【完結】お義父さんが、だいすきです

  *  ゆるゆ

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きっと

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 瞬いた僕に、魔族が教えてくれた。

「効率はわるいが、口づけでも瘴気は吸える。魔族なら、瘴気を吸っても身体に害はない。
 だが、お前は変わっている。精霊の恩寵を受けすぎているなら、命が消えるかも──」

「かまわない──!」

 叫ぶ僕に、魔族は面白そうに眉をあげる。

「俺が、その精霊に口づけて、瘴気を吸ってやろうか?」

 それは僕とリィフェルの命を救う、やさしい献身なはずなのに。
 胸に灼熱をねじこまれた気がした。


「だめ──!」

 リィフェルの身体を抱きしめる。


 おとうさんに、リィフェルに、自分以外の誰かが口づける。

 考えるだけで、千切れてしまいそうなほど、痛い。

 たのしげに魔族は喉を鳴らす。


「なら、ひとりでがんばれ」

 うなずいた僕は、魔族の真っ暗な瞳を見あげる。

「僕が死んだら、おとーたを救ってくれますか」

 ちいさな声に、魔族は微笑む。

「久しぶりの同族が困ってるなら、手を貸してやりたいが。
 俺は、瘴気の塊だ。口づけるだけでも、その精霊は消えるかもしれない」

 息をのむ僕に、魔族は告げる。

「死ぬ気で、救え」

「……っ! はい──!」

 僕は、リィフェルを抱きしめる。


「おとーたは、僕が、たすける」

 きっと

 きっと








「使っていい。健闘を祈る」

 守護帥が僕とリィフェルを通してくれたのは宿舎の隅にある、大きな真白な寝台がひとつあるきりの部屋だった。配慮してくれたのか、窓はない。精霊の力できらめく明かりがひとつ、仄かに部屋を照らしていた。守護精たちが警護に疲れた身を休めるための部屋なのだろう。

 鍵が掛かる音は、秘密の香りがする。

 僕はそっと、リィフェルをやわらかなしとねに横たえた。


 ──ねむるリィフェルに、ふれる。

 してはいけないことな気がした。
 したくてたまらないことな気がした。

「……おとーた……」

 リィフェルは、僕にさわられたくないかもしれない。

 いやじゃないか聞きたくても、リィフェルの意識はない。これが唯一のリィフェルを救う道なら、するしかない。

 迷う暇などなかった。

 一瞬でも早く瘴気を排出しなければ──おとーたがしぬ。

「ごめんなさい」

 ぎゅっとリィフェルを抱きしめた僕は、そっと、そっと、いつもよりずっとひんやりした、淡く世界に溶けて消えてしまいそうなリィフェルのくちびるに、くちびるでふれた。

 ちゅ

 あまやかな音が鳴る。

 リィフェルの香りに、胸の奥まで満たされる。

 頭の芯が、しびれてく。



 ──あなたと、ちゅう、する。

 思うだけで頬が燃える。
 吐息がかすれて、瞳がうるむ。


 僕の感覚では、ほんのこの間
『おとーた、ちゅう』おねだりしていた。

 リィフェルが、口づけてくれるのが、うれしくて。
 ふあふあのくちびるが、とろけるように甘くて。


 だいすきだったちゅうが、今は、なんて──……狂おしい。


「……おとーた……」

 そっと、口づけて、リィフェルの身体の奥の瘴気を吸う。
 うまく吸えているのかわからなくて心配になったとき、鼓動が脈うった。

 あぁ、このあまいのが、瘴気だ。
 輝けるあなたの身を侵す、憎き瘴気のはずなのに、とろけるように、あまい。

 瘴気とリィフェルの気が混ざっているからかもしれない。

 目を閉じた僕は、リィフェルを抱きしめる。



「おとーたは、ぼくが、たすける」


 ささやきが、リィフェルのくちびるに、とけてゆく。






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