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ちっちゃくても
しおりを挟む守護帥が僕を連れてきてくれたのは、精霊界の精霊門の近くにある守護精たちの宿舎らしい。
奢侈を厭う精霊らしく装飾を削ぎおとした真白な建物に、規則的に丸い窓が並んでいる。
そのうちのひとつを、のぞかせてくれた。
真白な寝台で、輝く精霊と、真っ暗な髪の者が、抱きあっている。
「…………え…………?」
「ああして魔族の精を注がれると、魔界の瘴気に少しだが耐えられるようになる。
我らは魔族と闘うことを想定して備えているからな。面白がった魔族が、ああやって精霊を喰いにやってくる。
……精霊界ではありえぬと言われているが、門番たちの間では、精霊と魔族は存外仲がよい」
──精霊と魔族は、決して相容れないものだと思っていた。
ぼうぜんとする僕に、守護帥はささやく。
「きみはまだこどもだ。あれは無理だ。
だが魔族なら、リィフェルさまを救うすべを知っているかもしれん」
「ちょ……! 守護帥! 何見てんすか!」
窓の向こうの精霊が、あふれる力にバチバチ輝きながら叫んだ。
「ああ、すまん、リィフェルさまのために、魔族に話を聞きたくてな。
よかったよ、本格的にはじまる前で」
「はァ!?」
あんぐり口を開ける精霊を後ろから抱きしめたのは……魔族……?
ひとめで魅入られてしまいそうな真っ暗な瞳が、僕の真っ暗な髪と、真っ暗な瞳、真っ暗な翼と、僕の腕のなかのリィフェルに、面白そうに閃いた。
「お前、魔族か」
人型の魔族の声を、初めて聞いた。
低く冷たく響くのに、どこかあまい声だった。
暴虐も、残忍も、香らない。
「あ、あなたは……魔族……?」
ささやくように聞いた僕に、つやめく闇の髪が揺れる。
「あまり見るな。魅入られるぞ」
守護帥の低い声に意識を取り戻す。
一度見たら目が離せなくなるような存在だった。
──魂を抜かれる。
そう言われて恐れられる意味が、ほんの少しだけ分かった気がする。
「お前、面白いな。いろんな匂いがする」
低く甘くかすれる、聞いているだけで頭の芯がしびれてゆくような声だった。
「おとーたを、たすける方法があるなら、教えてください──!」
叫ぶ僕に、魔族が首をかしげる。
「その精霊が? お前の父?」
うなずく僕に、魔族の闇の瞳にかすかなひかりが走る。
「あぁ、月のが拾った魔族の子が、お前か」
「おとーたを、たすける方法を──!」
会話する時間も惜しくて叫ぶ僕に、魔族は即答する。
「精を喰ってやれ」
「まだ子どもで、できないから聞きに来たんだろう!」
魔族の言葉を遮るように叫んだ守護帥に、魔族はちいさな僕を見おろした。
「あぁ、ちっちゃいな」
「ちっちゃくても、僕、おとーたをたすけるためなら、何でもする──!
どんなことでもするから、命だってあげるから、だから、どうか、おとーたを……!」
泣き崩れる僕に、守護帥も精霊も魔族も目を見開いた。
淡く、淡く、消えてしまいそうになるまで瘴気に侵されたリィフェルを、僕の涙を見つめた魔族が、唇の端をあげる。
「くちづけろ」
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