、笑ってくれた。
 リィフェルの瞳が、揺れる。


「……ありがとう」

 かすれた声で、リィフェルはささやいた。

 おかあさんを慕う、こどもの微笑みだった。




 きょうも、おとうさんが、かわいいです。









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