【完結】お義父さんが、だいすきです

  *  ゆるゆ

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緑のきみ

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 リィフェルとアライアの、てのひらが重なる。 

 あふれる光と紋様に包まれた僕は、おとうさんに抱っこされて精霊界へと帰ってきた。


「僕だけ置いていくなんて信じられない!」

 宵闇の降りた森の奥にたたずむリィフェルの庵には、ノォナがふくれた頬で待っていた。

「おお、いいとこに!」

 アライアに駆け寄られたノォナの鼻が、うれしそうにふくらんでる。

「果実をひとつ、トェルにくれないか」

 リィフェルにのぞきこまれたノォナから、きらきら緑のひかりがあふれてる。

「……えー。人間に精霊界の実りを与えるなんてー」

 唇をとがらせたノォナが、リィフェルを横目で見た。

「リィフェルが僕の伴侶になってくれるなら、考えてもいいけど」

「わかった」

 こっくり 、うなずくおとうさんに、僕の胸は音を立てるように きしみ、アライアは目をむいた。

「いやいやいや、あっさり了承するのは、おかしいから!
 ノォナもノォナだ、なんてことを二度も言うんだ! そんなのでリィフェルに伴侶になってもらったって、楽しいことは何にもないぞ!」

 叫ぶアライアに、ノォナも叫んだ。

「ありまくるに決まってるじゃないか!
 伴侶っていったら、どんなことだって一緒にできるんだよ!?
 リィフェルと、あんなことや、こんなことを……!
 きゃあァア──!」

 黄色い悲鳴をあげて卒倒したノォナを誰も支えなかったので、大地に頭をごちんと打って起きてた。

「……ひどい」

 うるうるしてる。


 おとうさんがノォナの伴侶になるのは、どうしてだか絶対に反対したい僕は眉をさげる。

「……おとーた、みにゅ、だけ……」

 僕の懇願に、おとうさんは首をふる。

「いや、たべる、をしたほうがいいと思う」

 涼やかな眉間に谷を刻むリィフェルに、アライアもうなずいた。

「ノォナを通すんじゃなくて、直に緑のきみに頼みに行くか」

「ひどい」

 あっさり切られたノォナが、打ちひしがれてる。






 リィフェルの長い指が、夜にふしぎな線をえがく。軌跡が光となって、ちらちら揺れた。
 中空に現れた紋様が森の息吹に呼応するように、やわらかに明滅する。

 思わずのばした僕の指を、おとうさんのてのひらが包みこむ。
 ふれられなかった光の紋様が、あざやかな緑に染めあげられた。

「お、謁見を許されたな。さすがリィフェル」

 口笛を吹くアライアの隣で、笛になる唇をふしぎそうに見つめたリィフェルが、笛にならなそうな唇を開いた。

「『孫が、すまん』と、便宜を図ってくださる」

「ひどい」

 ノォナの目が緑のひかりで、うるうるしてる。


「おいで」

 おとうさんが抱きあげてくれたら、僕はどこへだってゆける気がする。

 広やかなおとうさんの胸に抱きつく僕に、隣のノォナが、ギリギリしてる。







 きらめく光の紋様を抜けた先は、緑の宮だ。

 おとうさんといっしょに、僕はふしぎな宮を見あげる。

 息ができなくなるほど、緑の香りがした。

 天を埋め尽くすように伸ばされた枝からこぼれる緑の葉が、天と地をつなぐように太く高く伸びる幹が、大地を染めるように揺れる草が、命を歌うように薫りたつ。

 すべてを緑に覆われた宮の輝きに、圧倒される。

 ──……ああ、これが緑だ。

 たくましく、強く、他のすべてを駆逐して、すべてを緑に染めあげる。



「よく来たねえ、孫がごめんよ」

 手を挙げてくれたのは、ふわふわの緑の髪が幹色の肌によく映える、ちいさな少年だった。

「おばあちゃんまで、ひどい」

 うるうるしてるノォナの肩を、おばあちゃんだという少年が、ぽふぽふしてる。

 緑のきみは、どう見てもノォナの幼い弟に見える。
 とても愛らしいのに、長いまつげに縁どられた緑の瞳は、遥かな深淵をのぞかせた。

 自然と、かしこまる僕に、少年は唇をほころばせる。

「へぇ、僕を見て、あなどらないなんて、見所があるじゃないか、魔族のくせに」

 鼻を鳴らされた僕がちいさくなるより先に、リィフェルが前に出た。


「トェルは私の息子です。
 月の水で育った身体には、下界のものは毒となるやもしれません。
 どうか精霊界の果実をすこし、トェルに食べさせてやってはいただけませんか」

 リィフェルの懇願に、ちいさな緑の眉が跳ねあがる。






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