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きっと
しおりを挟む瞬いた僕に、魔族が教えてくれた。
「効率はわるいが、口づけでも瘴気は吸える。魔族なら、瘴気を吸っても身体に害はない。
だが、お前は変わっている。精霊の恩寵を受けすぎているなら、命が消えるかも──」
「かまわない──!」
叫ぶ僕に、魔族は面白そうに眉をあげる。
「俺が、その精霊に口づけて、瘴気を吸ってやろうか?」
それは僕とリィフェルの命を救う、やさしい献身なはずなのに。
胸に灼熱をねじこまれた気がした。
「だめ──!」
リィフェルの身体を抱きしめる。
おとうさんに、リィフェルに、自分以外の誰かが口づける。
考えるだけで、千切れてしまいそうなほど、痛い。
たのしげに魔族は喉を鳴らす。
「なら、ひとりでがんばれ」
うなずいた僕は、魔族の真っ暗な瞳を見あげる。
「僕が死んだら、おとーたを救ってくれますか」
ちいさな声に、魔族は微笑む。
「久しぶりの同族が困ってるなら、手を貸してやりたいが。
俺は、瘴気の塊だ。口づけるだけでも、その精霊は消えるかもしれない」
息をのむ僕に、魔族は告げる。
「死ぬ気で、救え」
「……っ! はい──!」
僕は、リィフェルを抱きしめる。
「おとーたは、僕が、たすける」
きっと
きっと
「使っていい。健闘を祈る」
守護帥が僕とリィフェルを通してくれたのは宿舎の隅にある、大きな真白な寝台がひとつあるきりの部屋だった。配慮してくれたのか、窓はない。精霊の力できらめく明かりがひとつ、仄かに部屋を照らしていた。守護精たちが警護に疲れた身を休めるための部屋なのだろう。
鍵が掛かる音は、秘密の香りがする。
僕はそっと、リィフェルをやわらかなしとねに横たえた。
──ねむるリィフェルに、ふれる。
してはいけないことな気がした。
したくてたまらないことな気がした。
「……おとーた……」
リィフェルは、僕にさわられたくないかもしれない。
いやじゃないか聞きたくても、リィフェルの意識はない。これが唯一のリィフェルを救う道なら、するしかない。
迷う暇などなかった。
一瞬でも早く瘴気を排出しなければ──おとーたがしぬ。
「ごめんなさい」
ぎゅっとリィフェルを抱きしめた僕は、そっと、そっと、いつもよりずっとひんやりした、淡く世界に溶けて消えてしまいそうなリィフェルのくちびるに、くちびるでふれた。
ちゅ
あまやかな音が鳴る。
リィフェルの香りに、胸の奥まで満たされる。
頭の芯が、しびれてく。
──あなたと、ちゅう、する。
思うだけで頬が燃える。
吐息がかすれて、瞳がうるむ。
僕の感覚では、ほんのこの間
『おとーた、ちゅう』おねだりしていた。
リィフェルが、口づけてくれるのが、うれしくて。
ふあふあのくちびるが、とろけるように甘くて。
だいすきだったちゅうが、今は、なんて──……狂おしい。
「……おとーた……」
そっと、口づけて、リィフェルの身体の奥の瘴気を吸う。
うまく吸えているのかわからなくて心配になったとき、鼓動が脈うった。
あぁ、このあまいのが、瘴気だ。
輝けるあなたの身を侵す、憎き瘴気のはずなのに、とろけるように、あまい。
瘴気とリィフェルの気が混ざっているからかもしれない。
目を閉じた僕は、リィフェルを抱きしめる。
「おとーたは、ぼくが、たすける」
ささやきが、リィフェルのくちびるに、とけてゆく。
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