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なかよし
しおりを挟むリィフェルが、硝子の水差しのなかに指をひたす。
ちらちら揺れる月のひかりが、水のなかで弾けた。
「トェル」
「あーと、おとーた」
注いでくれた、ちいさな器を両手で持った僕は、水を唇にふくむ。
ほのかに髪が舞いあがる。
ひかりの風が吹きぬけたように、身体の奥から、きらきらした力が満ちてゆく。
「……これって人間が飲んで、だいじょぶなのかな……?」
つぶやくリヴァリゼに、リィフェルは目をみはる。
「だめなのか!」
目をむく息子に、びっくりしたように、おかあさんは口を開いた。
「ほら、人間としては精霊の加護を受けた水なんて一生に一度飲んだら、すんごいことなのに、トェルは毎日だろ? 魔族の血が入ってんだろうし壊れることはねえと思うが──」
「壊れる!?」
叫んだリィフェルが僕を振りむく。
手をにぎって、開いて、ぱたぱた足を動かした僕は、首を振った。
「へーき」
「今はな。毎日、月の水を飲むのは危険かもしれん」
「どうしたらいい!」
泣きだしそうなリィフェルに、リヴァリゼは息をのむ。目を細めたリヴァリゼは、リィフェルの頭をやさしくなでた。
「人間ってのは、植物や動物を殺して食って生きるんだ。果物や木の実なら精霊でも持ってこられるだろ。食わせてやれ」
おとうさんも、僕も、首をかしげた。
「くわせる?」
「口のなかに突っこむ。噛んで飲みこんだら、しばらくして尻から出る」
得意そうに腕を組んで教えてくれるリヴァリゼに、僕はお尻を振りかえる。
「でる?」
「出る。ほら、動物は皆、食って出すだろ、あれだよ、あれ」
『あれ』?
首をかしげる僕と一緒に、おとうさんも首をかしげた。
「そうだリィフェル、人間には厠がいるんだ、つくってやれ!」
「……かわや?」
?????
僕と一緒に反対側に首をかしげる、おとうさんに、リヴァリゼが笑う。
「たまには下界に降りて、人間の暮らしを見てきたらいい。果物を集めるついでにな。トェルも一緒に行くか?」
「あい!」
手を挙げた僕の真っ暗な髪を、リヴァリゼのてのひらが、なでてくれる。
やさしい、あたたかな手に、いつもとくとく鼓動が駆ける。
胸が、ぽわぽわする。
きっとこれを、うれしいと言うんだ。
「俺も一緒に行ってやりたいが、月の宮を離れられん。アライアについてきてもらえ」
「……別に、私とトェルで……」
すねたように 唇をとがらせるリィフェルに、リヴァリゼは首をふる。
「リィフェルは、ほとんど人間界に降りたことがないだろう。何が何だか、わからんまま帰ってくることになるぞ」
ふてくされたように顔をそらしたリィフェルは、ひとつ息をついた。
「……わかった」
「素直でよろしい。アライアとの仲は、いいみたいだな」
うれしそうに、リヴァリゼが笑う。
「……まあ」
もごもごつぶやくリィフェルが、月の光に瞬いた。
「おとーた、あーりゃ、なーよし」
ぱちぱち、ちいさな手を叩いたら、おばあちゃんと、おとうさんが、おそろいの月の瞳で笑ってくれた。
リィフェルとアライアが、てのひらを重ねる。
宵闇にあふれゆく光と不思議な紋様の向こうに、弱々しい陽のひかりと、淡い緑の葉が見えた。
おとうさんが僕の手を引いてくれる。
きらめく光を抜けた先には、人間が暮らしてる。
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