【完結】お義父さんが、だいすきです

  *  ゆるゆ

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なかよし

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 リィフェルが、硝子の水差しのなかに指をひたす。
 ちらちら揺れる月のひかりが、水のなかで弾けた。

「トェル」

「あーと、おとーた」

 注いでくれた、ちいさな器を両手で持った僕は、水を唇にふくむ。
 ほのかに髪が舞いあがる。
 ひかりの風が吹きぬけたように、身体の奥から、きらきらした力が満ちてゆく。

「……これって人間が飲んで、だいじょぶなのかな……?」

 つぶやくリヴァリゼに、リィフェルは目をみはる。

「だめなのか!」

 目をむく息子に、びっくりしたように、おかあさんは口を開いた。

「ほら、人間としては精霊の加護を受けた水なんて一生に一度飲んだら、すんごいことなのに、トェルは毎日だろ? 魔族の血が入ってんだろうし壊れることはねえと思うが──」

「壊れる!?」

 叫んだリィフェルが僕を振りむく。

 手をにぎって、開いて、ぱたぱた足を動かした僕は、首を振った。

「へーき」

「今はな。毎日、月の水を飲むのは危険かもしれん」

「どうしたらいい!」

 泣きだしそうなリィフェルに、リヴァリゼは息をのむ。目を細めたリヴァリゼは、リィフェルの頭をやさしくなでた。

「人間ってのは、植物や動物を殺して食って生きるんだ。果物や木の実なら精霊でも持ってこられるだろ。食わせてやれ」

 おとうさんも、僕も、首をかしげた。

「くわせる?」

「口のなかに突っこむ。噛んで飲みこんだら、しばらくして尻から出る」

 得意そうに腕を組んで教えてくれるリヴァリゼに、僕はお尻を振りかえる。

「でる?」

「出る。ほら、動物は皆、食って出すだろ、あれだよ、あれ」

『あれ』?

 首をかしげる僕と一緒に、おとうさんも首をかしげた。

「そうだリィフェル、人間には厠がいるんだ、つくってやれ!」

「……かわや?」

 ?????

 僕と一緒に反対側に首をかしげる、おとうさんに、リヴァリゼが笑う。

「たまには下界に降りて、人間の暮らしを見てきたらいい。果物を集めるついでにな。トェルも一緒に行くか?」

「あい!」

 手を挙げた僕の真っ暗な髪を、リヴァリゼのてのひらが、なでてくれる。


 やさしい、あたたかな手に、いつもとくとく鼓動が駆ける。

 胸が、ぽわぽわする。

 きっとこれを、うれしいと言うんだ。


「俺も一緒に行ってやりたいが、月の宮を離れられん。アライアについてきてもらえ」

「……別に、私とトェルで……」

 すねたように 唇をとがらせるリィフェルに、リヴァリゼは首をふる。
  
「リィフェルは、ほとんど人間界に降りたことがないだろう。何が何だか、わからんまま帰ってくることになるぞ」

 ふてくされたように顔をそらしたリィフェルは、ひとつ息をついた。

「……わかった」

「素直でよろしい。アライアとの仲は、いいみたいだな」

 うれしそうに、リヴァリゼが笑う。

「……まあ」

 もごもごつぶやくリィフェルが、月の光に瞬いた。

「おとーた、あーりゃ、なーよし」

 ぱちぱち、ちいさな手を叩いたら、おばあちゃんと、おとうさんが、おそろいの月の瞳で笑ってくれた。






 リィフェルとアライアが、てのひらを重ねる。

 宵闇にあふれゆく光と不思議な紋様の向こうに、弱々しい陽のひかりと、淡い緑の葉が見えた。



 おとうさんが僕の手を引いてくれる。

 きらめく光を抜けた先には、人間が暮らしてる。







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