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うさちゃんとリルとトェルとももちゃんのしあわせ暮らし
いらっしゃい
しおりを挟む水の精霊ミーレを連れてきた僕とリィフェルとうさちゃんを、ももちゃんは緑の葉をさやさや揺らして迎えてくれた。
「わあ──!
すごい! 清淨だよ!? 魔界なのに!」
辺りを清らに染めあげる、ももちゃんの周りの魔界の植物が苦しそうじゃないことにも、ミーレは目をみはった。
「……どうして……魔界なのに……誰も苦しくないなんて……」
ももちゃんを見あげた僕は、微笑んだ。
「精桃の樹です。
精霊界で、緑のきみにもらった精桃の種を僕が植えて、おとうさんの月の水で芽吹いて、精霊界で育って、瘴気を放つようになったからって、魔界に」
「ほへえ」
ミーレが、あんぐりしてる。
「精霊も魔界の生き物も、ももちゃんは誰も傷つけない」
大きく育ったももちゃんの幹に、そっとふれたミーレは、僕を振りかえる。
「トェルみたいだな」
「……え……?」
「精霊も、魔界の生き物も、誰も傷つけない。
精霊界で育って、今は魔界で暮らしてる」
ふうわりミーレが笑う。
「俺を救ってくれて、ありがとう」
胸に手をあてるミーレに、僕は首をふる。
「うさちゃんです。
うさちゃんにちゃんと謝ってくれて、ありがとう」
「きゅ!」
みんなで笑ったら、仲なおりです!
ももちゃんの傍に建つ、ちいさな手づくりの庵にやさしく目をほそめたミーレは、辺りを見回して首をかしげた。
「水場は?」
僕はリィフェルを見あげる。
「魔界の泉は真っ暗なんだ。トェルにも、ももちゃんにも、つらそうだから、精霊界から水を汲んできて、私が月の水に」
ぽかんとミーレが口を開けた。
「月の水──! 魔界で──!?」
「トェルも私も飲むから」
「いやいやいや、えぇえぇえ──!?」
だいぶ変わっているみたいです?
「あー、じゃあここに、泉でも作ってみましょうか」
魔界の大地を、とんとんしていたミーレが顔をあげる。
「泉……? つくれるの?」
ぽかんとする僕に、ミーレは胸を張る。
「これでもまあまあ、俺は力の強い水の精なんだ」
「水のきみの、ひ孫さんだろう」
リィフェルの言葉に、ミーレが目をむいた。
「ご存知で!?
いっぱいいるし、精霊界では最下層って思われてる門にいるから、あんまり誰も知らないんだけど」
「他の水の精と、力が全然ちがうから」
リィフェルの言葉に、うれしそうに照れくさそうに、ミーレが笑う。
いたましそうに、リィフェルはつぶやいた。
「……身内だからこそ、水のきみは、ミーレを魔界に落としたんだろうな」
「身内から魔族と通じるものが出るのが許せなかったみたいです」
肩を落としたミーレに、リィフェルは心配そうに眉を寄せる。
「……精霊界に、帰りたいか?」
さみしそうにミーレは目を伏せた。
「……帰る場所は、もうないです。
だからここで一発、泉を湧かせられたら、この近くで暮らしてもいいですか」
息をのんだ僕は、リィフェルを見あげる。
今まで落ちてきた精霊たちは、みんなすぐに精霊界に帰って行った。
お礼は言ってくれたけれど『魔界はおぞましい』目からも態度からも、にじみでていた。
『魔界で暮らしたい』
言ってくれた精霊は、はじめてだ。
リィフェルが、笑ってくれる。
「きゅ!」
うさちゃんの、ちいさな角が、きらきらしてる。
ももちゃんの緑の葉っぱが、さやさや揺れた。
「泉が湧かなくても、歓迎します!」
みんなで、笑った。
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