【完結】お義父さんが、だいすきです

  *  ゆるゆ

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きんだん

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「うっひゃー! よく月のきみが認可してくれたなあ!
 どう見たって魔族の子なのに。非難も糾弾も、ごうごうだろうに!」

 ひっそりと森にたたずむリィフェルの庵で、アライアが仰け反った。

 こもれびにきらめくリィフェルの腕に支えてもらいながら、立っちの練習をしていた僕は、心配でお義父さんを見あげる。

「……母上は、おやさしいから……頼りたくなかった」

 目をふせるリィフェルの長い月のまつげが揺れた。

「そっかー、リィフェル、めちゃくちゃ溺愛されてるもんなあ。
 俺、禁断の愛を心配してたんだよ。今もしてるけど!」

 とても楽しそうにアライアの陽の瞳がひらめいて、リィフェルは首をかしげる。

「禁忌ではない」

「人間は、親子で恋愛するのは禁断なんだってさ! 」


『きんだん』

 いけない 響きがした。

 ……おとうさんを、だいすきになるのは、いけないことなの……?


「精霊と違って 、人間には病気の遺伝とか色々あるらしい。
 だめって言われると、燃えるだろ?」

 声を弾ませるアライアの隣で、僕の服を縫ってくれていたノォナが笑う。

「やめろって言われると、やりたくなるよね」

「そうそう」

 楽しそうなアライアに微笑んでいたノォナの目が、輝いた。

「リィフェルが魔族の子を育てるのも、もしかしてそれなの!?
 反対されたから、むきになってるだけで、別に何とも思ってない!?」

 期待に満ち満ちるノォナが、きらきらしてる。

「いや、トェルを大切に思ってる」

 ふるふる首を振られたノォナの目が、うるうるしてる。


『たいせつ』

 おとうさんに言ってもらえた僕の頬が、ぽかぽかしてる。







 3日に1度、僕はおとうさんに連れられて月の宮に通うようになった。

 いつ訪れても、夜と月のひかりが降る。

 至高五天の住まう宮は、司る力に満ちて、精霊界のなかでも異なる時空に存在するという。

 幾度この目に映しても、すべてを闇でつつむ夜も、あまねく空にかかり瞬く星も、かろやかに天を渡ってゆく月も透きとおるように輝いて、降るひかりに心が跳ねる。

「おお、よく来たな!」

 リヴァリゼは、いつも笑って迎えてくれた。


 息子が突然魔族の子を拾って育てることに反対する気持ちもあるだろうに、僕の真っ暗な髪をなでてくれる。

 あたたかな指が髪に、肌にふれてくれるたび、僕の胸は切なくしびれるような、あたたかさに満たされる。

「おかーた、あーと」

 ちっちゃな指をのばしたら、つかんだリヴァリゼが笑ってくれた。

「おとーた、あーと」

 リィフェルを見あげて笑ったら、月の眉がしかめられる。

「その呼び方では母上が私の伴侶であるかのように聞こえる。正しくは、おばあちゃ──」

「絶対言うな」

 おどろおどろしい何かがリヴァリゼの背から噴きあがる。

 こくこく、うなずく僕を守るように抱きしめたリィフェルが、肩を揺らして笑ってる。






 月の紋様がきらめく宮でも、立っちと、よたよた歩きの練習をする僕に、リィフェルは飽きることなくつきあってくれた。

 月光の糸で編みあげられたような月の宮は、ほどよく風が抜け、夜空の月影がやわらかに満ちてゆく。

「あぁ、いい月だ」

 心地よさそうにリィフェルが目を閉じた。

 月の宮に降る月は、精霊界を照らす月と少し違うらしい。

 庵でも緑の葉を透かした月影は指先まで照らしてくれるが、リィフェルは目を細めるだけだ。
 うっとりしたように吐息するリィフェルは、月の宮でしか見られない。

「ちがぅ?」

 首をかしげる僕に、目を明けたリィフェルは月を見あげる。

「月の宮は地上より遥かに月に近い。月の光で編んだ宮で月影を身に宿すことは、月の精霊にとって至福なんだ。
 力が、みなぎる。トェルなら、おなか、ぽんぽんかな」

 教えてくれるリィフェルに、僕は反対側に首をかしげた。

「ぽんぽ? たぷた?」

 お水をいっぱい飲むと、おなかは、たぷたぷ? ぽんぽん?

「ああ、そういやトェルは月の水で生きてんのか」

 清水にリヴァリゼが指をひたそうとするのを、伸びたリィフェルの手が止めた。


「トェルには私の加護を」

 眉をあげたリヴァリゼが、払われた指を息子の頬にすべらせる。


「そういう顔もするんだな」

 ふいと顔をそらしたリィフェルのまなじりが、照れたように、きらきらしてる。








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