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緑のきみ
しおりを挟むリィフェルとアライアの、てのひらが重なる。
あふれる光と紋様に包まれた僕は、おとうさんに抱っこされて精霊界へと帰ってきた。
「僕だけ置いていくなんて信じられない!」
宵闇の降りた森の奥にたたずむリィフェルの庵には、ノォナがふくれた頬で待っていた。
「おお、いいとこに!」
アライアに駆け寄られたノォナの鼻が、うれしそうにふくらんでる。
「果実をひとつ、トェルにくれないか」
リィフェルにのぞきこまれたノォナから、きらきら緑のひかりがあふれてる。
「……えー。人間に精霊界の実りを与えるなんてー」
唇をとがらせたノォナが、リィフェルを横目で見た。
「リィフェルが僕の伴侶になってくれるなら、考えてもいいけど」
「わかった」
こっくり 、うなずくおとうさんに、僕の胸は音を立てるように きしみ、アライアは目をむいた。
「いやいやいや、あっさり了承するのは、おかしいから!
ノォナもノォナだ、なんてことを二度も言うんだ! そんなのでリィフェルに伴侶になってもらったって、楽しいことは何にもないぞ!」
叫ぶアライアに、ノォナも叫んだ。
「ありまくるに決まってるじゃないか!
伴侶っていったら、どんなことだって一緒にできるんだよ!?
リィフェルと、あんなことや、こんなことを……!
きゃあァア──!」
黄色い悲鳴をあげて卒倒したノォナを誰も支えなかったので、大地に頭をごちんと打って起きてた。
「……ひどい」
うるうるしてる。
おとうさんがノォナの伴侶になるのは、どうしてだか絶対に反対したい僕は眉をさげる。
「……おとーた、みにゅ、だけ……」
僕の懇願に、おとうさんは首をふる。
「いや、たべる、をしたほうがいいと思う」
涼やかな眉間に谷を刻むリィフェルに、アライアもうなずいた。
「ノォナを通すんじゃなくて、直に緑のきみに頼みに行くか」
「ひどい」
あっさり切られたノォナが、打ちひしがれてる。
リィフェルの長い指が、夜にふしぎな線をえがく。軌跡が光となって、ちらちら揺れた。
中空に現れた紋様が森の息吹に呼応するように、やわらかに明滅する。
思わずのばした僕の指を、おとうさんのてのひらが包みこむ。
ふれられなかった光の紋様が、あざやかな緑に染めあげられた。
「お、謁見を許されたな。さすがリィフェル」
口笛を吹くアライアの隣で、笛になる唇をふしぎそうに見つめたリィフェルが、笛にならなそうな唇を開いた。
「『孫が、すまん』と、便宜を図ってくださる」
「ひどい」
ノォナの目が緑のひかりで、うるうるしてる。
「おいで」
おとうさんが抱きあげてくれたら、僕はどこへだってゆける気がする。
広やかなおとうさんの胸に抱きつく僕に、隣のノォナが、ギリギリしてる。
きらめく光の紋様を抜けた先は、緑の宮だ。
おとうさんといっしょに、僕はふしぎな宮を見あげる。
息ができなくなるほど、緑の香りがした。
天を埋め尽くすように伸ばされた枝からこぼれる緑の葉が、天と地をつなぐように太く高く伸びる幹が、大地を染めるように揺れる草が、命を歌うように薫りたつ。
すべてを緑に覆われた宮の輝きに、圧倒される。
──……ああ、これが緑だ。
たくましく、強く、他のすべてを駆逐して、すべてを緑に染めあげる。
「よく来たねえ、孫がごめんよ」
手を挙げてくれたのは、ふわふわの緑の髪が幹色の肌によく映える、ちいさな少年だった。
「おばあちゃんまで、ひどい」
うるうるしてるノォナの肩を、おばあちゃんだという少年が、ぽふぽふしてる。
緑のきみは、どう見てもノォナの幼い弟に見える。
とても愛らしいのに、長いまつげに縁どられた緑の瞳は、遥かな深淵をのぞかせた。
自然と、かしこまる僕に、少年は唇をほころばせる。
「へぇ、僕を見て、あなどらないなんて、見所があるじゃないか、魔族のくせに」
鼻を鳴らされた僕がちいさくなるより先に、リィフェルが前に出た。
「トェルは私の息子です。
月の水で育った身体には、下界のものは毒となるやもしれません。
どうか精霊界の果実をすこし、トェルに食べさせてやってはいただけませんか」
リィフェルの懇願に、ちいさな緑の眉が跳ねあがる。
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