【完結】お義父さんが、だいすきです

  *  ゆるゆ

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告白

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「……トェ、ル……」

 かすれた声が、僕を呼んでくれる。

 あなたが、つけてくれた名を、あなたが、呼んでくれる。


「おとーた!」

 抱きしめて、くちづけようとした僕は、あわあわリィフェルから唇を離した。


「ごめんなさい……!」

 声は、同時だった。

「……え……?」

 きょとんとする僕が、かきいだかれる。


「きみに、謝りたかった。
 きみを守りたいのに、守れなくて、いつもきみを苦しめて、いつもきみを追いつめて……私が……トェルを、傷つけた……!」

 月の瞳から涙がこぼれるようだった。
 月の力が、きらめきとなって、涙のようにあふれおちる。

 おとうさんを抱きしめた僕は、首をふる。

「僕が、おとーたを追いつめて、僕が、おとーたを傷つけた……!
 何もしなかった僕のせいで、おとーたが……!」

 涙と叫んだ僕に、リィフェルが叫ぶ。


「トェルは、なにも、わるくない──!」

 抱きしめてくれる、おとうさんの肩が、ふるえてる。


「おとーたも、なにも、わるくない」

 ちいさな手を伸ばし、僕はおとうさんを抱きしめる。


「……瘴気で倒れたはずだが……ここは……?
 精霊界……?
 トェルが運んで……トェルが私の瘴気を……?」

 大きな穴の開いた翼を、ぼうぜんとリィフェルが見つめる。


「あ、あの……ちゅうで……瘴気を吸いなさいって、魔族のお兄さんが、教えてくれたの」

 ぽそぽそつぶやいた僕は、胸に手をあてる。


「ごめんなさい……!」

 声は、また同時だった。


「なんて無茶を……! 倒れたうえ、トェルにこんなことをさせるなど、父親失格──」

「僕は、しあわせでした!」

 叫んでいた。


「もっと酷い暴動が起きたら、おとーたが害されたらと怖くなるばかりで、紅いひかりを撃ちあげることしかしなかった自分を、恥ずかしく、情けなく思います。
 おとーたは、命を削って僕をさがしてくれたのに──!」

「あたりまえだ。私はトェルの父だ」

 ぬくもりを、とりもどした腕が、抱きしめてくれる。


 おとうさんの腕だ。

 おとーたの香りだ。

 つつまれたら、涙がこぼれる。


 うれしい。

 身体が、ひかりにとけてしまいそうに、うれしいのに。


 ──父

 言葉が、思いが、僕の胸をえぐる。


 おとうさんが、だいすきなのに

 おとうさんじゃ、いやだなんて。



 あなたの、おそばにいたいのは

 あなたに、この身を、命を、心を捧げたいのは

 あなたに、くちづけたいのは


 おとうさんだからじゃ、ない。



 ──あなたを、あいしているから。



 わかったら、頬が燃える。


「酷い目にばかり遭わせた。……母リヴァリゼの暴挙も、私のせいだ。
 ほんとうに、すまない」

 胸に手をあてるリィフェルに首をふる。

「僕のせいで……!」

「トェルは何もわるくない! 私が──!」

「おとーた、なにも、わるくない……!」

 すがるように、抱きしめた。


 あふれおちる僕の涙を、リィフェルのくちびるがすくってくれる。

 火照る頬で、リィフェルの頬へとのばす指が、ふるえてる。


「お加減は、いかがですか」

「瘴気がずいぶん薄くなっている。トェルのおかげだ。
 救ってくれて、生きていてくれて、ありがとう」

 微笑みが、おでこにふれる。

 ちゅ

 とろけるようなしあわせに、涙がこぼれる。


 だからこそ、わかってしまったら、もう、あなたのおそばにいられない。


 僕は、もう、あなたの息子ではなく、あなたを慕う、ひとりの魔族だ。

 あふれ落ちる涙で、僕はちいさな手をにぎる。


「……おとーた」

 あまく、あなたを呼ぶ声が、かすれてる。


「僕は、あなたを、お慕いしています」

 ふるえたささやきに、ぶわりとリィフェルが輝いた。


「……あ、ありがとう。も、勿論、私も、トェルを、想っている」

 暴動が起きたのに、魔族になり、リヴァリゼに貫かれたのに、それでも義父でいてくれるリィフェルに、にじむ涙で首をふる。


 ほしいのは、息子への愛じゃない。

 僕は、もう、あなたの息子でいられない。



「おとーたとしてお慕いするのではなく、僕の唯一として、だいすきです。
 ……僕には魔族の血が流れているのでしょう。大それた想いだとわかっています、それでも」


 燃える頬で、ささやいた。



「あなたを、あいしています」






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