11 / 90
きんだん
しおりを挟む「うっひゃー! よく月のきみが認可してくれたなあ!
どう見たって魔族の子なのに。非難も糾弾も、ごうごうだろうに!」
ひっそりと森にたたずむリィフェルの庵で、アライアが仰け反った。
こもれびにきらめくリィフェルの腕に支えてもらいながら、立っちの練習をしていた僕は、心配でお義父さんを見あげる。
「……母上は、おやさしいから……頼りたくなかった」
目をふせるリィフェルの長い月のまつげが揺れた。
「そっかー、リィフェル、めちゃくちゃ溺愛されてるもんなあ。
俺、禁断の愛を心配してたんだよ。今もしてるけど!」
とても楽しそうにアライアの陽の瞳がひらめいて、リィフェルは首をかしげる。
「禁忌ではない」
「人間は、親子で恋愛するのは禁断なんだってさ! 」
『きんだん』
いけない 響きがした。
……おとうさんを、だいすきになるのは、いけないことなの……?
「精霊と違って 、人間には病気の遺伝とか色々あるらしい。
だめって言われると、燃えるだろ?」
声を弾ませるアライアの隣で、僕の服を縫ってくれていたノォナが笑う。
「やめろって言われると、やりたくなるよね」
「そうそう」
楽しそうなアライアに微笑んでいたノォナの目が、輝いた。
「リィフェルが魔族の子を育てるのも、もしかしてそれなの!?
反対されたから、むきになってるだけで、別に何とも思ってない!?」
期待に満ち満ちるノォナが、きらきらしてる。
「いや、トェルを大切に思ってる」
ふるふる首を振られたノォナの目が、うるうるしてる。
『たいせつ』
おとうさんに言ってもらえた僕の頬が、ぽかぽかしてる。
3日に1度、僕はおとうさんに連れられて月の宮に通うようになった。
いつ訪れても、夜と月のひかりが降る。
至高五天の住まう宮は、司る力に満ちて、精霊界のなかでも異なる時空に存在するという。
幾度この目に映しても、すべてを闇でつつむ夜も、あまねく空にかかり瞬く星も、かろやかに天を渡ってゆく月も透きとおるように輝いて、降るひかりに心が跳ねる。
「おお、よく来たな!」
リヴァリゼは、いつも笑って迎えてくれた。
息子が突然魔族の子を拾って育てることに反対する気持ちもあるだろうに、僕の真っ暗な髪をなでてくれる。
あたたかな指が髪に、肌にふれてくれるたび、僕の胸は切なくしびれるような、あたたかさに満たされる。
「おかーた、あーと」
ちっちゃな指をのばしたら、つかんだリヴァリゼが笑ってくれた。
「おとーた、あーと」
リィフェルを見あげて笑ったら、月の眉がしかめられる。
「その呼び方では母上が私の伴侶であるかのように聞こえる。正しくは、おばあちゃ──」
「絶対言うな」
おどろおどろしい何かがリヴァリゼの背から噴きあがる。
こくこく、うなずく僕を守るように抱きしめたリィフェルが、肩を揺らして笑ってる。
月の紋様がきらめく宮でも、立っちと、よたよた歩きの練習をする僕に、リィフェルは飽きることなくつきあってくれた。
月光の糸で編みあげられたような月の宮は、ほどよく風が抜け、夜空の月影がやわらかに満ちてゆく。
「あぁ、いい月だ」
心地よさそうにリィフェルが目を閉じた。
月の宮に降る月は、精霊界を照らす月と少し違うらしい。
庵でも緑の葉を透かした月影は指先まで照らしてくれるが、リィフェルは目を細めるだけだ。
うっとりしたように吐息するリィフェルは、月の宮でしか見られない。
「ちがぅ?」
首をかしげる僕に、目を明けたリィフェルは月を見あげる。
「月の宮は地上より遥かに月に近い。月の光で編んだ宮で月影を身に宿すことは、月の精霊にとって至福なんだ。
力が、みなぎる。トェルなら、おなか、ぽんぽんかな」
教えてくれるリィフェルに、僕は反対側に首をかしげた。
「ぽんぽ? たぷた?」
お水をいっぱい飲むと、おなかは、たぷたぷ? ぽんぽん?
「ああ、そういやトェルは月の水で生きてんのか」
清水にリヴァリゼが指をひたそうとするのを、伸びたリィフェルの手が止めた。
「トェルには私の加護を」
眉をあげたリヴァリゼが、払われた指を息子の頬にすべらせる。
「そういう顔もするんだな」
ふいと顔をそらしたリィフェルのまなじりが、照れたように、きらきらしてる。
1,058
あなたにおすすめの小説
【完結】かわいい彼氏
* ゆるゆ
BL
いっしょに幼稚園に通っていた5歳のころからずっと、だいすきだけど、言えなくて。高校生になったら、またひとつ秘密ができた。それは──
ご感想がうれしくて、すぐ承認してしまい(笑)ネタバレ配慮できないので、ご覧になるときはお気をつけください! 驚きとかが消滅します(笑)
遥斗と涼真の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから飛べます!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】奪われて、愛でられて、愛してしまいました
* ゆるゆ
BL
王太子のお飾りの伴侶となるところを、侵攻してきた帝王に奪われて、やさしい指に、あまいくちびるに、名を呼んでくれる声に、惹かれる気持ちは止められなくて……奪われて、愛でられて、愛してしまいました。
だいすきなのに、口にだして言えないふたりの、両片思いなお話です。
本編完結、本編のつづきのお話も完結済み、おまけのお話を時々更新したりしています。
本編のつづきのお話があるのも、おまけのお話を更新するのもアルファポリスさまだけです!
レーシァとゼドの動画をつくりました!(笑)
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから飛べます!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】もふもふ獣人転生
* ゆるゆ
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
もふもふ獣人リトと、攻略対象の凛々しいジゼの両片思い? なお話です。
本編、舞踏会編、完結しました!
キャラ人気投票の上位のお話を更新しています。
リトとジゼの動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントなくてもどなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
『伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします』のノィユとヴィル
『悪役令息の従者に転職しました』の透夜とロロァとよい子の隠密団の皆が遊びにくる舞踏会編は、他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きしているので、お気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
ジゼの父ゲォルグ×家令長セバのお話が『ずっと、だいすきです』完結済みです。
ジゼが生まれるお話です。もしよかったらどうぞです!
第12回BL大賞さまで奨励賞をいただきました。
読んでくださった方、応援してくださった皆さまのおかげです。ほんとうにありがとうございました!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】悪役令息の従者に転職しました
* ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
透夜×ロロァのお話です。
本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけを更新するかもです。
『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も
『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑)
大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑)
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。
カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。
異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。
ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。
そして、コスプレと思っていた男性は……。
【完結】双子の兄が主人公で、困る
* ゆるゆ
BL
『きらきら男は僕のモノ』公言する、ぴんくの髪の主人公な兄のせいで、見た目はそっくりだが質実剛健、ちいさなことからコツコツとな双子の弟が、兄のとばっちりで断罪されかけたり、 悪役令息からいじわるされたり 、逆ハーレムになりかけたりとか、ほんとに困る──! 伴侶(予定)いるので。……って思ってたのに……!
本編、両親にごあいさつ編、完結しました!
おまけのお話を、時々更新しています。
本編以外はぜんぶ、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
裏乙女ゲー?モブですよね? いいえ主人公です。
みーやん
BL
何日の時をこのソファーと過ごしただろう。
愛してやまない我が妹に頼まれた乙女ゲーの攻略は終わりを迎えようとしていた。
「私の青春学園生活⭐︎星蒼山学園」というこのタイトルの通り、女の子の主人公が学園生活を送りながら攻略対象に擦り寄り青春という名の恋愛を繰り広げるゲームだ。ちなみに女子生徒は全校生徒約900人のうち主人公1人というハーレム設定である。
あと1ヶ月後に30歳の誕生日を迎える俺には厳しすぎるゲームではあるが可愛い妹の為、精神と睡眠を削りながらやっとの思いで最後の攻略対象を攻略し見事クリアした。
最後のエンドロールまで見た後に
「裏乙女ゲームを開始しますか?」
という文字が出てきたと思ったら目の視界がだんだんと狭まってくる感覚に襲われた。
あ。俺3日寝てなかったんだ…
そんなことにふと気がついた時には視界は完全に奪われていた。
次に目が覚めると目の前には見覚えのあるゲームならではのウィンドウ。
「星蒼山学園へようこそ!攻略対象を攻略し青春を掴み取ろう!」
何度見たかわからないほど見たこの文字。そして気づく現実味のある体感。そこは3日徹夜してクリアしたゲームの世界でした。
え?意味わかんないけどとりあえず俺はもちろんモブだよね?
これはモブだと勘違いしている男が実は主人公だと気付かないまま学園生活を送る話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる