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告白
しおりを挟む「……トェ、ル……」
かすれた声が、僕を呼んでくれる。
あなたが、つけてくれた名を、あなたが、呼んでくれる。
「おとーた!」
抱きしめて、くちづけようとした僕は、あわあわリィフェルから唇を離した。
「ごめんなさい……!」
声は、同時だった。
「……え……?」
きょとんとする僕が、かきいだかれる。
「きみに、謝りたかった。
きみを守りたいのに、守れなくて、いつもきみを苦しめて、いつもきみを追いつめて……私が……トェルを、傷つけた……!」
月の瞳から涙がこぼれるようだった。
月の力が、きらめきとなって、涙のようにあふれおちる。
おとうさんを抱きしめた僕は、首をふる。
「僕が、おとーたを追いつめて、僕が、おとーたを傷つけた……!
何もしなかった僕のせいで、おとーたが……!」
涙と叫んだ僕に、リィフェルが叫ぶ。
「トェルは、なにも、わるくない──!」
抱きしめてくれる、おとうさんの肩が、ふるえてる。
「おとーたも、なにも、わるくない」
ちいさな手を伸ばし、僕はおとうさんを抱きしめる。
「……瘴気で倒れたはずだが……ここは……?
精霊界……?
トェルが運んで……トェルが私の瘴気を……?」
大きな穴の開いた翼を、ぼうぜんとリィフェルが見つめる。
「あ、あの……ちゅうで……瘴気を吸いなさいって、魔族のお兄さんが、教えてくれたの」
ぽそぽそつぶやいた僕は、胸に手をあてる。
「ごめんなさい……!」
声は、また同時だった。
「なんて無茶を……! 倒れたうえ、トェルにこんなことをさせるなど、父親失格──」
「僕は、しあわせでした!」
叫んでいた。
「もっと酷い暴動が起きたら、おとーたが害されたらと怖くなるばかりで、紅いひかりを撃ちあげることしかしなかった自分を、恥ずかしく、情けなく思います。
おとーたは、命を削って僕をさがしてくれたのに──!」
「あたりまえだ。私はトェルの父だ」
ぬくもりを、とりもどした腕が、抱きしめてくれる。
おとうさんの腕だ。
おとーたの香りだ。
つつまれたら、涙がこぼれる。
うれしい。
身体が、ひかりにとけてしまいそうに、うれしいのに。
──父
言葉が、思いが、僕の胸をえぐる。
おとうさんが、だいすきなのに
おとうさんじゃ、いやだなんて。
あなたの、おそばにいたいのは
あなたに、この身を、命を、心を捧げたいのは
あなたに、くちづけたいのは
おとうさんだからじゃ、ない。
──あなたを、あいしているから。
わかったら、頬が燃える。
「酷い目にばかり遭わせた。……母リヴァリゼの暴挙も、私のせいだ。
ほんとうに、すまない」
胸に手をあてるリィフェルに首をふる。
「僕のせいで……!」
「トェルは何もわるくない! 私が──!」
「おとーた、なにも、わるくない……!」
すがるように、抱きしめた。
あふれおちる僕の涙を、リィフェルのくちびるがすくってくれる。
火照る頬で、リィフェルの頬へとのばす指が、ふるえてる。
「お加減は、いかがですか」
「瘴気がずいぶん薄くなっている。トェルのおかげだ。
救ってくれて、生きていてくれて、ありがとう」
微笑みが、おでこにふれる。
ちゅ
とろけるようなしあわせに、涙がこぼれる。
だからこそ、わかってしまったら、もう、あなたのおそばにいられない。
僕は、もう、あなたの息子ではなく、あなたを慕う、ひとりの魔族だ。
あふれ落ちる涙で、僕はちいさな手をにぎる。
「……おとーた」
あまく、あなたを呼ぶ声が、かすれてる。
「僕は、あなたを、お慕いしています」
ふるえたささやきに、ぶわりとリィフェルが輝いた。
「……あ、ありがとう。も、勿論、私も、トェルを、想っている」
暴動が起きたのに、魔族になり、リヴァリゼに貫かれたのに、それでも義父でいてくれるリィフェルに、にじむ涙で首をふる。
ほしいのは、息子への愛じゃない。
僕は、もう、あなたの息子でいられない。
「おとーたとしてお慕いするのではなく、僕の唯一として、だいすきです。
……僕には魔族の血が流れているのでしょう。大それた想いだとわかっています、それでも」
燃える頬で、ささやいた。
「あなたを、あいしています」
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